ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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読者の皆さまいつも読んで頂きましてありがとうございます。大変お持たせ致しました。

今回は7700字ほど。

前話であんな終わり方をしていてアレですが場面が大きく変わります。
51話の最後のパートを振り返って頂ければすんなりと読んで頂けるかもしれません。

よろしければ、どうぞ!!


第56話 ヒナ大乱心、……字余り

偉大なる航路(グランドライン)” バナロ島

 

ハッピーバースデー。

 

鳴り止まない拍手。途切れることがない祝福の言葉。そして、幸せに満ち足りたような笑顔。

 

カウンターの丸椅子にちょこんと座り、とても嬉しそうにしている祝いの当事者。小さな女の子。その周りに居るのは両親であろう。誇らしげな顔に感謝の表情を浮かべながら何度も頭を下げている。その様子をカウンター内にて優しく見守っている店主。

 

私もこんな風に誕生日を誰かに祝ってもらっていた時があったような気がする。一体何年前の話、何十年前の話か……。ヒナ、哀愁ってところね……。

 

「さあ、さあ、ルチアーノさんからケーキの差し入れだよ~」

 

両開きのスイングドアが押し開かれて、真っ白なクリームで装飾された大きめのケーキが台車に載せられて運ばれてくる。

 

「さっすが、ルチアーノさんっ!!」

 

「やっぱり、我らのルチアーノさんだーっ!!」

 

「バナロの“守護者(ガーディアン)”!!」

 

口々に叫ばれる親しみに溢れた言葉の数々。

 

 

ここ、バナロ島は開拓者の島だ。

 

4つの海から偉大なる航路(グランドライン)にやって来て、島に住み着くということは並大抵のものではない。それを成し遂げて見せたのがルチアーノであり、定住を続けてバナロ島を開拓者の島と言わしめるまでにしたのもまたルチアーノである。それがバナロの守護者(ガーディアン)と呼ばれる所以(ゆえん)

 

だが、政府から見てみれば守護者(ガーディアン)もただの犯罪者でしかない。ルチアーノは“西の海(ウエストブルー)”の出身。あの海は大部分を五大ファミリーと呼ばれるマフィアが牛耳っている。つまりはルチアーノも根っからのマフィアであり、やっていることはたとえ法律的に見なくとも悪行であることは間違いない。ただ、この男はそれを島の外に向けてやっているのだ。島の内側に対してはこんなにも優しい、ある家族の小さな女の子の誕生日を祝ってあげるために大きめのケーキを用意してあげるように……。

 

「おい、あんた、歌ってやってくれ」

 

そろそろ(わたくし)の出番である。了解よ、ヒナ了解。

 

情報収集の始まりはその場所に溶け込むこと。

 

ここでの私は流しの歌い手。

 

銜えていたタバコを灰皿に落としてからテーブルに置いていたヘッドセットを装着して、カウンター前の小さな少女に微笑みを向けてあげる。

 

 

よく聴きなさい。あなたへの祝いの言葉(バースデーソング)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~「ヒナ嬢、確認しました。火拳と黒ひげ、接触です。……ウーイェ――」~

 

何度目かのアンコールに応えて歌い終えたのち、自分のテーブルに戻ってからヘッドセットに流れてきた声。

 

フルボディだ。きっと踊っているだろうが……。

 

この島に入った瞬間に私の見聞色は異常事態を察知していた。本来なら集まっていてはならないであろう人間が集まり過ぎていることに……。強い気配の存在が多すぎることに……。

 

気配の存在を調べてみればそれは驚きに満ちていた。驚愕だわ、ヒナ驚愕。

 

けれど、

 

まずは一服。

 

ふぅ~~、

 

上司であるモネ少将からの資料にあるように、

 

カポネ“ギャング”ベッジ

 

ギルド・テゾーロ

 

が居たことは想定内。

 

逆にアレムケル・ロッコの姿が見えないことも想定内と言えば想定内。

 

だが、

 

ポートガス・D・エース

 

マーシャル・D・ティーチ

 

までもがこの島に居たことは完全に想定外であった。

 

なぜこの島に居るのか? 理由を探して頭を巡らしてみたときに、引き出しから現れたひとつの噂。白ひげの2番隊隊長が偉大なる航路(グランドライン)を逆走している。ある男を追っているらしい。

 

この噂の延長線上で考えてみれば、そのある男に追い付いたということではないのか。

 

ゆえに、私はバカではあるが従順な部下2人を放った。録音性質を持った希少の上に希少な黒電伝虫を持たせた上で……。

 

そして、私が上着のポケットに忍ばせている小電伝虫にヘッドセットは繋がっていて、フルボディからの報告を受けたわけである。さすがは情報部監察。センゴク元帥直属なだけあって装備はすこぶる充実している。これで情報収集をするには最適の仕組みを作り上げることが出来るというものだ。

 

この島では2つのことが同時に起きようとしている。

 

エースとティーチ、そしてベッジとテゾーロとロッコ。それぞれに対して部下を放ち、その様子を探ることが出来る。私はこの場所で歌でも歌いながら待機して居ればいいのだ。ヒナ楽勝、である。

 

ただ、問題がないわけではない。問題のひとつは部下から入って来るどうでもいい情報の数々。そういう時はヒナ無言、を貫けばいいのだが彼らは全く懲りていない。というよりも、私の無反応をむしろ楽しんでいるようなところもあって実に厄介な問題である。

 

まあ、いいわ。こうして重要な情報もまた(もたら)されるわけだから。

 

「あんたのハスキーボイス、最高だったよ! ここは奢らせてもらってもいいかな、どうだね一杯?」

 

店主の拳を傾ける仕草に笑みを返しながら、

 

「ええ、頂くわ」

 

頭を巡らしてみる。

 

確かにいいアイデアかもしれない。ビールジョッキに身を委ねてみるというのも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様相が一変したのは3杯目のビールジョッキを片付けた頃合い。

 

二つの強い気配が激しく動き出したことがフルボディから逐一(もたら)される報告によって裏付けられてゆく。

 

火拳のエースによる炎の能力と黒ひげによる闇の能力との決闘。

 

結果の如何によっては世界に大きな波紋を引き起こすであろうことは容易に想像できる。

 

 

店内の様子も慌ただしくなっており、楽しく飲み、語らい合っていた様子は鳴りを潜めてしまっていた。皆一様にして不安げな表情を浮かべ、ある者は店を飛び出して、少し先にて突然のように噴き上がった黒い煙を指差しながら恐れを成している。

 

だが、私自身の様相が一変した理由は別にある。もちろん私はザルであるので、3杯嗜んだビールというわけではない。3杯くらいでほろ酔い気分になっていてはヒナ屈辱、そのものである。

 

 

~「ベッジとテゾーロ、ルチアーノの酒場に入ります。……アーイェ――」~

 

私のもう一人の部下であるジャンゴからの情報が理由。当然ながらこいつも踊っているに違いない。いや、そうではない。私自身の様相が一変した理由は断じてこいつらが任務中にダンスを踊っているからではない。ベッジとテゾーロがルチアーノに会うということの方である。だからと言ってジャンゴがダンスをしながら情報収集することをよしとするつもりは毛頭ないが……。

 

 

 

「ジャンゴ、中の様子を直接聞かせて」

 

任務中にダンスをすることをたしなめるのは後回しにして、ひとまず黒電伝虫が拾う声を聞かせるように促してみる。

 

ベッジとテゾーロがルチアーノに会うというのはどういうことだろうか? そもそもがベッジとテゾーロの間にさえ繋がりがまったく見えてこないので、もう困惑よ、ヒナ困惑。でしかない。

 

~「まさか貴様、ベッジか? ベッジなのか?」~

 

~「……ドン・ルチアーノ、久しぶりだな」~

 

ジャンゴはルチアーノの酒場にかなり接近しているのだろう。ほとんど雑音なしに会話を聞き取ることが出来ている。

 

~「はじめまして、ドン・ルチアーノ。バナロの“守護者(ガーディアン)にお会い出来るとは実に光栄だ」~

 

~「誰だ、そいつは?」~

 

~「ギルド・テゾーロ、俺の商売相手(パートナー)だ」~

 

ベッジとルチアーノは初対面ではない。それはそうかもしれない。二人ともマフィアで“西の海(ウエストブルー)からやって来た身。かたやギルド・テゾーロは初対面。まだこれだけでは何も分からないに等しい。情報が足りない。

 

その間にも、

 

「おい、何か黒いものが押し寄せて来てるらしい。危険だぞ!! 逃げた方がいいかもしれない」

 

店の外へ様子を見に行っていた連中が血相を変えて戻ってきており、口々に危険であることを(まく)し立てている。

 

確かに決闘の様子は闇の底知れない能力が迸っている状態だ。

 

「あんたも逃げた方が身のためだぞ。ここはもうお開きだ」

 

既に店主までもが店から逃げ出す気マンマンなようである。それはそれで構わないが出来るなら4杯目を注いでいってからにして欲しい。アルコールを入れなければどうにも続きを聞いてられない状態だ。まさに渇望、ヒナ渇望である。

 

~「あなたはマリージョアに対する大きな利権を握っているそうですね。“守護者(ガーディアン)”という二つ名には別の意味も含んでいると伺いましたよ。ドラッグの“守護者(ガーディアン)”であるとね」~

 

~「ベッジ、何のつもりだ? 貴様、何を考えている?」~

 

~「……ドン・ルチアーノ、俺が考えていることはいつだってただひとつだ」~

 

~「ドラッグにおいてはかのドンキホーテ・ファミリーが強大な利権を持っていましたが、ことマリージョアにおいてはその限りではない。今、彼は別の仕事(ビジネス)で忙しそうでもありますしね……。私もマリージョアにはかなり食い込んできているという自負があるが……、奴らを握る手段は多いに越したことはありませんからね。つまりはあなたが一手に握っている“ヘブン”。……その全てを頂きたい」~

 

どうも話の雲行きが良くないようだ。最悪の結末が用意されているようにしか思えない。とはいえ話は核心に迫って来ている。“ヘブン”の元締めが誰なのかを突き止めることは情報部監察にとって積年の課題であったと聞く。それが全部明らかになろうとしているのだ。

 

私は店主の居なくなった店で勝手に5杯目のビールをジョッキに注ぎ足している。急ピッチだ。まさにヒナ突撃ね。

 

~「……ドン・ルチアーノ、“守護者(ガーディアン)はもう必要ない」~

 

~「……そういうことだ。……死ね」~

 

やっぱり……。これでドラッグの流れは大きく変わるだろう。荒れることは間違いない。頭を失った組織は急速に力を失っていき、それは新たなる組織の台頭を生む。だがそれはただ組織が入れ替わるということとイコールではない。そこには混乱と混沌が発生するわけであり、その間隙を突く者が当然現れて来る。故に荒れるのだ。もちろん、それがネルソン商会であってはならないという決まりもないないのだが……。

 

ビールが美味しい。こんな話を聞くだけでビール3杯はいけそうだ。感激よ、ヒナ感激。

 

 

 

~「……終わったようじゃな、小僧ども。面白いことを考えるもんじゃ」~

 

~「……どこから現れやがったんだ。……アレムケル・ロッコ」~

 

とうとうロッコが現れた。これは最大限の注意を払わなければならない。何せ相手はあの“海王(かいおう)”である。ビールは名残惜しいが私自身が出張らなければ……。

 

「ジャンゴ、私もそっちへ向かう」

 

~「アーイェ――、ヒナ嬢、気を付けた方がいいぜ。俺も少し離れる」~

 

まったく、ちっとも気を付けているようには思えない。だが、たしなめている時間でさえ今は惜しいのだ。

 

ジョッキを一気に呷ったあとにテーブルへと叩きつけるようにして置いて、私は店を飛び出していく。

 

店の外は地獄絵図であった。ここに入る前までは確かに存在していた右側半分の街並みがそっくりそのまま跡形もなく消え去ってしまっている。これがヤミヤミの能力(ちから)だというのか。だが今はそのことさえ気にしている場合ではない。

 

~「わっしはただ“掃除”をしにやって来たに過ぎん」~

 

ロッコの言葉はまだ聞こえて来る。急がなければならない。

 

私が向かう先はまだ何とか残っている左側半分の街並みの方向。ルチアーノの酒場。いやルチアーノのものだった酒場。

 

瓦礫が風で舞う通りを私は駆けてゆく。私の足並みは一瞬にして(ソル)へと切り替わってゆき、表通りから裏路地へ。障害物のようにして転がっている樽を避けて進み抜け、塞ぐようにして横たわっている荷車を指銃(シガン)にて粉砕してゆく。

 

 

 

 

そして、

 

~「……トリガーヤードへと繋がる道筋は全て消し去る必要があるんでな……」~

 

ロッコが放った言葉をヘッドセット越しに聞き取った直後。

 

背後から忍び寄る悪寒のような気配に私の身体は何とか刹那で捻りを加えることに成功したが……。

 

右腕を掠りゆく物体、肉眼では決して捉えられないであろう速度で飛翔してきた銃弾。

 

咄嗟の武装硬化とオリオリの緊縛(ロック)にて二重の防御を施そうともそれは私の身体から鮮血を迸らせることに成功していた。

 

だが痛みなどに頭を巡らしている場合ではない。

 

振り返った頭上の左、ホテルと記されている建物の屋上給水タンクの影。

 

 

剃刀……。

 

速い……。

 

ここは能力を発動させるしかない。悪魔の実の能力は無限に広がりを見せることが出来るのだ。

 

私の緊縛(ロック)する身体を具現化するのは4つ。

 

その全てを以てして、

 

四姫檻檻(しきおりおり)

 

4つの私から放つのは緊縛(ロック)の嵐。四方八方から(いまし)めてやればいい。

 

「私の体を通り過ぎる全てのものは……」

 

……気配が存在しない。

 

……消えている。

 

一瞬のち、

 

眼前には突然の人差し指。

 

指銃(シガン)……。

 

いや、寸止め……?

 

現れたのは右眼鏡に十字線が入った男。奇妙な形の狙撃銃を肩に乗せ迫って来る。

 

「今日もまた別れ道……、ただ嘆かわしいことに貴様にその選択権はない」

 

「あなた、誰?」

 

何なの、こいつ。その言い方、頭に来るわ。乱心よ、ヒナ乱心。

 

「知る必要のないことは数多い。もとより、貴様には質問をする権利すら存在してはいないのだ」

 

「あら、そう。……けれど、一服する権利ぐらいはあるわよね?」

 

私は相手からの返答を待たずして短くなった銜えタバコから最後の煙を吐き出してみる。

 

だが男は目の前にはおらず、

 

「権利と自由の話に際限はないが……、ひとまず貴様に言いたいことはひとつ、……退け」

 

すぐ隣の建物外壁を背にしている。

 

何様のつもりかしら……。先程のは見聞色を使っていたに違いない。

 

覇気使い、しかも相当な手練れ。

 

力は王気(おうき)以上、いやもっと上かもしれない。

 

正直言って敵う相手ではない。

 

そんなことは分かっている。

 

分かり切っているからこそ私はその男を睨みつけてやる。

 

もう乱心も乱心、ヒナ大乱心、……字余りね。

 

ヘッドセットを口元に近付けてゆき、

 

「二人とも、撤収よ」

 

「どう? これで満足かしら?」

 

部下二人に命令を下したのち、男に向かって言葉を投げつけてやる。

 

 

 

だが男からの返答が来る前に、

 

「ブラーボー!! お二人とも見事な遣り取りターリて、私……、感動しまし、ターリ―!!!!」

 

まったく別人の声が背上空から降り注いでくる。

 

咄嗟に振り仰いでみれば、傘屋と記された建物屋上給水タンクを背にして、一人の変な優男が立っていた。手に傘を持って……。

 

変なのに優男、優男なのに変、困惑、ヒナ困惑だわ。

 

だって手の動き、変な手の動きをしていた。

 

「……これはこれは珍しい。世界傘協会会長に相見えるとは……、巡り合わせですね」

 

どうやらこの男はあの変な優男を知っているらしい。

 

確かに世界傘協会会長ならば傘屋の屋上から傘を持って登場してもおかしくないけれど、色々と突っ込むポイントが有り過ぎる。

 

眼鏡男の挨拶に対して軽く会釈を見せたのちに、変な優男は自らの傘を開き、刹那後には私の正面にて微笑みを浮かべていた。右手の甲を顎の下に寄せながら……。

 

 

ターリ―って何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々と質問事項が有り過ぎた私は矢継ぎ早にそれを繰り返した結果分かったことは、

 

ひとつ、世界傘協会は世界中の傘を愛する人間の為に存在する組織であり、傘を愛する人間が困難に陥った時には何を以てしても駆けつけるという組織であるということ。つまりは意味がよく分からないということ。

 

ひとつ、その中でも会長という役職は今までずっと空位で有り続けており、それを襲名する者が現れたのは実に24年ぶりであるということ。つまりはどうでもいいということ。

 

ひとつ、あのお辞儀する時の仕草には特に意味がないということ。つまりは聞くだけ無駄であったということ。

 

不満よ、ヒナ不満。

 

 

それよりも先程から私が感じているこの違和感のようなものの正体は何だろうか?

 

心の奥底で何か引っ掛かっているものがあるのだ。

 

なのに、それが一体何であるのかが分からない。

 

答えはすぐそこに有るような気がするのにも関わらず、これといった答えが見つからない。

 

もどかしい、実にもどかしい。ヒナ……、不明……と表現するしかないわね。

 

「ところでお嬢さん、あなたは傘を愛しておられまターリか?」

 

不意に投げ掛けられたその質問について考えてみる。

 

これはもしかして哲学的な質問か何かなのだろうか? 傘を愛しているかどうか……?

 

「私は傘を持たないわ。むしろ……持ったことさえないかもしれない……」

 

世界傘協会会長の前で発言する内容では決してないが、それゆえにどんな反応を示すのかには少しだけ興味が湧いてくる。

 

「…………ターリ―!! ……あなたはどうでターリか?」

 

結構便利ね。そのターリ―っていうの……。

 

「傘に対しては博愛精神を抱いています」

 

……意味が分からない。ヒナ唖然。

 

「素晴らしい!! まさしく、ターリ―!!!!」

 

お辞儀が深い。手の角度がとても鋭角。……百点の解答だったのね。

 

「さすがはヴァン・オーガーさん。……“ブリアード”なだけありますね。五老星が目を掛けるわけターリ……」

 

……ん? ……まさか、この男……。

 

王気(おうき)よりもっと強大であろう見聞色の使い手。変な形の狙撃銃。五老星が目を掛ける……。

 

五老星が直で動かしている諜報員……。

 

「……貴様、その名をどこで……。一体、貴様は……」

 

抑えた口調ながらも明確な敵意を以てして貴様と呼ばれた優男はそれでも表情を変えることはなく微笑みを湛えたままで、ゆっくりとした動作でお辞儀をしながら右手の甲を顎の下に寄せて見せるわけである。

 

「……海軍本部情報部監察付ヒナ()()、あなたもオーガーさんには興味津津なはずでターリ……。良かったではありませんか。これでお近づきの印として自己紹介が出来たわけターリて。私ですか? それは皆さんご存じの通り、世界傘協会会長ターリて。名を“コラソン”と申しまターリ。ドンキホーテファミリーにてしがないハートの席を占めておりまターリて、…………情報屋などやっておりまターリ」

 

そこで言葉を切った優男、いや()()()()は顔を上げた。微笑みを湛えたままで……。

 

 

だが私には瞬間はっきりと分かったことがある。それは決して根拠があるわけではない。直観、いや女の勘としか言えないようなものかもしれない。それでも私には確かに分かってしまった。

 

この男、コラソンにとって微笑みとは無表情とイコールであることを……。

 

そして私はようやくにして心の奥底に芽生えていた違和感の正体にも気付いてしまった。

 

 

臭い……。

 

 

この二人には同じ臭いがする。それは私と同じ臭いでもある。

 

つまり潜入をしている。潜入をしている者特有の醸し出す何かを感じ取れる。

 

互いに誰かを代弁してこの場に存在している。または偽りの姿にて武装して本当の姿を奥底に秘めている。

 

そんな気がしてならない。

 

「皆さん、情報交換と参りませんか?」

 

 

 

これは、ヒナ了解、……と言ってもいいものだろうか?

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

今話は裏でございました。

誤字脱字、ご指摘、ご感想、よろしければどうぞ!!

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