ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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お待たせいたしました。

今回は12600字ほど

よろしければどうぞ!!


第47話 答え

偉大なる航路(グランドライン)” キューカ島

 

 

人生とは問いとそれに対する答えの連続だ。

 

 

即答できるものもあれば中々導き出せないものも存在する。

 

 

そうやって放っておいた問いが有耶無耶になることは決してない。いずれどこかのタイミングでそれは出さなければならない答えとして突きつけられてくるものだ。

 

 

今突きつけられている問いもまた同じ。これを有耶無耶にしたところで俺に後は無い。

 

 

 

 

 

道すがら、兄さんは私に聞かせているようでいながら実は自分自身に言い聞かせているようにそんなことを口にしていた。世界最強の剣士との呼び声高い鷹の目のミホークに対してはけじめを付けなければならないのだと言う。

 

私にはよく分からなかった。折角身代わりをしてくれる人間が現れたわけなのだから、そいつに任せてしまってそれで終了でいいじゃないと思ってしまうのはどこか間違っているだろうか? そもそもの話、兄さんは剣士じゃないし。剣士でもないのに、最強の剣士相手にけじめ、けじめって言ってもね~……。

 

多くを語ろうとしない兄さんに対して私は既に諦めの境地へと達してしまっている。ただ諦めを通り越すと今度は心配がもたげ始めているのが今現在の状況。兄さんが言ったことはひとつだけ。

 

お前は黙って成り行きを眺めていろ。

 

兄さんのことは絶対大丈夫って信じてるけど……。相手は鷹の目のミホークだ。いざとなった時に私が出ても助っ人になり得るかどうかも疑わしい相手。そんな奴を相手にして兄さんは何をどうしようと言うのだろうか?

 

まあでも、仰せのとおりに致しますよ。私はどこまでいこうとも兄さんの妹ですから……。ベリーの札束で横っ面を思いっきり引っ叩くことはあっても、肝心なところでは兄を立てることを(わきま)えていますよ、私は。

 

「そろそろ行く?」

 

小高い丘の上から眺めることが出来る電飾の世界は煙草の煙でどこか朧に揺れている。心ときめくような綺麗な景色であることは間違いないし、横にいるのが想いを寄せる相手であればこのシチュエーションは素晴らしいものだけど生憎横にいるのは兄さんである。兄さん相手にそんな気は微塵も起きたりはしない。

 

「ああ……、そうだな」

 

満足そうに言葉を呟きながら律儀にも吸殻をケースに戻す姿を横目にしつつ、私は視線を向かうべき場所へと移してゆく。電飾の世界から隔絶され、そこだけぽっかりとブラックホールのように漆黒の闇と化している場所。昼間、兄さんと鷹の目のミホークが命の遣り取りをしていた場所だ。

 

 

「ジョゼフィーヌ、大事なことだからもう一度言っておく。何が起ころうともお前は絶対に手を出すなよ」

 

 

そう言葉にしたいつにも増して厳格な兄さんの口調がいつまでも私の耳に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の闇の中で繰り広げられていた攻防と一人の傍観者。とはいえ、闇の中であるため傍観と言えども何も見えてはいないのかもしれない。見聞色の覇気を会得でもしていない限りそれを感じ取ることは出来ないだろう。

 

それにしてもすごい攻防……。

 

地上から上空での戦いを見聞色にて感じ取っているに過ぎないが王気(おうき)を会得したらしい私には手に取るようにそれが分かる。

 

剣に対するは傘。

 

双方の得物から迸る強烈な武装色の気配。

 

桁違いのスピードは私の見聞色でも後追いするのがやっと。

 

降り注いでくる音の数々は剣と剣の金属音のような生易しいものではなく大地に響き渡る轟音と呼べるもの。

 

「兄さん、すごいことになってるけど……」

 

新しい煙草を銜えたまま黙して語らない兄さんに対して声を掛けてみれば煙を盛大に吹かした後、

 

「……そうだな。ひとまずあそこにいる当事者その3に話を聞いてみよう」

 

顔をもうひとつの気配の方向に向けて歩いていく。

 

当事者その3ね~。経緯は大方聞いていたのだけれど、聞くと見るではやはり大違いである。否、これは見てるとは言えないか。何にせよ当事者その1とその2の攻防をそうだなの一言で片づけてしまえる私の兄さんってどうなんだろうかと思わないでもないが私としては兄さんの後を追うしかない。

 

「身代わりご苦労さん。それで、どうなってる?」

 

「ちょっと兄さん、もう少しデリカシーっていうものを持って……」

 

ベリー札が手元にあったなら私は間違いなく兄さんの横っ面を引っ叩いていたところである。

 

やっぱり札勘大会のベリー札、貰ってくるんだったわ。

 

「……キャハハハ、どうなってるも何もないわ。何なのよ。あんな戦いなんて見たことないのよ。私は本当はチョコ屋をやれたらそれでいいんだから。それに、暫しお待ちたりって言ってたのにもう夜なんだけど。真っ暗なんだけど。キャハハハ、もう笑うしかないわよ」

 

闇夜の中で佇んでいた当事者その3はかなり丈の短いワンピースを着た女の子。どうやらバロックワークスのエージェントだったらしいけど。明らかに年下だわ。今日3人目の小娘登場ね。状況が状況だけに相当おかしくなってそうだけど……。キャハハハが既に笑い声に聞こえないもの。

 

「……そうか。……ありがとう」

 

はい、よく出来ました。そうかの一言で終わらせたいような明らかに面倒くさそうなところで、ありがとうを付け加えたのは兄さんにしては上出来だわ。

 

「良かったじゃない。あの二人がずっとあの状態だからあんたはこうやって生きてられるわけなんでしょ。ねぇ、兄さん」

 

私も気休め程度の慰めを掛けてみるわけだが、相槌を求めてみても当の兄さんは聞いてないようで勝手にライターを着火させ手近の瓦礫に火を点けてゆく。どうやら真っ暗闇であることが問題だと思ったみたい。

 

一瞬にして周囲から火の手が立ち上がり、闇夜が紅蓮へと変わりゆき、上空の様子が視界に入りこんでくる。傘を開いた状態で鷹の目のミホークの大剣を受け止めている男の姿。

 

「これはこれはネルソン・ハットさん、お早いお帰りで。もう暫くはお暇されタリても良かっタリ……」

 

右手で傘を操りながら左手で敬礼のような仕草を入れてきたんだけど何なのあの手の位置。角度がおかしいんだけど。

 

「ねぇ、兄さん。私さっきオカマを見掛けたんだけど、もしかしてあれもそうなの? 手の角度がおかしくない?」

 

一切遠慮なんてするつもりがない私は思ったことを口にしてみるわけだけど、

 

「……そっとしといてやれ」

 

小声で窘められてしまったわ。もしかしたら隣の彼女が変なテンションでいるのはあの明らかに変な奴のせいなのかもね……。

 

「身代わり恩に着るよ。だが、お前もそろそろ次の出番が迫ってるんじゃないかと思ってな。……それに鷹の目とはどう足掻こうともここでケジメを付けないといけないらしい」

 

「……待ちくたびれたぞ。腹は括ったのか」

 

声音ひとつで一気に変わる周囲の雰囲気。紅蓮と闇夜がまるで生を持っているかのように蠢き始めている。

 

兄さんは何も言葉を発さない。上空から地上から絡み合う二つの視線。

 

「フフフ、私の開演時間までお気遣い頂いて感謝しタリ。お嬢さん、随分とお待たせ致しタリて申し訳ない。どうやら私たちはお役御免のようですよ」

 

そこへ、すっと言葉を滑り込ませて場の状況を少しだけ和らげていく変な奴。

 

「そいつはしっかり送り届けてやるんだな、傘協会の会長として……」

 

「ええ、勿論そのつもりタリて。……参りましょうか、お嬢さん。あなたのお仲間たちがどうやら激戦中のようだ」

 

最後の言葉と共に変な奴は開いていた傘を一瞬で閉じて見せその反動で爆発的な風を生み出して地上へと降りてくる。この風……、強烈な武装色だわ。変な奴だけど全く侮れない奴。

 

「ジュラキュール・ミホーク! 今宵は中々楽しませて頂けタリて……。ただ、傘を愛する者にだけは手を出さぬようご忠告しタリ……」

 

闇空へ向けてハット帽を掲げて挨拶を見せた後、

 

「それではネルソン・ハットさん、私はこれにて。……ネルソン・ジョゼフィーヌさんも……。あなたの下種なお金の話などお伺いしたいものです。結構有名ですよ、あなた。では……ターリー!!!」

 

私にも一言余計な言葉をぶつけてきたんだけど。

 

「ちょっと……あんた……」

 

思わず抜刀してしまったけど、抜き放った時には変な奴はいなかった。あの彼女も……。傘持つ二人は一瞬で消えてしまったわ。

 

 

 

そして、

 

紅蓮と闇夜のこの場所に残ったのは鷹の目のミホークと兄さんと私。邪魔者が居なくなったからなのかいよいよ以てして鷹の目のミホークは上空にて私たちと正対し、

 

「さて、答えを聞かせて貰おうか。貴様は何を目指す?」

 

穏やかならざる武装色を大剣に纏って禍々しいまでの黒刀としながら言葉を放ってくる。

 

答え? 答えって何? 王下四商海(おうかししょうかい)になる理由とかそういうことかしら……。

 

頭の中で鷹の目のミホークが放った言葉の意味を考えている間にも状況は刻々と変化していき、

 

鷹の目のミホークの黒刀から迸る武装色は刀だけでは飽き足らずに周囲へと伝播して燃え立つ紅蓮の炎を禍々しい暗黒入り混じるものへと変えていく。

 

対する兄さんも地に足を着けたままではあるが、そこから一瞬にして武装色は大地へと広がっていき、

 

二つの武装色は地と空の境目で激突する。目で確かめることが出来ても、それは物理的な激突では決してない。

 

にも関わらず、凄まじいまでのぶつかり合う音を生み出し、暗赤色の炎はさらに燃え立ち、大地は震え上がってゆく。

 

「……兄さん」

 

私はそう呼ばずにはいられなかった。

 

でも返ってくる答えなど有りはしない。ただただ私の前に立って鷹の目のミホークと正対し、右の掌を下向きにして横に突き出している。何もするなとでも言わんばかりに、何も問題などないと言わんばかりに……。

 

息苦しさを覚えてしまうような黒の世界。赤と黒の世界はいつしか黒一色の世界へと変わっており、それが私を猛烈に圧迫してくる。並の人間では立ってなどいられないであろう。強烈なまでの(パワー)は胸の奥底に容赦なく襲いかかってきて自信、確信、あらゆる大切なものを根こそぎ奪われていきそうな、そんな感覚。

 

「覇王色のマイナスの持ち主であるという話は真実であったか……。片鱗ではあるが……、確かに感じる。それが貴様の答えだと、そういうわけか」

 

鷹の目のミホークの居る場所は先程から何も変わっていないはずであるのに放たれる言葉がどこか遠く聞こえる。

 

兄さんは何も答えない代わりに腰に装着している連発銃を取り出して見せ、

 

その動きに合わせて鷹の目のミホークも黒刀を振り上げてゆき、

 

 

 

 

 

両者は物理的に激突……、しない。

 

前方へと構えてみせた連発銃を兄さんはそのまま放り投げている。

 

「違う。そうじゃないんだ、鷹の目。よく聞け……」

 

一拍置いて、放り投げた銃を指差しながら、

 

「俺たちの本分はこれじゃない。ましてや剣術でもない。……俺たちの本分は戦闘ではない。俺たちは海賊じゃない。賞金稼ぎでもない。俺たちは商人だ。商人の本分は何だと思う? これか?」

 

言葉を迸った後、兄さんの前に現れたもの。アタッシェケース10個。綺麗に束ねられた札束の数々。あれは私の管理方法だ。

 

「ちょっと、兄さんっ!!!」

 

私のお金じゃないの。否、私たちのお金か。そんなことはどうでもいい。とにかく私たちの全財産が今目の前に集められている。きっとローの仕業だわ。ってそんなこともこの際どうでもいい。

 

「どういうことよ、兄さんっ!!!」

 

事と場合によってはこれは札束で横っ面を引っ叩くだけでは済まない所業である。

 

そんな私の内心など全くお構いなく鷹の目のミホークは先を促すようにして無言のまま。

 

 

 

「金が商人の本分だと思うか? 断じて否だ。……くそ食らえだよ!!!!」

 

 

続いて促されるようにして叫んだ兄さんが次に取った行動は有ろうことか……、

 

 

着火したライターをアタッシェケースと札束の山に放り投げたのだ。

 

 

……………………………………………………………………………………………、

 

 

一瞬目の前で起きたことが何なのか全く理解出来なかった。

 

 

私たちのお金が燃えているのだ。盛大に。紙屑同然に。血と汗と涙で積み上げた私たちのお金が燃えているのだ。

 

 

あのお金はこれからのために必要なものだった。新たなる商売を始めるために、新たなる船を手に入れるために、王下四商海(おうかししょうかい)としてやっていくために。

 

 

なのに、なのに、なのに……、全てが燃え尽きようとしている。

 

 

悲しくて、悲しくて、悲しくて、言葉が出てこない。何も言葉が出てこない。

 

 

それでも、

 

 

「これが俺たちの答えだ。俺たちは商人であり、俺たち商人の本分は金じゃない。金じゃないんだ。……俺たちの本分はココとココにある!!!!」

 

 

兄さんは言葉を続けていく。涙に濡れた瞳で何とか見つめてみれば、兄さんは手を当てている。

 

 

己の胸と頭に……。

 

 

「俺たちは金で勝負してるわけじゃない。ココが生み出すアイデアで勝負してるんだ。金なんてものは後から付いてくるものなのさ。そして、ココに宿っているのは商人としての魂だ。いつ如何なる時であろうともな。それはいくら金を積まれようが変えられるものじゃない。力によって捻じ伏せられるものでも決してない。断じてだ。何物にも代えられない商人魂。政府のお偉方にちゃんと伝えておいてくれよ。俺たちは一筋縄ではいかないってことをな。お前たちには理解など出来ない全くの未知数の存在だとな。……そして、よろしくと……な」

 

 

兄さんが放った言葉に対して鷹の目のミホークは何も返事を寄越さず、ただただベリーの札束が炎と化していく姿を凝視するだけである。

 

 

黒刀が納刀されてゆく音が聞こえてくる。

 

 

黒一色だった世界は消え去り、残っているのは盛大に燃え上がる赤一色の世界だけになっている。

 

 

「見事。天晴れなり」

 

 

その言葉が意味するもの。兄さんが出した答えが鷹の目のミホークの出した問いに対する答えになったみたい。

 

 

鷹の目のミホークとの戦いにけじめを付けなければ後はないとまで言ってたぐらいなんだから、兄さんとしては何とかやり遂げたってことなんだろうけど、会計士の私としては複雑だ。

 

私たちのお金があっという間に消えてしまった。残っているのは船に載っている積荷だけである。そのうち珀鉛とダンスパウダーは引き渡してしまうのだから、さらに残っているものと言えば天空の鏡(シエロ・エスペッホ)にて手に入れた塩の木(ソルトツリー)だけ。何とも心もとない。

 

それでも何とかしないといけないのである。私がネルソン商会の会計士だ。総帥の決断に今更とやかく言うことは出来ない。この現状で金の工面をしていかなければならない。何とかしていかなければならないのだが……、

 

10億ベリー以上のお金を一瞬にして失うことがこんなにも喪失感を伴うことだとは……。

 

 

ベリー札の残骸を見つめながら私の想いは失った喪失感と未来への展望が開けているという何だかよく分からない感情に支配されていた。

 

分かっていることはただひとつ、

 

兄さんの横っ面を引っ叩こうとしても、引っ叩くためのベリーの札束はもうないということだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうクラハドール参謀、僕たちに作らせてばっかりで一体どこに行ってたのさ~」

 

パラソルの中でクラハドール参謀から説明を受けた後に僕たちが連れられた先はこの島の真ん中でそそり立っているあの巨大なパラソルのような葉をつけた巨大樹だった。巨大樹のてっぺんにはオーバン料理長がいるはずなんだけど、そんなことにはお構いなしでクラハドール参謀が連れていったのは巨大樹の内部。

 

螺旋状にくり抜いた階段を下へ下へと進んで行ったんだよね。そしたらぽっかりと何もない空間が現れたんだけど、そこは目的地じゃないらしくてさらに下まで進んでいくんだよ。突き当りまで行ったところでベポさんにクンフーだって言いだしてさ。すっかり乗せられたベポさんは底にあった木の塊を拳ひとつで叩き割ってしまったんだよね。そしたら下にさらなる空間があってさ。多分、秘密の空間ってやつだよね。

 

そこで僕たちがやっていること。クラハドール参謀から任された仕事。結構重要みたいなんだよね。だってさ……。

 

 

 

「“筋書き”通りに事を運ばせるには細心の注意が必要だ。ボスやトラファルガーと打ち合わせておく必要があった。で、そろそろ出来たか? ちんたらやってるわけにはいかねぇんだぞ? こいつには一応期限が存在している。しっかり耳揃えて()()()()()()を用意する必要があるんだからな」

 

 

 

 

僕たちベリー札を作ってんだもんね。偽札だけど。

 

なぜかは分からないし、クラハドール参謀も全てを教えてくれるわけじゃないけど、この空間は偽札作りの工房になってたんだよね。

 

でもさ、僕もそこまでバカじゃないつもりだからおおよそのところ推測は出来るわけで……。

 

上のぽっかり空いてる何もない空間にダンスパウダーの工場があったんだと思うんだよね。で、その下にさらに秘密の空間があってそこが偽札作りの工房ってさ。これ実は上より下のこっちの方が重要なんじゃないかなって思ったりするわけで。

 

まあそこまで僕が勘繰ってもしょうがないよね。

 

「ちゃんと10億ベリー分は出来あがってるよ。あとは端数分を作ればお終いだよ。これ結構僕たち頑張ったと思うんだけど。10億ベリー作るのにあの印刷機一体何回動かす必要があると思ってるのさって感じだよ。見てよ、ベポさんの腕を。印刷機の動かしすぎでもう肩から上に上がらなくなってるんだけど……」

 

てなわけで、6時間ぐらいかけて僕たちがどれくらいのことをしていたかをクラハドール参謀に身ぶり手ぶりを加えて伝えてみたんだけど、

 

「ざっと800回ぐらいだろ。貴様たちなら出来るだろうと踏んで任せた仕事だ」

 

軽く言ってくれるよ、まったく。ベポさんが聞いてたら怒り出すよ、きっと。ねぇ、ベポさんって、疲れすぎてそれどころじゃないか。

 

「ベポさ~ん、大丈夫? 悪いけどあと少しだけ印刷機動かさないといけないよ。あと少しだけ作らないと……」

 

「……分かって……る。……はぁ……、はぁ……、やるよ……。……でも、……はぁ、……取り……敢えず……寝たい」

 

そりゃそうだよ、ベポさん。800回は尋常じゃなかったもんね。っていうかベポさんもう半分寝てるけどね。

 

「……っていうか僕も目茶苦茶しんどいんだけど。ベリー札とにらめっこばっかりだしさ。裁断機も実は結構動かすの大変だしさ。僕も取り敢えず紅茶が飲みたいんだけど」

 

結構言いたい放題な僕たちに対してクラハドール参謀は眼鏡をくいっと上げた後に言うんだ。

 

「黙れ、貴様達!! 期限を守れなけりゃボスが死ぬぞ。貴様達ボスが死ぬことよりも睡眠と紅茶に有りつくことを選ぶってのか?」

 

「え~!! それ、もっと早く言ってよ。さっきはそんなこと一言も言ってなかったじゃないか」

 

「……うぅぅ……、やる……、今すぐやるっ!!」

 

結構な脅し文句なんだけど。ジョゼフィーヌ会計士みたいだよ~。

 

 

とにかく作るしかない。総帥を死なせるわけにはいかないもんな~。

 

 

 

 

 

「ほら、どんなもんだっ!! 出来たよ、クラハドール参謀!!」

 

僕たちは何とか残ってる体力を振り絞って残りのベリー札を作り上げることに成功したんだ。ベポさんは終わった途端にばたんきゅーだけど。

 

っていうかクラハドール参謀、デスクに足投げ出して椅子にふんぞり返ってるんだけど。いい身分だよね~。

 

「よし、間に合うな。上出来だ!」

 

「クラハドール参謀が淹れてくれる美味しい紅茶が飲みた……」

 

 

僕が仕事完了のご褒美をねだろうとしたその時。

 

 

一瞬何が起こったのか分からなかったんだけど、

 

 

強烈な爆音が耳に入って来て、さらには木の壁が吹っ飛んできたんだよね。

 

 

で、その爆風の中からヒトが現れたんだ。しかもこれが見たことないキレイなお姉さんなんだけど。紫の髪の毛だなんてお洒落だな~。ってそんなこと思ってる場合じゃないか。

 

「クラハドール参謀!!」

 

はっきり言って状況の意味が全く掴めてない僕はクラハドール参謀を呼ぶことしか出来ない。

 

「あぁ、多分バズーカで巨大樹を外から吹っ飛ばして風穴開けて入って来たんだろうな」

 

は? もう目茶苦茶だよ。っていうかクラハドール参謀もそんな冷静に言うことじゃないよ、まったく。

 

「やっぱりここにあった!! あ、ごめんね~、びっくりさせちゃった? …で、びっくりついでにコレ、貰ってくね」

 

キレイなお姉さんが優しい口調で気遣ってくれるんだけど、そのまま偽札の原版を持ってっちゃってるんだけど。なんか目茶苦茶自然な動作だったから一瞬固まってしまったよ。本当にバズーカ片手に持ってるしさ。

 

「え? え~っ!!! クラハドール参謀!! いいの? 原版持ってかれるよ。キレイなお姉さんに」

 

「原版はくれてやればいい。それも筋書きの内だ」

 

クラハドール参謀の筋書きって一体どこまで続いてんだろ。まったく謎なんだけど。

 

「あ、そうそう。言い忘れてたわ。私はカリーナ。あなたのところの会計士とさっきお近付きになったわ。よろしく言っといて。じゃあね~!!」

 

で、行ってしまったよ。ベポさんがクンフーで突き破った穴から上へ。

 

キレイなお姉さんだったな~。

 

「小僧、見とれてる場合じゃねぇぞ。仕上げだ。俺たちも移動しないとな。白クマを起こしてこい。まだ寝てやがる。…………、トラファルガー、準備完了だ。後は頼んだ」

 

小電伝虫片手にしてるクラハドール参謀に窘められて我に返った僕はベポさんの方に目をやるんだけど、ベポさん本当にまだ寝てるんだけど。どんだけ疲れたんだよ~、ベポさ~ん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鷹の目との一件が終わりを迎えて、俺は久しぶりにベリー札で横っ面を痛烈に引っ叩かれる羽目に陥っていた。しかも往復ビンタ。4往復というオマケ付きである。覇気を纏われていなかったのがせめてもの救いと言えよう。だが、痛い。ベリーの札束でのビンタはやはり痛い。

 

「もうっ、信じらんないっ!!!! 私がどんな思いでベリーが消えていくのを見てたと思ってんのよっ!!!! 兄さんのバカッ!!!! ローのバカッ!!!! クラハドールのバカッ!!!! あんたたちとんでもないお仕置きしてやるんだからねっ!!!! 覚悟なさいっ!!!!!!」

 

俺が鷹の目に対する答えのカラクリ。それを後ほど明かしたわけであるが、当然ながらこのような結果となってしまった。こうなれば知っていた全員同罪ってわけであり、俺もローもクラハドールまでもが往復ビンタの刑と相成ったのである。

 

俺たちは今、今回の最終目的地点、この島の灯台の程近くに集まっている。案の定オーバンとロッコはいないのだが。ローによると新入り二人と一羽も別行動だと言う。

 

「それにしても、よく鷹の目のミホークを騙し通せたわね。偽札を燃やすなんて芸当で。バレたらそれこそ命はないじゃない」

 

当然のように湧いて出てきたであろう疑問をジョゼフィーヌが投げ掛けてくるわけだが、

 

「いや、奴にはバレてたよ。本物のベリー札じゃないってな」

 

「は? どういうこと? 天晴れ、見事なりって最後に言ってたじゃない、あいつ」

 

さらなる真実をジョゼフィーヌには語ってやらざるを得ない。

 

「ああ、言ってたな。あの言葉の意味はこれがフェイクであることも踏まえてのものなんだよ。これは元々、騙し通せると思ってやってるわけじゃないんだ。ベリーを燃やすっていう商人にはあるまじき行動を見せつつ、それが実はフェイクであるという一種のずる賢さと遊び心を奴がどう受け取ってくれるかってところに俺たちは一か八かの勝負を賭けてたわけなんだ。で、奴はこの遊び心を理解して、満足してくれたってわけだ。俺たちが中々面白い奴らだってな」

 

全く以てやってる最中は心臓が口から飛び出しそうな心境ではあったのだが、何とか上手くいったものである。

 

「ジョゼフィーヌさん、あんたには悪いが知らされてない方が鷹の目屋には上手く伝わると思ってな」

 

「貴様は筋書き通りだったそうだな。中々鬼気迫るものがあったとボスが言っていたぞ」

 

真実を語ってやったのはいいのだが、ローとクラハドールの言葉は余計だった。無言の札束往復ビンタが再来してきたのは言うまでもない。

 

「あ~もう全然気が済んでないんだけど……、それで偽札作りの工房がこの島にあるってのはいつから知ってたのよ」

 

ジョゼフィーヌの癇癪はまだ収まってはないようだが怒りに身を任せるよりも事情を知りたいという欲求の方が幾分か勝ったらしい。札束を離すことはなく、ローとクラハドールにも逃がさないように睨みを利かせたままではあるが……。

 

「アラバスタだ。だが知ってたわけじゃねぇ。あくまでもクラハドールの推測にすぎねぇんだからな。砂屋に出会った時にこいつは微かにダンスパウダーの他に重要なものがあることを嗅ぎつけたらしい。あとは実地調査をすればビンゴだったってわけだな」

 

「今回は小僧と白クマがよくやった。こいつら二人だけで印刷機800回動かして10億ベリーと船に残っていたであろう分の金を作ったんだからな。褒めてやってもいいぐらいだ」

 

ローとクラハドールの奴、こんな時は黙っていればいいものを。火に油を注ぐようなものだぞ。

 

「何言ってんのよ、全部燃えちゃったじゃない。だったらもう800回動かしてさらに10億ベリー作っときなさいよね~!!!! 死にはしないでしょうがーっ!!!!」

 

おいおい、ジョゼフィーヌ、鬼が過ぎるよ。ベポとカールが恐怖の雄叫びを上げそうになってるぞ。

 

「そう言えば貴様によろしくと言っていたぞ。カリーナという女だ。大方札勘大会ででも出会ったってところか。偽札の原版を掠め取って行きながらな」

 

最後のひと押しをしてしまったクラハドールはあえなく札束往復ビンタである。当然ローもそのとばっちりを受けている。まったくお前ら、いい加減に空気を読め。

 

「アンの小娘に偽札の原版を掠め取られたですって???? あんたの筋書きなんか三文芝居のくっだらない脚本でしかないわーっ!!!!」

 

こうなってしまったからにはジョゼフィーヌの機嫌を取り戻してやるにはそれこそもう10億ベリーを濡れ手で粟に掴み取るぐらいしか方法がないが、そんなに世の中容易いわけがないのでひとまず話だけでも戻すことにしよう。

 

「クラハドールによればクロコダイルのバックには実は相当な奴がいるんではないかって話だ。そもそもに偽札の原版と言ってるが、あれはどう見ても本物にしか見えはしなかったんだ。つまりは本物の原版だったんだろう。ってことはだ……」

 

「政府からベリーの原版が流出したってことになる。裏の世界じゃあ都市伝説のように出回ってる話がひとつあってな。昔、マリージョアで起きた世紀の大事件である奴隷解放。魚人のフィッシャー・タイガーが起こしたっていうアレだ。当時マリージョアは大混乱に陥ったと伝えられている。で、その裏側であるものが流出したと言われている。それがベリーの原版だ。フィッシャー・タイガーが絡んでたのかどうかも定かではない。全くの別物なのかもしれない。だが、混乱に乗じて原版が持ち去られたってまことしやかに言われている。あくまでも都市伝説でしかなかったんだが……。これはひょっとするとひょっとするかもしれねぇ」

 

俺の言葉を途中から引き継ぐようにしてクラハドールが言葉を並べ立ててゆき、

 

「砂屋はアラバスタの件で失脚した。だが見方を変えれば別の視点が見えてくるんじゃねぇかってな。奴に後ろ盾が居た可能性だ。その後ろ盾を失った結果がアラバスタでのなれの果てじゃねぇのかってな。もしくは後ろ盾が中枢での権力闘争にて敗れ去った可能性がな」

 

ローがさらに引き継いでゆく。

 

「ベリーの原版は確かに這い出てきた闇の深淵を覗くためには絶好の代物だったが、くれてやっても問題ない。代わりに俺たちは印刷機を手に入れることが出来た。偉大なる海(グランドライン)前半において機械(マシン)技術のひとつを手に入れることが出来たのは大きい。それに、カリーナって女は新世界の大物ギルド・テゾーロに繋がってるらしいな。これでまたひとつ取っ掛かりを掴めたわけだ」

 

「面白くなって来たってわけ?」

 

「そういうことだ」

 

「兄さん何だか楽しそう。それで? そろそろ時間だけど、どうすんの?」

 

俺の気分の高揚に感化されたのかジョゼフィーヌの気分もどうやら鎮まっているようだ。

 

「答えを伝える。それだけだ。ただ、少しだけ細工をしておけ。珀鉛とダンスパウダー、それぞれ微量だけでも手元に残しておくんだ。ゼロとイチの意味を思い知ることがこの先無いとは言いきれないからな……」

 

最後は俺が締めて終了だ。

 

 

時刻は間もなく深夜0時、俺たちが向かう先はこの島で唯一の灯台。待っているのはもう一人の王下七武海(おうかしちぶかい)

 

ラストスパートと行こうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灯は揺らめく蝋燭のみという狭い空間。木製で少しだけガタのきている何の変哲もない椅子に座って“暴君”バーソロミュー・くまは俺たちを待ち受けていた。灯台内の狭い空間では大人数が入れるわけもなく、この場にいるのは俺とローにジョゼフィーヌ、そしてクラハドールだけである。ただし、俺たちに用意されている椅子は1脚のみであるため後の3人は必然的に立って俺の脇を固める形となっている。

 

くまとの間にはテーブルがひとつ。その上に置かれている紙片に揺らめく炎が映し出されている。王下四商海(おうかししょうかい)加入の協定書。

 

 

「珀鉛、並びにダンスパウダーと製造工場、()()()()()()()。答えとして受け取って問題ないか?」

 

ゆっくりと口を開いたくまの言葉は感情の欠片も存在してないような事務的なもの。

 

 

次の一声で俺たちのこれからが決まる。そう考えると込み上げてくるものがあるが、ここまで来てしまえば考えることもないのも確か。

 

「問題ない」

 

俺も感情のスイッチを入れることなく答えて見せる。

 

「協定書の読み込みが再度必要であればここでやっておくんだな。写しを用意することは出来ない。問題なければ最後にサインを」

 

協定書はクラハドールが丸々暗記している。先程から一切口を挟んできてないってことは協定内容をすり替えられているってことも無さそうだ。

 

絶妙の間を置いて脇からジョゼフィーヌがすっと万年筆を取り出してくる。少し前までの癇癪が嘘みたいな落ち着きようだ。

 

サインを終えれば、後は俺たちの刻印を押すだけで協定は成立する。

 

 

だが、単純に刻印を押すつもりはない。あいつは今の今までずっと待ってたんだろうか? 待つのがあいつの仕事であるわけだから問題ないのだろうが……。タイミングを見計らって、

 

 

そろそろ、いいぞ。

 

 

壁越しに聞こえてくる波音に突如として切りこんでくる鋭い金属音。一瞬後に、

 

 

協定書のサイン横には俺たちの刻印が穿()()()()

 

 

少し歪ではあるが紛れもなくそれはネルソン商会の刻印。

 

 

と共に、テーブルに突き刺さっている銃弾一発。

 

 

オーバン。

 

 

世にも珍しい狙撃による刻印。

 

 

上出来だ。

 

 

 

「きっかり0時、これより新たなる王下四商海(おうかししょうかい)協定成立だ」

 

くまの厳かなる声が灯台内に響き渡る。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

眼前に居座る七武海は新たなる幕開けを告げるのだ。

 

 

 

「ここからは()()()()()から発言させてもらう。ネルソン商会総帥へ……、俺はバルティゴからの密書を持参している」

 

 

ん? 何だ? バルティゴ?

 

 

反対の立場? 

 

 

反対??   !!

 

 

「お前たち、……悪いが外してくれ」

 

 

 

眼前の七武海がもたらしたものは正に新たなる幕開けであった。

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

詰め込みすぎましたね。

次でこの島もフィナーレでしょうか。

誤字脱字、ご指摘、ご感想、よろしければ心の赴くままにどうぞ!!
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