ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第60話 それでも俺たちは王下四商海(おうかししょうかい)

偉大なる航路(グランドライン)” ジャヤ島

 

 

月下の世界……。

 

闇を照らし出す光は煌々として、向こうに見える海へと、俺たちの居る森へと降り注ぐ。

 

少々冷えた風は潮の香りと寄せては返す波の音を同時に運んで来ている。

 

陰りのない月は神秘を湛えるようにして空に在り、それをまじまじと見上げて自分の眼に焼き付けたベポは“月の獅子(スーロン)”となった。

 

ミンク族とは戦闘種族だと云う。元来が獣であり、そこに電気の力を使う。新世界にあって屈強と認識されているのであれば疑いの余地なく強い。

 

そして更なる奥の手を持つ。それが“月の獅子(スーロン)”。

 

記憶の奥底に秘めた野生の真なる力を呼び覚ました姿。ベポもまた別人のようにして姿を変えている。凶暴そのものの姿で月へと向かって吠え立てている。

 

だが世界には必ず代償が存在するのだ。奥の手は諸刃の剣。制御出来なければその先に待っているのは自らの死あるのみ。

 

ベポにそれが出来るのか。あいつは“月の獅子(スーロン)”の鍛練を積んでいるのか。俺にも分かっちゃいねぇがひとつだけ俺にも分かっていることはある。

 

カールだ。カールがいない。

 

あの棺桶のような箱の中。多分そうだろう。見聞色に一切反応を感じねぇがそこにいるとしか思えない。怒りの理由としては十分だ。

 

そうだよな、ベポ……。

 

それに、親父か……。

 

あいつから家族の話を聞いたことがあった。何でも兄を捜して海に出たと言っていたが、父親も捜してたってのか。

 

俺にはもういねぇが……。

 

何かしらの因縁があるんだろう。相手もミンク、当然ながら満月を見上げ“月の獅子(スーロン)と化している。しかも父親だ。分がいいとは言えねぇな。

 

それでも退けない。退くわけにはいかない。

 

そういうことだろ、ベポ……。

 

俺も分がいいとは決して言えない。何せここまで能力を使い過ぎている。赤犬屋相手にも覇気を消耗し過ぎているのだ。どこまで保つのかは分からねぇってのが正直なところ。

 

それでも退くわけにはいかねぇな、俺も。

 

カール取られて退くわけにはいかねぇんだよな。

 

だったら始めようじゃねぇか。

 

俺は右手を前に突き出し、指を動かしていた。

 

「タクト “オーケストラ”」

 

地にあるものは全て俺の支配下だ。土を、その一粒一粒を、草を、その全てを浮遊させていく。

 

「御機嫌よう。まさかここが見つかるとは思わなかったわ……。その様子じゃあもう名乗る必要もないかしらね」

 

衝き動かされるような怒りの感情に蓋をするようにして、カールが入っているであろう箱を前にした女が口を開いてくる。ジョゼフィーヌさんが言っていた女王屋だろう。しかもクラハドールによれば裏の顔はCP0だという話だ。

 

 

 

C P 0(サイファーポールイージスゼロ)

 

天竜人の利害の為に動く組織。世界最強の諜報機関。俺たちが四商海となり天竜人に対して奉仕義務が発生する以上は敵対するのは不味い相手だ。

 

カールを取られることを奉仕義務だと言われればそれで終了なんだからな。

 

こうして戦意に水を差されたことで冷静になる自分が居る。

 

単純に戦って奪い返せば済むという話でないということに気付かざるを得ない。女王屋がCP0という立場上、それをやれば新聞の内容を(くつがえ)せない。

 

「ガキを甘い(ささや)きで(そそのか)して連れ去るとはいい趣味してる。協定が確かなら筋は通してもらわねぇとな、女王屋。それともゼロ屋とでも呼んだ方がいいか?」

 

それでも舐められるわけにはいかないわけであり、たっぷり皮肉を利かせて言葉を返してやるわけだが、

 

「あら、お褒めに与り光栄ですこと……。それに私の裏の顔までご存知なのね。まあ当然かしら、あの子も賢い子だったもの、私の目的をちゃんと見抜いていた……」

 

女王屋は何でもない事のように笑顔を浮かべながら言葉を返し、一拍置いて、

 

「筋を通して欲しいのなら、今から通してあげるわ。……我らが世界の創造主がお望みです。王下四商海(おうかししょうかい)ネルソン商会に命じます。これは協定書に記載されている奉仕義務に該当します。これで満足かしら……」

 

まるで断罪するようにして最終通告を突きつけてくる。

 

Room内はあらゆるものが浮遊している状態で相手を視認するのが難しい状態ではあるが、不思議と女王屋が微笑を浮かべているのは分かる。上空では満月の輝きを背にしてベポの親子対決となっている状態だ。鋭くも研ぎ澄まされた爪の先から(ほとばし)るのは稲妻のような電気の力。それを互いに打ち合わせて、凶暴なまでの牙を以てして噛み千切ろうと互いの懐に飛び込んで、息つく暇さえない命の遣り取りは一進一退である。

 

さて、俺はどうするか……。

 

「本来であれば、私たちに挑んでくることさえ協定を反故にしたと捉えられても仕方のないことよ。私たちと四商海の間で利害が一致しないことは()()()()()

 

黙っていれば畳みかけられる。この世の摂理だ。何でもいい、今は何とかして時間を稼ぐか。

 

「それは聞き捨てならねぇな。今朝の新聞によれば俺たちはまだ四商海にはなってねぇことになる。俺たちは今一体何者なのか、何とも分からねぇ状態だ。これで協定も何もないだろうぜ」

 

「フフフ、お上手な二枚舌ね。さすがは商人さんだわ。そんなこと言って女を泣かせてきたの? いい男なのに……、騎士道精神は大切な(たしな)みよ、それとも、二枚舌なところがいい男なのかしら」

 

「生憎だが騎士道精神とやらとは無縁の人生を歩んで来てる。お互い様だと言って欲しいところだな。お前たちも得意中の得意だろ、二枚舌は……」

 

間髪入れずに言葉のやり取りを続けて時間を稼いでみるが、正直突破口は見当たらない。俺たちは海賊ではない。商人だ。世が世なだけに戦うことも当然選択肢の内に入ってはくるが、俺たちの真なる戦場は交渉の中にあると言ってもいい。

 

ゆえに考えなければならない。難しい交渉相手に自分たちの要求を飲ませるにはどうすればいいのか……。

 

近道は相手の弱みを握ることだろう。もしくは鼻先にニンジンをぶら下げてやることか。女王屋……、歓楽街の女王、奴個人に対してならどうだろうか。

 

「フフフフ、面白いわね。本当にいい男。……ねぇ、転職とか考えたことな~い? 私の店で働いてくれたら直ぐにでもトップを張れるわよ。最近どうにも華が足りないの。あなた、打ってつけだわ」

 

話が妙な方向性に向かいつつあるが、これはチャンスとも言える。向こうから水を向けてきたわけであるから脈はあると見ていいかもしれない。だが、俺が歓楽街に立つのか? いや、ねぇな。愛想のいい柔らかい笑みを湛えながら話し掛けろとでも言うのか? いや、ねぇだろう。それは身の毛もよだつ光景でしかない。

 

「……グッ……、グゥォォ……」

 

浮いてはいるが背後から感じる動く気配。

 

「お目覚めか、上等種族。人に浮かせてもらいながらとはいいご身分だな」

 

赤犬屋からの一撃に背後の魚人は満身創痍の状態であった。多分に死んでいてもおかしくなかったダメージを負ってはいたがそこは魚人の強靭さってやつだろう。

 

「グゥォォ……下、下等種族がぁぁ……、俺に何をしたぁぁ」

 

「ふざけんのも大概にしろよ、上等種族。治療してやったんじゃねぇか。お前、忘れてねぇだろうな。俺の右の内ポケットにはお前の心臓が入ってんだ。お前なんかポケットから取り出したら2秒で死亡だ。そこんとこよく理解した上で発言するんだな」

 

恩知らずとはこいつのことだろう。俺の応急処置がなければこいつはくたばっていたはずだ。まあ心臓奪っておいて恩着せがましくもあるが、正義は心臓を()った方にあるんだから仕方ねぇ。

 

「おやまあ、その後ろの生きてたのね。死んだ魚人を後ろで浮かせておく趣味があるのかと思っていたわ」

 

「ねぇよ、そんな趣味は」

 

「……勝っ……勝手に、俺を殺してん……じゃねぇっ!!……グゥォォッ!!!」

 

「動くんじゃねぇよ、バカが!! じっとしてろ!!!」

 

「フフ、意外と仲良さそうじゃない。私もこの世界にいると色々なものが見えてくるわ。人の趣味ってのはね、人の想像を超えてくるものよ」

 

何だ、その名言はと突っ込む代わりに、

 

「なら聞くが、もしかしてこいつに興味を示す奴らもいんのか、そっちの世界では」

 

問うてみることにする。

 

「この世界では女王と呼ばれているのよ。専門の店は用意しているわ。なんなら二人とも働いてみる?」

 

「……おい、グッ……、何の話だ、これは」

 

ああ、そうなるだろうな。

 

っていうか、なんでこんな話になってんだ……。

 

上空で繰り広げられている月夜の戦いは既に血みどろだ。凄惨を極めてやがる。覚醒しちまった獣同士で戦ってんだ、行き着く先はそうなる。

 

だと言うのに俺たちは下界で何て話をしてんだろうか……。

 

許せ、ベポ。これも俺たちの戦いだ。

 

 

 

で、終わったみたいだな。

 

このタイミングでボスと赤犬屋との戦いに終止符が打たれた気配を感じてシャンブルズを発動する。

 

「止まったみたいだな」

 

「ああ、順調にきてる。それで、貴様の方はどうなってる?」

 

眼鏡を掌でくいと上げながら俺たちの戦場へと現れたクラハドール。月が綺麗な上空にて続けられている戦いに一瞥をくれたあとには視線を俺たちへと向けてくる。

 

まずは俺、そして背後のアーロン。更には対峙する女王屋へと動かしてゆき、最後にカールが入っているであろう箱へと移ってゆく。

 

そして再び俺へと視線を戻したあと、軽くため息をひとつ零し、眼鏡を上げる動作を挟んだあとに無言。

 

「いや、何か言えよ」

 

眼前で全てを確認するように品定めされた後にため息を吐かれる身にもなってもらいたいもんだ。

 

「ああ、強いて言うことは何もない。たた、時間を無駄にしてやがるなと、そう思っただけだ」

 

言うことアリアリじゃねぇか。

 

くそっ、俺が時間を無駄にしているだと……、何言ってやがるんだこいつは。

 

「……グッぉいっ、大将は……、どうなった」

 

「ああ、お帰りだ」

 

「グッぉお帰り……だと?!」

 

「ああそうだ。海軍本部大将赤犬閣下には急用につきお帰り頂いた」

 

「……なぁ……、なんだその……グォ結末は」

 

まったく懲りねぇ野郎だ。あの一撃を受けておいて、赤犬屋を叩きのめす結末を描いていたとは……。

 

「おい、上等種族、お前も魚人の中じゃあ少しは頭回る方なんだろ。だったら察しろ、これが俺たちの戦いだ」

 

背後で浮遊しているアーロンに対して言い聞かせるようにして言葉を放てば、

 

「だと言うなら、貴様こそさっさと察しろ。トラファルガー、俺の中では貴様のホストデビューは既に想定の範囲内だ。時間を無駄にしてんじゃねぇよ」

 

「グァ……シャハハハ、お前が……、ホストか……」

 

「ノコギリ、貴様も一緒だぞ。貴様たちは一心同体なんだからな」

 

「おい、クラハドール、どういうことだ? そんな筋書き聞いちゃいねぇぞ」

 

「ああ、言ってなかったからな。物事にはタイミングってものがある。今がそのタイミングだったというだけだ」

 

俺は今26年生きてきた中でもかなり上位に入るであろう放心状態にいる自信がある。

 

「面接は今のでOKよ。それで、いつから働ける?」

 

「いや、はえーだろ!!」

 

くそっ、俺ってこんなにも突っ込むスピードが鋭かったか? 俺の突っ込みが成長してるとでも言うのか?

 

まったく喜びたくねぇ成長具合だな。

 

「その女の異名は歓楽街の女王だが、その歓楽街というのがどこを指すのか知ってるか? 新世界の入口にてマリージョアの裏庭トリガーヤードに存在するリトルワノクニ。その女はそこの元締めだ」

 

何だと……。

 

妙だ。

 

ワノ国は世界政府非加盟国であり鎖国国家だと聞く。リトルワノクニってことはその鎖国状態を何とか抜け出して住み着いたってことだろう。そいつらの元締めが何でCP0なんかやってる。

しかもだ、ベポの父親だというあのミンク。推測するに用心棒ってところだろう。もしかしたらリトルワノクニでの用心棒かもしれねぇが、なぜミンク族がワノ国の奴らの用心棒なんかになるんだ。

 

「おい、クラハドールどういうことだ?」

 

瞬間的に興味が湧いてきた俺は思わず身を乗り出すようにして奴に質問を投げ掛けてみるが、

 

「その女は見かけによらず強力な覇気を持っている。俺が想像できるのはここまでだ。さらに知りたいなら直接本人に聞くしかねぇな。つまりはそういうことだ。初日には顔見せぐらいはしてやる」

 

返って来た答えは到底満足のいくものではなく、更には追い打ちを掛けられている始末だ。

 

くそっ、外堀を次々と埋められていくってのはこういうことか。

 

「フフフ、明日から来れる?」

 

いや、何言ってんだこいつ……。

 

「無理に決まってんだろ!! それよりはっきりさせようじゃねぇか。その箱の中にはカールがいる。それは確かってことだよな」

 

「そうやって焦らしてくるところ、ウチの客にはまりそう。まあ、いいでしょう。そうよ、あの坊やはこの“棺桶”の中にいる」

 

ようやく出発点だな。確かにクラハドールが言う通り随分と時間を無駄にしたかもしれない。

 

だがここからだ。俺の運命が既に決まっているとしてもだ。

 

「じゃあ聞くが、なんで気配がしねぇ…………、まさか、あの黒穏石(こくおんせき)とか云う石を内側に敷き詰めてやがったりするのか」

 

「まあ、よく知ってるじゃない。正解」

 

そういうことか。道理でカールの気配が消えてしまったわけだ。アラバスタで砂屋が持ちだしたあの石にはひどい目にあった。闇でしか取引されてねぇ石ってことだろう。CP0が歓楽街の女王が使ってるとしても違和感はないが……。

 

その闇でしか取引されてない石にまた出会ってしまうってのは、俺たちも随分とヤベぇステージに入ってきてるな。

 

「そろそろ本題に入らない? あなたたちはあの子を取り戻したい。だけど、あの子は私たちのもの。雇い主が欲しているの。……交渉の余地はあるけれど、あなたの返答次第……、かしらね」

 

猫撫で声でそうのたまってくる女王屋の言葉は俺には結構な脅し文句になっているが、

 

「ひとつ確認しておきたいんだが、もしかしてカールも自分の店で働かせようなんて考えてねぇだろうな」

 

まずは気になり始めていたことを先に潰しておく。

 

「それはいい考えかもしれないけれど、()()()()()()()()()()()。そんなことさせるわけないでしょう」

 

いや、お前のものじゃねぇよ。

 

「でも、あなたがはっきりしない優柔不断男だっていうのなら、こんなことしちゃうわよ。……飛ぶ指銃(シガン)爆蓮(ばくれん)”」

 

言うや否や女王屋は指を突き出して見せれば、カールが入っているはずの箱は吹き飛ばされてゆく。海の波間の中へと……。

 

海軍によって確立された体術六式、その中のひとつ指銃(シガン)。それを指ひとつ動かすだけでピストルを撃ったかのように空気圧を飛ばす厄介な技だが、女王屋が飛ばしたのはそれとは桁違いのもんでありって、悠長に考察してる場合じゃねぇな……。

 

「おい、どういうつもりだ……。交渉は始まったばかりじゃねぇか」

 

俺の右手は今直ぐにでも鬼哭(きこく)を抜きたがっているが、何とか思い止まって言葉を放つことにする。

 

「そこの眼鏡の彼が言う通り、時間を無駄にするべきではないわ。これぐらいの方がいいでしょう?」

 

だが返ってきた言葉はそんなものであり、今更鬼哭(きこく)を抜き放って女王屋と遣りあっている場合でもない。

 

「でも安心してちょうだい。ちゃんと防水加工は施してあるから」

 

不幸中の幸いとも言えねぇ内容だ。取り敢えず直ぐにでも命の危険に晒されたわけではないと言いたいのだが、海中へと沈み続けている以上何の慰めにもなってはいない。

 

「それに、今回は別の相手に仕事を依頼しているの。海運王 “深層海流” ウミット、ご存知じゃないかしら。うんだうんだっていつもうるさいけど仕事はきっちりしてくれる相手よ。彼の潜水艦が海中深くで待機しているから何も問題ないわ」

 

「……、新世界の裏側で名前が挙がってくる“闇の帝王たち”と呼ばれる奴らのひとりだ」

 

問題アリアリだ。既に交渉する気がねぇじゃねぇか。

 

「トラファルガー……」

 

「ああ、分かってるよ。俺たちが取れる選択肢はひとつしかねぇな。これがお前の筋書きなんだろう、クラハドール。ビビも来てるしな……」

 

あいつがカルガモに乗ってこちらへと向かっている気配は先程から感じていた。これで点と点は線へとしっかり繋がったよ。

 

あとは背で黙りこくってやがるこの魚人を何とかして海中へと解き放つだけだ。だがその為にはこの枷を斬る必要がある。

 

「ローさん!!!」

 

そして振り返ればビビがいる。カルガモに乗った奴は痛々しいまでに傷だらけではあるが顔の表情は凛々しいまでのそれであり、皆まで言わずとも言いたいことは伝わってくる。

 

まだカールの音を拾えていると。だからこの場所まで来たのだと。自分に出来ることがあるのだと。

 

そういうことだろ、ビビ。

 

頷いて見せるビビに対し、俺も言葉を返すことはせずに頷いて見せ、

 

「おい、上等種族、黙りこくってやがるが全部聞いてたよな。ひとつ聞くが、枷を外したら2秒で死亡とどっちがいい?」

 

「……行きゃぁいいぃん……だろうがぁぁっ!!」

 

アーロンへと一応の選択肢を提示してやる。

 

まあ物分かりがよくて何よりだ。

 

「……アーロンさん、ひとつ忠告させてもらうけど、もし……、カール君を死なせたりしたら、私が祖国アラバスタ100万の民と共にぶっ潰しに行くからっ!!! そしたら1秒で死亡あるのみよっ!!!!」

 

こえーな、おい。いつからそんなドスの利いた声音を出せるようになったんだよ。

 

 

 

そして、

 

鬼哭(きこく)を抜き放ち、

 

俺とアーロンを繋いでいた枷を斬る。

 

 

ああ、このタイミングかもしれねぇな。物事にはタイミングってもんがある。確かにそうだ。今がそのタイミングかもしれねぇ、なぁ、そうだろう、ボス……。

 

左胸ポケットから取り出すのは小電伝虫、ボスには聞いてもらっていた。

 

「女王屋、あんたにだ……」

 

~「ステューシーさん、ウチのカールが随分と世話になった。どうやら我が妹まで世話になってるそうじゃないか。感謝するよ」~

 

始まりは柔らかな声音で始まりゆき、

 

「あら、嬉しい。ネルソン商会総帥から直々のご挨拶だなんて」

 

緩やかに言葉は邂逅する。

 

~「そこまでカールを気に入ってくれたのはなぜだろうか? カールのいいところは沢山あるが、悪いところも沢山ある。……ナギナギ、そういうことだよな。ナギナギが秘めている力をお前たちは欲している。お前たちの主たちが欲している。そうじゃないのか。ナギナギが何を秘めているのかそれは分からないが、ひとつだけ分かっていることはある。カールはカールだってことだ。それ以上でも以下でもない。今後俺たちネルソン商会の人間に手を出したらどうなるか……、やってみろよっっ!!!!!! 出来るものならなっ!!!!!!!」~

 

だが加速度的に声音は険呑そのものへと移り変わり、最後には大気そのものが収縮した。

 

俺を纏う覇気が消え去った。

 

一切の気配が消え去った。

 

 

穢れもない月に罅が入ったかのようにして、

 

 

世界がふたつに割れたかのようにして、

 

 

覇王色のマイナス……。

 

 

言葉さえも奪い去られるような吸収する力。

 

 

それは一瞬だけだが、

 

 

ボスを怒らせたら怖い。

 

 

アーロン、肝に銘じておけ。

 

ボスを怒らせたら、コンマで死亡あるのみだ。

 

 

 

 

 

カールを取り戻すための俺たちの戦いは終わりを告げた。

 

ラストダンスは幕を閉じた。

 

ベポは辛うじて生きていた。

 

治療は何とか成功した。

 

良くなれば酒を酌み交わすことを誓い合った。

 

俺はホストデビューが決まってしまった。

 

後味は……、いいとは言えねぇのが正直な感想だ。

 

ジョゼフィーヌさんにはにんまりされた。笑顔の意味が嫌過ぎるほどに分かる。

 

料理長には赤飯を持たせてやると言われた。どういう意味だ。

 

ハヤブサには心底同情された。あんただけが俺の救いだな。

 

 

それでも俺たちは王下四商海(おうかししょうかい)だ。

 

てっぺんにシルクハットを乗せてこの海を往く。

 

ヤマには命を賭ける。

 

なんでかって、

 

 

世界のてっぺんをとるためだ……。

 

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

ネルソン商会は次のステージへと向かいます。

まだヒナさんがどうなったのかは残っていますが……。

世界の闇へと向かって参りましょう。

今後ともよろしくお願い致します!!

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