ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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平均文字数より大幅超過であるため字数は先にお伝えいたします。

14500字あります。長くなって申し訳ありません。

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第24話 まだその時ではない

偉大なる航路(グランドライン)” サンディ(アイランド) アラバスタ王国 ナノハナ

 

 

 

 海賊王……。

 

 その称号で呼ばれた史上唯一の存在がゴールド・ロジャーだと世間一般では知られている。

 

 だが、ゴールド・ロジャーが本当はゴール・D・ロジャーという名であることを知る者はほとんどいない。

 

 俺がこの事実を知っているのは家に残っていた古い書物を読んだからに他ならない。多分にその書物は新世界で密かに出版されたものだったのだろう。

 

 ゴール・D・ロジャーは海賊王となったあとゴールド・ロジャーという名にならなければならなかった。そうでなければ誰かにとって不都合があった。誰にとって不都合であったのか?

 

 答えはひとつ。それは政府の連中ではなかろうか。奴らが海賊王はゴール・D・ロジャーではなくてゴールド・ロジャーであると世に広めたのではないのか。

 

 真相はまだ闇の中であるがこう考えれば辻褄が合ってくるのは確かである。

 

 政府なんてものは何ひとつとして信用できないと俺が思ったのはこの考えに至った時からかもしれない。不都合な真実を覆い隠して、見せたいものだけを見せる。そして見せられている大抵の奴らは真実には気付きもしないで生きている。

 

 恐ろしいことではないか。そうやって俺たちは牛耳られているのだ。頂点に君臨している頭の回る連中に。

 

 そして、D……。

 

 この名をミドルネームとして持つ者はゴール・D・ロジャー以外にも少なからず存在している。黒ひげと名乗る男がマーシャル・D・ティーチという名であるらしいし、先程出会った炎人間もポートガス・D・エースであるし、海軍にはモンキー・D・ガープという本部中将がいる。

 

 そして、眼前で早くもファイティングポーズをとる麦わらもガープの孫であり、モンキー・D・ルフィとDのミドルネームを持っている。

 

 Dとは一体何なのだろうか?

 

 Dを持つ者には共通点があるのだろうか?

 

 今は考えてもわからない。答えを出すことが出来ない問いだ。

 

 

 何よりも今は目の前に対峙する相手をどうにかしなければならない。こいつがDであろうとなかろうと。

 

 

 

 

 

 

「もうっ、ルフィのバカ! わかんないから話をするんじゃないの。戦うことはその後でもできるでしょうがーっ」

 

 ナミと呼ばれている若い女が先程から若干キレ気味で麦わらの体を揺すりながら、再三に渡って道理の通ったことを投げ掛けている。俺とこの女であれば話はすぐに付くのかもしれないな……。

 

「そうだぞ、ルフィ。ここは慎重に、穏便に事を運んでだな……」

 

「おまえはただ恐ぇだけだろうが」

 

 道理を通そうとする女に同調するようにして、鼻の長い奴がおっかなびっくりでこちらに近付きながら言葉を重ねてくるが、背後で悠々と立っている緑髪の剣士に茶化されており、

 

「悪ぃかよ。恐ぇもんは恐ぇんだっ!! 2億8000万ベリーだぞ。どんだけ化け物なんだよ」

 

と、緑髪に対して振り返りながら気持ちいいぐらいの開き直りを見せており、顔は今にも泣きそうである。そして、鼻が随分と長い。

 

 左側にいる俺たちを見れば、カールが目を輝かせながら4方向に対して視線を向けている。そのひとつは鼻の長い奴に対してだ。確かにカールが心を奪われるだけはある鼻の長さをしている。残り3方向は案の定、ナミという女と王女、そして(たぬき)の様なペットに対してだ。

 

 そんなカールが何を考えたか、メモとペンを取り出しながら俺と麦わらの対峙する空間を横切って長鼻人間に近付いていくではないか。麦わらはナミと呼ばれる女に体を揺すられ説き伏され続けている状態とはいえだ。

 

 そして、

 

「立派なお鼻をお持ちですね!! あなたは長鼻族なんでしょうか?」

 

と、邪心も何もない口調で訊いたもんだから、まさに目を疑う光景である。

 

 いつからお前はそんな大胆不敵になったんだ?

 

「そうさ、長鼻族は立派な鼻を持ってるだけに鼻が高ぇって……、何言わせてんだよ、てめぇ。俺は立派な人間族だっ!!」

 

 カールの突拍子もない行動に驚いていた俺は、さらに長鼻人間の正当なるノリツッコミに唸らされる破目となる。ここまで完璧にノリツッコミをする奴を俺は初めて見た。まったく拍手を捧げたくなるもんだ……。

 

 

 今し方まではこんな状況であった。俺の心中とは裏腹に状況は緊迫感を欠いている。畳みかけるようにしてニコ・ロビンより2個目の爆弾が投下されたことで、変わるかと思われたが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

「この人達を倒せば10億ベリーが手に入るけど……」

 

 これがニコ・ロビンの爆弾発言2つめである。今思えば、これは奴らの一人に対してピンポイントで放った殺し文句としか考えられない。

 

 なぜならばこれによって、オレンジ髪のナミと呼ばれる女の麦わらに対する訴えかけが先程と180度変わってしまっているからだ。その女の目が心なしかベリーに見えて仕方がないのもきっと気のせいではないだろう。動作にしても体を揺するというものから顔を指で突くという、より好戦的な段階へと移行してしまっている。

 

 どうやらこの女にはニコ・ロビンによる悪魔の(ささや)きが天使の(さえず)りに聞こえたらしい。あれほど麦わらに向かって戦うなと言っていたくせに、今はさっさと戦えと叫んでいる。かと思えば、ジョゼフィーヌともやりあってと何やら忙しい。

 

 結局、こんな展開になってしまっている。

 

 太陽は頭上から容赦なく照りつけてくるが、海風は体を撫でるようにして吹きつけており、暑気を払ってくれる。辺りは砂が交じり凹凸が存在する岩場で、麦わらは海を背にして立っており、俺は麦わらの背後に海を眺める状況である。対峙する俺と麦わらの左側には俺たちが右側には麦わらの一味面々が居たわけであるが、その形は崩れており、

 

 

 周りを見渡せば……、目も当てられない状況が広がっている。

 

 

 理由を考えるべく頭上を見上げれば、かもめが飛んでいる。かもめが鳴く声は何とも長閑(のどか)だ。なるほど、そもそもがこんな場所で緊迫する状況になる筈がないのである。

 

 

 

 べポを連れ出して今度は(たぬき)を標的に定め、本人的には大事な質問、俺に言わせればただのちょっかいを出そうとしているカール。そのカールに己の渾身作だったと思われるノリツッコミを、ああそうですかの一言でカールにスルーされて何とか尊敬を得ようと躍起になっている長鼻人間。

 

 緑髪の剣士と金髪の俺にとっては同好の士と言える男にメガネを掛けた女剣士を加えた3人による構図がよく分からない喧嘩。それになぜか加わってしまっているジョゼフィーヌと巻き込まれつつあるアラバスタ王女。それらを眺めて人の気も知らずに可笑しそうに眺めているオーバン。

 

 

 

 だがそんなことよりも問題なのは事の発端であるニコ・ロビンがこの機に乗じて今度こそ姿を消したという1点に尽きる。

 

 俺は首を左右に振り、大きなため息をつくしか仕方がなくなってくる。

 

 

 このドタバタで不毛な無限ループに俺自身まで絡め取られてしまいそうで、正直俺はとても怖い……。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 サー・クロコダイル……。

 

 あの男が我が国には居座っている。サーという称号が政府より付与されるのは選ばれし者だけ、あの男がそれを頭に(いただ)いている理由は王下七武海(おうかしちぶかい)として我が国で略奪を働こうとする海賊を打ち破り、民衆の英雄(ヒーロー)、アラバスタの守り神と崇められているから……。

 

 民衆の英雄(ヒーロー)

 

 アラバスタの守り神?

 

 

 ふざけんじゃないわよ……。

 

 

 表で国民の信頼を得ながら裏ではその信頼を踏みにじるようなことをしている。あの男が我が国を狂わせてしまった元凶なのだ。

 

 

 私はあの男を許さない、許すわけにはいかない。

 

 

 でも、あの男に黒幕がいる、それがここにいる人たちだと、あの女が今目の前で言った。

 

 どういうことだろうか?

 

 あの女から辿って私はクロコダイルに行き着いた。王下四商海(おうかししょうかい)バロックワークスの社長、Mr.0は王下七武海(おうかしちぶかい)サー・クロコダイルと同一人物だと。

 

 なのにまだ先があったということなのだろうか?

 

 わからない……。

 

 あの女が嘘を吐いているのかもしれないし、本当の事を言っているのかもしれない。あの女の場合どちらもあり得る気がしてわからない。

 

 

「…………ビビさんはどう思われますか?」

 

 頭の中で一心不乱にクロコダイルと眼前の黒い人たちとの関係性を考察していたところへたしぎさんから言葉が投げ掛けられてくる。

 

「……へっ?」

 

 Mr.ブシドーやサンジさんを交えて何か話をしていたような気がするが、それどころではなかったので咄嗟(とっさ)にこんな声しか出てこない。

 

 どんな会話だったのだろうか?

 

 そうだ、ここは録音再生機能を使ってみよう。

 

 電伝虫にはたまに、留守番機能を持っている種類がいる。こちらがその場で応答できなくとも、相手の言葉を録音し再生して聞くことができるというものだ。

 

 私が電伝虫をよく頭に浮かべてしまうのは、モシモシの実という名の由来が、電伝虫に応じる際のもしもしという返事としか考えられないからであるというのはさておき、この特殊な電伝虫の存在をモチーフにして、私は無意識に聞いている会話の内容を再生することができるのではないかという閃きに至り、実際に行うことが出来たのである。

 

 能力を行使すべく、私は心を落ち着かせて耳へと精神を集中させてゆく。

 

 すると、

 

 

~「確かに化け物かもしれねぇが……。相手から殺気をまるで感じねぇってことは、戦闘にはならねぇだろ。あの女の企みなんじゃねぇのかこれは? まぁ、俺は戦闘大歓迎だけどな。最近体に(なま)りを感じてたところだしよ」~

 

Mr.ブシドーの声。

 

 そうなんだろうか? この人達とクロコダイルは無関係なのだろうか?

 

~「あら、奇遇ね。私も同じような事を考えているんだけど。どうやらあなたも剣士みたいだし、良かったら戦ってみる?」~

 

~「あぁ? …………、てめぇはやる気満々みてぇだな。その申し出、受けてやってもいいが、後悔するかもしれねぇぞ? 俺は()けるつもりはねぇ……」~

 

~「ふふっ、あんたこそ後悔しないことね。まあ私は生意気な年下男は嫌いじゃあないわ。うちにも似たような奴がいるしね……」~

 

 最初の聞き慣れない声は紅い髪の綺麗な女性(ひと)のものだろう。Mr.ブシドーのやり取りによれば一触即発の状態みたいではあるが、声のやり取りだけで判断すればただじゃれあっているように聞こえなくもない。

 

~「てめぇにはいつかはっきり言ってやる必要があると思ってたが……、レディに手を出すのはこの俺が許さねぇっ!! こんなにも上品でキレーな……、ところでお名前をまだ伺っておりませんでしたね?」~

 

~「はぁ? くそコック、名前ぐらいさっさと覚えやがれ。俺の名はロロノア……」~

 

~「てめぇに聞いてんじゃねぇよ。この麗しきレディにお聞きしてんだ」~

 

~「確かにキレイなお姉さんですけど、この人すんごいケチですよ」~

 

~「カール……、おだまりっ!!! 私はジョゼフィーヌよ。それにあんた、褒めてくれるのは嬉しいけど……、うざいっ!!!! 女には手を出さないなんて、勝てないことに対する言い訳でしょ」~

 

 サンジさんとMr.ブシドーのやり取りはいいとして、新たな乱入者も現れてあとの方は収拾がつかなくなってきている。

 

~「ロロノアっ!! 今度こそ手を抜かずに真剣勝負をして下さいね。私たちの時には手を抜いたんですからっ!!」~

 

~「あの時は仕方ねぇって何度も言ってんだろうがっ!! くいなが海軍入ってるなんて思っちゃいねぇし、お前ら二人並ぶと調子狂ぅんだよっ!!! そもそも終いにゃあお前ら二人でやりあってたじゃねぇか」~

 

~「またそんなこと言って……、あなたは真剣勝負から逃げたんですよ?」~

 

~「何あんた、この()との勝負に手を抜いたわけ? まったく、生意気なこと言ってるくせに男の風上にも置けない奴ね」~

 

~「たしぎちゃん、ジョゼフィーヌさん、もっと言ってやってよこのバカに」~

 

~「「あなた(あんた)は黙って!!!!」」~

 

~「てめぇら、寄ってたかって俺を責めやがって……。おい、黒女(くろおんな)、会って間もねぇのにいい加減なこと言ってんじゃねぇ。くそコック、てめぇはあとでぶった切ってやるからな」~

 

~「それからメガネ女、てめぇ自分の事を棚に上げて他人の事に手ぇ突っ込んでくんじゃねぇよ。海軍との間に何のけじめも付けずに、のこのこと俺たちについて逃げてきたくせによ」~

 

~「はぁぁぁ? ……ほんとあなたってむかつきますね……。ちょっと、……ビビさんはどう思われますか?」~

 

 

 

 ……え?

 

 たしぎさん、そこで私? そこで私なの?

 

 

 かなりの会話量を能力によって一瞬で脳内知覚して反芻(はんすう)したはいいが、たしぎさんからの質問がこのような話の流れとタイミングで飛び出してきたものであることを知って、私は戸惑いを隠せないでいる。

 

 でも答えなければいけないみたい。4人、8つの瞳からの視線を感じてならない。

 

 さて、リーダーはどうだったであろうか? 私が参考に出来る相手はリーダーぐらいしか居ない。

 

 リーダーと戦ったのは本当に幼い頃で、あれは戦いというより子供の喧嘩だったけれど、リーダーは本気でぶつかって来ていたような気がする。すごい痛かった記憶が残っているし。

 

 だから、

 

「わからないけど……、私には手を抜いて対面した男性(ひと)はいなかったから……」

 

と自分では中立の立場だと考えて答えたのだが、答えた瞬間に自らがどちらに肩入れしてしまったのかを悟ってしまう。

 

 ここでサンジさんは除外するとして、たしぎさんとジョゼフィーヌという女性(ひと)の勝ち誇ったような表情とMr.ブシドーの追い詰められたような表情が目に飛び込んできたのだ。

 

 それに輪を掛けるようにして、

 

「ビビ、たった今おまえはゾロに引導を渡してしまったぁ……、間違いねぇ」

 

って会話には加わってなかったウソップさんが神妙な面持ちで何度も頷きながら、そう言ってくる。

 

 私が引導を渡したくて仕方がないのはクロコダイルなのに……。

 

 こんな失言をしてしまう私って王女としてどうなのかな?

 

 

 

 そういえば、ルフィさんとナミさんの話の行方どうなっていたっけ?

 

 

 っていうよりも……、あの女が見当たらないけど……。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

「あいつらおもろいやっちゃなー。なぁ、ハット?」

 

 俺の左側から麦わらとオレンジ髪女との一方的な“ゴムに指”状態を横切って俺の右側に移っていたオーバンが緑髪剣士に元女海兵、金髪ヘビースモーカー、わが妹、王女を交えた輪を指差しながら俺に同意を求めてくる。

 

 俺はそんなものには興味はないと心底言ってやりたかったが、それを口にするのも癪に障るので止めておく。

 

 

 そんなことよりも麦わらであり、ニコ・ロビンである。

 

 まあ、ニコ・ロビンの方は何とかなる気はする。今にして思えば、ローとクラハドールが言っていた思うところと言うのはこのことだったのだろう。多分に一度起きたことはもう一度起きると奴らは予想していて先回りしたのではないか。

 

 

 ただ、麦わらの方はよく分からない状態だ。奴はナミの迫力に防戦一方の体たらくに見えて仕方ないのだが、果たしてこれにどんな落とし所が待っているのだろうか?

 

 そろそろ麦わら自身が事態を打開しようとしてもいいように思われるがどうなんだろうか?

 

 

 

 そんな問いかけが己の中に芽生え始めた時、周囲の空気が変化し始める。撫でるように吹きつける海風が一瞬切り裂くようなそれへと表情を変える。

 

「……ナミ、……戦うなって言ったり、戦えって言ったり、……これはそんなんじゃねぇんだっ!!!」

 

 麦わらが一際響く声を上げたかと思えば、目も当てられない状況下になっていた麦わらの一味面々と俺たちの間に瞬時に水を打ったような静けさが広がっていく。

 

 そして、

 

「黒いやつ……、お前は肉をくれたよな? 俺は知ってんだ。肉をくれる奴はいい奴だって。だからお前もいい奴なんだろうなって思う。……だけどよ、これはビビの戦いだから、あいつのための戦いだから、おまえがどんなにいい奴だったとしても、お前がビビにとって敵だってんなら、俺はお前と戦わなきゃならねぇ。ビビは俺たちの仲間なんだよ……。だから死ぬとか金とかそんなもん関係ねぇんだっ!!!!」

 

と、俺に体の側面を晒した状態から顔をこちらに向けて、しっかりと俺を見据えながら(ほとばし)る感情を伴った言葉を放ってくる。

 

 その瞳に躊躇という2文字は存在していないし、迷いなど一切見えない。

 

 

 モンキー・D・ルフィ……、そうか、それがお前の行動原理なのか……。

 

 仲間のためならば己が気に入った相手であっても戦うことに容赦はない。それで死ぬことに躊躇はないし、金など論外の話なのか……。

 

 

 手強いな……。

 

 

 さて、どうしたものか……。

 

 

 俺に、俺たちにこいつらと戦う理由はあるのか?

 

 

 ない。そう、即答できる。

 

 

 時間の無駄でしかない。

 

 

 こいつがどういう奴なのかはこの言葉と態度で十二分に理解することが出来た。どんな戦いをするのか小手調べをする必要もない。そんなものは戦わずともわかることであり、現状であれば間違いなく俺が勝つ。だが、

 

 

 こいつはでかくなるだろう。

 

 

 これだけ腹が据わっていて、肝っ玉のでかい奴は末恐ろしい。

 

 

 これからでかい器にたっぷりと色んなものを詰め込んでいきながら進んでいくに違いない。

 

 

 こいつはそれこそ、やりたいようにやるに違いない。

 

 

 

「だったら、来い」

 

 俺が奴にぶつける言葉はそれで十分な筈である。麦わらに1発お見舞いさせて、あとは俺たちへの誤解を解き、この話はそれで終わりだ。

 

 

 俺の言葉に反応して瞬時に正対した麦わらは右腕を振り上げて……。

 

 左腕も振り上げて、ゴムの反動で加速させてメッタ打ちか……。

 

 見聞色の覇気で奴の攻撃を先読みして俺は考えてしまう。1発お見舞いどころじゃないなと。

 

 のっけからパワー全開である。ここはあれだ、武装色の覇気ぐらいは使わせて貰おうか。

 

「ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)ーっ!!!」

 

 覇気を纏った何秒後かには、5mはあったと思われる間合いを一気に詰めてきた伸びる腕が二ケタにのぼる回数分高速で俺の全身に打ち込まれていた。

 

 俺は武装色の覇気で防御しながらも再び考えてみる。

 

 ダメージなど全く感じたりはしないのだが拳を打ちこまれれば、人間下心が湧いて来るものらしい。1発ぐらいはお返ししてやろうかなと。

 

 俺はなんてブレブレなんだろうかと思ってしまうが、そういう感情が芽生えてしまうのだから仕方がない。

 

 

 

 麦わらからの最後の拳が入って俺も前に出ようと前傾姿勢になったとき、それは突然に訪れてきた。

 

 

「時間もねぇでやしょうに、茶番はこのあたりで終わらせやしょうや。……ねぇ、小僧っ子共」

 

 今の今まで全くと言っていいほど絡んではこなかったロッコがその言葉と共に動いたのである。

 

 熊の様な巨体であるのに動きは瞬時という表現では追いつかないほどのスピードであり、奴の言葉を知覚したときには頭上に硬化した拳の気配を感じていたし、脳内に弾けるような重みの衝撃を感じて岩場に崩れ落ちた瞬間には、前方でおぼろげながらも岩場に頭からめり込まされている麦わらの姿を捉える事ができた。

 

 ロッコは熊のくせに、蝶のように舞い蜂のように刺してきたのである。

 

 

 

 

 

「しっしっしっ、なんだそうなのか?」

 

 ロッコの一撃で岩場に打ち立てられた杭のような状態にされたというのにも関わらず麦わらのルフィは、俺たちが北の海(ノースブルー)からやって来た商人で、クロコダイルの黒幕などではなくあの女を逆に利用しようとしていたことを説明してやると、あの女がこの場から消えたことにも納得を見せたのか、ケロリとした表情を見せながら無邪気に笑っている。

 

 勿論、ダメージがないわけではなくて頭部と顔を奴らの船医であるらしい(たぬき)、もとい人間トナカイの治療を受けてはいるが。

 

 こんなにも表情が変わりゆくものなのだろうか? 何とも掴みづらい奴ではある。

 

 

「それにしてもよ、おっさん強ぇなー」

 

 まったくだ。ロッコの攻撃は俺に対してもまるで遠い昔の鍛錬時のように容赦がなかった。故に俺もこうしてピーターの治療を受ける破目になっているではないか。

 

「これで全力出してねぇんだろ? すげぇよな」

 

 麦わらが己の顔にできた傷を指差しながらの次の言葉は聞き捨てに出来ないものであり、それはロッコも同じようである。

 

 

 俺たちは先程までの対峙する状況から打って変わって、この砂混じりの岩場で車座になっている。もちろん相変わらず太陽の光は容赦がないので船からパラソルを取り出して来てはいるのだが。

 

 そんななかでロッコが胡坐を掻きながら、

 

「わっしの攻撃が全力ではなかったと……。この小僧っ子は(まこと)、拳骨のようなことを言いよるわい」

 

と、豪快に笑ってはいるが、俺は末恐ろしくなっている。

 

 まだ覇気も知らないであろうに、どうやってそう見定めているのか? 野生の勘のようなものなのだろうか?

 

 つくづく掴めない奴ではある。

 

 

 何にせよ、今回俺たちの間には戦う理由は存在しなかった。だが、この先も理由は存在しないままであろうか? それとも戦う理由が頭を(もた)げ始めることになるのであろうか? 

 

 こいつの器に色々なものが詰まって、互いに本気になるという瞬間は訪れるのだろうか?

 

 それは今の段階では何とも言えないし、それこそ答えの出ない問いではある。

 

 

 そう、

 

 

今回は俺と麦わらにとってはまだその時ではなかった、のかもしれない……。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 砂漠……。

 

 

 その響きには何ともロマンが溢れているとアラバスタを目前にしながらボスは言っていたもんだ。船尾甲板で煙草を燻らせながら、船室でグラス片手にチェス盤を囲みながら。

 

 その時俺はただやんわりと否定して、無味乾燥なイメージしか湧かねぇとでも言っていたわけだが……。

 

 

 今ならばそのどちらの考えも全力で訂正する必要があると俺は心の底から思っている。

 

 

 

 俺とクラハドールは港町ナノハナの料理屋『spice bean』での慌ただしい邂逅(かいこう)を終えたあとにボスとは別れて、さらには町を外れて砂漠へと足を踏み入れていた。ただ文字通りに足を踏み入れたわけではなく、ラクダに乗ってはいるが。

 

 ナノハナでの、ボスが言うところの頭に“記念すべきではない”という飾りが付いた未知との遭遇はまさしく俺にもそうであった。あの兄弟が俺と同じように人間だと、本人たちから如何にして説かれようとも俺には別の種族にしか到底見えなかった。特に麦わらの方は言葉にすることが非常に難しい。あれでも一船の船長として束ねる存在なのだからこの世は摩訶不思議に満ち溢れているもんだ。

 

 少なくとも俺は奴の下でやっていくのはご免(こうむ)りてぇな……。

 

 奴の下でやっている連中の気苦労は察するのも面倒くせぇ……。

 

 

 だが、もう過ぎたことであり奴らの事はボスたちに任せておけばいいことである。こんな反芻はまっぴらごめんだ。

 

 それでなくとも……、暑いのだ。

 

 

 暑くて仕方がねぇってレベルでな……。

 

 

 砂漠にロマンなんてものを抱いちまってるボスに言ってやりたいことの1つめは、ここの暑さがナノハナとは雲泥の差である事。

 

 2つめは砂漠と言うものにはとんでもなく高低差があるということ。はっきり言ってこれは山と言っても過言ではなく、らくだに乗っていようとも体力は奪われている。

 

 そして3つめは水を取り込んだ先から水が欲しくてたまらなくなるという地獄であるということ。

 

 故に砂漠にはロマンなどありはしねぇし、無味乾燥でもねぇ。地獄と隣り合わせの灼熱道中になってやがるし、砂漠越えを正装で通すのは自殺行為であるため、白いローブを羽織っている。

 

 最近、ボスが正装に拘る理由のひとつにロマンもあるんじゃねぇかと思って来ている。だが、砂漠では一旦ロマンを脇へ置いておかねぇと命に関わってくる。

 

 このような責め苦を味わってまで、ナノハナの西側サンドラ河を目指している理由は、横を同じくラクダに乗って並走するクラハドールの筋書きによるものだ。

 

 

 

 それは、

 

静寂なる森(サイレントフォレスト)のバー『Silent Oak』においてニコ屋はシェリーのカクテルを頼んでいたが、そんなものはメニューには存在していなかったと。

 

 俺たちの船に乗るしかないことを悟っていたニコ屋は回収した10億ベリーを何の問題もなくアラバスタまで移送したことにするためにあの場で秘密の合図を送っており、それがあの注文であったと。

 

 そうやってニコ屋は部下に合図を送って自身の船を自身が乗らずともアラバスタまで10億ベリーと共に移送させたと。

 

 あとはそれを再びこのアラバスタで受けとるのみ。そこで俺たちの手を離れる必要がある。なぜなら10億ベリーのクロコダイルへの受け渡し自体は自身で行う必要があるからだと。

 

 そうなると、ニコ屋はどこかで隙を狙って逃亡を図り、サンドラ河に停泊している10億ベリーを回収しに来るだろうと。

 

 

 そこを俺たちは待ち受けてニコ屋と10億ベリーにご対面し、そのままクロコダイルが座すと思われるレインベースへ先行しようというものである。

 

 まあ俺はニコ屋に関しては別の考えも持ってはいるのだが……。

 

 

 ラクダに跨り揺られながらもクラハドールはメガネを上げる独特の仕草を見せている。ただ、こいつもこの()だるような暑さは堪えていてそれどころではないのか、若干普段よりもその回数は少なく収まってはいる。

 

 

 だがこいつは参謀にして2つ名は脚本家である。この意識を朦朧(もうろう)とさせるような暑さの中でも鋭利な想像を巡らしては先々を読んでいるんじゃねぇだろうか。

 

 俺はと言えば、今は副総帥という立場である。この立場であるならば、いやこの立場でなくともだが考えなければならないことがあり、こいつと意見交換する必要がある。そしてこの空間と時間はそれにはもってこいの状況だ。天候それひとつを除けばの話ではあるが……。

 

 

「おまえ、どこまで掴んでる?」

 

 (おもむろ)な口調で俺はこの重要な話の口火を切る。

 

 俺の問いかけに対しクラハドールは視線だけを寄越してきて、

 

「何の話だ?」

 

と邪剣な様子ではあるが、

 

「しらばっくれんじゃねぇよ。ボスについてだ。お前が静寂なる森(サイレントフォレスト)でボスに初対面(はつたいめん)したときはまだ覇気は覚醒しちゃいねぇ。かなりの部分を想像できたんじゃねぇのか?」

 

と続けて本題に入っていく。

 

 それに対してクラハドールはらくだの鞍に備え付けられている水筒を掴んで少量を口に含んだあとに、顔をこちらへと向けて、

 

「ああ、貴様の言う通りかなりの部分をな。だが、本人が事実として認識している事と真実が違うこともある」

 

と答えてくる。

 

 そういう可能性もあるってわけか。脚本家が具体的にどういうことについてそう思ってるのかは察しが付かねぇが。

 

「俺は副総帥という立場を受けた。受けた以上はネルソン商会のリスク管理が最重要な懸案事項だ。古今東西、大小を問わずどんな組織であれ順風満帆に事を運べた組織なんざ存在しねぇんだ。これに関しちゃ例外は存在しねぇ。そうだろ?」

 

 そこで俺は言葉を一旦切ってクラハドールの頷く同意を得てから再び、

 

「当然俺たちにも必ず起こり得ること。ボスについての話をするなんてこんな場所でなけりゃできねぇんだしな」

 

と、言葉を続ける。

 

 こんな話は船の中などではできないし、本人に訊くなんてのは勿論論外である。

 

 道中はそろそろまた、下りの尾根から登りの尾根へと傾斜が切り替わりそうである。一体今までいくつの尾根にぶち当たったのか、多分両手では足りない数に近いはずである。

 

 そんなことを思い浮かべながらも、

 

「そうだな。だが、貴様に今俺が想像でき得ることを全て話すと言うのはリスクが高ぇってことを理解しておく必要があるな」

 

と、クラハドールは俺に返してくる。

 

「どういうことだ?」

 

 今度は俺が奴に訊き返す番である。

 

「貴様はあの喧しい会計士を舐めすぎだ。あの女は貴様のほんの些細な変化も見逃さねぇぞ」

 

 クラハドールが言いたいことは分かる。あの人は俺に対して執着しすぎる嫌いがあることも分かっている。ただこいつが言っていることは裏を返せば、俺が顔に出してしまう程のやべぇ内容ってことなのか?

 

 だが知っておく必要がある。

 

「話せ」

 

 覚悟を決めてクラハドールを促すと、奴は考え込むようにしてしばらく黙り込むので、俺もその間にらくだの鞍に備えつけの水筒へと手を伸ばす。

 

 沈黙の時間は1分程であっただろうか、ようやく、

 

「……貴様、アレムケル・ロッコをどれぐらい知ってる?」

 

と、クラハドールは沈黙を破って俺に問うてきた。

 

 ここでロッコさんが出てくるのは想定外であったので、

 

「ボスやジョゼフィーヌさんほどは知らねぇよ。ロッコさんもネルソン商会創設当初からいる。俺が入ったのは創設から4年後だからな。過去についても聞いたことはねぇし、ロッコさんはそもそもそういことは話さねぇ」

 

と、答えるしかない。

 

 ロッコさんがどうかしたのだろうか? なぜここでロッコさんが出てくるんだ。

 

 俺には皆目見当も付かないことであり、思考が形を成していかない中、

 

「俺の能力で想像できない相手はいねぇんだ。相手が強力な覇気使いであろうと何かしら想像できる筈なんだが、奴に関しては何ひとつとして想像を巡らすことができねぇ。化け物どころじゃねぇぞ。奴は明らかに力を抑えてる。全力なんて一切出してやしねぇんだ」

 

と、クラハドールが言葉を重ねて、さらには、

 

「それに、旧ベルガー商会だ。(ノース)の一件じゃ、旧ベルガー商会は新世界とへと珀鉛(はくえん)を捌いてたって話だな?」

 

と、別方向の話を持ち出してくる。

 

 ロッコさんの強さが実は尋常ならねぇレベルにあるのか? だがそれと今更ベルガー商会を出して何になるんってんだ? どうも話が見えてこねぇ。

 

 俺が応じてこないのを見て取ったクラハドールは、

 

「だがその話には多分続きがある……。旧ベルガー商会は新世界を横断して“西の海(ウエストブルー)にも珀鉛(はくえん)を運び込んでいた可能性があったんじゃねぇか。その場合、新世界よりもそっちの方が本命だ。さらに、ここへ“北の海(ノースブルー)の闇が関係しているかもしれねぇ。全ての鍵は北じゃなくて西なんじゃねぇかってな」

 

と、とんでもねぇ話を広げてくる。

 

 これはまだまだ奴の推測に過ぎねぇんだろう。何より飛躍しすぎている。

 

 だが、面白い仮説ではある……。

 

 

 俺も(ようや)くにして脳内の回転速度が上がって来るのを感じる。

 

 ロッコさんの謎、旧ベルガー商会、北の海(ノースブルー)の闇、そして西の海(ウエストブルー)……。

 

 点と線が徐々に結ばれていき、形あるものとして全体像を作り上げていき……、

 

 

……………。

 

 

 俺の頭の中に生み出されつつある答えは、ここが砂漠のど真ん中であることを、()だるような暑さの真っ只中であることを一瞬忘れさせるほどの衝撃をもたらしてくる。

 

「……おまえ、もしかしてさらにとんでもねぇ仮説を立ててんじゃねぇだろうな?」

 

 俺は厭でもクラハドールに、大胆極まりない脚本家に、こう訊ねざるを得ない。

 

 

 

 そして返ってきた言葉、奴の仮説は俺が導き出した答えのさらに上をいっており……、

 

 

 俺たちを根底から揺さぶりかねないものであった。言葉でなど表すことが出来ない程の衝撃を伴い、事の重大さに愕然とし、

 

 だがそれでも、俺の頭はしっかりと回転を続け、

 

「おまえ、もう気付いてんだろ? ヒナさんの存在。これは早急に接触を図る必要がある。ボスにもジョゼフィーヌさんにも感付かれずに」

 

と、言葉を紡ぎだして一拍置き、ロッコさんにも気付かれずにと心の中で呟いて、さらには、

 

「おまえの言う通りだな。俺たちは総合賞金額(トータルバウンティ)6億4000万ベリーの闇商人とはいえ、偉大なる航路(グランドライン)では駆け出しのルーキーに過ぎねぇ。今このタイミングでネルソン家の人間には明かせねぇ。俺たちが空中分解しちまう可能性もある。できるだけ早く足元を固める必要があるな」

 

と、クラハドールに同意を求めるようにして言葉を投げ掛ける。

 

「ああ、当然だ。海軍に潜入している奴とコンタクトを取るのは貴様の仕事だぞ」

 

 クラハドールはそう答えると、真剣な眼差しでこちらを向き、

 

「まだその時じゃねぇんだ。これをどのタイミングでボスに伝えるかは正直何とも言えねぇ。あくまで仮説にすぎねぇしな。だが、色々と辻褄が合ってくる仮説でもある限りは裏を取る必要がある。このヤマは単純な終わり方はしねぇだろう。それこそ全てが1点に収束して畳みかけるように噴き上がってくる可能性もある」

 

と、考えられることを述べてくる。

 

 こいつの言う通りだ。どうなるかはまさに神のみぞ知るじゃねぇだろうか。

 

 この国にはジョーカーがいる可能性が高いってことで気を張っていたが、それを一瞬で脇へ追いやるような話である。

 

 誰にも感付かれずにヒナさんと接触が可能であろうか? いや出来るかどうかではない、これはやらねばならない。

 

 そして仮説が正しかった場合どうなる? 想像も付かない。

 

 

 砂漠……。

 

 先程までは所々サボテンらしきものが生えていることもあったし、岩が顔を覗かせるようにして(そび)えていることもあった。

 

 だが、今はただ砂が広がっているだけだ。

 

 まるで死の砂漠じゃねぇか……。

 

 

 

「……そろそろ合流だな。……いたぞ」

 

 砂で覆われた尾根を登り切り、いくらか前方を往くクラハドールが愛用する懐中時計を取り出して何やら確認しながらそう呟いている。

 

 

 おい、合流と言ったか、てめぇ……。

 

 クラハドールに追いつき、下りの斜面を眺めてみればそこには、バナナを口の端と尾に載せたワニに悠々と乗っているニコ屋がこちらを見上げて合図を送っていた。

 

「てめぇがニコ屋を唆したのか? まさか全部てめぇの筋書きか?」

 

 俺の喧嘩腰の物言いに対して、クラハドールはメガネを例の動作で上げたあとに不敵な笑みを浮かべて、

 

「それぞれに利がある筋書きだ。貴様と重大な話し合いを持てた。こんな話こんな場所じゃねぇとできねぇだろ。それにこれはボスに対しての偽装(カムフラージュ)にもなる。俺たちは再び逃げ出そうとして今度は成功したニコ・ロビンを先回りして捕捉したってな」

 

と言いやがった。

 

 まったく油断も隙もねぇ奴ではあるが……、頼りになる奴でもあると思わないでもない……。

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

ニコ屋と合流し、ニコ屋の口から出てきた言葉、これがクラハドールの真の目的だったのかもしれない。

 

 なぜならニコ屋も“西の海(ウエストブルー)出身だからだ。

 

「私が偉大なる航路(グランドライン)に入ったのは5年前、入る前に私はあの海でその人を見かけたわ」

 

 その人とはロッコさんの事である。

 

 5年前といえば、俺たちはまだ“北の海(ノースブルー)”で交易に大わらわだった時である。俺もネルソン商会にいたし船に乗っていた。そんな時にロッコさんを“西の海(ウエストブルー)”で見かけた?

 

 ロッコさんへの謎は深まるばかりではあるが、

 

 

 これは取っ掛かりになるし、何よりも鍵は西にあることが裏づけられつつある。

 

 

 

 

 さらに、

 

 

砂漠を超えてサンドラ河へと抜けたところに、小粋なハット帽を被った巨大亀が背後に小舟を曳いて居座っていた。

 

「あれは貴様の知り合いなんじゃねぇのか?」

 

 と、クラハドールに言われなくとも俺は気付いていたが、

 

「ああ、かなり古いがな……」

 

と答えてやり、その亀が居座る岸辺に座る相手を見据えてみる。

 

 

 ハット帽に隠れている白髪、ゴーグル、マスクには昔の面影がありありと残っている。

 

 グラディウス……。

 

 ほんとにこの国に入っていやがった、ファミリーの連中が……。

 

 奴は一瞬驚いたようにゴーグルの中の眉を吊り上げたが、すぐに表情を消して、

 

珀鉛(はくえん)病だったガキが随分と長生きできたもんだな。若は探してるぜ、お前のことを。……今もな」

 

と言葉を投げ掛けてくる。

 

 

 俺たちの先行きはまるで不透明だ。いや闇の中と言っていい。

 

 だが、だからこそアラバスタのヤマは首尾よく、そしてさっさと終わらせる必要がある。

 

 

 俺はこんなところで立ち止まってるわけにはいかねぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきましてありがとうございます。

ロッコの件、これがありましたので敢えて彼はあまり描いてきませんでした。
これを出すタイミングをずっと計っておりましたが、この段階で少し出しました。

これは最終段階に掛かってくる問題です。

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