待っていてくれた方がいたら申し訳ありません。
新年早々忙しかったのが悪い。
ついでに私の書くのが遅かったのが悪い。
運営が接触する前にもうひとつやらかしとこうと思ったのがたぶん一番悪かったのですが。
一話にまとめられなかったので次が本番のはず。
会議を行った後、アインズ・ウール・ゴウンは暴走を開始した。
拠点への資金(ゲーム内、リアル問わず)の突っ込み具合から、タガが外れた場合の暴走は規定事項ともいえる。
ブレーキ役であるモモンガがイケイケモードで煽る側なので止まりようがない。
そんな彼らの次の一手はレベル上げだった。
拠点を強化したい、装備が作りたいというメンバーも、モモンガのレベルが拠点の拡張に影響することや、最高レベルにならない内に装備を作っても最高傑作であると認められるのかという意見に頷かざるを得なかったのだ。
そしておあずけを食らったメンバーが、どうせなら最速でと意見したため「生命の木の丘」への再侵攻が決まってしまった。
何しろ高レベル、という言葉で済ませていいのかわからないが、とにかく強力なMOBに満ち溢れている上に取り合うプレイヤーもいない、理想的(?)な狩場である。
勝てるなら全く問題ないとばかりにアインズ・ウール・ゴウンは突撃した。
普段の貧乏性はどこにいったと言わんばかりに、高価な回復アイテムが湯水のごとく消費されるのだが、もちろん合間に採取されるアイテムで補てんできるという見込みあっての暴挙である。
そのある種のごり押し攻略の結果判明したことは、丘の上に行くには周囲に張り巡らされた結界を解除するという、お約束をこなさなければいけないということだった。
「やはり結界の要は、四方にあるんですかね?」
「八方かもしれない」
「大罪になぞらえて七に一票」
「世界の数からすれば九じゃないか?」
「十二ってのもあるかもよ?」
「六芒陣を忘れてもらっちゃ困る」
ちなみに『全部』あった。
十二の星座の謎を解き、九曜の封印を突破し、八卦の理に挑む。
七つの大罪を下し、六芒陣の魔術を超え、五行の相克相生を崩す。
四の属性を司るモノに対峙し、三位一体の神性を討ち滅ぼし、双璧の守護者と戦った。
「盛りすぎだろ!」
「なんかもう時間稼ぎ乙って感じだなあ」
「これでラスボスがしょぼかったら訴訟ものだ」
それぞれの結界の基点ごとに報酬がなかったら、期限ギリギリでなかったら、探索に命をかけてる連中がいなかったら、面倒になって放り出していたかもしれない。
最後のアタックは全員で行こうと予定調整をすることになった。
* * *
最終攻略の直前、予定があったメンバーで最後のレベル上げでもしようとモモンガ達は8人の変則パーティーで五行の結界があった付近にきていた。
「未見の獣型モンスターが接近中! 2時方向、数4!」
「またか! この期に及んで新モンスターとか冗談じゃないぞ!」
ワイズマンの警告にウルベルトが目の前の虫型のモンスターに冷気魔法を叩き込みつつ悪態をつく。
既に戦闘に入っているところでの乱入はいつだって勘弁願いたいものだが、一瞬の油断も許されないような高難度フィールドで敵の増援など誰だって嫌に違いない。
おまけに攻略済みと思っていた場所で新しい敵となれば、本当に文句のひとつも言わねばやっていられないに違いない。
「言っても仕方なかろう! モモンガさん、こいつの残りHPはどれくらいだ!」
「6割切りました。発狂入るまでもう少しなので警戒を! ぷにっとさん、どうしますか? 速攻か持久か作戦を!」
律儀にウルベルトの悪態に反応しつつ、たっち・みーも目の前のモンスターの状態確認に入る。
巨大な鎌上の足を紙一重で避け、反撃で斬り飛ばして距離をとる。
味方にバフをまいていたモモンガがその確認に答えて、監視していたHPを報告する。
中心部に行くに従い、通常モンスターすらHPが減ると発狂モードに入るようになったため、ダメージ管理が必須なのだ。
そのため作戦を一任していたぷにっと萌えの役割はかなり重要だった。
「……ペロさん、遠距離大技のストックは。今使えないならなんでもいいので一番早く使えるようになる時間を」
「あと87秒! 連射タイプだから一撃の重さには期待すんな!」
「茶釜さん、ガード系の技は」
「ダメージ軽減のバフがあと3回有効だよ。大きいのへの耐久はあとちょっと、いまクールタイム終わった」
「タブラさん、資材は」
「獣特攻付与はあるよ! ただ残量が厳しい。そろそろ撤退を視野に入れてくれ」
遠距離担当のペロロンチーノ、ガード担当のぶくぶく茶釜、アイテム管理をしているタブラに確認を取るとぷにっと萌えはすぐに結論した。
「速攻でいきます! 獣のデータを取って休憩しましょう」
「「了解!」」
* * *
「畜生。虫にも獣にも火が効かねえってどういうことだ」
「愚痴るな。何事にだって例外はあるってだけだろう」
「あーあー、取りあえず斬ればいい脳筋は楽でいいねえ」
「なんだと?」
「やるか?」
休憩中の短い時間に口げんかを始めた二人を放ってワイズマンとぷにっと萌えはモンスターの情報をまとめていた。
「経験値効率は相当高いが、弱点不定が痛いな」
「勝てればレベルは上がるが、敵が面倒ということだな。鑑定持ちが不要にならないから俺としてはありがたい」
「200以降は必要経験値の伸びが一定のようだしな。で、さっきのモンスター『眷属』だが」
「さっきからちらちら見る未見のモンスターの名前が全部『眷属』だしな。見た目が安定しないが、2種類だったたのは間違いない」
「見た目が違うというなら、弱点が違うだけじゃないのか?」
「どうもプレイヤーのように若干の役割分けがあるようだな。種族レベルではなく職業レベルに差があると見た」
モンスターの考察をする二人の横ではタブラがモモンガ達にこの地の設定についての考察を語っている。
モモンガがタイミングよく相槌をうつものだからなかなか終わらない。
飽きてきたペロロンチーノが見張りに逃げ、逃げそびれたぶくぶく茶釜からヘイトを稼いでいた。
恐らく戻ったら殴られることだろう。
「……ですからこの地のモンスターに一貫性がないこと自体が、ボスの正体を暗示しているのではないかと思うのですよ」
「天使、悪魔、竜が最初にあったやつでしたっけ。その後も虫に獣にアンデッドに無機生命体にエレメントに……」
「全種族でいいでしょ、そこは。なんていうかお祭りマップだよね」
「加えて属性もめちゃくちゃですからねえ。使いどころがあまりなかった特効付与アイテムがここぞとばかりに活躍してますよ」
「ああ、助かってますよ。でも戦闘ごとに切り替えると消費が半端じゃないような?」
「使ってなかったんだからいいじゃない。しかしガードとしてはきっついよ。せっかくの特化防御装備が全然役に立たないのはねえ。特化攻撃は持ち替えればいいけど、防具の早着替えはスキルでもないとできないし、一式変更はアイテム圧迫するからなあ」
「着替えサポート職とかあるんですかね? ともあれ、純粋な防御力が要求されてるっぽいですよね」
「力の無い者を通さない、とでもいう意思を感じますね。そこもヒントなんですかねえ」
そうやってメンバーが思い思いに会話をしつつ休憩していると偵察に行ったペロロンチーノが戻ってきた。
「あ、あんたさっきはよくも……」
「姉ちゃん、ちょっとみんなに聞いてほしい事がある」
ぶくぶく茶釜がさっそく文句を言いかけるも、深刻な声を出した弟の様子に「わかった」とだけ返してぷにっと萌えとワイズマンに声をかけに行く。
モモンガもタブラと顔を見合わせるとウルベルトとたっち・みーの喧嘩を仲裁しに行った。
* * *
「なんか「生命の木」の様子がおかしいんだ」
そうペロロンチーノは切り出した。
「おかしい、とはどのように?」
「なんか、こう、動いているっていうか、脈動してるっつーか……なんかしてるように見えた」
「まったくなにもわからないじゃない。もうちょっと具体的な何かはないの?」
もっともな姉のつっこみに表現に困ったペロロンチーノは頭をかくと弁解するように言った。
「まあ、俺は遠くは見えるんだけどおかしいとしか言えなくてさ。だからみんなに見てもらおうかと」
「ああ、鑑定とか魔法絡みだとわからないかもしれないですしね」
「そう、さすがモモンガさん! 俺もそれが言いたかった!」
「調子のいいこというな!」
姉に頭をはたかれて痛がる振りをしつつ(フレンドリーファイアがないので痛い訳がない)ペロロンチーノはメンバーを開けた崖の上に案内する。
生命の木が臨めるそこについた瞬間、マジックユーザーの二人と鑑定持ちのメンバーがうめいた。
「うわ……」
「これは……」
「そういうことだったのか」
「あー、確かに何か不穏なのはわかるんだが、どうなってるかわかるように説明してくれないか?」
「そだよ。自分達だけでわかったような反応はこっちがきついよ」
わけのわからないたっち・みーとぶくぶく茶釜が説明を求める。
自分達にも言葉にできないので、ペロロンチーノが説明できなかったのはわかったが、わかるメンバーもいるのだからその分くらいは知りたいのだ。
理解しているメンバーはしばし目で牽制しあった後、一人説明したそうにしていたタブラが代表して口を開いた。
「……生命の木に反応があります」
「? なんの?」
「敵対反応です。つまり……生命の木そのもの、ひょっとしたらこのワールドそのものが、敵です」
というわけで生命の木の丘のラスボス戦です。
目的のものがボスだったというのもよくありますよね?
新年も変わらずアンケートです。
また活動報告のほうでよろしくです。