ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は日常編に近いかと思われます。
それではどうぞ!!


第11話 仕事

北の海(ノースブルー)” クーペンハーゲル島

 

 

 

 北の海(ノースブルー)で最南端に位置する島、クーペンハーゲル島へ上陸した俺たちは昨日の酔いも醒めやらぬままに早朝から仕事に取り掛かろうとしている。

 

 昨日のローによる独演会は素晴らしかった。

 

 元々船にピアノを置いたのは俺が弾くためだったのだが、ローの方が断然上手いので、最近は自分で弾くことはしていない。面白いものでそこにピアノがあるというだけで、上手いか下手かなど関係なく皆が何かしら弾いているのではあるが。

 

 まあそれでもローのピアノの腕はケタ違いであり、さすがは外科医というところだろうか。

 

 だが、今までのローは深海の底から聞こえてくるような哀愁を秘めたような曲調ばかりであったため、昨日の歓喜や慈しみに満ちたような曲調はとても新鮮であり心を揺さぶられるものがあった。

 

 それにしても、気持ちの良い天気だな。

 

 今朝は寒さは相変わらずであるが、雪が降っておらず晴れ渡った青空には白い雲が点々と浮かんでおり、風もほとんどない。コートは欠かせないがそれでも久しぶりに過ごしやすい気候である。

 

 俺たちは早速お尋ね者となったのでいつものように港の桟橋に停泊するわけにはいかず、人目を避けた郊外の岸辺に船を停めた。

 

 この島で船倉内の大部分を占めていた俺たちの商品、ロイヤルベルガーのウイスキーを売りさばくために街から荷馬車を借りてきて、クーペンハーゲルの中心部に入った。

 

 クーペンハーゲルは偉大なる航路(グランドライン)への入り口近くということもあってか活気に満ちており、港にはいくつもの桟橋が設けられて商船が客船が海軍船が停泊しており、そこから運河が伸びていた。

 

 建物は赤や黄色のカラフルな木造で屋根がオレンジや明るいブラウンで彩られており、街路は石畳で所々にガス燈や木立が立っており、とても可愛らしいような街並みが広がっている。

 

 今は祭りが開かれているようで、大量のビール樽を乗せた荷馬車がそちこちで留っており、人々はビール瓶やらグラス片手……いや両手にうずうずとしていた。きっとビール祭りなのだろう。何とも素晴らしい祭りではないか。

 

 

 俺たちは今、中心部の酒問屋の前にいた。大通りを少し筋に入ったところではあるが、玄関前には街路樹が立ち、朝早くも木漏れ日降り注ぐ中、パラソルの下で丸テーブルを囲んでいる。

 

 これで2軒目。成果は上々である。

 

 ロイヤルベルガーがネルソン商会の品というのは広まっている。そして俺たちは賞金首となっている。先行きに品薄感が出る。よって取り合いとなる。俺たちからしたら吹っかけ放題である。

 

 そんな俺たちが今やっているものはなぜなのかトランプのババ抜きである。いやもちろん仕事で来てはいるのだが、大部分はジョゼフィーヌが取り仕切っているのだ。何せあいつは俺たちの会計士なのだがら。

 

 仕事の流れとしては、まずジョゼフィーヌが単独で乗り込む。そして交渉次第、相手次第で追加メンバーを小電伝虫使(こでんでんむし)って召集するという流れとなる。

 

 ジョゼフィーヌの知識量は半端ではない。物を見ただけで価値をほぼ正確に推し量ることができる。相手が本当のことを言っているかどうか見抜く眼力を持っている。そこは有能なる会計士である。

 

 だが交渉となるとそれだけではうまく行かないこともある。そこで追加メンバーということになる。

 

 もちろん、ジョゼフィーヌの理路整然とした論理やたまに使っていると思われる色目であったり、まあ女の癇癪であったり、これがまたとても怖いのではあるが……、もとい、といったものでうまくいくこともある。

 

 だが、農家や食品問屋で見かける人の良い陽気なおっさんにはオーバンのあの何とも不思議な陽気な口調が合うであろうし、金に汚い小心者や若い男に目が無いマダム相手にはローの怖いくらいの無表情や笑み、整った白い顔が効いてくるであろうし、ロッコは材木商のいかついおっさんに受けが良かったり、お婆さん相手にはカールが懐に入るには打ってつけであったり、べポの真っ白でふかふかな体毛も威力を発揮することがある。

 

 待てよ……、最近俺が呼ばれた試しがないな……。

 

 俺の存在意義は何なのかなどと考えたくもなるが、ひとまずは目の前にある数枚のトランプから1枚を抜きとることに集中しなければならない。

 

 こうして俺たちは出番に備えて準備体操をしているわけである。

 

「総帥。次ですよ」

 

 カールがべポの膝に座りながらトランプをこちらに向けてくる。べポではこの小さなトランプでやるには難儀なのでべポとカールはいつもワンセットである。

 

 奴らはお互い顔を見合せながらにんまりとして早く選べと顔に表情を浮かべている。その表情を睨みながら真中の一枚を抜きとる。

 

 ババだ。ジョーカーか……。こいつらなかなかやるじゃないか。

 

 当のそいつらはやったやったと満面笑顔で喜んでやがる。そして俺が騙さなければならない相手はロー。しかもこいつの手札は残り1枚。だとすればどうなるかなんて先は見えている。

 

 もちろんローは上がり、俺のジョーカーは持ち越しである。そしてこのタイミングで小電伝虫(こでんでんむし)が鳴る。

 

「も~う、やっと着いたの~。早く上がってきて頂戴よ。ロー」

 

 演技をしているジョゼフィーヌからの呼び出し。相手は女でジョゼフィーヌ一人では手強かったのか。それとも小心者の男で利幅を最大限に高めるためにあとひと押しを加えようと思ったか。

 

「今回はローか~。ほれ、いてこましたれよ~」

 

 オーバンの激励なのか何なのかよくわからない言葉を受けてローは玄関の中に入って行った。

 

「さて、続きを始めましょうや、坊っちゃん」

 

 ロッコの奴め、俺がババを持ってるからっていい気になりやがって。

 

 こうして俺たちの準備体操は続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒問屋巡りは良好な結果となった。

 

 平均単価5万ベリーを相手にのませて2000本のロイヤルベルガーを売り捌き、占めて1億ベリー。

 

 我ながらあくどいだろうか? いやいや、ロイヤルベルガーなら1本10万ベリーでも売れるはずだ。とてもWIN-WINな取引であったはずである。

 

 ジョゼフィーヌは取引相手が泣いて喜んでいたと言っていた。泣く泣く取引に応じたの間違いではないはずだ。

 

 こうして時間は昼近くとなってはいるが最後の取引に臨まなければいけない。

 

 場所はクーペンハーゲルの外れ、とある工場に隣接された重厚な建物。レンガ造りで鍛鉄の門構え、階段を上がった先にある玄関口とそこで黒い制服を着て恭しく出迎えをする門番の姿。

 

 クーペンハーゲルは大砲製造が盛んな島でもある。そう、最後は武器の取引である。1億ベリーをそこに充てる。

 

 今回ばかりは俺が自ら出張らねばならない。従えるのはジョゼフィーヌ、そしてローの二人。俺が先頭に立ち、後ろに少し離れて二人が付き従う。

 

 正装は完璧。スーツ、タイ、シルクハット、そしてロングコート全て漆黒、ジョゼフィーヌは胸元ざっくりにミニスカート、ローは帽子がトラ柄というのを除けばだが。

 

 それぞれアタッシェケースを片手に持ちながら、門番を一瞥して中に入り、レッドカーペットが敷かれた1本道の廊下を、コートの裾はためかせながら肩で風を切るようにして進んでいき木製の内開きドアから部屋の中に入る。

 

 室内は天井よりシャンデリアが吊るされており、純白のクロスが掛けられた長テーブルが中央に据えられ、奥のガラス張り全面窓の奥にはよく手入れされた中庭で木々が揺れている。

 

 相手は口髭をたくわえ、スーツ姿だがタイは締めず胸をはだけている。

 

 さて、ショータイムの始まりだ。

 

「本日はお時間割いていただきありがとうございます」

 

 まずは軽く頬笑みを浮かべながらのあいさつを述べる。もちろん3人共に。ローにも一応練習をさせた。うまく笑えているかどうかは知らないが。

 

「おまえたちか。ネルソン商会とやらは」

 

 相手もそう口にして指を鳴らし、別室より待機させていたと思われる従者が現れ、コーヒーが供される。

 

 その余裕綽々の笑みは俺たちの下調べを怠ったか。

 

「ジョゼフィーヌ!!」

 

「はいっ! 総帥!!」

 

 俺の呼びかけに応じて、左側に坐するジョゼフィーヌは立ち上がり、テーブル上にアタッシェケースを置いて中から3枚の手配書を取り出す。

 

「こちら私共の最新の身分証明書でございます。お見知りおきを。左から1億800万、1億8500万、そして私が7400万でございます」

 

 と述べながら1枚ずつ丁寧な動作で相手の前に手配書を並べていく。それに合わせて俺たちは柔らかな頬笑みを捨て去り、無表情と冷徹な瞳に切り替えていく。

 

 相手の笑みは消えて二の句を告げることができそうにないところで、ジョゼフィーヌは畳みかけるようにして別の書類を取り出して見せ、

 

「続きましてこちらの書類をご覧ください。そちら様は海軍と独占契約を結ばれていると伺っております。そしてこちらに示されているのが海軍への納入数量、横に記されているのはそちらの工場稼働時間から算出した生産数量です。この二つの数字のかなりの開き具合、どうご説明されますか? 私共といたしましては海軍の方にこの情報を伝えた方がいいのか計りかねているのでございますが……」

 

 そう説明しながら、優しく笑みを浮かべるジョゼフィーヌ。相手はその優しさを文字通り受け取ることができないのか焦りの表情を浮かべている。違う状況なら美人のセクシーな姿形に鼻の下を伸ばしたであろうがそれどころではないらしい。

 

「お、おまえたち……、ドンキホーテファミリーを……、し、知らないのか」

 

 何とか絞り出した相手の言葉に対して、今度は右側で静観していたローがようやく腰を上げて相手の傍まで行き、肩に手をやりながら耳元でこう呟いた。

 

「おまえのような問題をやらかす奴をドフラミンゴはさっさと切ってしまうだろうぜ」

 

 よっぽどドフラミンゴが怖いんだろう。目に完全に怯えの色が表われている。

 

「お、おまえたち……、け、喧嘩を……売るつもりか」

 

 そんな最後に絞り出した相手の言葉に対して、

 

「いえいえ、とんでもない。私共はただただ、穏便に、取引させていただきたいだけですよ」

 

と再び優しい頬笑みを浮かべながら言ってやる。

 

 瞳には一切笑みを見せずに。

 

 

 交渉成立だな……。

 

 

 そうして、俺はゆっくりとした仕草でコーヒーカップに手を付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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