ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第17話 三つ巴

偉大なる航路(グランドライン)” ミュート島 “静寂なる森(サイレントフォレスト)

 

 

 

 トラファルガー、筋書きはできてる。ここは上手く事を運ばせる。

 

 

 俺にだけ聞こえるような抑えた声音で奴はそう言っていた。あの場でボスを置いて来るのは不本意ではあった。奴を信用できるのかどうかも定かではない。

 

 だが、ボスの指示でもあるし、あの場で手間取ってニコ屋を逃すわけにもいかねぇ。それに、奴の目は真剣そのものであり、何か訴えかけるものが感じられた。

 

 筋書きとはどういうことだ? 

 

 皆目見当がつかねぇものは考えても仕方がない。ボスの言うとおり、なるようになるだろう。

 

 俺はCP9との邂逅の場から能力で移動して吊り橋を下り、落ち葉舞う下道を駆け抜けている。

 

 CP9……、CPは1から8までのはずだが。9ってのは存在しないはずのCPってことか……。闇の中でも、もう一段深い闇の連中ってわけだな。

 

 あの場には3人いた。間違いなくオークション会場にいた奴らだ。奴らの狙いは俺たちだけか、それともニコ屋も含んでいるのか。

 

 奴らの一人は後方を付かず離れず追い掛けてきてやがる。付かず離れずというところが気に食わない。何かしら思惑があるのかもしれねぇな。

 

 待ち受けて戦うか……、だがそうなると時間を使っちまう。べポとカールでの追跡行はそう長くは保たねぇだろうし、ニコ屋は奴らだけで何とかできる相手じゃない。

 

 結論……、奴らを探すのが先決。ニコ屋がその場にいれば問題ない。CP9がそこに現れるだろうが何とかするしかねぇな。

 

 見聞色の覇気は先程から働かせているが、まだそれらしき気配を感じ取ることはできていない。

 

 吊り橋やツリーハウスのランタン光が届かぬ下道は暗闇が支配しており、ほんの微かにオレンジの纏いを感じるに過ぎない。

 

 

 暗闇にいるとどこか落ち着いていられるのはなぜだろうか? そして、暗闇にいるとあの人の事を思い出してしまうのは?

 

 いつも考えることだが、行きつく答えは毎度同じである。

 

 コラさん……。

 

 10年も前、ミニオン島での最後の別れ。あの時俺はコラさんによって、宝箱の暗闇の中で守られていた。だから、辺りが闇に包まれている方が俺には落ち着くんだろう。

 

 ナギナギの実が目の前に現れた瞬間、俺は言葉にできねぇ感慨に襲われた。こんな瞬間が訪れようとは、確かに想像することもあったが、いざ訪れてみればそれは想像以上だった。

 

 コラさんはもうこの世にはいない……。

 

 現実の残酷さに容赦がないことは嫌と言うほど思い知らされてきたが、やはり容赦ねぇな。

 

 コラさんの亡き本懐を遂げる……。亡きという枕詞は受け入れなければならない。

 

 

 だが、

 

 

俺は一人じゃないことも強く感じた。

 

 俺の横で、電伝虫の先で、一瞬言葉を失くしていたネルソン家の人間。俺が世話になっている人達。俺はハートを一人で背負ってるわけじゃねぇんだ。

 

 

 ケリはつけてやる……。ジョーカー……。

 

 もう俺のボスはお前じゃねぇ……、あの人だ……。

 

 

 思わず顔に力が入ってしまっていることを感じてしまう。……、頭はクールにしておく必要がある。

 

 暗闇を駆け抜けての探索行で、脳内を覆っていた事柄を物思いから現実への思考に切り替えていく。

 

 

 ジョーカー、王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴの闇の仲買人(ブローカー)としての通り名である。

 

 ジョーカーはナギナギの実を手に入れるために10億ベリーを支払った。それ自体、理解はできる。目的のためには対価は惜しまない。ジョーカーはそういう人間だ。

 

 だが、本当にそれだけか……? 奴は一筋縄ではいかない人間でもある。現段階で砂屋の計画がどこまで進んでいるのか定かではないが、10億が動くことになる。それが意味するところは何なのか? 10億は砂屋への軍資金じゃねぇだろうか。

 

 ……、もしかしたら、奴は砂屋の計画を嗅ぎつけてる可能性はないだろうか……。計画には何かしらカギとなる目的があって、そのカギを手に入れるために、砂屋の計画を分かった上で泳がせている。そして、どこかの段階で梯子を外すつもりでいる。十分、奴が考えそうな手だ。

 

 だとすれば、誰かを紛れ込ませている可能性もあるな……。

 

 それに、会場で会ったあの男、ジョーカーのメッセンジャーを務めていたあの男は何者なのか? 百計のクロは何かしら知っているそぶりを見せていた。確かに奴の言うとおり、ジョーカーの取り巻きらしくねぇ居住まいをした男だった。俺が居た頃にあんな男はいなかった。

 

 あの男が最後に口にした黒髭海賊団という名。聞いたことがない名だ。

 

 

 

 ジョーカーの思惑、メッセンジャーを務める謎の男、黒髭海賊団、ナギナギの実……。

 

 砂屋の計画、ニコ屋、アラバスタにある何か……。

 

 政府の思惑、CP9……。

 

 百計のクロが知りえていること……。

 

 

 俺たちの思惑、珀鉛、ダンスパウダー、……。

 

 

 パズルのピースはどう嵌まるのか。チェスの盤面を動かす駒は、カギとなる駒は何か。

 

 

 

 そこでふと思い至る。

 

 

 10億ベリー。

 

 

 ジョーカーの手から離れたものを俺たちがどうしようが問題ないよな……。まあそういう問題じゃないかもしれねぇが。

 

 10億ベリーを奪うってのもアリかもしれない……。

 

 

 思考を巡らしていくと、思わぬアイデアにぶつかるものである。

 

 だが、ひとまずはニコ屋だな。

 

 

 考えることに一区切りをうったところで、脳内は見知った2つの気配と近接する謎の気配ひとつを感じ取る。

 

 

 ……そろそろ、ご対面といこうじゃねぇか。

 

 

 

 

 

「悪いな……。こいつらキレイなお姉さんを見ると付いてっちまう癖がある。悪気はねぇから勘弁してやってくれねぇか。……、なぁ、ニコ屋」

 

 時間が止まっちまったようなその空間で時計の針を再び動かしてやるが如く、俺は言葉を投じる。

 

 見知った2つの気配の元は、歓喜の混じった安堵の表情を浮かべ、謎の気配を漂わせていた張本人はどこか怪訝な表情を浮かべている。

 

「ドクター!!」

 

「ロー船医!!」

 

 希望に満ち溢れた二人の言葉が耳に入ってくる。

 

 正面にはそのひとりであるカールが普段は見せないメガネを掛けた姿でシルクハットを被らずに、吊り橋を挟んで向こう側にはもう一人のシルクハットを被ってないべポの姿が認められる。

 

 なんてなりしてやがる。こんな姿見たら、ボスとジョゼフィーヌさんにどやされるぞ。

 

「おまえら、俺たちネルソン商会の鉄則は何だ?」

 

 シルクハットを被らねぇ俺が言えた義理ではないが、大事なことだ。

 

「「戦闘において、取引においては正装であることですっ!!!」」

 

 俺の居住まいを正した言葉に、二人は声を揃えて答え、直立不動の姿勢を取る。

 

「そうだ。正装を捨てるときは俺たちが死ぬ時だ。それを忘れるな。……、自ら正装を捨てるな!!! ……って、ボスなら言うだろ。ボスには後で反省文書いとけ。ジョゼフィーヌさんとの罰則交渉には俺が掛け合ってやる」

 

 あの人はこんな時見境が無い。こいつらに金に関する恐怖の災いが降りかかることが目に見えている。

 

「「すみませんでした!!!」」

 

 二人声を揃えての平謝り。

 

 正装……。正しいと自分たちで決めた装いでいること。それを捨てるときは俺たちが死ぬ時ってのは、その通りだと思う。矜持、覚悟……、大事なものだ。

 

 

 でだ、いたたまれない表情で立ちつくす二人を直線で結んで、三角形を作ると頂点にくるような斜め向かいの木陰に背を預けてニコ・ロビンがこちらを見つめている。俺たちのやりとりを聞いていたのか不思議そうな表情をしている。オークション会場にいたときとは違って、仮面を付けてはいない。

 

「死の外科医、トラファルガー・ロー。あなたたち、ネルソン商会ね。オークションは終わったのよ。私に何のご用かしら?」

 

 俺たちに関してはリサーチ済みのようである。ニコ屋は平然とした表情で俺に言葉を返してきやがる。

 

「大したタマだな。正体を見破られようと動じてねぇと見える。まあいい。俺たちは別にオークションに難癖を付けにきたわけじゃないし、おまえをデートに誘いに来たわけでもねぇ。ビジネスの話だ」

 

 己の言葉に我ながら随分と口が回るようになってきたもんだと思ってしまう。

 

「そう……。何が狙いなの?」

 

 ニコ屋は無駄な事を一切口に挟んではこない。

 

「ダンスパウダー。おめぇら、アラバスタで使ってんだろ? それに、ナギナギの実で受け取った10億ベリー。……、よこせ」

 

 俺も単刀直入に言葉を切り出す。

 

 うっすらと笑みを浮かべやがるニコ屋は、

 

「フフフ、随分なお言葉ね。ビジネスが聞いて呆れるわ。まるで海賊みたい……。でも……、私たちをしっかり調べ上げているようね」

 

と言って呆れたように首を振っている。

 

「お褒めに与かり光栄と言いてぇところだが、おまえに倣ってな、俺も無駄口を挟むのは性には合わねぇ。ビジネスには元手がかかる。この世の真理には違いないが、時と場合による。リスクとリターン、メリットとデメリットその関係性次第ってわけだ。それに……、元手はかからないに越したことはねぇしな」

 

「そうかしら……。じゃあ、私たちにどんなメリットがあるというの?」

 

「ひとまずは……、お前自身にメリットがあるかもな……」

 

 その言葉の意味がもうすぐこの場に登場するだろう。ニコ屋と会話をしつつも、見聞色の覇気はこの場に近付いて来るひとつの気配を感じ取っていた。先程から俺の背後を付かず離れず追跡してきた奴だ。

 

 それが意味するところは……、奴も見聞色の覇気を使っているということだ。

 

「カール、おまえは下がってろ。べポ、こっちへ来い」

 

 すぐさまに二人に指示を出す。この場の状況はすぐに変わるだろう。

 

「ロー船医、キレイなお姉さんをどうするんですか? 何もしないですよね?」

 

 全く、面倒な奴め。先程のいたたまれない表情はどうした。カールは美人の女とくればすぐこれだ。どういう教育をされればこんな風に育つってんだ。

 

「わかった。わかったから、とにかくおまえは下がってろ」

 

 ここはそう言ってやるしかない。

 

 一方のべポは飼い犬よろしく従順にこちらへとやって来ている。犬じゃねぇな……、飼い白クマか。

 

 

 

 そいつは、この空間にさざ波を立てるつもりなど全くないかのように、至極静かに現れた。上方、吊り橋の上にひらりと舞い降りている。服装は俺たちのように漆黒で、頭には黒のキャップ帽を被っている。そして、二振りの帯剣。

 

「そんなところに立ちやがって、高みの見物と洒落こもうってのか? CP9」

 

 漆黒のそいつに軽口を飛ばしてみる。

 

「CP9!!」

 

 ニコ屋は俺の言葉に出る最後の単語に反応している。どうやら正体を知っているらしい。

 

「わしを待っていたような言い草じゃな。お前の言うとおり高みの見物が出来れば良いのじゃが、そうもいかん」

 

 そいつは口調がどうも年寄りじみてやがる。調子が狂いそうな相手である。

 

「俺たちはおまえに相対するわけなんてねぇんだがな」

 

「私も同じ」

 

 CP9に対してはニコ屋と意見が一致する。幸先がいいかもしれない。

 

「ふむ。お前たちはそうかもしれんが、わしには相対するわけがあるんじゃ。まずは言っておいた方がいいじゃろう。わしらCP9は政府直下の諜報機関で、わしの名はカクじゃ。お前は確かにニコ・ロビンじゃな、手配書の面影が残っておるわい。お前に対して捕縛命令を受けとる。そして……、お前は死の外科医トラファルガー・ローじゃな。お前たちネルソン商会には抹殺命令を受けとる。……、事のついでにな」

 

 なるほど、このカクというCP9の言葉で、メインはニコ屋の方で俺たちはついでにすぎないということがわかる。が、ついでに抹殺されてはたまったもんじゃねぇ。

 

「そう……。あなたの言い分はわかったわ。……でも、もちろん受け入れる気にはなれない。……それに、死の外科医さん……、あなたの言い分もね。私はあなたの力を借りなくてもこの場を切り抜けられる。あなたの提案にはメリットなんて何もないじゃない」

 

 ニコ屋にはこう言われる始末だ。

 

「わぁ……、三つ巴だ」

 

 カールの他人事の様な言葉が聞こえてくる。何、暢気なこと言ってやがる。

 

 状況としては確かにそうだが、厄介な状況になりつつあるんだ。

 

 俺たちがカク屋に攻撃すれば、その間にニコ屋は逃げる。カク屋も俺たちに攻撃しようともニコ屋は逃げる。

 

 そして、俺たちがニコ屋に言い分を呑ませようとすれば、カク屋に攻撃される。カク屋もニコ屋を捕縛しようとすれば、その間に俺たちはカク屋を攻撃する。

 

 俺たちとカク屋の状況は竦みだ。

 

 だが、ニコ屋が考えていることはこの場から逃げ出すことだけだ。奴は戦う必要がない。

 

 では、俺たちとカク屋で手を組めばいいのか? さすがに、それはねぇよな。

 

 であるならば、俺たちがやるべきことはニコ屋をうまく丸めこんでカク屋を攻撃させるしかない。つまりはこの場にニコ屋を留めさせなけりゃならねぇってことだ。

 

 カク屋はどう考えるだろうか? 俺たちとニコ屋をまとめて捕えようとするか? 幾らなんでもそれはない。俺たちを説得して、ひとまずニコ屋を先に捕えようとするか? その可能性が高ぇとは思うが。

 

「そう結論を急がんでもよいじゃろう。ニコ・ロビン……、わしはCP9と言ったがもうひとつ……、別の肩書も持っとる。ヒガシインドガイシャ……、お前なら少しは聞いたことがあるじゃろう。わしはそこにも所属しておってな、五老星の一人より直接命令を受けとるんじゃ」

 

 カク屋はここで全く予期していない内容をニコ屋に披露し始めている。話がとんでもねぇ方向にいっちまいそうだ。

 

「ヒガシインドガイシャは歴史探索部を設ける。そこで、ニコ・ロビン……、お前をヘッドに迎え入れろとの命令を受けとるんじゃ。お前の捕縛は政府としての表向きの話でな、実際のところはそういうことじゃ。……、おぉ、そう言えばお前もおったの。これは機密事項じゃが……、お前はここでわしの手で死ぬんじゃ。問題ないじゃろう」

 

 今気付いたかのように聞き捨てならない言葉をカク屋は最後に付け足してきやがる。

 

 こいつもヒガシインドガイシャの人間なのか。歴史探索部とは……、何が狙いだ。歴史を知ることを禁止しておいて、裏では自ら歴史を調べるわけか。奴ら独占して、場合によっては都合よく捻じ曲げるつもりか。

 

「ふざけないでっ!!! あなたたちがオハラにしたことを私は決して忘れないわ。あなたたちの言葉は何も信用できない」

 

 どうやら交渉決裂のようだが……、

 

「そうかもしれんな。じゃったら、命令を受けた以上は、力ずくでも遂行せんとな……」

 

と、カク屋は静かに言葉を発し、帯剣に手を掛ける。

 

 

 

 手術(オペ)の時間だな……。

 

 

 

 ニコ屋の能力は既に把握している。ハナハナの実の能力で体の各部を花のように咲かせる力。

 

 だとすれば、奴が仕掛けてくるのは関節技(サブミッション)と考えられる。厄介な能力であることは間違いない。スピードやパワーを無力化されちまう。

 

 先に動くべきだ。

 

「ROOM」

 

 俺は一足先に能力を発動させて、辺り一帯をすっぽりと覆うように(サークル)の膜を張り、この場の全員を執刀領域に入れる。

 

 左に移って来ているべポに目配せを送る。べポをニコ屋に向けても意味はない。ひとまずこいつはカク屋に向ける。

 

 さらに見聞色の覇気を働かせる。ニコ屋が動くな……。べポも動く……。カク屋は様子見……。

 

 意識的に脳内の回転数を上げていき、全員の動きを同時に知覚化している。鬼哭(きこく)を鞘から抜いて、左から右へと斜めに大きく空を切る。

 

 カク屋は見聞色で、ニコ屋は本能で危険を察知したのだろう。両者ともに回避に移っている。カク屋は六式の月歩(げっぽう)で空中へ、ニコ屋は前転して前方へ。

 

 ニコ屋の先手を取れた。ひとまずは上々……。

 

 カク屋とニコ屋を一刀両断するべく放った、空を切る太刀筋は、そのまま高速飛行して両者が数瞬前にいた位置に到達しその場に存在するものを切開する。

 

 吊り橋の左側が斜めに切れて、弧を描くように落下しはじめ、その奥で屹立する木々と手前のニコ屋が凭れていた木も倒れようとしている。

 

 ニコ屋は能力を発動させようと両腕を構えている。

 

「タクト」

 

 左手人差し指を突き出して動かし、ニコ屋が凭れていた木が倒れる方向を丁度ニコ屋を直撃するように調整する。

 

 べポが飛び上がっている。

 

 あいつはカンフー使いであるが、ロッコさんに六式の内、(ソル)月歩(げっぽう)嵐脚(ランキャク)鉄塊(テッカイ)を仕込まれている。四式使いとでも言えるだろうか。

 

三十輪咲き(トレインタフルール)

 

 ニコ屋がその言葉と共に両腕を交差すると、奴を包むようにして花びらが舞い、手近の木の枝から5本の手が生えてくる。さらに生えた手の先からまた手が生えてきており、数珠つなぎのように次から次へと手が生えてきている。そうして出来上がった5本の垂れ下がる手はニコ屋へ向かう倒木を掴むと、

 

「ハングショット」

 

俺へ目がけて突き打ってくる。

 

「白クマか。月歩(げっぽう)を使いよるとは驚きじゃな。……、じゃが今日は楽しむつもりはないぞ」

 

 眼前に飛び込んでくる倒木を捉えながらも、カク屋の物騒な言葉が耳に入ってくる。

 

「シャンブルズ」

 

 咄嗟に判断して、べポと己に迫って来る倒木の位置を入れ替える。倒木は俺に代わってカク屋へと迫っていき、俺の前にはべポが空中に現れる状況へと切り替わる。

 

 カク屋とニコ屋の表情が歪むのがわかる。俺の能力も奴らには厄介な様であるが、そんなもんはお互い様だ。

 

 カク屋は迫る倒木を瞬間で躱している。

 

「べポ!!」

 

「アイアイ!! ドクター。(ソル)

 

 俺の呼びかけにべポはすぐさまに理解したようで、応じると体勢を変えて一瞬で加速してニコ屋に向かっていく。

 

 上空にいるカク屋に意識を向ける間に、ニコ屋の次の動きも感じられるが一瞬反応が遅れてしまう。

 

 まずい……、肉を切らせて骨を断つ気か……。

 

六輪咲き(セイスフルール)

 

 ニコ屋は再び両手を交差して能力を発動させると、俺の背中から4本、下の落ち葉の中から2本の手が生えてきて、それぞれ首、両腕、両足を掴んで極めにかかってくる。

 

 自分がべポに攻撃されても、俺にダメージを与えようってわけだろう。

 

 鬼哭(きこく)で斬り落そうとするが、右手を抑えられてうまく扱えない。

 

「クラッチ」

 

 ニコ屋からの死刑宣告の言葉が発せられて、俺の体がしなっていくのが分かる。骨がみしみしと音を立てているのが感じられる。激痛なのだが、不思議と叫び声も出せない。

 

「ドクターを放せーっ!!! アイアイアイアイー!!!」

 

 べポの言葉が聞こえ、あいつの蹴りの連撃がニコ屋に入るのが辛うじて目に入る。

 

 俺の体を拘束していた6本の手が消えていく。間一髪、危なかった。ニコ屋は厄介極まりねぇ。

 

 だが、気を休めている時間などない。カク屋の動きを見聞色の覇気は察知する。

 

「おまえたち……、わしを忘れとらんか? 嵐脚(ランキャク)“乱”」

 

 カク屋が両手に持つ刀と両足によって、まるで4刀使いのような剣さばきで無数の斬撃が広範囲に飛んでくる。

 

 俺はその攻撃が覇気を使ってないとみて、すぐに武装色の覇気を纏い防御に入る。

 

鉄塊(テッカイ)

 

 べポも自身の体を鉄の硬度まで高めて防御に入っている。カールを庇うようにして。

 

 

 気付けば辺り一帯は容赦なく乱れ飛んだ斬撃によって、周囲に積もる落ち葉を舞い上がらせ、さらなる倒木を引き起こし、既に倒れている木を切り刻んでいる。さらに、俺が切り落した吊り橋によって、ランタンの火が落ち葉に移って火の手が上がっており、まるで戦場のような状況になりつつある。

 

 

 べポは鉄塊(テッカイ)で防御していても、無数の切り傷を負っており、カク屋のヤバさがわかるってもんだ。

 

 ニコ屋はもっと酷く、体全体に凄惨な切り傷を負わされて血を流している。

 

 俺もニコ屋の攻撃で背骨を少しイってるが、まだ何とか動けるだろう。

 

「少しは理解したかのう? 諜報組織に属す人間の恐ろしさというものを」

 

 カク屋は既に着地しており、悠々と言葉を発している。

 

「ニコ屋……。これでわかったろ。本当にやべぇのはカク屋だ。奴を先に何とかしないとどうしようもねぇんだよ」」

 

 ニコ屋に声を掛けてみるがすぐに反応はない。

 

 

「どう……、するの……」

 

 絞り出した言葉はそれだけ。

 

 だが、十分だ。

 

 これで、状況は3対1へと変わる。

 

 

 

 勝負はここからだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
ロー視点、ロビンの戦闘描写って非常に難しいですね。
今話はかなり産みの苦しみを味わいました。

誤字脱字、ご指摘、ご感想、よろしければどうぞ!!

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