ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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いつも読んで頂きましてありがとうございます。
お待たせ致しました。
今回は10000字程。
そして、このタイミングであの人の視点投入します。

よろしければどうぞ!!


第43話 演技

偉大なる航路(グランドライン)” キューカ島

 

 

“Room”

 

それはこの世界に生み出される新たな空間。そこで俺は全能に近い存在となり、己の五体を余すことなく活用して処置を行う。手術(オペ)で出来ねぇことなどないに等しく、そこに限界は存在しない。己の体力が保てばの話ではあるが…。

 

今この時、行使出来ているRoomの大きさと嘗て行使していた大きさはどう見ても違う。明らかにそれは広がっており、今この時、(サークル)の大きさはキューカ島全体をすっぽりと覆い尽くしてしまうレベルに到達している。

 

故にシャンブルズによる移動も一発で済むようになっていた。

 

 

 

移動、いや厳密に言えば俺たちの会計士を木っ端微塵にしようとした砲弾と俺そのものの位置を交換して辿り着いた先。それは拳骨屋を目前にした場所であった。

 

「ロー!!! もうっ、遅いわよ~!!!!」

 

背後からは聞き飽きた怒りの声が飛んでくる。迫りくる砲弾を無きものにしたということに対する感謝の言葉など当然のように存在しない。

 

「あぁ、悪ぃな……」

 

よって俺の方も口調はぞんざいとなり、勝てないことは分かり切っているので、言葉の応酬に応じるような真似はしない。何よりもそれは面倒くせぇ……。

 

それにしても、この島にやって来る奴らの思考回路はどうなってやがるのか? 俺たちと海軍のやり取りをまるでショーを眺めているような感覚で見ているとしか思えない。ハンバーガーにかぶりつきながら、コーヒーカップ片手に、浮き輪にすっぽり嵌りながら、

 

拍手をされても調子が狂うだけである。これがキューカ島ってことなのか。

 

込み合っていたであろう街路は即席の劇場舞台と化し、一本道とはいかないまでも申し訳程度の開けた場所が出来つつある。視線の先にはこちらへと駆けている拳骨屋。

 

 

いや、あれは(ソル)だ。

 

 

プルプルプル。

 

 

こんな時に連絡を寄越すとはどこのどいつだ? ……ボスか。

 

 

「悪ぃが、入れ替わるぞ」

 

「……えっ、いきなり何よ……」

 

「ボスからだ。俺にもやることがある……」

 

瞬間的にシャンブルズを使い、俺とジョゼフィーヌさんの位置を入れ替え、俺は一旦後方へ、代わりにジョゼフィーヌさんを前衛へと引っ張り出す。

 

 

「ボス、俺だ。生きてるか?」

 

~「……あぁ、……何とかな……」~

 

眼前ではジョゼフィーヌさんが既に抜刀していた。あれは居合の型であり、放った後ってことだろう。一方で放たれた相手である拳骨屋も至近距離に迫っており、どうやら右の拳ひとつで居合の斬撃を受け止めたようだ。

 

まったく、とんでもねぇ(ジジイ)だな……。

 

 

~「ロー、お前、予備の小電伝虫を持ってるだろう?」~

 

「あぁ、持ってるが……」

 

~「飛べる新入りに送ってくれ。多分、奴は持ってない。そいつが必要だ」~

 

「そんなもんどうする気……、観測手(スポッター)か……」

 

~「あぁ、そうだ。そうでもしないとどうしようもない」~

 

どうやらボスは料理長の援護狙撃を必要としているらしい。かなり追い込まれてるのかもしれねぇな。

 

 

「取り込み中悪ぃんだが、ジョゼフィーヌさん、ハヤブサ屋がどこにいるか分かるか?」

 

「ローのバカ!! あんた、私が忙しいの見て分かんないの? もうっ、(ジジイ)のくせに元気良すぎ。ちょっとは(ジジイ)らしくしなさいよ!!!!」

 

慌しくもボスとの通話を終えて、ジョゼフィーヌさんに声を掛けてみれば、悪態を吐きながらも拳骨屋が繰り出してくる拳に対して刀と足蹴によって応戦している。確かにこの(ジジイ)は元気が良すぎる。老骨に鞭打ってなどとんでもねぇ。さすがは麦わら屋の爺さんと言うべきか。

 

「まったく、歳は取りたくないもんじゃな。こんな小娘と小僧にあしらわれとるとはワシもまだまだじゃ」

 

拳骨屋の口調からして本気など欠片も出してないのは確かだ。それはジョゼフィーヌさんも然りなんだろうが、拳骨屋と剣戟(けんげき)交えながら、見聞色を別の対象に向けるってのはどう考えても無理があるので、

 

 

「シャンブルズ」

 

再び俺とジョゼフィーヌさんの位置を入れ替える。役者交代と行こうじゃねぇか……。

 

入れ替わった先は拳骨屋が繰り出している右ストレートとは目と鼻の先。しゃがみ込み、両親指で炸裂させるは、

 

「カウンターショック “死神の電気(トーデス・ストローム)”」

 

電気を帯びた一撃。

 

「……そういえば小僧はマイナスじゃったな」

 

奴の右腕に俺の両の親指はしっかりとヒットし武装色のマイナスも合わさって、体の芯を抉る一撃となっている筈だ。

 

が、そんなダメージなど物ともせずに左フックが飛び出してくる。俺の見聞色よりもワンテンポ速いということはスピードの桁が違うということだろう。

 

顎に入ってくる猛烈な一撃は脳天を揺らすには十分であり、意識を繋ぎとめておくために特大の力が必要となりそうだ。視界は上空へと移っており、己の体が弧を描くようにして後ろへと吹き飛ばされていることが分かる。狭い視界の中でも飛び込んでくる動くパラソルの色はふざけが過ぎるほどにカラフルだ。

 

「小僧、ワシに拳で語るには100年早いわ」

 

地に背から倒れ込むと同時に耳に入って来た言葉は己と相手の力量差を否が応でも知らされるものではあるが、顔を叩いて無理矢理にでも自分自身に活を入れて起き上ってみる。

 

武装色の方向性は同一であれば強さが物を言ってくる。ただ、逆であればマイナスに分がある。入った瞬間の感触からして拳骨屋の方向性はプラス。俺の一撃が効いてない筈はねぇんだが……。実際には直ぐ様に反撃を食らっている。結論としては奴の武装色がとんでもねぇということに行き着く。“海の英雄”の武装色もまた凄まじいってことなのか……。

 

「ロー、分かったわよ。鳥男の居場所。丁度飛んでるわ。……効いたの? フフ、いい気味。あんたには丁度良い目覚ましかもね」

 

背後で見聞色に集中していたらしいジョゼフィーヌさんから吉報と余計な二言三言がもたらされるが、俺の視界にはまた別の脅威が飛び込んできている。拳骨屋のさらに向こう側、路地から顔を覗かせたのは中折れハットを被った剣士。真っ白な正義のコートを羽織る姿は紛れもなく海軍将校。

 

「今、あんたに私の見聞色を同期させるから」

 

俺の意識の中に深いまでの見聞色が入り込み、少しばかり離れた上空を羽ばたくハヤブサ屋の姿が知覚できる。場所が分かれば、対象を正確に掴むことが出来れば、入れ替えることは容易い。左の内ポケットに入り込んでいた予備の小電伝虫とハヤブサ屋の右胸に挟まれているハンカチーフを入れ替えてやればいいことだ。

 

「終わったの? で、どうするのよ。ずっと戦っていても勝てる相手じゃないのよ。もう一人出て来たし、あれはさっきの剣士だわ」

 

ジョゼフィーヌさんの言う通りだ。ここで戦い続けても何の意味もねぇ。戦って勝つことは目的ではない。何とか時間を稼いでここをおさらばするのが定石だ。

 

「クラハドールの脚本次第だ。あいつの筋書きが既に始まっているとすれば、俺たちがやるべきことは時間を稼いでここをおさらばする隙を作り出す。俺たちよりもボスの方が苦労してそうだがな」

 

どんな風にクラハドールが筋書きを組み立てているのかは知らないが、鷹の目屋相手に隙を作り出す方が余程至難の業であることは間違いない。

 

「どうじゃ、そろそろ海兵に志願する気になったかのう」

 

一方で、拳骨屋から放たれてくる言葉にはまるで邪気がない。が故に性質が悪い。

 

「だ・か・ら、さっきから言ってるでしょうが、お断りだって。まったく、物分かりの悪い(ジジイ)ね」

 

「さっきから貴様ら、ワシをジジイ、ジジイと呼びおって、爺ちゃんと呼ばんか―、バカたれ共が!!!」

 

「……中将、そういう問題ではないかと……」

 

どうやら新たに現れた海軍将校は拳骨屋の副官のようだ。あの突っ込みからして常識人のようだが、相当苦労してんだろうなという同情を禁じ得ない。

 

「分かっとるわい。爺ちゃんと呼んでいいのはワシの孫だけであったのう」

 

そういう問題でもねぇだろうけどな……。

 

俺も拳骨屋の返事に対して突っ込みを入れてみる。あくまで心の中で……。

 

「教えてくれねぇか。俺たちを海兵にしてどうする気だ? 俺たちじゃなくても別に構わねぇだろ」

 

続いて時間を稼ぐ必要性を考慮し、強制的に徴募されようとしている身としての至極まっとうな質問をぶつけてみる。

 

「それ、私も聞きたいわ」

 

いつの間にかジョゼフィーヌさんも俺の隣へと移動してきており、和やかかどうかはさておき話し合う雰囲気が形成されつつある。

 

「ワシは何としてでも孫を海兵にしたいんじゃ。その為には貴様らの力が必要。どうじゃ、ワシと共に孫を海兵にするのに加わってみんか?」

 

本人は至極本気で答えてるんだろうが、聞いて呆れる答えが返ってきやがった。

 

「もうっ、どこの爺バカよ!! そんな内輪の話は自分たちだけでやって。赤の他人を巻き込まないでよね」

 

もっと言ってやりゃあいい。そもそもに聞く耳を持っているかどうか疑わしいところだが、こんな(ジジイ)にはしっかりと道理を説いてやった方がいいに決まってる。

 

「バカたれ共がーッ!!! 爺ちゃんが孫に対してバカになって何が悪いんじゃーッ!!!!」

 

「いい歳した(ジジイ)が開き直ってんじゃないわよ!!! まったく、面倒くさい(ジジイ)様ね」

 

ジョゼフィーヌさんの買い言葉に対して、あんたも大概面倒くせぇがなと、釘を差してやりたかったがボスを見習って止めておくことにする。心にそっとしまっておくのはこの世の美徳のひとつだ。

 

「ワシは何が何でも孫を海兵にする。その為にはまず貴様らを海兵にせねばならん」

 

「もっともらしく言ってるが、そこに道理は存在してねぇからな」

 

俺も分からず屋の(ジジイ)に我慢が出来ず、突っ込みを入れざるを得ない。

 

「孫を海兵にするのに道理なぞいらんわい。必要なのは愛だけじゃ」

 

その言葉をまるで合図のようにして拳骨屋が動き出す。拳に物言わせようってんだろう。副官の鑑のように黙して語らずを貫き通していた中折れ屋も帯剣に手を伸ばそうとしている。

 

(ジジイ)のくせに良いこと言うじゃない。私たちも愛を持ちださなきゃ、太刀打ち出来ないかもね。あんたには無縁のものだけど」

 

ジョゼフィーヌさんのまたしても余計な一言は聞こえなかったことにしておく。愛にもきっちりと値段を付けかねない人間の言葉とは思えねぇな。

 

 

 

「取り敢えず愛ある(ジジイ)の相手はあんたに任せるわ。私はあの剣士を何とかすることにするから」

 

そう言うが早いかジョゼフィーヌさんの身体は動き出しており、中折れ屋との間合いを一気に詰めつつある。右腕は抜刀。瞬間に生み出されたのは斬撃の激突。

 

俺も人の戦いをぼうっと眺めている場合ではなかった。

 

拳骨屋も既に動き出している。奴の右拳は既に武装硬化で真っ黒だ。

 

「分からんか? 孫にどうしても愛されたいという爺ちゃんとしての思いを」

 

(ジジイ)じゃない俺には分かんねぇな、そんなもん」

 

孫への愛を語る(ジジイ)の相手は厄介であり、小手調べなど通用しないのは確かだ。それならば、

 

「シャンブルズ」

 

斬撃の激突から一旦は飛び跳ねるようにして間合いを取った後に(ソル)の動きを見せたジョゼフィーヌさんとの位置を入れ替えてゆく。見聞色の同期はいまだに続いており、俺の脳内には口やかましい声が時折響いていたのだ。何事もないかのように我慢するのは至難の技であったが……。

 

移動した先は中折れ屋目前、奴の表情は歪んでやがる。見聞色を操るんだろうが、その表情からして俺が先手を行っている。シャンブルズを使ったこの連携技はいざという時のために温めていたものであり、少なくとも今のところ上手く行っている。そして、剣士相手なら答えは決まってる。

 

「ラジオナイフ “地獄の電気(ヘレストローム)”」

 

電気を帯びた鬼哭(きこく)を以てして中折れ屋を切り分けてやるまでだ。切っ先は奴の正義コートの肩口へと斬り掛かり一閃……、

 

 

バク転?

 

 

瞬間で中折れ屋の身体は紙と形容できるような薄さとなって(ひるがえ)り、そのまま飛び退って手近のオープンカフェに張り出されている屋根上と移っている。

 

グレーのスーツにコートという出で立ちから硬いイメージを持っていたが、意外にも身のこなしは敏捷そのものである。さっきのは紙絵(カミエ)ってやつだろう。

 

(ロー、入れ替えて)

 

ジョゼフィーヌさんからの脳内に直接訴えかける指示が飛び、見聞色で拳骨屋の拳に回避が間に合わないことを察して、俺たちによる即席舞台で商売繁盛中と思われるアイスクリーム屋台とジョゼフィーヌさんの位置を入れ替えてやる。

 

数秒後に背後で起きた出来事は無残にも破裂する数十種のアイスたちの花火そのもの。

 

「全量買い取ってやれよ。今日なら多分即完売したんだろうからな。じゃねぇと天下の海軍様の名が廃っちまうぞ」

 

原因が己にあることは百も承知の上で、拳骨屋を詰ってやる。我ながら俺も結構意地が悪くなったもんだ。

 

「もし、あんたがやってたら経費としては認めてやらないけどね」

 

いや、上には上がいた。そう言えば俺たちの会計士は悪魔だった。

 

アイスクリーム屋の店主に本気で怒られてる海軍本部中将ってのも中々見応えがあるなと思っている俺も結構悪魔なのかもしれねぇが、知ったこっちゃねぇ。

 

「どうするの? 私たちを海兵にするの止める?」

 

拳骨屋はどうやら見習いらしい二人の海兵を呼んで指示を出している。丸メガネを掛けている者と顎が割れている者とどちらも特徴的な奴らではあるが……。

 

「お前たちに早速任務だ。このアイスクリーム屋台を直せ」

 

中々理不尽な任務内容に見習い二人は不満タラタラな様子。

 

「嫌ならお前たちがあいつらを海兵にして見せるんじゃな。どっちにするんじゃ」

 

俺たちの捕縛か上司が壊したアイスクリーム屋台の修繕かという2択を迫られている見習い海兵。っていうかそこに選択肢はねぇも同じだ。案の定、見習い海兵二人は渋々と屋台の修繕に取り掛かっている。

 

「ほれ、話は付いた。貴様らをここで逃すわけにはいかん」

 

「何で俺たちにそこまで執着するんだ? 何度も言うが別に俺たちでなくともいいだろうが。それとも何か? 札勘大会のサプライズゲストってのは表向きの話で真の目的は俺たちだとでも言うのか?」

 

ここまでの執着を見せてくる拳骨屋に対して尤もな質問をぶつけてみる。

 

「……巡り合わせに過ぎん。じゃが貴様らに関しては注目はしておった。出身が北の海(ノースブルー)ベルガー島と聞いた時からな。あのロッコが側におると知って確信したわい。ボナパルトの(せがれ)がやって来たとな。それだけではない。貴様らはそれぞれ腹に一物も二物も抱えておるんではないか? しかもじゃ、この島には七武海が二人来ておる。理由が貴様らにあることも承知しておる。だからこそ逃すわけにはいかん。センゴクもそれを止めてはおらんしな」

 

返って来た言葉から判断するに、こいつはとんだ狸(ジジイ)であることが判明した。孫への愛を語っていた時の好々爺(こうこうや)とした姿は鳴りを潜め、目には鋭さが増していた。そこには何度も地獄を見てきたことが垣間見れる武人としての目が存在していた。

 

「ちょっと、私たちの今の立場を承知の上でだなんて本気も本気じゃないのよ」

 

まったくだ。それによく考えてみればだ。政府が決定した俺たちに対する四商海への勧誘に対して、海軍本部としては異を唱えて俺たちを手配書に基づき捕縛しようとしているっていうのはどういうことだ? 四商海への勧誘はどこから下りてきている話なんだ? 海軍本部の立ち位置はどうなってやがるんだ?

 

(ロー、あんたペース配分大丈夫なの? これは結構ヤバそうよ。島をすっぽり覆うように(サークル)張っちゃってるけど、もつの?)

 

不意に脳内に呼び掛けるジョゼフィーヌさんの声に対して俺は軽く頷きを返すに留める。

 

とはいえ、はっきり言って出たとこ勝負だ。もつのかもたないのかは正直分からない。だが、配分して何とかなる相手じゃねぇことも確か。

 

これはオペオペの新機軸をぶっつけ本番で実戦投入するしかねぇか。

 

 

覚醒。

 

 

悪魔の実の能力にはそういう瞬間がやって来ることを俺たちは知っている。そして、俺はその第一段階に入ろうとしていると思われる。それを今ここで……。

 

 

「さて、ボガード……、始めようか。……なぁ、小僧共、“強制徴募”の時間だ」

 

 

拳骨屋の声音は先程にも増して厳かであり、俺たちが地獄に存在していたことを思い出させるには十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっきり言っておくが貴様たちに選択肢など存在しない」

 

僕たちが乗ってる真っ赤なパラソルの縁に器用にも立っているクラハドール参謀の言葉が向けられた先は、向こうで緑色のパラソルに乗って怯えながらクラハドール参謀を見詰めているあの3人だった。

 

 

僕たちがパラソルの物珍しさにはしゃいでいるところへ、空から3人が落ちて来たのが30分前のこと。3人の内の一人、おさげ髪の女の子にわけを聞いてみたら、驚いたことに太古の島から空飛ぶ恐竜に乗ってやって来たらしい。彼女は写実画家らしくて、色を使って相手に暗示を掛けることだ出来るんだって、すごいよね。でも偶々雨が降ってきて絵具が消えてしまったみたい。海軍に捕まっている仲間を助けたいらしく、これからどうしようかと3人でうんうん唸っていたよ。

 

そんなところへクラハドール参謀がパラソルからパラソルへとぴょんぴょん跳びながら僕たちのところへやって来たのが10分前ぐらい。クラハドール参謀が来てくれて良かったよ。だって彼女は僕よりもベポさんに興味津津だったから。面白くないったらありゃしないよ、まったく。白くまって狡いよね~。まあそんなことはいいんだった。

 

クラハドール参謀はやって来るなり、3人のことを知っているらしくて、バロックワークスの残党だと本人達に代わって僕たちに説明をしてくれたんだ。

 

そこから始まったのが脅し。既に最初の時点でパラソルを包み込むようにして膜を張ってたみたいなんだよね。クラハドール参謀のモヤモヤの能力を使った想像域(イメージ)ってやつだよ。今回は膜そのものを檻にしたんだって。つまりはパラソルから出られないようにしたってこと。その上で、言うこと聞かないと海軍呼び出すぞってわけ。クラハドール参謀も悪い人だよね~。

 

だからあの3人は怯えてる。クラハドール参謀、しっかり僕たちの手配書も見せてるんだもん。やってることが意地汚いよ。まあいいけどさ。

 

「もう幕は上がっている。貴様らにはしっかりと役をこなしてもらうぞ。まずは貴様、貴様の持つその傘が大きな意味を持つ」

 

クラハドール参謀がまず指差した相手はレモン柄のワンピース着てる傘持ったキレイなお姉さん。

 

「それから後の二人。貴様らは揃って海の英雄にご対面だ」

 

クラハドール参謀が次に指差したのはおさげ髪の女の子とボムボムの実を食べたから鼻くそ飛ばすとヤバいらしい人。海軍の怖いお爺さんのところに行かないといけないってことなんだろね。

 

「僕たちはどうすればいいの?」

 

メガネをいつもの動作で直した後に僕の方を見下ろしたクラハドール参謀、

 

「小僧は俺と一緒に来い。手先が器用な貴様には打ってつけな仕事がある。白クマ、貴様の手では今回不合格なんだが、力仕事も必要だ。貴様も一緒に来い」

 

「分かったよ。行くよ」

 

「アイアイ、バトラー」

 

まったく、……ひどい言い草だよ。ああは言っても、この人結構優しいから気にしないけどさ。

 

「……フフ、来たな。予定通りだ」

 

クラハドール参謀の言葉に反応して周囲を見渡してみれば、丁度フラッグガーランドの下を小道が交差するように抜けていて、そこには黄色いカルガモに乗ってこっちに手を振ってくれてるキレイな王女のお姉さんが居た。やっぱり王女のお姉さんは可愛いな~。

 

「……どうやら元相方の変わったオカマを見かけたようだな。工場を抱えて行ったベッジは奴らに追わせる。さあ、幕は上がってるぞ貴様ら、最高の演技を見せてやろうじゃねぇか」

 

クラハドール参謀がどこまで見通しているのか僕にはさっぱり分からなかったんだけど、その時どこか遠くを見てたんだよね。

 

 

多分遥か彼方を見てたのかも。僕にはそんな気がしたんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ~、めっちゃ眠いやんけ……。

 

 

今、わいがおる場所はこの島のてっぺんもてっぺん、巨大樹の上に乗っかっとる葉っぱの上にさらに突きでとる樹の上。ここでひたすら待ちぼうけや。いや、ちゃうか、別に待っとったわけちゃうもんな。変な奴が来ーへんか見張っとったらほんまに来てもうただけのことや。

 

とにかくや、こうやって待ってんのは眠いっちゅうこっちゃ。せやけど、変な奴の動きもしっかり追っとかなあかんから、ほんまに寝てまうわけにはいかん。変な奴は今どこや? あぁ、まだ動く傘の上か。こうやって見聞色で追うだけってのもな、ほんまかなんな~。ヒマでしょうがないやんけ……。

 

それにや、この島の気候が丁度ええんやな~、昼寝するには。ここは高度もあるし、暑くもないし寒くもない。風は心地ええしな。何やろな~、わいに寝てまえって誰かが言うとんのかな? あ~でも今寝てもうたらハットにどつき回されるやろな~、それは堪忍やわ。

 

これは何かおもろいこと考えるしかないわな~。何かおもろいこと……。

 

そう言えばこの前ローが真夜中船尾甲板おったから、何してんねんって聞いたら眠られへん言うとったな~。眠られへんかったことなんかないから、わいにはよう分からんかったんやけど、まあ酒でも飲めや~言うて飲ませたんやけどまったく眠る気になれんってことで……。丁度、カールが来よったんやな、確か。あいつは何て言いよったんやったっけ? あぁ~、そうそう眠れん奴は大抵羊の数を数えるらしいんやったな。実際カールも眠れん時は羊を数える言うとった。そもそも羊を数えて眠くなるんっちゅうんがおかしい話やけど、まあそれはええか。で、3人して羊の数数えたわけや。結果、寝たんはカールだけやったな。確か5匹で寝とったな、あいつ。それやったら何でもええやんけ。わいらは1万匹数えても眠くならんかったっちゅうのにな。

 

で、そうそう次にベポが当直から戻って来たんやな。あいつもめっちゃ眠い言うとって、せやけど眠れん時もあるらしくて、そんなとき数を数える言うとったっけ。ただあいつは白クマを数える言うとったな。何で白クマやねんって言いながらも、また3人で白クマの数を数えたわけやけど。ベポは2匹で寝とった。それ数える意味あるんかーい!! わいらはまたアホみたいに1万匹数えてもうて、酒の肴に白クマの数を数えてるんちゃうかってぐらい酒瓶の量だけ減っとったな。

 

で、最後はジョゼフィーヌか。テキーラ寄越せ言うてきたあのアホは、ローが寝られへん言うたら鼻で笑いよってからに、まあ確かにわいも鼻で笑ったかもしれへんけど。テキーラ一気飲みしたあのアホは何て言うたんやったっけ? あ、そうそう、ローなんやからパンの数を数えたらええんちゃうかって言うたんやな。ほんまあのアホは悪い奴やで。よりにもよってローにパンの数を数えろっちゅうんやからな。ところがどっこいや、よっぽど寝たかったんやろな、ローの奴。めちゃくちゃ怖い顔してパンの数を数え始めたんやったな。で、効果が見え始めたんや。ウトウトしよった。けどや、酔っぱらっとったあのアホはローがパンの数を数えた後に100ベリーって付け足し始めよったんやな。おまえはどこまでベリーが好きやねん、このドあほが。

 

パンが1個。100ベリー。パンが2個。200ベリー。

 

って、代金か。しかも、しっかり暗算しとるしな。結局や、寝たんは100万ベリーまで数えよったジョゼフィーヌの方で。ローはまたまた1万個までパンを数えてしもうてたな。あれは不憫やった。不憫やったんやけど、何でやろなめっちゃおもろいのは。

 

 

 

ん? 何や、この気配。めっちゃ懐かしいやんけ……。

 

 

 

「どうも、お久しぶりターリー!! オーバン、あなたは相変わらずですね」

 

声の主を探して見上げたら、洒落た服着た優男が傘片手に枝に突っ立っとった。久しぶりや言われても思い出せへんねんけどな。どこのどいつやねん。せやのに、見聞色の気配では懐かしいって感じてまうのは何でやねん。

 

誰や。誰や。一体どこの誰やって言うねん。

 

「結構探したんですよ。でも中々あなたを見つけだすのは大変タリでしてね。ただ、この前ある手配書が新たに発行されまタリて。阻撃者(ブロッカー)。あなたのことですよね、ターリー!!!」

 

わいが狐に抓まれたような顔しとるんやろな、畳みかけるように奴は話してくるんやけど、まったく思いだせそうにない。

 

銀髪……。

 

「随分と昔の話しタリて、あなたは忘れてしまっているのかもしれませんが………………………………………………………、お前が忘れてるわけないんやけどな、なぁ、せやろ?」

 

 

わいと同じ口調。

 

 

ベルガー島、それよりもさらに昔、東の海(イーストブルー)

 

 

わいの故郷。いや、故郷やった島。戦争で消えてもうた島。

 

 

ヴァスコ……。

 

「ヴァスコ……、お前か? お前なんか? お前、生きとったんやな……」

 

「ああ、せや。タリ・デ・ヴァスコ。やっと思い出したか? このドあほが……。あの日の誓い、忘れてへんやろな」

 

ふざけたタリっちゅう語尾をかなぐり捨ててわいらの故郷の言葉で捲くし立てたヴァスコは、わいがもう必要ないかもしれへんなと思って胸の奥底にほったらかしにしとったもんを無理矢理にも取り出してわいの頭の中の中心に持って来よった。

 

あの日の誓い……。

 

 

お前はまだあれに拘ってんのんか。

 

 

 

わいの眠気はいっぺんに吹き飛び、心はもう既に存在はしていない故郷へと飛んでいった。

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

これからどうなるのか、まだ先は長いです。

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