ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

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予告詐欺になってしまいました。
感想で留守中どうするんだろうと言われて、それもそうだと思ったので。

栗栖鱒釣さんより「秋桜」を採用させていただきました。
設定好きとのことなので情報が整理された図書館の司書に就任してもらいました。
しゃべり方はこんなんでいいのだろうか。


決戦に向けて

ラスボス(仮)の詳細が判明したため、タブラはぷにっと萌えとゾディアックの面々とともに資料の再確認を行っていた。

ユグドラシルでは事前にボスの情報が仕入れられているかどうかが攻略の難易度を左右することなどざらにあるからだ。

 

「生命の木が敵なのはわかりましたけど、本当に世界全体が敵ってありえるんですか?」

 

資料を抱え込みながらわるぷーが前提条件を確認してくる。

同じく資料から目を離さないまま、ぷにっと萌えが答えた。

 

「いくつか根拠はあります。まず第一点、距離があるにもかかわらず敵対を確認できたことです」

「ああ、五行封印の近くでしたっけ。あそこからだと……地図どこでしたっけ」

「これです。10kmはないですが、数kmはありますね」

 

タブラが空中に開いた地図を眺めて、わるぷーはため息をついた。

 

「スキルの効果範囲とか考えるのも馬鹿らしいくらい離れてますが、一応視線は通るんですね」

「目視できたので距離はいいんですが、むしろ問題は数km先から(・・・・・・)敵対されていたってことです」

「……敵の感知範囲がそこまで広かったっていうのは、ないですかね?」

「考えられるでしょう。ここで第二点です。今回に限って『眷属』が襲ってきました」

「んー?」

 

それがなんの関係があるのだろうと首をかしげるわるぷー。

タブラが苦笑すると続きを語った。

 

「ユグドラシルに『眷属』とつくモンスターはそれなりにいましたが、それも何の眷属なのか明記されてます」

「闇の精霊の眷属、とかですね」

「ですね。ところが今回はノーヒントです。逆に考えると教えなくてもわかるだろ、というメッセージとも取れるわけです」

「……ああ、「生命の木の丘」に出てくるんだからってことですか」

 

なるほど、と腑に落ちたようにわるぷーはこくこくと頷いたが、何かに気がついたように大きな声を上げた。

 

「ってことはほぼワールドに入った直後から攻撃受けてたってことじゃないですか!」

「そうなりますねえ。感知の範囲が世界全域なのか、それとも世界全部が生命の木なのか……情報がないと無意味に消耗しかねないのでこうして調査しているわけです」

 

責任重大ですね、とわるぷーがまたため息をつく。

 

「これで資料全部ですか? もう他にはないですか?」

「肯定。検索キーワードを「木」「樹」レベルまで下げて検索している。これ以上資料を探すなら、適切なキーワードを特定することが必要になると進言する」

 

ゾディアックの一人、秋桜に資料検索をさせていたワイズマンが更なる資料を要求するも答えは無常なものだった。

称号『司書』を取った秋桜は特定のキーワードから図書館の資料を検索できるのだが、「生命の木」「世界樹」などの単語では残念なことに攻略のヒントになるような情報が得られなかったのだ。

 

「推理するしかないんですかねえ」

 

そのやりとりを見ていたタブラもまたため息をつく。

諦めきれないのか何とかキーワードになりそうな単語を捻り出そうと唸るワイズマンに、秋桜は自動人形ロールでやっている抑揚のない話し方で言葉をかけた。

 

「提案。これはアレを使用する案件だと判断する」

「……負けみたいで嫌なんですが」

「否定。ここまで情報がないということは、アレを使用する正しい機会であると推測できる」

「そうですよ。ワイズマンさんのこだわりもわかりますけど、こういうときのために確保しといたんじゃないですか。

 

秋桜の提案をわるぷーが援護する。

何事かと目を向けるタブラとぷにっと萌えの前で、なおもしばらくの間苦悩していたワイズマンであったが、やがて意を決したように大きく息をつくと顔を上げて宣言した。

 

「わかりました。【モイライの糸車】と【ミーミルの首】を使いましょう!」

 

なんとなく自棄になっているようにぷにっと萌えは感じた。

 

 

*   *   *

 

 

モモンガは死獣天朱雀とともに交渉の場に向かっていた。

 

「本当に大丈夫なんでしょうか? というかうち(アインズ・ウール・ゴウン)にファンギルドなんかあるんですか?」

「何、君が知らんだけで結構いたんじゃよ。悪には悪のロマンがあるからのう」

「そんなもんですかねえ……」

 

自分たちが悪役ロールを楽しんでいるのにもかかわらず、そういったプレイに憧れるプレイヤーに思い至らないらしいモモンガに苦笑しつつ、死獣天朱雀は今回の方針を再度確認した。

 

「まあ、会えばわかるだろうさ。何にしても今回の交渉は重要じゃぞ? なんせ他人に留守をあずけるようなものだからのう」

「プレッシャーかけないでくださいよ。なんか胃が痛いような気さえしてるんですから」

 

そう、アインズ・ウール・ゴウンが総出で生命の木の丘に攻略に行くため、どうしてもナザリックの防衛がおろそかになってしまう。

指示をほとんど出さなくても1500人を屠った極悪ダンジョンではあるが、そこは気分の問題というやつである。

いないことを知られても問題なく協力してくれる相手ということで、ファンギルドの一つ「黄昏の騎士団」に声をかけることになったのだ。

 

ちなみにモモンガが自分たちにファンがいるという状況がいまいち理解できていないことについては仕方ないところがある。

何しろ内部の問題を解決するのに手一杯で外部に目を向ける余裕がなかったのだから。

正義(たっち・みー)(ウルベルト)の争いの調停、問題児(るし☆ふぁー)への抑え、他にも自己主張の激しいメンバーの間で不満が出ないように資材を割り振るなどギルド長としてやることは山積みだったのだ。

それらをこなしていたからこそ、アインズ・ウール・ゴウンは団結を維持できたともいえる。

 

「大丈夫かなあ」

「ここまできて悩んでも仕方あるまいよ。さあ、行こう」

 

そういってモモンガと死獣天朱雀は「黄昏の騎士団」の拠点、「鬼岩城」へ入っていった。

 

 

*   *   *

 

 

「えー! 装備間に合わないんですか!」

 

ナザリック地下大墳墓の製作室でレイレイが絶叫していた。

シユウから彼女が執心していた最強装備(本人のものではない)が攻略に間に合わないと告げられたためである。

 

「な、なんとかならないんですか! ほら、ウルベルトさんもなんか言って!」

「君な……別に攻略後だって問題ないだろう。ゲームが終わるわけじゃないんだし。というか揺さぶるな」

 

がくがくと揺さぶられてウルベルトが不機嫌そうに答える。

それでもわざわざついてくる辺り本気で嫌がってはいないようである。

ウルベルトに言わせればレイレイが暴走しないように監視しているということだが、信じているのはモモンガとみーにゃくらいのものであった。

そんな二人をジトっとした視線を向けながらも、複数ある腕を組みながら頭をかくという器用な真似をしつつシユウは装備が作れない理由を告げた。

 

「どうにもな、カロリックストーンが調達できてねえのよ。リジッドストーンとの組み合わせが強力なのはガルガンチュアで証明済みなんだがな」

「俺は直接戦闘にはまったく向いていないからよ、せめて専門分野で貢献したくはあったんだが素材がなきゃ生産職はお手上げだ」

 

ドヴェルグのカッチンもやれやれと頭を振って生産組としての見解を告げる。

そんな二人の様子にレイレイがまだ諦めないとばかりにあまのまひとつの方を向く。

視線に気がついたのか作業の手を止めて、あまのまひとつが眼帯をつけた顔を向けた。

 

「一応俺らも何もしてないわけじゃない。取り合えずの試作品くらいは出せる」

「それじゃ!」

「問題はエネルギーをカロリックストーンに依存して設計してるから他のもので代替すると効果が……おい、お前らどれくらい落ちると思う? 俺は5割切ると思ってんだが」

 

話題を振られてシユウとカッチンが各々考えを述べる。

 

「大分多く見積もってねえか? 俺は3割程度と見ている」

「瞬間的になら6割いけるかもしれんぞ。継続的に力を供給しないでコンデンサみたいなもんに貯めればいいんだから」

「それだとコンデンサにデータ食っちまうだろ。リジッドストーンも無限にあるわけじゃねえんだぞ」

「後で分解……できるかねえ」

「世界級だかんなあ。完成品ぶっ壊して素材調達は無理だろう」

「つーとなんか機能オミットせにゃならんな」

「ダウングレードか。やりたくねえなあ」

 

あまのまひとつも交えて議論を始めてしまった三人に、無視される形になったレイレイが割って入る。

 

「じゃあ、カロリックストーンがあれば何とかなるんですね!」

「お、おう」

「まあ、あっても……」

「わかりました! 盗ってきます!」

 

カッチンが言いかけた台詞を最後まで聞かずレイレイは出て行ってしまった。

ウルベルトが頭が痛いとばかりのジェスチャーをしながら追いかけていく。

 

「……良いのか。持ってきてもらっても作れねえぞ。嬢ちゃん、絶対聞いてなかったぞ」

「あの勢いに圧されて頷いちまったよ。参ったな」

「万が一持ってきたら謝れよ? ……ところで嬢ちゃんの取って来るって何かおかしくなかったか?」

 

確かにと顔を見合わせた三人だったが、ウルベルトがついているなら大丈夫だろうと流すことにした。

ぬーぼーからの依頼で攻略前にやるべきことがあるので忙しいのだ。

特にカッチンはそれをしないと留守番になりかねない。

 

「さて、やりますかね」

 

彼らはレイレイがこの後やらかすことを完全に放置した。

 

 

*   *   *

 

 

「いーーーーやーーーー! わたしも行くのーーー!」

「いや、だから今回は相当危なくてだな」

「わたしもギルドメンバーなの! だから一緒に行くの!」

 

たっち・みーはかつてないほど苦戦を強いられていた。自分の娘に。

明らかにレベルの違うエリアの攻略にみーにゃを連れて行くのを躊躇い、何とかおいていけないだろうかと説得を試みているのだが芳しくない。

メンバーは連れて行けば良いでしょうと軽く言ったが、相手は運営が考えた碌でもない敵で娘がトラウマを抱えることにでもなったら悔やんでも悔やみきれない。

それは紛れもなくたっち・みーの親心であったが、ユグドラシルというゲームを楽しんでいたみーにゃにしてみれば酷い暴挙であった。

 

「大体、カッチンさんとか音改さんとかよりわたしの方が強いもん! 二人が行くんだったらわたしも大丈夫だもん!」

「いや、二人は戦闘メインじゃないから……」

 

「親心子知らず」とは言うものの、このやり取りはどう考えてもたっち・みーの分が悪かった。

何しろ最初に一緒に遊ぼうかと誘ったのが、たっち・みーなのである。

みーにゃがゲームを始めた経緯を聞いていたウルベルトが、「説得できると良いな」などと皮肉を言ったくらいだ。(つまりウルベルトは全く説得できると思っていなかった)

それを持ち出されては勝ち目がない。

それでもたっち・みーはしばらく抵抗を続けた。

 

娘に「モモンガお姉ちゃんに守ってもらうから大丈夫だもん!」といわれてへこむまであと少し。




次回こそ生命の木攻略に行きたい。
それが終わればGM接触かなあ。
誰かの一人称でメンバーが具体的に何やったか書いても面白そうですけどそれは後回しかな。

そして更にアンケートです。
前回書き忘れたのがあったので新しく作ることにしました。
よければどうぞ。

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