ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

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年明け以降中々時間が取れず遅くなってしまいました。申し訳ありません。

今回、うぃすたりさんより応募いただいたモモンガさん用ボスの「イルミンスール」を生命の木の正体として採用させていただきました。
流用してしまい大変申し訳ありません。
でも、考えていた「もう一つの世界樹」の設定にあっていたので使わせてもらいました。ありがとうございます。


VS世界樹(1)

【ミーミルの首】はワールド・サーチャーズが所有していたワールドアイテムである。

効果は「現在所有していないアイテム、遭遇していないモンスターの情報がランダムで手に入る」というもので、運がよければワールドアイテムの情報すら出てくることがある。

使用の際もコストはなく、クールタイムも1日と大したことがない壊れっぷりである。

しかも神器級アイテム【モイライの糸車】と合わせて使うと指定して情報を抜けるという効果まである。

もちろん対象を特定するための情報がいるので簡単というわけではないが、もし両方そろえていればアイテムの入手が格段に容易になることは間違いない。

 

ワールド・サーチャーズはその存在を知った直後から全力で確保に走った。

別に使うためではない。他人に使われるのが嫌だったからである。

そして厳重に封印して情報も隠匿して今まで保管してきたのであった。

 

ちなみにワイズマンは北欧神話のミーミルとギリシア神話のモイライの組合せが気に入らず、余計にこのアイテムが嫌いだったりする。

 

「今回の調査……ではないですね、アイテムの使用でわかったことなのですが、「生命の木」についてはちょっと世界観から話した方がいいですね」

「えらく壮大だな。敵だっていうのは確かなんだろう? そこから話す必要はあるのか?」

「私は聞きたいですね。ユグドラシルの根幹に関わる話のようですし」

 

ワイズマンがやたら回りくどい説明を始めようとしたのでウルベルトが疑問を呈する。

タブラは設定に関わることというので聞きたいと肯定的な意見を返す。

全体的に聞いてもいいかという雰囲気であったため、ウルベルトも意見を取り下げた。

多数決の原則はこんな時でも有効なのである。

 

「さて、まずおさらいです。ユグドラシルの各ワールドの扱いは、みなさんご存知ですね?」

「はい! 世界は世界樹という大きな樹についた葉っぱです!」

 

みーにゃが手を上げて発言をする。

おそらく一番理解が浅いであろう彼女がわかるように話せばいいだろうと、ワイズマンは彼女と問答を始めた。

 

「正解です。以前、私は「生命の木の丘」を10番目のワールドだと認識していましたが、どうもこれが違うようなのです」

「えっと、世界って9個以外にもありましたよね? だから10番目じゃないってことですか?」

「確かに追加実装、というかコラボやイベントで作られたワールドは多いです。そもそもそういった追加がやりやすいように世界樹の設定を……と脱線するところでした」

 

ユグドラシルでは年間イベントやコラボイベントに伴いいくつかのワールドを実装している。

例を挙げればバレンタインイベント時のチョコレートワールドや魔法少女アニメの舞台となった町などがあったりする。

これらは世界樹の中の一世界という扱いで実装されていた。

 

「こほん、さて「生命の木の丘」ですが、どうも根本的にユグドラシルに属していない世界の様です」

「……世界は樹の葉っぱなんですよね? なのにユグドラシルじゃないっていうと……落ち葉とか?」

「残念ながらはずれです」

「じゃあ葉っぱじゃなくてお花とか!」

「それも違いますね」

「むー……」

 

思いついた答えをことごとく否定されて悩み始めたみーにゃにモモンガが助け舟を出す。

 

「ほら、みーにゃちゃん。これから行くところは「生命の木の丘」ですよ?」

「! そっか、樹が違うんですね!」

「正解です」

 

正解して喜ぶみーにゃにそれを素直にほめるモモンガ。

やまいこに促されて遅ればせながら褒めるたっち・みーといった情景をよそに、タブラが難しい声で質問を投げかけた。

 

「では世界樹は二本あったと?」

「そうなります。言うなれば「生命の木」は競争に敗北した世界樹なんです」

「そのわりにあの世界は元気(・・)ですが?」

「元々多様性を求めたのがユグドラシル。そして一つの世界に力を注ぎこんだのが「生命の木」――イルミンスールなのです」

「消された世界樹ですか。なるほど、なるほど」

 

うんうんと頷くタブラ。彼としては設定に納得がいったらしい。

 

「こちらの世界に情報が極端にないのも頷ける話ですね。文字通り世界が違うから情報がないのか」

「ええ、そして法則も若干違うようですね」

「……何か違いがありましたっけ? 特殊なルールもありませんでしたし、普通に遊べたと思うんですが」

「そこが運営に文句をいってやりたいところでもあるんですが……限界突破ですよ」

「ああ! ルールが違うから上限も違うというわけか!」

 

メンバーにも納得する顔が多い中、苦々しげな様子でワイズマンは文句を垂れる。

 

「そうなんですよ。異なる世界の法則を取り込んだから限界突破できる。よくできた設定だというのに運営は……」

「まあまあ、いいではないですか。で、世界丸ごと敵なのはわかりました。となると確実にギミック戦闘になるんじゃないですか?」

「失礼、ここで愚痴をいうべきではにですね。ええ、ギミック戦闘です。ちょっと面倒というか、人数ぎりぎりなんですけど」

「ほう?」

 

全員が聞いているのを確認してワイズマンは告げた。

 

「我々が解除したあの面倒な封印。あれをかけなおさなきゃいけません」

 

 

*   *   *

 

 

「しかしぷにっとも無茶苦茶なことを押し付けてくれたよな」

 

ウルベルトが杖で肩を叩きながらぼやく。

現在、ウルベルトはモモンガ、たっち・みーとともに生命の木の直近まで来ていた。

 

「まあまあ、囮だって責任重大ですよ?」

「我々が攻撃を仕掛けている間、ほかのメンバーが安全になるというならやるしかあるまいよ」

 

モモンガがなだめ、たっち・みーが作戦の意義を再確認する。

情報確認の結果、ワールドのどこにいても攻撃を受ける可能性があることが判明していたが、生命の木のAIは自分に近いプレイヤーを優先的に攻撃することもわかっていた。

そしてあくまでイルミンスールの意識は一つであるようで、本体と戦闘に入ってしまえば後方は安全になる、らしい。

通常の敵は普通に出てくるのでボスと戦わなくて良いという程度なのだ。

 

「わかってはいるんだがな。もうちっと人数を割いてほしかったっていうのは贅沢かねえ」

「一応レベル差がありますから、余程大量の敵に囲まれでもしなければ何とかなるかと思うんですが」

「まあ、お前の気持ちもわからんではない。相性の都合で倒すのに時間がかかった実績もあるしな」

 

ぷにっと萌えが封印再起動までの直接戦闘に送り込んだのは彼ら3人だけだった。

物理・魔法・状態異常と敵の弱点をつける最小限の人員である。

ワイズマンによれば本来のレベル上限は200であるため、手を入れられていないこのワールドで出てくる敵もレベル200を超えないだろうとのこと。

230を超えた3人なら対処できると踏んだらしいが、やらされる方としてはたまったものではない。

 

「封印にそれぞれ別の人間が必要とかそういう仕様じゃなきゃよかったんですが」

「戦闘が苦手なメンバーの数を考えると護衛が多くいるってのも納得できるから腹が立つ」

 

十二宮(12)九曜()八卦()七つの大罪()六芒星()五行()四大属性()三位()双璧()=56

見事にギリギリである。

予備人員が全くいないのでメンバーの追加も検討されたのだが、元々閉鎖的なギルドであるため信用できる人材がいない。

防衛にファンギルドの手を借りることさえ異常事態なのだ。

結局、所属していたギルドが解散してのんびりソロをしていたやまいこの妹である明美の手を借りれただけという有様である。

 

「ところでモモンガさん」

「はい?」

「なんで人間形態のままなんです? 激戦確定なんですから戻ってくださいよ。娘のことなら気にしないでいいですから」

 

たっち・みーがモモンガの格好について今更の突っ込みを入れる。

自分が頼んだとはいえ、大したことのない理由で戦闘時に弱体化されるのは非常に困る。

おまけにそれが原因でモモンガに死なれたりしたら、真面目なたっち・みーとしてはもはやどう謝っていいかわからない。

もちろん自分たちも危ないという理由もあるので善意だけでもないのだが。

対してモモンガは気遣いにちょっと嬉しそうにしつつ答えた。

 

「いえ、今回の戦いでは少しでも強い方がいいかと思いまして。女性アバター職業とってきたんですよ」

「……モモンガさんが納得しているならいいんだが、無理しなくていいんだぞ?」

「大丈夫ですって。るし☆ふぁーも男性アバター完成したって言ってましたし、メインで使うのは最後でしょうからね。いい機会ですしこの戦いが終わったらみーにゃちゃんに中の人は男ですって言いたいんで、そっちの許可をくださいよ」

 

微妙にフラグ臭のする台詞に突っ込むべきかウルベルトは悩んだが、たっち・みーは別のことに悩んでいたらしい。

 

「友人としてモモンガさんの決断は応援したいが、娘を持つ親としては……」

「せいぜい悩め、正義バカ。そろそろ子離れも考えろ」

 

戦いのときの果断さとは大違いの宿敵の醜態に呆れつつ溜め息をつく。

どうせ娘が懐いている相手が男性だと分かった時に何を言われるか想像しているだけなのだ。

みーにゃの年齢やモモンガの性格からして問題が起きるとしても……だいぶ先だろう。確率も相当に低いことだし。

 

「それより、気が付かれたようだぞ」

「動いてますね。植物なのに」

「もはやゲームにおいて植物なんて構成物でしか判別できないでしょうね。しかし、でかいな」

 

そう言うたっち・みーの視線の先には巨大な樹木が3人を睥睨するかのようにそびえていた。

ウルベルトが手短に配置についたことをここにいない仲間に伝える。

 

「なんか睨まれてる気がしますが、目もないのにどうやって見ているんですかね?」

 

モモンガののんきな疑問が癇に障ったわけでもなかろうが、イルミンスールが攻撃を開始した。

 

 

*   *   *

 

 

イルミンスールの攻撃は天から降り注ぐ雨のような光線の奔流から始まった。

 

「だぁっ! いきなり弾幕攻撃かよ! 魔法職に回避させるとか鬼か!」

「あんまり離れすぎないでくださいよ! 支援が飛ばせなくなります!」

「モモンガさん、俺にも敏捷くれ! これは防いでいたらジリ貧になる!」

 

魔力感知と長年のゲームで培ってきた勘に任せて回避をするウルベルトに、支援をかけつつモモンガが注意を飛ばす。

身体能力に勝るため後回しにされたたっち・みーも、下手に守勢に回ると危険と判断して手数を増やすべく支援を要求する。

 

「支援フルセットいきますか?」

「まだ敏捷だけで。バフを剥いでくる可能性があるから、最初は余力を残しておこう!」

「取りあえず、何が効くか、試すだけは、しないとな!」

 

攻撃を避けつつウルベルトが第九位階の火炎魔法を最大化して放つ。

それに合わせてモモンガも神聖系のモンスターに通りやすい負属性攻撃を、たっち・みーも植物特攻アイテムを使用して攻撃を仕掛ける。

しかし……

 

「マジか……」

「ある程度予想してましたが……」

「これは厳しいな……」

 

イルミンスールの前で全ての攻撃はかき消されてしまった。

「世界樹」という字面から想像できる弱点には対策済みというわけだ。

 

「やれやれ、こうなったら地道にノック(全種類の攻撃)で弱点探るしかないのかね」

「弱点、あればいいんですけどね」

「さすがに全くないってことはないだろうが。いや、運営ならやりかねんか? ……二人とも飛びのけ!」

 

光の雨がおさまり一息ついていた3人の立っていた地面がイルミンスールの根によって吹き飛ぶ。

たっち・みーの警告によって間一髪で避けたモモンガとウルベルトが悪態をつく間もなく、目の前で眷属の召喚が始まった。

 

「アレの相手をしながら本体も相手しろってか。本気で無茶だな」

「早いところ増援に来てもらわないとまずいですね。とりあえず壁出します」

「一撃で消し飛ぶでしょうけどお願いします。時間稼がないと本当にどうしようもない」

 

始まったばかりだというのに、既に先の長さにうんざりしつつ3人は気合を入れなおした。




とりあえず戦闘に入れました。
3人で囮ってのは、常識的にはありえないんですがね。
まあ、バーチャル世界でならやり方次第では可能かもしれない?

それはそうといつものアンケートです。活動報告の方でお願いします。

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