ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第59話 シャル・ウィ―・ダンス?

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島東端

 

己の右足が踏みしめた草叢(くさむら)は靴底を通して命の感触を(もたら)し、広がる西空からは女神(ヴィーナス)の色彩は消え去って、死神(グリムリーパー)の登場を歓迎するかのように闇が急速に広がりを見せてゆく中で、

 

突然のようにして浮かび上がった円い月。

 

満月……。

 

闇を照らすために生まれ出でたかと思う程に神々しいまでの光を放つそれが生と死の境界線を進みゆく己を照らし出す。

 

どちらに転ぶか分からないその瞬間は次の足で草叢を踏みしめたその時かもしれず、はたまた7歩踏み進めたその後かもしれない。

 

 

それにしても、今回をシャンブルズ作戦(フォーメーションシャンブルズ)と名付けたのは一体どいつだ?

 

ローなのかそれともクラハドールなのか、どちらにせよこれには情緒というものがない。

 

どうせならアレだ……、

 

アラバスタにてドフラミンゴはこう言った。

 

踊れと。

 

確かに取引に踊りは付き物だ。会議が踊るように取引も踊る。

 

そして月が出てる。

 

 

ゆえに、

 

月下の舞踏会と洒落こんでもいいだろう。

 

スタンバイはOKか。

 

正装は完璧か。

 

会釈に微笑みを忘れるな。

 

お辞儀は慇懃無礼にして、深く深くだ。

 

シルクハット片手に、

 

世界に問い掛けてみる時間がやって来た。

 

 

 

シャル・ウィー・ダンス(俺たちが相手だ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島 モックタウン

 

闇の帳が下りて森の中は静寂が支配している。

 

もちろん、私の脳内は音で支配され続けているけれど。

 

確かに聞こえた。

 

総帥さんの声が。

 

月が出てるって。

 

円い月が出てるって。

 

用意はいいかって。

 

舞踏会の始まりだって……。

 

 

合図は決まっていた。

 

上空から発砲された一撃。

 

飛び回るペルに座するオーバンさんが定まらない場所で定まり過ぎている精確な狙撃をひとつ。

 

私は全てをモニタリングしていた。

 

引き金を引く音は驚くほどに柔らかで、

 

弾丸が大気を抉って貫き進む音は身震いするほどに鋭くて、

 

衝撃、いえあれは迫撃と表現していいかもしれないのその瞬間には世界が潰れてしまいそうな重い音がした。

 

 

どちらも互いに場所は定まっていなくて。

 

かたや空飛ぶハヤブサの上、かたや“手術室”内をぐるぐると回されている宙空。

 

狙撃銃の引き金に指を掛けて、弓を精一杯に引き絞って。

 

互いに違いながらも同じような結果を(もたら)す狙撃と射撃。

 

勝負の差は紙一重だった。

 

着弾の方が一瞬早く。矢は力を失い、精度を落として。

 

射撃手の短い呻き声が全てを物語っていた。

 

 

ダンスの始まりは静かにゆったりと、

 

でもテンポは加速度的に上がっていって、

 

隣でジョゼフィーヌさんが笑みを浮かべて言っていた。

 

「踊ってくるわ……」

 

って。

 

とても嬉しそうに、とても楽しそうにして姿を消した。

 

 

私は踊らない。

 

いえ、私は踊れない。

 

今回の私は最後に踊る場所を見つけなければならない。

 

私の能力を最大限に駆使して。

 

絶対に聞き逃してはいけない。

 

その声を。

 

声は必ず聞こえるはずだから。

 

 

そして、

 

声は聞こえた。

 

~ビビ王女……………………欲しいな~

 

(あいだ)が抜けているのは能力を使った証。それは分かる、

 

けど思う。

 

カール君が私に対して能力を使う意味はない。声を聞くだけでどこに居るのかは判明するのだから。

 

もしかしてあれかしら。

 

間に入る言葉は聞かれてはいけないものなのかもしれない。

 

最近カール君に聞かれたことがある。

 

膝枕されるってどんな感じなのかと。

 

不覚にも私は小さな子供相手にどきっとさせられてしまい、まともに返答することさえ出来なかった。

 

もしかして、もしかすると、間に入るのは膝枕して、だろうか。

 

だとしたら……、何だかとても恥ずかしい……。

 

いえ、そうではない。そんなことを妄想している場合ではない。

 

あの子は賢い。意味のないことはしない。

 

だから能力を使ったことには意味がある。

 

それは何か?

 

これから音を拾えなくなる。そういうことではないだろうか。

 

もしかしたら気配さえも……。

 

 

急がなければならない。

 

急いで貰わなければならない。

 

でないとカール君の声を拾えなくなるかもしれない。

 

居ても経ってもいられない。

 

動こう。

 

「クエ―…………」

 

「……なあに? カルー……、あなたもしかして心配してくれてるの?」

 

いつも一緒に居るカルーは私の些細な動きひとつで考えていることが分かるらしい。首を捻りながら私を見上げて来る瞳の色は心配に溢れている。

 

「大丈夫よ。祖国ではあれだけ戦ったんだし。前の島でも戦えていたんだから」

 

今回はこっぴどくやられてしまって全身傷だらけ血だらけだけど。いえ、今回も、よね。

 

それに、

 

みんないる。

 

前とはちょっぴり違うけど、今はネルソン商会の皆さんがいる。

 

一緒に時間を過ごせばそれだけ分かることがある。

 

だから、動く。

 

だから、

 

「お願い、カルー。急いで」

 

何とか頷いて見せたカルーの背に揺られながら私は急ぐ。

 

最後のダンス場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島東端

 

兄さんの芝居がかった言葉選びは嫌いじゃない。

 

月下の舞踏会。いいじゃない。何より踊るのは好きだしね。でも、刀抜くのはもっと好きだけど……。

 

私のダンスの相手は賞金稼ぎ。ダディ・マスターソンという男。手配書には載ってないからよく知らない。

 

ビビによれば、イトゥー会とか言う組織のBHなるものらしく、31丁拳銃を持つ狙撃手(スナイパー)だという。

 

銃と刀、得物は違えど多分私たちは似ている。31丁拳銃と言うなら余程の早撃ちなのだろう。

 

居合と早撃ちならば良いダンスが出来ると思うのだ。

 

 

 

勝負は刹那で決まるもの。

 

ローの能力に誘われて移動した場所。

 

見聞色は先に間近の海と広がる草叢(くさむら)を、

 

兄さんの存在が既に無いことを、

 

眼前の男がまだ振り返ってはいないことを感じ取っていた。

 

 

気配は消さない。

 

姿も消さない。

 

勝負するのはスピード、それ唯ひとつ。

 

大地の感覚を感じないほどのタッチだけでこの場に降り立ち、

 

(ソル)の、

 

その先……。

 

(キル)

 

だが、

 

男の背中を覆うマントを突き破って飛び出す銃弾がふたつ。

 

振り返らずの射撃は明らかに初速を凌駕してゆき。

 

それでも、

 

身体に一切の重みを感じない今の私の方が刹那分早く、

 

花道(はなみち)は既に掌の中へ。

 

ところが男はもう振り返って、

 

次なる銃弾は目と鼻の先。

 

でもそんなの関係ない。

 

(キル)で動く私はその先にいる。

 

月の光に照らされて、

 

最速で舞う。

 

「居合 “ワルキューレ”」

 

生者と死者を分かつ迅速の舞い。

 

それは違わず相手の左首筋に刃を突き立てるも、

 

同時に私の右こめかみに銃口が突きつけられて、

 

「……ネルソンか。……相討ち……だな」

 

「ええ、そうみたいね」

 

言葉を交わし、()()()()は終了を見せる。

 

兄さんの言いつけは守らなければならない。

 

事後でも構わないだろう。

 

実際に見られたら確実に怒られるかもしれないけど、妹が死ぬよりはましなはずだ。

 

(キル)直前にしてご挨拶なんて無理。

 

だから今、

 

シルクハットを脱いでお辞儀をして見せるのだ。

 

お気に召していただけましたでしょうかと。

 

 

 

 

 

相討ちに終わった相手、ダディ・マスターソン自身にはどうやらお気に召して頂けたみたいだけど、その娘にはちっともお気に召して頂けなかったみたいで。

 

っていうか有ろうことかこの娘、否、生意気なガキはこうのたまった。

 

「誓約書にサインしたのおっさんだったじゃない。おばはん、誰?」

 

聞いた瞬間に自分の体内で何かが弾ける音がしたことを確信した。それは私の中の何かが瞬間で沸騰した音であり、私はすぐにでも屈みこみ、自らの両手を以てして生意気なガキの両頬をおもいっきりに、否、おーーもっっいっっきりにっ引っ張っていた。隣でバカみたいに笑っている栗を頭に載せたふざけた奴もこの際同罪である。

 

 

今度言ってみなさい、……斬るわよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島 モックタウン

 

 

シャル・ウィ―・ダンス(お相手して頂けませんか)?」

 

の第一声と共に降り立った場所は辺り一面何もない場所であった。否、何かはあったのかもしれない。つい先程までは小さいながらも街並みがあったはずだ。柄の悪いどうしようもない連中しか居なかったが建物が存在していたはずだ。

 

だというのに、そんな残り香さえ消え去ってしまいあるのは全てを燃やし尽くし焼き尽くし、掻き回して振り回し真っ黒に焼け焦げて残滓となった何かのみ。

 

地獄そのものの様相を呈しているこの場所に俺を連れてきた当の本人は既に居らず、居るのは表情だけで人を殺せそうな威圧感を纏った偉丈夫のみ。

 

「……シャンブルズ作戦(フォーメーションシャンブルズ)は順調だ。トラファルガーを動かすことが出来た」

 

そうか、こいつも居たのか。

 

「クラハドール、順調かどうかは奴をどうにかしてからの話だろ。それで、お前はなぜここに居るんだ。ローと共に向かう手筈だったよな」

 

シャンブルズ作戦(フォーメーションシャンブルズ)は若干修正を加えた。ただそれだけのことだ」

 

作戦名を連呼するあたり相当気に入っているらしい。さては名付けたのはこいつだったか。

 

「お前もここで踊っていくのか? 確かにな。ここからだと月がよく見える。いい舞踏会になりそうだ」

 

辺り一面が開けた状態となっているこの場所は遮るものがなく、青から漆黒へと変わる闇の中に円い月はささやかな光を(もたら)している。

 

シャンブルズ作戦(フォーメーションシャンブルズ)に満月は欠かせないが俺に踊る相手はもういない。ザイの狙撃でそこに居る」

 

クラハドールが指す先にはピクリとも動かないスキンヘッドの男が倒れこんでいる。傍らに弓を携えながら。

 

それにしても3連呼するか。余程お気に入りらしいな、シャンブルズ作戦(フォーメーションシャンブルズ)。まあこいつに情緒を求めること自体がお門違いなのだ。まあそれもいいだろう。

 

「おどれがぁネルソン・ハットか。……潰したるけぇ、早う来んかいぃ!!!!」

 

そして血反吐垂れ流す海軍本部大将はすっかり出来あがってらっしゃるとそういうわけか……。ローの奴め、一体どんな踊りを披露して見せたというのか、まったく。

 

まあいい。そっちがその気なら俺も間髪入れるつもりは毛頭ない。

 

「ああ、始めようか」

 

言葉を返したその先から直ぐ様に(ソル)へと移り、一気に間合いを詰めてゆく。そのスピードそのままに身体に捻りも加えて遠心力を纏わせての蹴り、

 

嵐脚(ランキャク)黄金突撃(ゴールドラッシュ)”」

 

を見舞ってやるも、瞬間でマグマ化された腕にて阻まれる。武装色を纏ってなければ足一本持ってかれていたことだろうが足一本で済むなら安いものかもしれない。

 

(ソル)月歩(ゲッポウ)を掛け合わせた剃刀(カミソリ)にて空中を叩きつけながら赤犬の背後へと抜けて一旦間合いを空け、

 

嵐脚(ランキャク)黄金跳撃(ゴールデンスプラッシュ)”」

 

放つは跳ねる蹴りの鎌風。

 

赤犬もまた動き出していることは見聞色が逃していない。

 

蹴りと拳が空中にて炸裂し、武装色の叩きあいとなれば潰し飛ばされるのは俺の方だ。

 

膝で爆発が起こったような痛みが迸るがそれでも間髪さえ入れるつもりはない。

 

地に足を付けたと同時に呻き声を上げそうになるのを何とか押し潰しての(キル)

 

人智を超えた移動術、それが(ソル)だ。ではその先はないのか。否、ある。

 

この世に限りなど存在しないのだ。ゆえに(ソル)のその先もまた存在し、俺たちはそれに(キル)とそう名付けた。

 

間合いを詰めるのは一瞬で、右足を黄金化させ、武装硬化の意識は足先。生み出すは黒くも黄金色な鋭い刃。奴の手前で跳躍し、首を刈り取るつもりで右足を振り下ろす。

 

 

嵐脚(ランキャク)黄金刈撃(ゴールデントマホーク)”」

 

俺を見上げる赤犬の表情は憤怒そのものであり、(ただ)れるような熱を間近に感じれば、奴のマグマと化した左拳が突き上がるようにして振り上げられ、

 

「小僧がじゃかぁしぃわぁ!! 狗怒(ごうど)!!!」

 

瞬間で世界は赤く染まるも、見聞色はギリギリのところで働いており宙返りざまでの紙絵武装。

 

それでも己の背をマグマは掠めゆき、火傷で済んでいるかも疑わしい痛みを叩きつけられる。

 

まだだ。こいつ相手には動き続けなければ骨も残らないだろう。

 

着地前には連発銃を取り出しており、ぶっ放す。

 

増幅された武装色は、より研ぎ澄まされた武装色は音速を凌駕させる。

 

音速銃(マッハリボルバー)黄金の六芒星(ゴールデンヘキサグラム)”」

 

音より速い弾丸は当然ながら銃声を耳にした瞬間には赤犬の腹へと到達するも、見聞色の読み合いならば回避されるのも当然。

 

それでも1発は身体を抉ることが出来る。本部大将相手にして。

 

紙一重、紙一重だけでも俺たちは迫りつつある。最後の嵐脚(ランキャク)にも手応えはあった。

 

動け。

 

動かなければ死ぬ。

 

この海の掟は碌でもないほどに思い知らされている。

 

赤犬を遠目にして回り込むように移動しながら能力を行使して再装填を終え、

 

音速銃(マッハリボルバー)黄金並行銃撃(ゴールデンパラシュート)”」

 

放つはより精度を狙った二つの弾丸。速度は同じく音を超える。

 

「俺のダンスはお気に召して頂けているだろうか?」

 

マグマを身体に喰らうことは尋常でないのは確か。ゆえに瀕死へのひとつ手前であることに疑いの余地なし。

 

だと言うのに、俺の口角は自然と上がる。ダンスというのは楽しいものなのだ。

 

「そんなもんは終わりじゃぁ!!」

 

まあ相手も同じ気持ちと言うわけにはいかないか。

 

それに、精度を高めようとも回避されるのは必定。ならば追跡(トラッキング)を掛けておくのは当然だ。

 

追跡放物線(トラッキングパラボラ)

 

空を切った弾丸は突如として放物線を描いてゆく。音より速いため肉眼では分からないが、確実に赤犬を定めてゆき、

 

 

くっ……、

 

眼前にて、

 

「大噴火!!!」

 

己の見聞色では間に合わない速度にて懐へと飛び込まれ、マグマそのものの正拳突き。

 

生と死の境界線上を何とか渡り歩いていたところへ一気に境界線の向こう側へと突き落とされるような一撃。

 

防御は既に間に合わない。

 

それでも武装色を、鉄塊(テッカイ)を、紙絵武装を以てして防御に一縷の望みを託す………………、

 

 

なんてのはくそ食らえだ。

 

防御ではなく抗ってこそ紙一重分俺たちは奴らに迫ることが出来るのではないのか。

 

 

であるならば、

 

黄金正拳(ゴールデンマグナム)

 

己の武装色の全てを拳に纏って叩き込むしかない。それしか道は存在しない。

 

赤犬のマグマに己の黄金が激突し、瞬時に爆発が湧き起こり、それは武装色と武装色、マグマと黄金の激突である。

 

武装色の極み。言葉では表現し尽くせない硬さを纏ったそれは一瞬にして己の身体の髄へと深く到達し、マグマの業炎は溶けて消滅させられるほどの勢い。

 

真っ向勝負で武装色を上回れる程の底力は無いというのが今の俺たちの現状と言うわけか。

 

拳の勢いを殺された上で逆に勢いよく吹き飛ばされる宙空にて思いを馳せる。

 

 

まだだ。

 

まだ、追跡(トラッキング)は終わってはいない。

 

遠のきかける意識の中でも何とか繋ぎとめてみせて、掴んだ気配は武装色を纏った弾丸の爆発がマグマを抉って達したことを確認する。

 

背から着地しか出来はしないが、何とか立ち上がって見せれば遠目には赤く染まる靄の中から現れ出でる赤犬の姿。

 

形相は激怒など優に通り越し、俺の見聞色はけたたましい警告を脳内に響かせている。

 

奴はアレを使うつもりだ。

 

青雉がやって見せたようなアレをマグマにてやるつもりだ。

 

俺に紛うこと無き死を覚悟させたアレを……。

 

 

 

 

「終わりじゃぁっ!!! 地獄絵………」

 

 

 

~プルプルプル、プルプルプルプル……~

 

 

 

人はその場に相応しくない音を聞いた瞬間には思考停止に陥ってしまう。

 

今まさに、世界へマグマが放たれようとする瞬間には特に……。

 

 

だが、

 

冷静も極まる奴は存在するものであって、

 

「鳴ってるぞ……、出なくていいのか」

 

それは我が左腕の参謀であって、

 

この地獄の血みどろのダンスをまったく意に介さず、微動だにせず静観に終始していたメガネ野郎であった。

 

電伝虫。

 

念波妨害されていたはずのものが音を出している。それはこの地獄の中でも何ひとつ変わることなくその容姿を見せており通話を求めている相手の表情を表現して見せている。

 

「出なくていい相手ではねぇと思うがな……、立場上は」

 

憤怒など既にかなぐり捨てている表情をした赤犬は世界をマグマで染める気配を引っ込めると躊躇なく電伝虫の受話器を手に取ってみせる。

 

黒縁メガネを掛けて鬼気迫る表情を見せている電伝虫の受話器を……。

 

「元帥!!! 何の用ですけぇっ!!!!!」

 

これが我が参謀の筋書きであったということだろう。

 

奴はいつものようにして涼しい顔してメガネをまたくいと上げている。

 

ダンスは終了だろう。

 

何とか命を繋ぎ止めることは出来た。紙一重でも迫ることは出来た。

 

 

紙を一重でも重ねてゆくことが出来れば世界をとることも出来る、どうだろうか。

 

 

シャル・ウィ―・ダンス(俺たちが相手になってやるよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島

 

はっきり言ってダンスは得意じゃねぇが、挨拶はするもんだと両親から叩き込まれてはいる。

 

よって、帽子は手に取り、深々とお辞儀をする。慇懃無礼を忠実に守ってな……。

 

 

月光は海へと注ぎ込まれていて、その光の正体は円い。

 

満月の夜。

 

小屋の前には女がいて、白クマがいて、人ひとり横たえられるような木箱があった。

 

だがそこには、

 

俺たちの白クマもいて、

 

真剣な表情で、ついぞ見たことがない真剣な表情で叫んでみせた。

 

 

「親父!!!!」

 

 

ベポ、どういうことだ……。

 

 

その瞬間だった。

 

 

俺はベポが何者なのか知っていた。深くは知らないが何者なのかという意味ではひとつ知っていた。

 

 

ミンク族。

 

 

偉大なる航路(グランドライン)後半の海、新世界にてその種族は居住まう場所が存在すると聞く。

 

 

ベポは白クマのミンク。

 

 

ミンク族は戦闘民族だ。生まれながらにして獣であるわけだから当然といやぁ当然。

 

 

それでも、

 

 

こんな満月の夜にはどうにかなっちまうというのはそうは知られてねぇことだろう。

 

 

ベポ……。

 

 

瞳は赤く染まり、

 

 

逆立つ毛並みは天を衝こうかとみるみると伸びてゆき、

 

 

手足の爪は刃へと研ぎ澄まされてゆく。

 

 

ミンク族が満月の夜にて姿を変え、獣本来の姿へと立ち返る。

 

 

奥義、スーロン。

 

 

ベポ……。

 

 

ラストダンスが始まりゆく。

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

そろそろ締めへと参ります。

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