ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第62話 ヒナ、歓喜

偉大なる航路(グランドライン)” バナロ島

 

 

それは敗北者の顔には見えなかった。

 

この場所とその姿が敗北者であることを物語ってはいたが……。

 

 

 

白ひげ海賊団2番隊隊長、火拳のエースは闇の手に落ちていた。

 

ぴくりとも動かずに倒れ込んでおり、(おびただ)しい量の血の跡が全身に広がっている。火拳がいるその場所は黒い何か闇そのものの様なものに覆われていて、ゆえに引き込まれるようにして身動き取れないことが直ぐに分かった。

 

きっとあの男の能力なのだろう。

 

「早い到着じゃねぇか。だがおめぇが来たってのはどういうことだ。火拳のエースだぜ、大将を寄越すってのが道理だろうが」

 

崩れた岩の上に腰を下ろしてティーチと名乗ったあの男から飛び出した声が耳に入ってくる。

 

「呼んでいるわ」

 

視線を向けることはせず、声を返すにとどめる。どうにも会話を続けたいとは思えない相手、はっきり言ってヒナ、億劫。

 

 

辺りを見渡してみれば、街の残骸が一面に広がっている。この島の象徴だったであろうバナナ岩もいまや見る影はない。

 

決闘の果てにあるものがここには広がっていた。

 

 

「俺を……、殺しに来たのか、海軍?」

 

そう呟いた火拳の表情はまるで全てを悟っているかのようであった。真っ赤な血で顔を染めながらもこちらへと据える瞳は死んでいない。

 

怒り……、ではない。

 

恐れ……、でもない。

 

諦め……、それでもない。

 

覚悟……、かもしれない。

 

己の全てを受け入れる覚悟を宿した瞳。

 

海賊同士の決闘で負けたことに悔いているようにも見受けられない。負けるということは(みじ)めで、どうしようもなく残酷なはずなのだが、全てを達観したかのように感じられる。

 

「連れてけよ……」

 

無言でいる私に対して更に言葉を重ねる火拳は笑みを浮かべてさえいる。この男は自分がこれから辿るであろう運命を理解しているのだろうか。

 

「ええ……。間もなく船が到着する。火拳のエース、政府はあなたをインペルダウンに連行することを決定したわ」

 

私は感情を削ぎ落とした声音で返答をする。色を帯びた感情がこの場に相応しいとは思えない。ヒナ、無情であらねばならないのだ。

 

政府がこの決定を下したということはその先が見えてくる。どうやら上は覚悟を決めたということだろう。火拳のエースを捕えて大監獄に入れるということはどういうことか? 

 

その先にあるのは“戦争”である。

 

白ひげが黙ったままということは有り得ない。彼らは仲間への仕打ちを絶対に許さないし、間違いなく押し寄せて来るだろう。烈火の如く……。

 

海軍は新世界に座す四皇の中でも頂点に最も近い奴らを相手にするのだ。

 

相当な覚悟が必要になるのは確かである。

 

そもそもには四大勢力によって均衡が保たれているのがこの世界。海軍本部、七武海、四商海、そして四皇、この四点均衡を崩そうと言うのであれば七武海の招集はもとより四商海の招集まであり得るであろう。

 

まさに前代未聞だ。

 

この背景を火拳はちゃんと理解しているのか否か……。

 

当の本人はただ黙ってこちらを見つめ返すのみであり、何とも言えない。四商海招集となれば当然ながら私たちにも直接関係してくるわけであるし、情報を扱う者としては相手がどのように考えているのかは有用な情報であるのだが……。ヒナ、残念。

 

 

「船長、見えました」

 

眼前の火拳が(もたら)しうる世界への影響について思いを巡らしているところへ、島の反対側にて別の立場で相対していたオーガーが微塵もそのような素振りは見せずにこの場へと姿を現した。

 

「……誰が来た?」

 

それに応じている黒ひげティーチはどこから取り出してきたのかチェリーパイを満足気に食べている。そういえば先程から死ぬ程美味いと連呼していたような気がする。

 

「何の巡り合わせか……、赤犬です」

 

変わらず狙撃銃を肩で支えながらそう答えてみせたオーガー。

 

「付いてねぇが、まあいいじゃねぇか。奴らはエースが手に入るんだ。悪いようにはしねぇだろ。それにしてもこのチェリーパイは買い占めて正解だったな。腐ってもうめぇとは」

 

ティーチが話す内容の後半部分にはヒナ、唖然そのものであるが、道理で先程から異臭がするわけだ。

 

「ホホホ、船長、世界の裏側では腐ってもチェリーパイなんていう(ことわざ)があるそうですよ。……おやおや、捕まっても火拳のエースですね。いいえ、むしろ捕まることでより価値が高まるとも言える……」

 

ステッキを振り回しながら現れた男が口にした内容。火拳のエースと引き換えに七武海入りを狙っているのではないかとクラハドール君は言っていた。

 

彼らは七武海入りをしてどうするつもりなのだろうか。大人しく政府に従うような連中とはとてもではないが思えない。その先の計画を胸に秘めているはずであり、それは世界を揺るがすような計画かもしれない。ましてや火拳のエースを手中に収めて政府に引き渡そうとしている時点で世界を揺るがしているのだ。

 

大事なことはそれが私たちにとってどのように影響するのかどうかである。ネルソン商会の敵となるのか味方となるのか。影響度合いを測っておく必要がある。そのために私はここにいると言っても過言ではない。ヒナ、重大である。

 

気付けばラフィットと呼ばれる男に続いてマスクを被って腰にチャンピオンベルトの様なものを巻いた男と馬に倒れるように乗り込んで今にも死にそうな男が現れており、黒ひげ海賊団の面々が揃い踏みしつつある。

 

プルプルプルプル……。

 

コートの中で振動を繰り返している小電伝虫を取り出してみれば、

 

~「サカズキ大将、間もなく到着されます」~

 

私の部下からの報告が入ってくる。さすがに大将を迎えるとなれば踊ってはいられないらしい。

 

「了解」

 

短くそう応答して小電伝虫を再びコートの中に収めた後に私は別のものを取り出す。火拳のエースを大将赤犬に引き渡すに当たってやっておくことがある。

 

取り出したものは海楼石製の手錠。対能力者用に作られた特注品である。これを両手に嵌められれば能力者と言えども身動きは取れない。

 

本来であれば私の能力を使って禁縛(ロック)したいところではあるが、覇気使いであることを考慮して万が一があってはならない。

 

「火拳のエース、あなたを捕縛(ロック)します」

 

いまだに身動き取れずに横たわっている状態の男に対して、更なる縛めをするために手錠を嵌めてゆく。鋭い金属音が鳴り響いて枷がしっかりと嵌まった。

 

あとは大将赤犬に引き渡してしまえばいい。

 

 

ここでひとつの考えが脳裡を(よぎ)ってくるが……。

 

火拳のエースを捕えずに逃してしまった場合どうなるのかと……。

 

何も変わらないのかもしれない。火拳のエースは黒ひげに向かうことを止めないであろうし、黒ひげはエースを手中にすることを止めないであろう。いや、黒ひげにとって相手は誰でもいいのかもしれない。先延ばしにされて再びの激突がどこか別の場所で起こるだけであろう。

 

巡り巡る運命の糸は絡まりあってある一点へと収束してゆく。それは誰にも止められるものではなくて……。

 

世界が揺るがされて今まで当たり前のようにして存在していた秩序が根底から覆されてゆく。そんな乱世は私たちネルソン商会にとっても絶好の好機になるのではないか。私たちもまた世界の頂点にまで迫らなければならないのだから……。

 

ここで決断を下すのは私一人。誰にも相談することなど叶わない。

 

これでいい。……これでいいのだ。

 

 

その言葉を脳内で転がしながら大将赤犬の到着を待つ。

 

南天の太陽が少しだけ西に傾き始めた昼下がりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も年貢の納め時じゃけぇ……」

 

敬礼で出迎えたサカズキ大将が火拳のエースを見据えての開口一番がこれだった。

 

どうやらジャヤに立ち寄っていたらしい。ネルソン商会と戦闘になったということだが、センゴク元帥から火拳のエース連行という命令を受けて中断してきたと大将の副官から補足してもらった。

 

このスキンヘッドで鎧兜に身を包んだ副官によれば戦闘中断は不本意であり、視線だけで殺してしまえるような一瞥をくれた上でジャヤを後にしてきたらしい。果たしてハットたちは大丈夫だったのだろうか。ヒナ、心配である。

 

とはいえ、根掘り葉掘り聞いてみるわけにもいかない。それではいらぬ勘繰りをされてしまう。

 

それでなくとも、

 

「ヒナ、お前が監察官とはのう。……背中に正義の文字は背負っちょるんじゃけぇ、分かっちょろうなぁ……」

 

監察官になったということでいいように思われていないのは確かなのだ。っていうか少し怖いんだけど、まるで心臓を鷲掴みにされる程に言葉の圧力が強い。ヒナ、戦慄と言ってもいいぐらい。

 

下手なことは口に出来ない。それは肝に銘じておかなければならないだろう。これからマリージョアに向かうことを考えれば尚の事である。

 

「お前が黒ひげか。元帥に直接話通したらしいが、碌なことは考えちょらせんじゃろのう。七武海言うても海賊は海賊じゃけぇ……。下手なことはせんことじゃぁ」

 

黒ひげティーチに対してもこの剣幕である。

 

「おお、サカズキ大将、遠路はるばるご苦労なことだ。火拳のエースを捕らえたとなれば正義の勝利となるな。ゼハハハハ、空いてる椅子に座らせて貰うぜ」

 

一方のティーチは殊勝な言葉遣いながら正直馬鹿にしているのがアリアリであり、

 

「取り決めがあろうとおどれが悪であるのは間違いない。ここで潰してもええんじゃけぇ……」

 

サカズキ大将がそれを見逃すはずもなくて、急速に右の拳がマグマ化していく。ティーチなど正直どうなろうとも構わないのだが、一応監察官であるため咳払いのひとつでもしておくことにする。センゴク元帥の意向をちらつかせる形だ。サカズキ大将には殺気を孕んだひと睨みを受けるが、微笑みで受け流す。再びのヒナ、戦慄であるが……。

 

「監察の顔は立ててやらんとな。テルゥ、火拳を連行じゃぁっ!! 船に連れてけぇっ!!」

 

意は伝わったと見えて、副官が承知仕りましたとばかりに火拳のエースを抱え上げ引き連れて行く。

 

ところが、

 

「……よせ。……自分で歩ける」

 

火拳のエースが呟きを口にした瞬間に、

 

瞳の奥から放たれてゆく強烈なまでの気合。

 

覇王色の覇気……。

 

大地が一瞬にして震撼するような激烈な気が放射状に放たれた感覚。

 

一般兵が次々とその場に倒れこんでいく。

 

私自身の意識をも危うく刈り取られる程のものであり、辺りは雪崩が起きたような惨状となってしまっている。

 

「……敗者の行進は……静かな方がいいだろう」

 

一言、紡ぐようにして口にした後に火拳のエースはゆっくりと、口笛でも吹きながらのようにして歩いていく。

 

やはりそれは、敗北者の顔ではなかった。何とも王者の行進であった。

 

その直後に特大のマグマが出現したことは言うまでもないけれど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火拳のエースはサカズキ大将が座乗する船へと連行された。途中までは自らの足で、特大マグマが出現した後は足から引き摺られるようにして……。

 

黒ひげ海賊団の連中も既にこの島を後にしている。エースを引き渡してしまえばあとは用がないというわけだ。サカズキ大将はマグマを出現させはしなかったが、釘の代わりにマグマを刺すかのようにして言葉を叩き込んでいた。

 

何かあったら骨も残さず根絶やしだと。

 

まるで海賊の売り言葉。私もここまで畳み込まれたらヒナ憂鬱になってしまいそう。さすがにティーチは買い言葉を返す程バカではなくて良かったが……。

 

それでも私の仕事は終わりではなかったのだ。

 

私の見聞色が島の反対側にいる存在を知らせていた。それは部下を使って調べさせていた相手。最重要ターゲットであるロッコではないが、ロッコと相対していた相手。

 

その気配は当然ながらサカズキ大将も察知しており、見逃すはずもない。

 

ゆえに私はルチアーノの酒場を前にしている。サカズキ大将と共に。

 

感じられる気配はひとつだけ。

 

つまりはロッコは既にいない。だが、そのロッコと相対していたのは二人居たはずであるが一人だけ。それが意味することは何なのか……。

 

それは中に入ってみれば分かることだろう。

 

私の側にはフルボディもジャンゴもいる。大将の手前、もちろん踊ってはおらず神妙にしている。

 

酒場の入口となる回転扉。中の様子は暗くて窺い知れないが気配ではたしかに一人が存在している。

 

その扉を押し開いた先にいた人物。

 

「……待ちくたびれたぜ……。俺を大監獄に連れて行かないか?」

 

葉巻を美味しそうに燻らしながらカウンターにて佇むカポネ “ギャング” ベッジであった。

 

ロッコではない。ギルド・テゾーロでもない。ルチアーノの酒場に一人残っていたのはベッジであったのだ。しかもこの男は酒場のカウンターにて悠然と佇み、インペルダウンへ連れて行けと言っている。

 

私は酒場に足を踏み入れた瞬間に脳内を高速回転しなければならなくなった。私の本命はこちらだったのだ。この場で一体何が起こったというのだろうか。

 

この島を牛耳りマリージョアに住まう天竜人へのドラッグルートをも支配下に治めていたドン・ルチアーノはベッジとテゾーロの手によって亡き者とされたはずである。この場にドン・ルチアーノの亡骸は存在していないが床に生々しく残っている血痕がそれを物語っている。

 

ロッコはその直後にどこからともなく現れた。見聞色で気配と姿を消していたのであろう。もしかしたら今もその状態でこの場に居合わせているのかもしれないが、どうだろうか。

 

聞き取れたロッコの最後の言葉はトリガーヤードへと繋がる道筋は全て消し去る必要があるというものだった。その後どうなったのかが分からない状態であるのだが、言葉通りであるならベッジとテゾーロも亡き者となっている可能性が高いと踏んでいたのだ。ロッコが口にした“掃除”という言葉の意味はそういうことであろうと思われた。

 

だというのに、ベッジは目の前に存在している。しかも自分を捕らえろと言っている。

 

分からない……。

 

筋書きが読めない……。

 

だが何かが動き出しているのは確かだ。誰かの思惑が動き出している。歴史の歯車を軋ませるが如く誰かが動かし始めているのだ。

 

それは眼前のベッジなのか?

 

それとも、もう島を後にしたのかもしれないテゾーロなのか?

 

神出鬼没のロッコなのか?

 

はたまた、ロッコの背後に更なる黒幕が存在しているのか?

 

その全てを覆い尽くしている深謀遠慮が存在しているのか?

 

 

全てはトリガーヤード。そこに鍵があるのかもしれない。闇に葬られたと言われるトリガーヤード事件を紐解いてみる必要がありそうだ。

 

つまりはマリージョアへ……。

 

私は自然と口角を上げていた。

 

「私を通り抜けるものは全て緊縛(ロック)される。カポネ “ギャング” ベッジ、あなたをインペルダウンへ連行します。サカズキ大将、よろしいですね」

 

私は自然と己の右腕を檻へと変化させていた。

 

私の心と体すべてが告げている。

 

 

ヒナ、歓喜……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)” 外洋

 

 

親子か……。

 

 

「ク〜〜〜エ〜〜〜」

 

 

時折ゆっくりと揺れるハンモックに身を沈めながら物思いに耽っていたところへ、カルーの寝言が割って入ってきて思わず笑みを浮かべる。

 

時刻は深夜、偉大なる航路(グランドライン)を航海中の船内であるから寝静まったとは言えないが、日中と比べれば幾分と静かな船内にある私の個室。カルーは私のハンモック下で寝息を立てている。個室とはいえ吊り下げたハンモックで大部分を占めてしまうような狭さではあるが、誰にも気兼ねせずに済むのであるから立派な個室(プライベートルーム)である。

 

今の当直は誰だろうか? 起き上がって戸棚にある当直表を引っ張り出す気にはなれないので、少しばかり考えてみる。

 

多分ジョゼフィーヌさんだろう。

 

まだ私の名前は単独で当直表に載ることはない。当直補佐として甲板に立つことはあるが、まだこのクラスの船の航海を一人で任せることは出来ないということみたい。

 

まあ、それはそうよね。

 

仕方がないという思いであるが、少々悔しくもあり、その悔しさを飲み込むようにして両手で包み込んでいるマグを口元に寄せていけば、芳しいコーヒーの香りが鼻を抜けていく。まだ熱さの残る液体が喉を通り越して体に巡っていくのが何とも心地良い。

 

カルーの寝言に遮られる前に考えていたこと。

 

それはベポ君のこと。

 

ベポ君はまだローさんの部屋にいる。日に日に回復を見せているが動き回るというわけにはいかず、患者用のベッドで寝起きをしている状態だ。

 

私はそこでベポ君がローさんにぽつりぽつりと口にした話を聞いてしまっていた。自分が持つモシモシの能力によって。

 

ベポ君は兄を探し出すために海へ出たらしい。新世界に存在するモコモ公国という国が彼の故郷。海を往く超巨大な象の上に築かれた国だという。

 

ただ、父親は死んだと聞かされていたらしくて、生きているはずがないらしくて……。なのに、ジャヤで目の前に現れたのは、何年も会ってないにも関わらず明らかに父親だったらしくて……。

 

それでも戦った。

 

戦わざるを得なかった。

 

父親には明らかに戦意が存在していたから。

 

カール君を取られていたから。

 

色んなことを聞きたいはずだったのに、何も聞けなかったって……。

 

ただただ戦うことしか出来なかったって……。

 

それはどういう気持ちなのかな。

 

もし私がパパと……。

 

 

いいえ、こんなこと考えない方がいいわ。考えてもいいことなんてない。

 

 

そこで、

 

先程までとは全く違う強い揺れがハンモックを襲い、マグの中のコーヒーも大きく揺れて中身が溢れでる。

 

「ク〜エーッ!!」

 

私を通り越してそのまま溢れ落ちたことで、素っ頓狂な声を上げて目覚めるカルー。

 

私も思わずハンモックから起き上がり床に足をつける。

 

「ごめんごめん、カルー。起こしてしまったわね、ごめんなさい」

 

カルーに謝りながらも体は海の異変を敏感に感じ取っている。私でもそれなりに海の状況が変わったことは感じ取れるのだ。

 

 

そして、

 

「総員!! 総員!! 直ちに甲板に集合!! 船はアクアラグナが近いと思われる海域に入った!! これより総員即応待機状態とするっ!!!! 繰り返す……」

 

ジョゼフィーヌさんの甲高い大音声が船内に響き渡り、甲板下で一斉に動き出す足音が聞こえてくる。

 

どうやら船は危険な海域に入り込んだみたい。

 

強い揺れは収まりを見せない。再び私をぐらつかせようと襲いかかってくる。

 

何だか本当に闇の中に入り込んで行くみたいな気がしてくる。

 

ううん、

 

でも大丈夫だよね。

 

みんないるから。

 

一人じゃないから。

 

「カルー!! 甲板に全員集合だって!! 行こう!!」

 

「クエーッ!!!」

 

カルーの元気な返事に確かな後押しを受けて、私たちは甲板へと勢いよく駆け上がっていった。

 

 

闇の中の、その先へ……。

 

 

 

 




読んで頂きましてありがとうございます。

闇の中へと参りましょうかね。

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