ユグドラシルでバランス崩壊がおきました   作:Q猫

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遅くなりました。
ちょっと風邪をひきまして頭は痛いし鼻水もつらい。
皆さんもお気を付けを。

今回、三好さんの「黒有楽」を採用させていただきました。
ありがとうございます。


VS世界樹(2)

「ねえ、なんか私、大分場違いじゃない?」

「それがわかっているなら大丈夫だ。死なないよう頑張れ」

 

明美が前を歩く姉に文句を言うが、やまいこは全く取り合わなかった。

 

「普通に100オーバーがぽこぽこ湧くような魔境なんだったらそう言ってほしかったよ……」

「……そういえばそうだったか。だが、外周に出てくるのはせいぜい150くらいだ。下手な行動をしなければ160クラスのちょっと面倒(・・・・・・)なやつは出てこないはずだ」

 

明らかに感覚がおかしくなっているやまいこの発言に明美はため息をつく。

普通100オーバーというのは強敵(ボス)であり、150ともなれば難敵だとか頭おかしいといわれるレベルだ。

160以上なんていうのはソロ討伐を考えるのも烏滸がましい。

それが「ちょっと面倒」で片づけられているのである。いったい普段どんな奴らと戦っているというのか。

 

「呼ぶんだったら新ワールド見つけた時に呼んでよ。レベリングが全く追いついていないし……」

 

レベル最低の明美は最初に封印実行に参加したかったのだが、却下された。

理由は元ワールド・サーチャーズにゾディアックと名付けたからという完全に効率とは無縁の理由である。

単純に弱いとか戦闘に貢献しにくいメンバー優先とか、そういった常識は完全に無視されている。

囮になっている3人に悪いとは思わないのだろうか。

 

「大丈夫! わたしが守ってあげるから!」

「……年下に気遣われる始末だし……」

 

同じパーティにいるみーにゃが楽しそうに言うのを聞いて更に憂鬱になる明美。

ちなみにみーにゃは格闘をメインにしている。たっち・みーの娘だけに接近戦の素養が高かったらしい。

少し付け加えるなら後衛に徹したモモンガと一緒にプレイしていたことが前衛になることの決め手だったようである。

 

「くそう。ファンギルドに拠点防衛任せるくらいなら、私留守番していたかったよ……」

「はっはっは。なあに、しばらくいれば慣れますって。レベリングには最適ですよ?」

 

元ワールド・サーチャーズの黒有楽が気楽な調子で、まっとうな愚痴を言う明美をなだめる。

彼の台詞は一理あるも、この場合正しいのはやはり明美のほうであろう。何しろ今の目的はボス攻略でレベリングではない。

 

「こんな危険地帯で全員前衛で問題ないってのが一番間違っていると思うんだけど……」

 

黒有楽は辺境地帯での生存性を高めるために、元々スライムを選んだ前衛タイプである。

実際にここまでほとんど戦闘はなかったが、その数少ない戦闘も殴り合いだけで切り抜けていた。

物理無効などの特性もダメージ貫通といったこちらの特性をレベル差で押し通しているのだ。

 

「十二宮を封印して九曜の封印行くときは参加させるからさ。その後なら……死んで大丈夫なのかな?」

「不安になるようなこと言わないで。ナザリックに戻ったらファンギルドの人と交流でもしとくよ……」

「それも良いだろうね。聞いた限りだと中々骨のある連中だったっぽいし」

 

明美の憂鬱はしばらく続きそうである。

 

 

*   *   *

 

 

さてそのファンギルドこと黄昏の騎士団であるが、そのトップである二人ダークンとさまようは……ナザリック地下大墳墓の下層、ロイヤルスイートにいた。

 

「……なんていうか、難易度と別の意味で恐ろしいところだね」

「……ああ」

「これ、どんだけ課金したんだろうね」

「……ああ」

「……デザインもすごいし、こういうところでも格の違いっていうの? を見せつけられるねえ」

「……ああ」

 

さっきから何を言っても上の空で適当な相槌しか返して来ないダークンに、さまようは仕方ないかとため息をつく。

必死に取り繕っているが基本的にヘタレであるダークンは、無駄なまでに豪華すぎるロイヤルスイートに完全に飲まれていた。

モモンガとやり取りしたときは格好良かったのに、とさまようは先日の会談を思い出していた。

 

 

「つまり、一時的に拠点を空けなければいけないから防衛の人員がほしいと?」

「そうじゃなあ。君らの公認および同盟、社会人になったメンバーがいるのであれば選考の上でギルドに入れても良いというところで意見はまとまっておる」

 

さまようと死獣天朱雀が条件を確認しあう。

普通に考えれば黄昏の騎士団にとっては悪くない条件だとさまようは思う。

良くも悪くも黄昏の騎士団に所属するメンバーはアインズ・ウール・ゴウンが好きである。

その憧れのギルドから非公認だったことは仕方ないと理解はしていたが、なんだかんだ言って不満であったことは事実である。

2ch連合の残党であるやるOから誘われたナザリック攻略もそれなりに心惹かれたが、その理由はアインズ・ウール・ゴウンの目に留まりたいという面が大きい。

防衛への協力という敵対とは無縁の行為で、公認・同盟・勧誘と向こうから誘いをかけてくれるのであれば、正直なところ断る要素がなかった。

 

「悪くないですね。なあ、ダークン?」

 

いくらかは弄るためにギルド長を押し付けた所もあるが、ダークンはさまようの知る限りギルドの誰よりアインズ・ウール・ゴウンを好きだった。

2年ほど前に就職したこともあるし同意するだろうとさまようが目を向けると、ダークンは何か深く考え込んでいる様子を見せ、そして言葉を発した。

 

「それは、俺たちを数合わせに使いたい、と?」

「まあ、良い表現ではないですが、そうなります。実際、我々は君らを便利に使いたいと思っています」

 

モモンガの発言の内容は彼自身が言うように酷いものだった。

しかし、それをきちんと口にしてくれるだけ誠意をもって応対してくれている、ともいえる。

それを受けてダークンはしばらく黙ると意を決したように口を開いた。口下手なダークンらしくぼそぼそとしたものだったが。

 

「俺たちは、2ch連合の残党からナザリックの攻略に参加しないか、と打診を受けている」

「おい、それは……」

 

言う必要はないだろうと非難交じりに、さまようが口をはさむがダークンは首を振ると再びモモンガに向き直り先を続けた。

 

「正直に言う。俺は今日、あんたたちが来てくれるまで、これに参加するつもりだった」

「アインズ・ウール・ゴウンのファンギルドを名乗りつつ、敵対する気だったと?」

「そうなる」

 

敵対を考えていたと語るダークンにモモンガは威圧交じりに確認をする。

ダークンは一瞬ひるみそうになるもはっきりと肯定を返した。

 

「俺たちはあんたたちに相手にされていなかった。でも、それでいいと思ってたんだ」

「……」

「勧誘はうれしい。俺たちはあんたたちが好きだから」

「それで?」

 

どうにもうまく言葉にできず煮え切らない発言をするダークン。

それに対してモモンガはさっさと返事をしろと言わんばかりの態度(魔王ロール中)で答える。

めげそうになりつつもダークンは必死に言いたかったことを口にした。

 

「防衛に協力するのは構わない。その上で、勧誘については、保留させてほしい」

「いいのか、ダークン? これはチャンスなんだぞ?」

「馬鹿なことを言っているのはわかってる、さまよう。でも、俺だってギルド長なんだ。このギルドを便利使いされたくない」

「お前……」

「俺は、俺たちのギルドが、あんたたちに劣っているとは思いたくない。今回の勧誘が、上から目線だったみたいに、あんたたちから見て俺たちは格下なんだろう。だけど俺たちはあんたたちみたいになりたかった。同格になりたかったんだ」

 

モモンガも死獣天朱雀もそれを聞いて思うところがあった。

いくら悪のギルドだって、同じプレイヤーに上から目線と指摘されれば考えることくらいあるのである。

 

「協力するのは構わない。でも入れてやろう、みたいな勧誘は、お断りだ。俺はできれば対等になりたい」

 

 

結局、黄昏の騎士団はアインズ・ウール・ゴウン公認のファンギルドとなり、防衛に協力することになった。

そして変な話だが、敵対にお墨付きが出て、攻略時の行動がそのまま選考されると決定された。

最低でも2ch連合が襲撃時に到達した空中庭園までは突破しなければならないので楽とは言い難かったが、実力を認められた上での加入になるため完全に下に見られるよりはいいはずである。

無条件での加入選考を打診されていたことは隠されたために、メンバーから賞賛されたダークンが微妙な思いをしたのは完全な余談である。

 

「いいかげん、戻ってこいよ」

「……ああ」

 

まあ、その立役者は現在使い物にならないのであるが。

 

 

*   *   *

 

 

十二宮の封印が起動され、12のほこらから光が伸びていく。

囮が機能している現状、敵が弱い外周部でアインズ・ウール・ゴウンが後れを取る理由はなかった。

直後、世界が不気味な鳴動をし、感知能力に長けたメンバーは嫌な予感を覚えた。

 

『封印を起動しました。どんな変化がありました?』

 

ぷにっと萌えが一応後衛だろう、モモンガとウルベルトにメッセージを送る。

敵の攻撃が飽和しており返信どころではない可能性は高かったため、それほど返事に期待はしていなかったが予想外にもすぐに返事があった。

 

『……良い知らせと悪い知らせと最悪な知らせがある』

『おや、案外余裕なんですか? とりあえず良い知らせから』

 

こう言ったやり取りでは定番の文句を入れてきたウルベルトに軽口を返す。

本当に余裕な訳はないだろうが、向こうが意地を張っているのだからのっておくに限る。

 

『眷属が召喚される頻度が、気持ち減ったような気がする。このまま行けばどこかで出なくなるかもしれん』

『それは重畳。悪い方をお願いします』

『当たり前だが攻撃モードが変わった。今は闇系攻撃が主体なんで後衛はいいんだが前衛がやばい。早めに壁をよこしてくれ』

『承知しました。九曜起動後、最速で送り込むようにします』

 

しばし間が開いた後、ウルベルトは苦々しい口調で言った。

 

『そして、最悪の知らせだが』

『はい』

『眷属のレベルが5、上がった。考えたくないが眷属召喚が封印できない仕様なら……』

『最後は250レベルの無限湧きする敵が取り巻きである、と?』

 

それはろくでもない知らせだった。




ちょっとファンギルドとの交渉関連を挿入。
次辺り最強武器の作成が遅れたと引き換えになった秘密兵器でも投入します。
まあ、大体想像されているかと思いますけどね。

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