ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

42 / 99
いつも読んで頂きましてありがとうございます。

今回は15500字程。

よろしければどうぞ!!


第40話 ターリー

偉大なる航路(グランドライン)” キューカ島

 

風光明媚……。

 

この形容が例外なくこの島にも当てはまる。昼間の太陽は燦々と降り注ぐが、そこにじめっとした湿度は存在せず心地良いぐらいに乾いており、柔らかな風が頬を撫でてゆく。さすがはキューカ島、身も心も癒そうとする要素がふんだんに詰まっている場所である。

 

俺たちは“天空の鏡(シエロ・エスペッホ)”を後にして再びの大暗礁を抜け、キューカ島に錨を入れた。とはいえ、島の名前通りに休暇をするつもりは毛頭ない。俺たちがここへ来た目的は王下四商海(おうかししょうかい)入りを決めるために政府からの伝書使(クーリエ)に会うことであり、ダンスパウダー製造工場に向かうことであり、アラバスタの王女を迎えることである。骨休めは終わったのだ。

 

だがどうだ。暢気にもサンダルを履いて、浮き輪を担いで行き交う人々の群れ、港近くでは歓迎の印だとして首に掛けられた沢山の花輪、カラフルな佇まいをしていたアイスクリーム屋台で買った3段重ねに齧りついているベポとカールの姿。

 

……って、おい……。

 

ここには休暇感しか存在してはいない。

 

俺たちのこの正装姿からして完全に浮いているような光景である。

 

「場違い極まりねぇな、俺たちは……」

 

横を歩くローが俺の心の中を代弁するようにして言葉を放ってくる。そんなローもベポからアイスを勧められて仕方なくなのか、進んでなのか分からないが少なくともコバルトブルーのそれを拒否はしていない。

 

「アイスを3段重ねるにはだな……」

 

背後から聞こえてくるのはカールに対してクラハドールがアイスの講釈を垂れている有り様だ。執事として……。

 

おいおい、大丈夫か……、こんな気の抜けたような空気感で……。と、心配になってくるが、やるときはやるだろう、こいつらもと思わないでもない。

 

 

俺たちが歩を進める街路の両側は建物が密集しており、オープンカフェと上層にバルコニーを備えている建物が延々と続いているように見て取れる。バルコニーでは陽気な歓談の声が飛び交っていたり、鼻孔をくすぐって止まない旨そうな香りが漂っていたりと、賑やかなことこの上ない。

 

迫り出しているバルコニーの隙間からさらに上方を見上げれば、この島のシンボルのように聳え立つ巨大な木を眺めることが出来る。キューカ島を視認した時から見えているあのパラソルのような木だ。ここからは角度上見えないがパラソルの屋根のような役割を果たしている巨大な葉の上にも建物が存在している筈だ。そろそろオーバンはそこに辿り着いていることだろう。

 

今回のヤマも何が起こるかは想定を超えてくる可能性がある。であるならば、狙撃手のポジションはこの島のてっぺんであろうと、そういうわけだ。あのパラソルの上ならばこの島の全景を見渡すことが出来るであろうし、あらゆる手を打つことが出来るであろう。ただし、あの動くパラソルは少し邪魔になるかもしれないが……。

 

この島に上陸してみて気付いたのが、上空を縦横無尽に張り巡らされているフラッグガーランドの存在だ。それは唯の飾りではなく、なんと移動手段として機能しているではないか。三角フラッグが付けられているのは柔い紐ではなくワイヤーであり、逆さまにしたパラソルが掛けられていて移動しているのだ。パラソルの上には人が乗っていたり、荷が載っていたり様々であるが、とにかくそれは移動手段になっていた。

 

今も狭い視界の中ながら1本のフラッグガーランドを垣間見ることが出来、そこでは人を乗せたパラソルが上へと動いている。パラソルツリーへと向かうものだろう。

 

ニコ・ロビンの証言によればダンスパウダー製造工場はあの巨大な傘のような葉の真下、つまりは巨大樹の内部にあるらしい。レインベースでの地下アジトといい、クロコダイルという男は隠すセンスはあるらしい。誰もあんな場所でダンスパウダーを作っているなどとは想像だにしないはずだ。故に訪れようとする者は俺たちぐらいしか存在しないだろうが、まずは遠巻きに監視をしておくに越したことはない。

 

それにしても、この喧騒は何とかならないものだろうか? この島は王下四商海(おうかししょうかい)だったバロックワークスの息が掛かっていた。つまりはクロコダイルの支配下にあったということだ。だが奴はもう海軍によって連行されている。この島は一種の空白地帯となっているはずなのだが、そんな荒んだ様子は微塵も感じられはしない。もう既に後釜に収まっている奴でもいるのだろうか? そいつがこのようないつもと変わらぬと見える喧騒を演出して見せているのだろうか?

 

「ここにも貼ってありますよ」

 

アイスを重ねてゆく際のコツをしっかりと吸収しつつあるカールの声が背後から聞こえ、指差す方向に視線を送ってみれば立て看板にでかでかと貼られているポスター。そこに描かれている内容は札勘大会である。捻りもセンスもへったくれもない大会名であるが、ベリー札を如何に美しく正確に数えることが出来るかという大会であるらしい。ここで問題なのは大会のスペシャルゲストとしてアラバスタの王女が顔写真入りで紹介されていることであった。

 

ヒナが言っていた。王女ビビはどこか抜けているところがあると……。これでは抜けているどころではない。何をどうすればキューカ島の札勘大会にスペシャルゲストとしてポスターに紹介されることとなるのか。紹介文にネフェルタリの文字がなく、ただ単にビビとだけ記載されているのだけが百歩譲って救いではあるが、本当に救いになっているかどうかは疑わしい限りだ。

 

まあこれで探す手間は省けたわけであるが、案の定ジョゼフィーヌが嬉々として迎えに行って来ると言い出して行ってしまっている。あいつが迎えに行くのはついでであり、札勘大会で優勝することが本命であることは考えるまでもないことだ。

 

「つくづく、あんたの妹のためにあるような大会だな」

 

貼り紙を眺めながらのローからの言葉には若干の呆れが含まれているように思われる。

 

「あの人なら優勝するよ。凪の時は暑い暑いってベリーを綺麗に扇にして仰いでた」

 

ベポも頷きを見せている。こいつもジョゼフィーヌには恐怖心しか持ち合わせていないだろうが、我が妹のベリーを使った能力には一目置いているようだ。

 

「札勘は奥深い……。あの女の屈辱に歪む顔も見てみたいもんだがな」

 

我が執事が妹に対して何の恨みがあるのか知らないが、奴はシニカルな笑みを浮かべている。というよりも、こいつは札勘にも精通しているのか……。クラハドール恐るべしである。

 

ジョゼフィーヌが優勝するかどうかは興味深いところだが、こいつらがビビ王女に関して何も触れないということは既にそういう奴だという判断を下しているのかもしれない。まだ加わってもいないのだが、ビビ王女よ、お前の前途は多難かもしれないな……。

 

 

心の中で新しく加入する予定のメンバーについて愁いながらも俺たちは歩を進めていく。向かう先はこの島で滞在の拠点となるであろう宿だ。そこはキューカ島きってのホテルであり、落ち着いた上質な空間が広がっていると聞く。楽しみなことだ。

 

と、そこへ視界に入って来る人だかり。一軒のオープンカフェをぐるりと取り囲むようにして群衆が存在している。

 

「何の騒ぎだろうな?」

 

あまり見掛けることがない光景に対して俺も自然と口を開く。

 

集まっている人々は皆が皆、色紙を片手にしている。サインでもねだろうとしているのか。しかも老若男女が集まっているではないか。こういう騒ぎは大抵若い女性が集まってきて起こるものだろうが、でないとするならばこの群衆の中心にいる奴が一体どんな奴なのか興味が湧いてくるというものだが……。

 

「有名なオペラ歌手が公演をやるそうですよ。海を流離(さすら)いながら仕事をしているようで中々お目に掛かれないみたいです。ジョゼフィーヌ会計士が言ってました。悩ましい問題だって、うんうん唸ってましたけど、お金は逃げるけど人は逃げないからって言ってました」

 

カールの言動はジョゼフィーヌからの受け売りのようだが、こいつも中々情報通になってきたじゃないか。ただ、ジョゼフィーヌの言う論理は意味が解らないものであるが。要はジョゼフィーヌはどこまで行ってもジョゼフィーヌだということだろうか……。

 

人だかりの隙間から垣間見えるオペラ歌手とやらは遠目から見ても実に端正な顔つきをしている。確かにこれだけの人が集まってきても無理はなさそうである。俺たちにとっては興味のない話ではあるが……。あるとすれば、オペラの公演が一体どれぐらいの利を生みだすのかっていうことぐらいだろうか。

 

一瞥をくれただけで興味をなくしたらしいローが先を進んでゆく。その後にベポが付いていく。

 

「うわ~、ベポさん、ベポさん。このアイス、コーンの中までたっぷり入ってる~!!」

 

カールの言葉には緊張感の欠片もないが、この状況では無理もないか。気付けばどいつもこいつもコーンの先までアイスを旨そうに食っている。

 

 

まったく、とんでもないことだ……。

 

 

 

 

 

吹き抜けのロビーには自然光が降り注いでいる。その穏やかな光は空間に絶妙な陰影をもたらしており、グリーンとブラウンで統一された内装に彩りを与えていた。話し声でさえ心地よいリズムのように聞こえてくる静謐(せいひつ)な空間。重厚なフロントデスクで朗らかな笑顔を見せつつ対応してきたホテルのフロントウーマンから最後に飛び出してきた言葉は予想していたものであった。

 

「ネルソン様、世界政府より伝言を預かっております。空中会議室にて伝書使(クーリエ)の方がお待ちです」

 

こんな展開は想定の範囲内である。寧ろ、想定の範囲内過ぎて面白味に欠けるというものだ。だがこの世には想定の範囲外のことが往々にして起こり得る。

 

「これはこれは……、ネルソン・ハット? お目にかかれて光栄ターリー!!」

 

開口一番がこれでは第一印象が誰だこいつ以上になることはない。ワインレッドのスーツに漆黒のドレスシャツを中に着込み、同色のドレスハットで豊かな銀髪を覆っている姿は中々の容姿であるが、飛び出してきた言葉がそれを台無しにしてしまっている。

 

「私はタリ・デ・ヴァスコと申しまターリ。この海を渡りながら歌い手をやっておりまターリて、どうぞお見知りおきを……、ターリー!!!」

 

何だこいつ、何なんだこいつは……。初めて出会う人種に対して俺の思考は全く以て付いていくことが出来ないでいる。しかもこいつが最後に見せた挙動。恭しくもハット帽を取って深々とお辞儀をした後に見せた敬礼。否、これを敬礼と取っていいものかどうか判断を下せそうもない。奴は指をしっかりと合わせながら右手を上げて顔横に持ってくるかと思いきや……顎下に持ってきたではないか。

 

何だそのポーズは……。手の角度が違うだろう。手を顎の下に寄せてくるな。それでは意味が違ってくるだろうがと、喉まで出かかっているのだが、言葉が出てきそうもない。

 

「お噂はタリダリ……。よろしければ私の歌を鑑賞頂ければ光栄、ターリー!!!!」

 

そして再び動き出す奴の右手はまたまた顎の下。だから……。

 

ローもクラハドールも当然ベポもあっけに取られているのだろう。それともあれか、無言を貫こうっていう算段なのか。そして面倒臭そうな奴の相手は俺に押し付けようっていう算段なのか? 俺としてもこんなやつに対しては無言を貫きたいところだが、無言を貫いたところで奴が黙ってくれるわけでもないのが厄介なところである。

 

「わーお! オペラ歌手のタリ・デ・ヴァスコさんだ~! いいですね~、それ。ターリー! ターリー!」

 

カールよ、俺は初めてお前を見習いたいと思ったよ。何だろうなお前のそのどこへ行っても通用しそうな能力は……。なんて表現すればいいのか分からないがお前のそのぐいぐい行くところは心底羨ましいよ。

 

二人して静謐(せいひつ)な空間を台無しにしているのを眺めながらそんなことを俺は思っていた。そんな変な奴は漆黒の傘片手に去って行った。ターリーと言い残して……。だが、歌は聴きに行かなければならない状況となってしまったが……。

 

 

否、思考を切り替えなくてはならない。これから俺たちにとっての大事な時間が始まるのだから。相手は世界政府の伝書使(クーリエ)。俺たちの今後がこれからの時間に懸っているのだから。

 

 

この出会いが必然であるのかどうかは後々分かることかもしれないが今はターリー、などと言っている場合ではないのだ。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

私たちの航海はここまで順調だった。ソリティ(アイランド)に出入りする時の大暗礁も問題はなかったし、キューカ島を視認するまでの航路も順調そのもの。この島は賞金首に対しても寛容なようで出港所に停泊することはわけないことであった。ただそれでも、念には念を入れてロッコは船に残ると言い出したが……。船に残ろうと言い出した理由が安全のためなのかそれとも他に別の理由があってのことなのかは何とも言えない。今になってまで気にしてこなかったのが不思議なくらいであるが、ロッコはやはり謎が多い。とはいえ、私たちにはそれを追求する余裕が存在していない。否、問題が表に出てきていなだけだからだろうか? 取り敢えずは蓋をして騙し騙しに先へ先へと進んでいるというのが今の正しい現状なのかもしれない。それでもいい、今はとにかく……、

 

 

ベリーを数えるのが先なのだから……。

 

腕が鳴るわー、札勘大会だなんて、まるで私のためにあるような大会。今朝方も船内で管理しているベリーを数え上げてきたばかりである。そう、私にとってベリーを数え上げるということは日課そのもの。否、人生のルーティンと言っても過言ではないだろう。

 

勿論、今回の目的も忘れてはいない。上陸して早々に目に付いた札勘大会の広告にはご丁寧にもビビ王女の姿が顔写真入りで載せられていたからだ。アラバスタの王女が札勘大会のスペシャルゲストとは呆れを通り越して感嘆すら湧いてくるが、仕事がスムーズに進むという点においては願ったり叶ったりである。危機管理という意味においてはローが言った通り有り得ないものであるが……。まあいいではないか。私が優勝してしまえばいいだけの話だ。そうすれば注目は必然と私に向いてくるだろう。

 

 

キューカ島のメイン広場は多くの人々が集まってきているようだ。札勘大会というイベントがこれだけの集客力を持っているだなんて意外である。それともスペシャルゲストのお陰だろうか。

 

広場は人でごった返すも見通しは良くて、外縁の建物の向こうには巨大パラソル樹とそれを取り囲むように張り巡らされたフラッグガーランドを視界に収めることが出来る。

 

あのパラソルによる移動手段は面白そう。月歩(ゲッポウ)とはまた違った浮遊感を味わえるのではないだろうか。あれに乗るのはひとまずはお預けであるが。まずは早速ご対面といかなくちゃね……。

 

 

 

真っ白なテントで仕切られた一画。ビビ御一行様という立て札が立て掛けられていた。控室ということだろう。

 

「入るわよ」

 

の一言と共に躊躇いなく入ってみれば、椅子に座って固まっているビビ王女と教え諭すようにして話をしているいつかの鳥男、そして足を投げ出して寛ぐ様子の黄色いカルガモが視界に飛び込んできた。クエーという鳴き声と共に……。

 

「あなたは……、ジョゼフィーヌさん……」

 

王女が私に顔を向けて寄越した第一声はそれだった。

 

「あら、私の名前覚えていてくれたのね、光栄だわ。ビビ王女、ご機嫌いかが?」

 

対する私の返事は初めて彼女に出会った時の言葉と同じもの。

 

「私たちに加わりたいっていう話だけど、詳しいところは船に戻ってから話すとして……。ひとまず私が迎えに来たってわけよ。こんな探しやすい場所もないもんね。探す手間が省けて良かったけど、これはどうかと思うわ一国の王女としては……、危機感足りなさ過ぎよ」

 

早速にも捲し立てるように言葉を並べていきながら、空いている椅子を見つけだし勝手にテーブルの輪に加わってみる。

 

「……だって、困ってるって言うから……。大々的なイベントを催したいけど、参加見込みが驚くほど少ないって嘆いてたから、私でよければ何かの手助けになるかなと思って……」

 

ビビ王女曰く、要は担ぎ出されたということらしい。やっぱり札勘大会というイベント自体にはあまり需要はなかったらしい。そもそもになぜ札勘大会を選択したのかということ自体が問題というところは今は置いておくとして、

 

「呆れた。とんだお人好しね。あんたって()は……」

 

「私も忠告はしたのです。国を出た以上目立つ行動は控えるべきだと……」

 

「ちょっと、ペル! あなたまで……。最後にはあなただって首を縦に振ってたじゃない」

 

「クエッ、クエッ、クエーッ!!」

 

二人と1羽の様子を俯瞰で眺めるように見ていれば、中々いじめ甲斐のある奴らだということが分かってきて内心ほくそ笑みたくなってくる。

 

うん、面白そうね……。

 

「はいはい、もうスペシャルゲストになってしまってるんだから、済んだことは仕方がないわ。ちなみになんだけど、ネフェルタリの名を使わなかったのはどっちの考えなの?」

 

「私が寸前で止めました。さすがに不味いと思いまして」

 

「うん正解。良い判断だったわ。まあだからと言って、慰めになるかどうかは分かんないけどね。で、あんたも参加はするのよね? こうやってベリー札が散乱してるんだから……」

 

テーブル上は真新しいベリー札が散乱している。しめて100万ベリーといったところか。王女は私の質問に対し、口を開かずに頷いただけであり、とてもじゃないが自信があるようには見受けられない。となると、今の今まで二人と一羽で必死になって練習をしていたのかもしれない。スペシャルゲストという手前、全く出来ないということになればとんだ赤っ恥である。

 

「いーい? よく見てなさいよ」

 

私の手元に注目させるように言葉を放ちながら、散乱してるベリー札を纏めて束を作り、片手でサラッと扇にしてみせると、彼女たちの目は驚いたように見開かれており、口はあんぐりとなってしまっている。私にとってはこの動作は何でもないことなのであるが、二人と一羽にとっては驚愕ものであるらしい。

 

「ビビ様、私には何が何だかさっぱり見えませんでした」

 

「ペル、私も(おんな)じよ。……うーん、こんなの出来るかな~。ナミさんなら出来そうだけど」

 

「クエーッ、クエーッ……? クエッ?」

 

一羽の方が自分の右手、否右羽と呼ぶべきだろうかを動かしながら、私の動作を真似てみようとしているがどうやらよく分かってないらしい。ビビ王女が最後に口にしたのはあの麦わらの所にいた小娘のことだろう。確かにあの小娘なら札勘は朝飯前なのかもしれない。随分と私と同じ匂いがする()であったから。でも……、

 

「……私の前であの小娘の話は絶対に!!!!! ……NGよっ!!!!!!」

 

「……今やって見せたのは横読みの方よ。この大会も部門が二つに分かれているように札勘は2種類あるの。扇形に広げて数える横読みともうひとつはこうやって縦に持って数える縦読みよ。あんたが今すぐやろうっていうのならこっちの方がいいかもね」

 

今度は縦に札束を持ち、左手で折り曲げつつ右手を使って高速で数え上げていくと再び口をあんぐりと開けている面々。私が凄んで見せた際の恐怖心を表情に残しながらもそんな様子を見せられてしまうと笑いが込み上げそうになってくるというものだ。

 

どっちにしても練習は必要そうね。

 

「このパチンと弾いていく音が快感なの。分かる? 縦読みのポイントはこのスピードも大事だけど、パチンという音色の強さとそれによる正確性。もうこうなったらギリギリまで練習するしかないわね」

 

私たちの札勘レッスンは短いながらも幕を開けた。

 

 

 

 

 

会場はビビ王女の登場で熱気に包まれている。可愛いは正義だとでも言うようなこの雰囲気は癪に障ってたまらないが今はそういう時でもない。彼女もまた小娘であったことに思いを馳せるのはこの大会で優勝してからにしよう。今は指先に神経を集中させておかないと。全身の神経を指先に集中させ呼吸を整えていく。覚醒した見聞色はこんなところでも役に立つだろうか? 優勝すれば数え上げた分のベリー札は持ち帰ってよいということらしい。トーナメント方式で進んで行くことを考えれば決勝までいくと一体幾らのベリーを掴むことが出来るのか。何とも夢がある話ではないか。否、今はそんな邪念は排除しておかなければならない。

 

集中しなさい……。

 

「調子はどうかしら? ネルソン商会の会計士さん」

 

自分に対して活を入れ直していたところへ私を呼ぶ聞き慣れぬ声が耳に入ってくる。思わず頭を左右に動かしながら声の主を探してみれば、紫色の艶やかなショートヘアーを揺らしながらこちらへとウインクして見せる女が目に留まった。くだけた白シャツの胸の谷間は男を悩殺しそうな深さであり、黒のホットパンツの下に伸びる真っ白な美脚は実に健康そうである。いけすかない女だ。脳内をフル回転させて過去を遡ってみても会った記憶が引き出されることはない。

 

誰だろう、この小娘は……。

 

「いい反応……。必死に記憶を絞りだそうとしてるんだけど、出てこないってやつ。そりゃ当然よ。私たちは今日初めて会ったんだから……。私の名はカリーナ、どうぞよろしく」

 

やっぱり聞かない名だわ。ただこの容姿を見ると、あの小娘を想起せざるを得ない。まったく忌々しい小娘たちめ……。

 

「どうも、私はネルソン・ジョゼフィーヌ。御存知でしょうけど、ネルソン商会で会計士をやっているわ」

 

相手が癪に障る小娘であろうとも何とか努めて丁寧な口調を心掛けてみる。勿論微笑も忘れずに添えて……。

 

「結構広まってるよ、あなたの名前。ネルソン商会には相当にキレる女会計士がいるって。それに手配書にも載ってるし、“花の舞娘(まいこ)”、額は確か1億ベリーだよね」

 

朗らかに笑顔を浮かべながら言葉を放つ彼女の姿は同性からしても何とも可愛らしい。実に貢ぎたくなってくるような可愛さである。……って私はおっさんか……。

 

「あなたも参加するの、札勘大会?」

 

小娘に見惚れるおっさんの気持ちに思いを馳せている場合などではないと自分に活を入れて、会話を続けることを自分に課してみれば、

 

「勿論! 私もベリーには目がないもの……、札勘なんてまるで私のためにあるような大会じゃない」

 

そう歌うように言葉を放ち、しなやかな手首の動作でベリー札を取り出せば、見る間にそれは扇形を形作り、ベリー扇で仰いで見せた。軽いウインクを添えて……。

 

「……ふぅ、あんた見てるとあの忌々しい小娘を思い出してしまうわ……」

 

「ねぇ、もしかしてその()ってオレンジの髪だったりしない?」

 

「……ええ、そうだけど……」

 

「やっぱりそうだ。ナミに会ったのね。どう、元気だった?」

 

「あんたと同じぐらい健康そうな胸と足とお金好きを誇ってたわ」

 

「そっかー、…………良かった……」

 

彼女の最後の言葉には若干の愁いを帯びていたように思われたが、直ぐにそんな表情は掻き消えてしまい、キリッとした表情で眼に力を込めながらこちらを見据えてくる。

 

「私が優勝するわ、あなたに勝って……。ネルソン・ジョゼフィーヌに勝つなんて誉れだもん………………………」

 

そこで一旦言葉を切った彼女はそこから薄い笑みを浮かべて、一気に小狡そうな表情となり、

 

「って言いたいところだけど……。そんな場合じゃないかもね」

 

さらに言葉を紡いだ彼女の視線が気になる。向けられたのは私ではなく私のその先、それを辿って私も背後を振り返ってみれば、そこに見えるのは会場の特設ブースに控えているビビ王女たちスペシャルゲストとこの大会の運営者。

 

「ではここで、皆さまには盛大に驚いて頂きましょう。札勘大会サプライズゲストの登場でーすっ!!!!!」

 

運営者の司会進行から飛び出してきた聞き捨てならない言葉……。サプライズゲストとは一体?

 

 

一拍置いて放たれた言葉、

 

「世界政府直下海軍本部ガープ中将でございまーすっ!!!!!」

 

えっ……?

 

周囲からの拍手の嵐とは裏腹に私の脳内を駆け巡っていたのは疑問の渦だけであった。よりにもよって登場してきたサプライズゲストが海軍本部中将のガープという有り様。突然のことで思考がうまく働いていかないが。

 

ダメ、頭を働かせないと……。

 

「ねぇ、教えてちょうだい。この大会の主催者はどこなの?」

 

「主催者? 知りたいなら教えてあげる。でももう手遅れだと思うけどね。MARINE商会よ」

 

MARINE商会ですって? そんなふざけた名前……。主催は海軍ってことね……。

 

「フフフッ、気付いた? この大会海軍主催なんだって。何でも有能な経理担当者を探しているらしくて、こんな面倒なやり方を思い付いたって話らしいわ。私は面白そうだから来てみたんだけどね、まさか拳骨のガープが出てくるとは思わなかったなー」

 

カリーナが話す内容は頭に入ってきているようでいて入ってきてはいない。

 

私としたことが迂闊だった。まさか札勘大会が海軍主催で行われるなんて海軍も中々いい趣味してるじゃないなんて、そんな場合じゃなかった。

 

どうしよう。王下四商海(おうかししょうかい)入りを目前に控えている私たちだけど、実際にはまだ何も決まっているわけではないのだ。つまりは私はまだ賞金首のままであり、海兵に出会えば御機嫌ようと挨拶を交わす間柄ではなく、縄が飛んでくる間柄なのである。

 

それにしてもサプライズゲストの登場を知っていた風な様相があるカリーナとは一体何者なのだろうか? 主催が海軍であることも彼女は知っていたようだ。この私でさえ知りえなかったことをこの小娘が知っていたという事実が実に度し難いことではないか。

 

「あんた一体何者なの?」

 

そう考えるが早いか私はもう一度振り返り、小娘に向かって詰め寄っていた。

 

「私? 私はただの歌い手よ。…………グラン・テゾーロって知ってる?」

 

グラン・テゾーロ? 聞いたことがある。新世界の奥深くにある特殊な王国の名。マリージョアでさえ権限が及ばない治外法権の国家がそこには存在しているとまことしやかに囁かれている。あのグラン・テゾーロから彼女はやって来たと言うのだろうか?

 

「さすが、知ってるみたいね。私もそこの会計責任者なの。今回は王下四商海(おうかししょうかい)バロックワークスがアラバスタの件で失脚したじゃない、ここは彼らの縄張りだったから投資の価値があるかどうかと思って派遣されて来たんだけど……」

 

背後で大騒ぎになっていることも耳には入ってくるがそれさえどうでもよくなるような内容をカリーナは話している。ガープ中将が経理担当などどうでもいいから、強い海兵になる者を見つけ出そうぞと言い出して、終いには札勘大会は終わりにして格闘大会を開こうと叫んでいるなんてことは本当どうでもいい。

 

「多分空振りね……。海軍がこの島で札勘大会を開くぐらいなんだから、きっと入り込んでるわ。……ヒガシインドガイシャが。……聞いたことあるでしょ? 彼らと拗れるのは面倒だから私たちは手を引くことになると思う。ここはやっぱり新世界からは遠いしね……。……あれ? ……アハハ、寝てる」

 

最後のカリーナの反応を怪訝に思い、私も背後を見てみると、大騒ぎの中心に立っていたガープ中将が突然立ちながら寝てしまっていた。辺りは一瞬わけがわからず静寂となってしまっている。

 

何かどこかで見たような光景ね……。

 

と思えば、

 

「おお……、イカンイカン寝ておった。………………」

 

目覚めたガープ中将。だが私はその寝覚めたばかりの海兵と目が合ってしまったのだ。ここから特設ブースまでは距離があるはず。それに私はまだ会ったことがなかったのだから何も問題はない。

 

「……ほう、お前か、ネルソン商会の会計士っていうのは……」

 

なんてことはなかった。……不味い、不味すぎるぐらいに不味い。

 

「じゃあ頑張ってね」

 

背後から聞こえたカリーナの軽すぎるくらいに軽い別れの挨拶が何とも沁みてくる。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

空中会議室って呼び名も伊達じゃねぇな……。

 

ホテルに足を踏み入れる前に見えた、いや遠目からでも確認できたアーチ型の橋のような構造物に数珠つなぎのように繋げられている球体の構造物。これが空中会議室であった。俺たちはその最上層に位置している会議室の扉前に立っている。扉の向こうにはホテルのフロントウーマンが言ったように政府の伝書使(クーリエ)が手ぐすね引いて待ち受けてんだろう。背後を振り返れば見晴るかす海とキューカ島の半分を見渡すことが出来る絶景が広がっちゃいるが、俺たちはそれを楽しめるような心境にないことは確かである。

 

俺の左隣にはボスが居て、その隣にはクラハドールが居る。ネルソン商会の総帥と副総帥、そして参謀が揃い踏みしているわけだ。会計士も居た方が良かったような気もするが、今回もまた俺たちには複数の目的が存在している。自然とこうならざるを得ない。とはいえ交渉事である以上はジョゼフィーヌさんがここに居ないのは正直厳しいが……。

 

「いいか……、一言も聞き洩らすなよ。奴らの一挙手一投足も見逃すな。俺たちのこれからが今この時に全て懸っているとそう思え」

 

ボスから紡がれてくる言葉が何の障害もなく俺の脳内に入り込んでくる。俺は、俺たちは自然と気合の一声を心の中で上げていた。

 

 

正念場だ。

 

 

眼前の扉を押し開ける。

 

 

会議室内の奥、目に飛び込んでくるのは革張りのソファに腰を落ち着けてる二人の姿。

 

 

「これはこれは、七武海に伝書使(クーリエ)として御足労願うとは痛み入るな」

 

ボスから放たれた第一声は程よく力の抜けた軽口で始まりを告げた。

 

上々の滑り出しじゃねぇか……。

 

 

 

政府から送られて来た伝書使(クーリエ)王下七武海(おうかしちぶかい)

 

“暴君” バーソロミュー・くま 

 

“鷹の目” ジュラキュール・ミホーク

 

の二人。想定内のようでいて想定外のようでもある。

 

 

「まずお前たちに言っておくことがある。四商海への任命は基本我々七武海に単独で下りてくるものだが、そこへ二人が動員されるのは異例のことだ。そして、我々はあくまで伝書使(クーリエ)でしかないということも付け加えておく。よって我々に交渉の権限は付与されてはいない。これが政府からの任命書だ。ただし、写しを取ることも許可されてはいない。この任命書はこの世に一枚しか存在することを許されてはいないものだ」

 

俺にとっては想定内であった相手が重い口を開くようにして言葉を放ち、手に持つ一枚の紙片をローテーブルに置く。この場に交渉が存在しないということは即ち、俺たちの答えは“はい”か“いいえ”の二つに一つだけということか。全く随分な扱いではあるが……。

 

眼前に並べられた紙片にゆっくりとボスは目を通している。横目越しに観察する限りにおいては感情のひとつとして表情には出てきてはいない。

 

この場を沈黙が支配する中、俺の眼前に居るくま屋はこの会談にまるで興味がないように“聖書”に視線を傾けており、隣の鷹の目屋はワイングラスをくるくる回しながら実に暇そうにしてやがる。

 

「政府にとって一番計算が立つ奴と最も計算が立たない奴を送り込んでくるとはな……」

 

沈黙を破ってきたクラハドールの言葉は正に俺たちの総意だろう。

 

5分にも思えた時間は実際には1分足らずだったのかもしれねぇが、黙ったままの状態でボスが俺の前に任命書を置く。

 

 

懸賞金設定の解除

 

複数拠点の自由選択

 

闇商売の黙認

 

凪の帯(カームベルト)”の通行補助

 

赤い大陸(レッドライン)横断自由

 

 

などといった特権が明記されている一方で、

 

 

天竜人への奉仕活動

 

収益の25%上納

 

召集令状絶対順守

 

 

などといった負担もまた明記されている。追い打ちをかけるようにして記されているのは珀鉛(はくえん)とダンスパウダーの押収にその製造工場の押収という至れり尽くせりな条件だ。

 

さて、どうしたもんか……。

 

「拠点の自由選択とあるがそれはマリージョアも含まれているのか?」

 

質問は許可されてると思ったのかボスが口火を切る。

 

「例外は存在しているがマリージョアはその例外には含まれていない」

 

くま屋の返答は視線だけをこちらに寄越したものであり即答そのもの。

 

「この天竜人への奉仕活動っていうのは何だ?」

 

 

「全ての王下四商海(おうかししょうかい)は天竜人19家に対しての奉仕義務が存在する。それは割当制だ。お前たちへの割当はバロックワークスが持っていた4家分と新たな3家分が割当られて都合7家分となる」

 

俺も気になった条項に対して質問を挟んでみれば、くま屋の口は流れるように言葉を生み出してくる。

 

天竜人に対して俺たちが7家分を担当するってことは他は4家で等分ってことだろう。バロックワークスが居た時代は5、5、5、4だったのが俺たちが入ると4、4、4、7に変わるってんだからふざけた話としか言いようがない。だがこいつらには交渉の権限がねぇときた。嫌ならこの話はなしってことか……。

 

納得いかない部分を腹に抱えながらも任命書をクラハドールの方へと移してやる。奴もメガネをくいと上げて見せながらテーブルへと視線を傾け、文字の羅列に目を通し始めている。

 

政府が諸手を上げて歓迎というわけではないことは確かなようだ。渋々、俺たちを取り込んでみようって魂胆なんだろう。俺たちは何とかしてその裏を掻いていくしかなさそうだ。

 

「貴様らは収益をどうやって把握するのだ?」

 

クラハドールから出てきた質問も尤もである。

 

「決算書を提出してくれればそれでいい」

 

裏はすぐに見つかったじゃねぇか。決算書を作り込むは俺たちの得意分野だ。っていうか、ジョゼフィーヌさんの得意分野なんだが、いずれにせよ、そこは活路になりそうだな。

 

「回答期限はいつまでだ?」

 

「本日深夜24時、ここから見える岬の灯台にて返事を待つ。受け取れる返事は二つだけだ。加入の場合は速やかに手続きに入る。お前たちの船に載っている珀鉛(はくえん)、そしてダンスパウダーの製造工場を含めての引き渡しが最優先事項だ。珀鉛(はくえん)は俺が受け持つ」

 

「あとは俺だ」

 

窓から見える岬の向こうの灯台を指差しながらくま屋が言葉を放ったあと、話すつもりは一切ないような素振りであった鷹の目屋がやっとのことで一言口にしてきやがった。

 

 

「わかった」

 

ボスの一言はかなりの重みを伴った一言だった。そこにはあらゆる感情と理性のせめぎあいが詰め込まれていたように感じられてならない。

 

 

 

「……終わったか……。まだ陽は高いな。24時までは暇だとは思わないか?」

 

全くと言っていいほど口を挟むことはせずにただただ、ワイングラスを見つめているに過ぎなかった鷹の目屋がここへ来て会話をしようと視線を俺たちに寄越してくる。その冷徹なまでの鷹の目で……。

 

 

 

ぷるぷるぷる、ぷるぷるぷる。

 

 

 

と同時に鳴り出す俺たちの小電伝虫がふたつ。

 

 

 

両方を俺が取る。

 

「どうした料理長?」

 

~「おお、ローか。ちょっと面倒なことになるんちゃうかって思ってな」~

 

 

~「兄さん?」~

 

「ジョゼフィーヌさん、俺だ」

 

オーバン料理長とジョゼフィーヌさんが相手のようだ。

 

「暇つぶしに付き合ってはくれぬか?」

 

鷹の目屋からの言葉も同時に耳に入り込んでくるがこいつが一体何を言い出しているのかは俺には見当も付かない。

 

~「ちょっと、ロー。大変なのよ、札勘大会の会場に拳骨のガープが現れたの……、うわっ、ちょっと待って、あいつ何投げてきてんのよ」~

 

どうやらジョゼフィーヌさんは緊迫してるらしい。拳骨のガープってことは海軍本部中将ってことだ。確かにやべぇ事態ではある。俺たちがまだ懸賞金を解除はされてねぇお尋ね者である以上は……。

 

 

~「けったいな奴がな下へ降りていきよったんやが、暫くしてまた上がってきよってな。それがどうもおかしいんや。そいつは何も持ってなかったんやけどな、なんか行きと帰りでちゃうような気がするんやな」~

 

「料理長、そいつの人相は分かるか?」

 

~「せやな~、小太りで葉巻き銜えとって、あれはテンガロンハットっちゅうんやろな」~

 

料理長とつながっている小電伝虫とジョゼフィーヌさんと繋がっている小電伝虫を接近させて、ジョゼフィーヌさんに聞こえるようにしてみる。手配書にも精通してるジョゼフィーヌさんなら素性を割るのはお手のもんのはずだ。

 

~「もしかして、オーバンの声? それって西の海(ウエストブルー)に居たカポネ・“ギャング”・ベッジじゃない。ファイアタンク海賊団の。額は確か6300万ベリー。シロシロの実の能力者よ」~

 

でかした、ジョゼフィーヌさん。

 

「ザイに伝えろ。そいつから目を離すなと。奴は能力で工場を体内に取り込んだ可能性がある。ダンスパウダーの話をどこでどうやって嗅ぎつけたか、何の目的があるのかは分からねぇがな。そいつの能力ならそれも出来る可能性がある。大方城の空きスペースを使ったんだろう」

 

そこへ、クラハドールがギャング屋の名を聞いて閃いたのか血相を変えて言ってくる。

 

~「了解や。ロー、聞こえたで~、クラドルのん。これは追跡行ってことやな~」~

 

 

 

ここまで俺の耳は一連のやりとりに集中していたわけであるが、一応俺の目は前方で寛いでやがる鷹の目屋に向けられてはいた。だが、奴は何を考えてるのか知らねぇが、帯剣に手を掛けており、

 

 

 

~「ロー? ねぇ、聞いてるの? こっちも十分不味い事態よ。私このままじゃ、海兵にされそう」~

 

 

 

ジョゼフィーヌさんの言葉は耳に入ってくるようでいて耳に入ってこない。なぜなら、

 

 

 

「暇つぶしに一戦でもどうだ? お前たちがこの黒刀に散れば24時の回答も自ずと決まってくるというものだろう」

 

俺たちもヤベェ事態になりそうだからである。

 

「ジョゼフィーヌ、海兵にはされるな」

 

ボスが乗り出してジョゼフィーヌさんに伝えた言葉はとんでもねぇ指示であったが、今は確かにそれどころじゃない事態だ。とはいえ、俗に“強制徴募隊”とも言われている拳骨のガープから海兵にされないようにするのは中々難しいことだろうが……。

 

 

 

すると、ボスは全員分の小電伝虫を集めて、

 

「全員に告ぐ。時計の針を合わせろ。今の時刻は14時ジャスト。王下四商海(おうかししょうかい)入り回答期限の24時まで10時間だ。俺たちはベッジを追わねばならない。だが同時に、四商海入りの条件を詰めなければならないし、鷹の目からも生き残らなければならなくなった。ガープからもな。ジョゼフィーヌ、条件については追って連絡する。新入りはお前が何とかしろ。以上だ」

 

懐中時計を取り出し淡々とした口調でそう述べたてた。思わず俺もスーツの内ポケットから時計を取り出しており今がジャスト14時であることを確認していた。

 

 

 

一方で、

 

「見事!」

 

の言葉と共に鷹の目屋は既に抜刀している。

 

「旅行に行きたいときはいつでも言ってくれていい」

 

くま屋も何気にきな臭いことを言ってのけてやがる。こいつのニキュニキュの能力を鑑みれば空中旅行に行くのはご免蒙りてぇことだ。

 

 

 

俺たちのキューカはどうやら完全に終わったようだ。

 

またでかいヤマに両足を突っ込んで行く。

 

だが準備ならいつでも出来てる。それが俺たちだ。

 

 

地獄をひた走る準備ならな……。

 




読んで頂きましてありがとうございます。

詰め込みすぎました。でもまた始まりです。


誤字脱字、ご指摘、ご感想、よろしければ心の赴くままにどうぞ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。