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よろしければどうぞ!!
「さすがは美食の町やで~。おもろいこと考えるやんけ。景色も味のひとつや言うわけか……。なぁ、アーロン、お前はどないや?」
今わいたちはゴンドラっちゅう先が
それにや、何と言ってもこの景色やな。ハットがここにおったら無言でタバコに火点けよるやろな~、これは。
ゴンドラが波紋作って漂ってんのは一面青の世界や。
海水が入り込んだ洞窟はまさに“青の洞窟”ってわけやな。
暗い中におるんやけど、下に見える海は光で照らされて浮かび上がるみたいに青いんや。
ぷかぷか浮かんどる防水ランタンもええ味出しとるで、仄暗いオレンジが温かみを演出しとるってやつやなぁって、アーロンのやつ相変わらずの無視か。
「ええかげんお前もしけた
ほんまに何でこいつわいに付いてきたんやろな~、って荷物持ちに算盤勘定して強引に引っ張ってきたんは脇に置いといてやで。海列車の中からずっとこれや。アクアラグナのフォールん中ではアホみたいに生き生きしとったっちゅうのに……。
「お連れ様はお食事が気に召されませんでしたか?」
「……ん? ちゃうちゃう、わいらまだ何も食べてへんのやさかい、あんたが気にすることやないで。物珍しぃて言葉にならんだけや」
ワインレッドの衣装に身を包んどる船頭はんに気使わせてもうて堪忍やから、
「ええとこやな、美食の町プッチ。海列車が直接この洞窟まで入って来てぇ、降りたら青い世界にこのゴンドラっちゅうのは大した演出やで」
素直に褒めたるわけや。
「ありがとうございます!! 楽しんで頂けて何よりでございます!!」
「洞窟ん中やのに青いんはあの穴から降りて来る光が理由なんか?」
洞窟の上にはぽつぽつと穴が空いてんのが見える。そこから降り注ぐ光がこの青い世界を作りだしてるっちゅう仕掛けなんちゃうやろか。
「ええ、おっしゃる通りでございます。ただ、それだけではございません。この洞窟の底は石灰岩に覆われているのです。ゆえに光を反射します。この青さはそれゆえなのです」
「なるほどなぁ、石灰の白に反射されてっちゅうわけか。確かに、そらあんたもえらい
「もう! お客様、お上手ですね! さあ、最初のお食事が参りますよ」
目元の涼しい
吸い寄せられるように別のゴンドラが並走しよって、手元のランタンに照らし出されたんは、
「水水トマトとプリプリ海老の冷製カッペリーニでございます。こちらはもちろんウォーターセブン特産の水水トマトを使っております。カッペリーニのつるりとした喉越しを是非ご堪能ください!!!」
真っ白な器に煌めくように盛り付けされた一皿や。トマトと海老が輝いとるな。上に載っとるんはバジルか、何ともええ香りやないか。どれどれ……、
ほんま、つるり……やな。
ええ喉越しや、水水トマトは蕩けよるし、海老はアホみたいにプリプリや。
「……美味い。美味いな、あんたはん。……最高や!」
「ありがとうございます!!! お気に召して頂けたようで感激です!!! よろしければこちらも如何でしょうか、熟成された岩窟チーズの削りだしを掛けますとまた一味違ったものとなりますよ♪」
素直に味の感想を伝えたったら、船頭はんは両頬をトマトみたいに真っ赤にして嬉しそうや、可愛い娘やないか。
そうか、岩窟チーズときたか。
両手でしっかり持たなあかん大きさのまん丸なってるチーズの塊を目の前で削りだされて掛けられたもんを口に運んでみたらや、
こらあかん……、めちゃくちゃ美味い……。
人間ほんまに美味い時には言葉なんか出えへんもんや、わいに出来るんはただ親指立てて
こんな美味いもんや、アーロンも無言になるほどやろなぁ思うて振り返ってみれば、
「牛の丸焼きはねぇのか?」
抜かしよったで、このどアホがっ!!!
「このキラッキラッに輝いとるカッペリーニ目の前にしてそれを言うか、このどアホがっ!!!」
「牛の……丸焼きで……ございますか……」
「船頭はん、こいつの言うことなんか聞かんでええんやで。牛の丸焼きて……、洒落っ気の欠片もないやないか」
「俺の好物だ」
おー、おー、言い切りよったな、このどアホがっ!!! 牛の丸焼きが好物ときたか。
「って、カッペリーニのあとに牛の丸焼き出すわけないやろがっ!!! はぁ……、船頭はん、ちなみに次はなんや?」
「はい……、プクプク鯛の香草焼きでございます。今が旬、身の締まったプクプク鯛をレモンハーブでじっくりと焼いたものをお出ししようと……」
「せやろうな。それこそ最高やないか。牛をまるまる焼いて一丁上がりとはわけがちゃうんや。レモンハーブか……、一緒に焼いたらさぞええ香りなんやろなぁ。どうやアーロン、これでもまだ牛の丸焼きよこせって抜かすんか」
「牛の丸焼きだ」
ノコギリ歯剥き出しにして笑いよるこいつが仏頂面で繰り返すほどや、よっぽど好物なんやろな、これは。
「しゃあないやつやな、ほんまに。どうやろか船頭はん。この美食の町で牛の丸焼きを出してくれる店なんてあるやろか」
顎下に拳当てながら暫し思案に暮れとった船頭はんやけど、
「プクプク鯛をご賞味頂けないのは残念でなりませんが、仕方がありませんね……」
答えを見つけよったみたいで、指を乾いたええ音鳴らして弾いたら天井からロープが下りて来たんや。
「こちらにお掴まり下さい」
「上に参りま~~す♪♪♪」
その瞬間何が起こったかって、時間が止まっとったな、あれは。いや実際には止まってへんねんやけどやで。
つまりはや、ロープ一本で洞窟の天井にある穴から一気に上へと引き上げられたわけやな、わいらは。
海列車でこの島入る時に見かけてたでこの島がどうなっとるかは。確かに結構高い丘が広がっとったんやけどな。
せやからや、ロープ一本でその上まで一気に引き上げられたわけやな。
って、
ほんまに殺す気かぁぁぁっ!!!!
丘の上までどんだけ高さある思うとんねんな、ほんまに。
まあ確かに一瞬やったで。ほんまに一瞬の出来事や。
その分下半身には生きた心地せえへんかった。船頭はん、可愛い顔してやることえげつなぁ……。
わい、大丈夫やろなぁ、ほんまに……。
思わずわい自身の下半身を確認しとったらや、
「お客様、如何なさいましたか?」
覗きこむようにしてまた別嬪さんや。
「……え? せやからわいのこっちは大丈夫……。すまん、堪忍や……」
「いえいえ、お気になさらず」
わいは一体何いうてんねんやろな、別嬪さん相手にしてって、船頭はん、あんたも登って来たんかいな……。
ん? せやけど何か印象がさっきとちゃうなぁ、似てんねんやけどなぁ。
「あんた船頭はんか?」
「いえいえ、私は“トルリの丘”の案内役でございます! ようこそいらっしゃいました!!」
「あんたもしかして妹はんおらへんか?」
「妹でございますか? 確かにひとりおりますが……。私と同じように“青の洞窟”で案内役をしております」
せやろせやろ、道理で似とるわけやで。
「そら良かった。おかげですっきりしたわ。ほんでや、わいの連れがおったはずなんやけど、あんた知らんか?」
「お連れ様でしたら既にお食事中でございますよ。あちらにて……」
別嬪の案内役はんが示してくれた先は見晴らしがいい草原が広がってる。その下にはコバルトブルーの海岸線や。真っ白いんパラソルも立っとって、獲れたてのええ魚をふるまってそうやな。
ちゃうちゃう、そうやのうてアーロンや。
って、牛の丸焼き……。
「こんがり一頭焼きの黒毛牛でございます!」
こんがり一頭焼きて……。ほんまに牛がまるまる逆さ吊りにされて丸焼きにされとるやないか。
「シャハハハハ!! 牛の丸焼きはこうでなきゃなぁ、おい下等種族! てめぇも食え!!」
さっきまで押し黙ったまんま仏頂面しとったやつがよう言うわ。そんなに好物か、牛の丸焼きぃ。
「案内役はん、ちなみにやけどあの牛の味付けはどんなんや?」
「はい。ぶっかけ塩コショウ、以上でございます」
……以上か。ええセンスしとるわ。あいつに繊細な味付けしたったところで却って逆効果にしかならんやろ。
「案内役はん、ありがとうな。……アーロン、わいはこれでも忙しいんや。遠慮しとくわ。そもそも美食の町まで来てなんで牛の丸焼き食わなあかんねん。せやからおまえ一人で食うとけや。大好物を一人占め出来て満足やろ。丸焼き一頭なんかそうそうありつけへんねんから、今のうちにたらふく食うとくことや」
そういうこっちゃ。何が楽しうて牛の丸焼き食わなあかんねんちゅうこっちゃで……。
「お客様、遠慮なさらずともよろしいではありませんか。さあ、どうぞ♪」
って、何やこれ。
骨付きで何とも豪快やないか、っていうか燃えとんな、これまだ……。
「熱っっ!!!!!」
火傷しそうなぐらいに熱い骨付き牛肉の塊を渡されて、思わず掌ん上に載せてもうたわいは、
「何しとんねん、ワレッ!!!」
思わず毒づいてもうたんやけど、
「あぁ、申し訳ございません!! こちらの間違いでしたね。はい、どうぞ♪♪♪」
可愛らしい笑顔でまだ燃えたまんまの牛肉をわいの口元に持って来るんや。
わいには選択肢はひとつしか無かった。口開けるしか無かったんや。
「……熱っっっっ!!!!!!!」
死にそうになりながら涙目で案内役はんを見詰め返しとったら、満面の笑顔で小首傾げて来よったわ。
ほんま、血は争えんな。姉妹揃ってドSが過ぎるやないかぁっ!!!!!!!
「シャハハハハ!! 泣くほど美味ぇのか。てめぇもこれくらい美味ぇもん作ることだなぁっ!!!」
このドアホがっ!!! アーロンのやつ、覚えとけよ。料理人怒らせたらどんだけ怖いか分からせたるからなっ!!!
「お客様、ワインなど如何でしょうか?」
わいが死ぬ思いして飲み込んだんを見計らったように案内役はんから誘い文句を向けられてくる。憎たらしいほどのタイミングや。
確かにさっきから視界には入れてたで。一際目立つレンガ造りの建物は。
「あの
「ええ、ワイナリーにチーズ工房を併設しております」
「最高やな! あんたには敵わんわぁ、ほな行こかぁ」
アーロンはこの際放ったらかしや。牛の丸焼きが好物やっちゅうやつが今更ワインにチーズ寄越せなんか言わへんやろ。
案内役はんに文字通り案内されて丘登ってったら、白壁の小じんまりした建物がようけ見えてくる。そいつは屋根が石積み円錐形の尖がりになっとって、えらい可愛らしい
ん? 何や、建設中か? いや、ちゃうな……、こら潰れとんやないか。
綺麗に
「何何やあれは?」
「あれは“サガット”の結果です。それなりには繁盛していたカレー屋さんだったんですが……」
「サガット??」
聞き慣れへん単語を耳にしてオウム返しに聞いてみたら、
「このプッチには
「それがサガットっちゅうわけか」
「ええそうでございます。“サガット”は我らが副市長が直々に行っておりまして、眼鏡に適わないと判断されました店舗さまには蹴りが入ります」
は? 今、蹴り
「副市長の蹴りは強烈でして大抵はあのような形に……」
よう見たらその横で図面とにらめっこして話し合っとる連中もおるやないか。
「あの方たちは次の出店予定の店舗さまでございます。生ハムメロンの専門店ということで、“
生々しい光景やないか。敗れて出ていく
それでもや、こんなん見たらちょっと興味湧いてくんなぁ。
「この町への出店条件はどんなんや?」
「……お客様も料理をされるように薄々感じてはおりましたが……、ご興味がおありですか?」
「わいは海の上の料理人やけどな。興味はあるなぁ……。どうせここ以外でもサガットで蹴り入れられたとこはあるんやろ?」
「ええそうですね。ここ“トルリの丘”でもう1軒、シャバシャバカレーとナンの専門店でございます。“アメルの海岸”でも立て続けに2軒、こちらもスープカレーとごろごろ野菜カレーの専門店でございます。最近カレー分野での査定基準が変更となりまして……」
「なんや、味の基準がシビアになったとかそんなんか?」
「いいえ、食材の最低原価率が引き上げられました。75%から80%に5%アップしたんです」
は? 何言うとんねんこいつ。原価率80%ってアホちゃうか。
「80%て、普通やったら死ね言うてるようなもんやろ。競争激しそうやから家賃もべらぼうに高そうやしな」
「いえ、地代は頂いておりません。出店条件も美味しいかどうか、ただそれだけです。あとは店舗さまの情熱と心意気で判断させて頂いております。査定基準はあくまでも階級的なものでしかありませんので……。原価率を上げたからと言って美味しくなるとも限りませんから」
「まあそれはそうやけどなぁ、調理方法変えるだけでめっちゃ
「フフフ、そうですか。それは怖いですね。……ご興味がおありでしたら是非どうぞ!! 情熱と心意気を持って美味しいものを出して頂ける方は大歓迎でございます♪♪♪」
別嬪はんにこの町への出店条件や方法を詳しく聞かせてもらいながらのワイナリーとチーズ工房への案内はめっちゃ楽しかった。
わいの中で何かが閃いた瞬間や……。
おばんざいを出す店で勝負出来へんかなぁ。こら一丁考えてみよかぁ~。
料理人の血が騒ぐっちゅうやつやで。
ワイナリーの中は壮観やった。熟成庫に整然と並んどるワイン樽。テイスティングルームには瓶詰めされたもんがセラーにアホみたいに並んどるんや。
それでや、
「これ、
わいが今試飲してみたこいつ。赤を通り越して黒に近いような濃厚な色してるんやけど、こいつがまた最高なんや。
「ありがとうございます!! こちらはトルリ特産の黒ワインでございまして、厳選された黒ブドウを使ってじっくりと熟成に熟成を重ねたものでございます。濃厚でデザートワインと呼ばれるものです。同じくこちらの熟成に熟成を重ねた濃厚岩窟チーズと合わせて頂きますとそれはもう……」
案内役はんの天に召されよったような表情見たら試さんわけにはいかんやろ。
どれどれ……、
それはもう……至福……やな。
「案内役はん、この黒ワイン貰うわ。チーズも欲しいな。それからや、もしかして定期配達とかしてへんやろか」
わいの質問に対して昇天した表情から一気に可愛らしい笑顔に戻った案内役はんや。
「お客様、良いところに目をつけてらっしゃいますね。最近丁度世界経済新聞社と業務提携致しまして、ニュースクーの配達網に我々のワインとチーズを載せられることになったのです!!! なので定期配達は可能でございますよ」
おー、おー、出来る女やないか案内役はん、素晴らし過ぎるな、ほんまに。
「案内役はん、あんたもしかして……」
「……申し遅れました。私が美食の町プッチの副市長、サガットと申します」
丁寧なお辞儀と一緒に渡された名刺には確かに副市長と入っとった。
おいおいまじか……。
もしかしたら結構偉いさんちゃうかと思っとったけど、ほんまに偉いさんやったんか。しかも副市長のサガットって……。
あんたが副市長やったんかぁぁぁぁ!!!
名前からしてどんな筋骨隆々の居丈夫かと想像しとったけど、全然ちゃうやないか。自分で自分の蹴り跡を解説するってええ根性しとるわこの別嬪はん。
「ほんまにその足で蹴ったらあんなことになるんか?」
「ええそのようです。何ならお試しなさいますか?」
こわいこわい、こわいで別嬪はん。その可愛らしい笑顔の下で床板踏み鳴らしとるその美脚にドSっぷりが駄々漏れしとるで、ほんまに。
「はははっ……、さよか。いや、遠慮させてもらうわ」
「あら残念」
って小首傾げとる場合ちゃうで、あんたはん。めちゃめちゃこわいやないか。わいは女に蹴られて喜び発狂するようなドM変態とはちゃうんや。……まあ気持ち分からんでもないけど……いや、ちゃうちゃう。
「蹴り技に関しましてはマリンフォードの方々に仕込んで頂きました。大事なお得意様でもございますから、持ちつ持たれつというわけでして……」
「つまりは
「おっしゃる通り。それに……お客様のことは存知あげておりますよ。
「よ~調べ上げとるなぁ、さすがは副市長はんや。わいらもこの辺でどっかり腰下ろして商売始めようか思うてるとこやさかい、また相談乗ってもらうかもしれへんからよろしうなぁ」
「いえいえ、こちらこそどうぞよろしくお願い致します!! それにしても……今日は実り多い日で何よりでございますわ。有望な出店候補がふたつもです。サガットは4軒の不合格査定と判断せざるを得ませんでしたが、……蹴りは嫌いじゃございませんので……」
言いよったな、蹴りは嫌いじゃないって言いよったな。副市長はん、あんたの嫌いじゃないはめっちゃ好きにしか聞こえへんで。まあ言わへんけど、あ~そんな自分の蹴りの様子を回想するみたいなうっとりした表情すな、すな。
「有望な出店候補のひとつはわいを勘定に入れてええんかなぁ。でや、わいもそのもうひとつが気になるんやけど。副市長はんが有望って言うくらいや、中々おもろそうやないか」
わいもジョゼフィーヌ相手に少しは学習しとるんや、ドSの女相手に余計なことは言わんに越したことはないわなぁ。
「ええそれは勿論でございます。もうひとりの方でございますか? 面白い方でございますよ。タコの魚人の方でございますが、たこ焼きへの愛と情熱が素晴らしい方でございましてね。私は思わず蹴りを入れたくなってしまいました♪♪♪」
おいおい、止めたれよ。蹴りはどこまで行っても蹴りでしかないんやさかいな。嬉し蹴りも楽し蹴りもあらへんさかいな。
「確かこちらにいらっしゃるのではないかと……。ああ、いらっしゃいました。あちらの方々でございます」
副市長はんの右足が上がりそうになってたんは知らんかったことにしとこう。それよりたこ焼き好きのやつや。
あいつか……。
「確かにタコやなぁ。見るからにええたこ焼き作りそうやんか」
「ザイ様もそう思われますか? そうでございましょう。そうなんですよ!!」
分かった。分かったから嬉しさのあまり膝蹴りをかまそうとすな。
「……ん? 待てよ……、なんかどっかで見たことあるような嬢ちゃんがおるなぁ。あの眼鏡の嬢ちゃんどこで見たんやったっけぇ」
横に一緒におるめっちゃ
まじか……。
わいらがいるテイスティングルームの奥でアフロの骸骨がワイングラス片手に談笑しとる。いや骸骨やから笑っとるかどうかは顔だけで分からんねんけどあのヨホホホホって笑い声やろなぁ。側におる眼鏡の嬢ちゃんは眼鏡に片手当てながら相槌打っとるけど、ほんまうちのクラドルといい眼鏡しとるやつは手を当てんのが好っきやなぁ。それに腰に差しとんのは刀かぁ。可愛らしい人魚の嬢ちゃんまでおるやないか。下が足やのうて尾びれなっとんのやさかい、あの娘は人魚やんなぁ、初めて見るけど。最後にヒトデか、ヒトデなぁ……。
ヒトデも喋っとるやないかぁぁぁ!!!!!
ヒトデって喋るんやったっけ?? もうええわ。人間、諦めも肝心や。考えんのは止めとこう。骸骨も喋っとるんや。それやったらヒトデも喋るんやろ。
何やねんやろなぁ、このおもろい組み合わせは。
「ご紹介させて頂きますね。あちらの方々……」
「ああ、頼むわ」
ワインとチーズ両手に持ったまんま案内役はんの後付いてって紹介してもらってようやく思い出したわ、この嬢ちゃんが誰やったんか。
麦わらの一味におったあの
「たしぎさん、パンツを見せて貰ってからで構いませんから私のことも紹介して頂けませんか? 私、
「え? パ……パンツは見せませんよっ!!! あ、も……申し訳ありません! こちら、我々麦わらの一味にて音楽家をしておりますブルックさんです」
「も~、ブルックちん、たしぎちんの反応がいつも初々しいからってそんなこと毎回聞いちゃダメだよ。たしぎちん結構ワイン飲んでるんだから。……ねぇ、オーバンちん、タコ焼き食べる?! はっちんが作ったタコ焼きはワインにも合うんだよ」
「ニュ~~~! ケイミーの言う通り!! ナミが居たらハリ倒されてるところだぞ。ニュ~~~、そうだ!! お前も俺のタコ焼き食べねぇか? ダシを入れたら白ワインにも合うんだ」
「はっちゃんさん、ダシ入りタコ焼き私も食べたいです」
「タコさん、私もお願いします。私、タコ焼きという文化には初心者なんですが、もう早速目が無くなってしまいました。はい~~。私、骸骨だけに目は無いんですけどね、ヨホホホホ!!」
黙っとったらこんな感じや。あかんあかん、こんな放ったらかしは許されへんことやで。
「そんなに美味いんか、そのたこ焼きぃ!!! ……あ~やっと入れたわ、あんたはんらちょっとは間髪入れるもんやでぇ。まあええわ。早うたこ焼き食べようやないか。作ってくれや」
ん~、何か足りんような忘れとるような気ぃするけど……、まあええか。会話の輪ん中に入れたわけやし、たこ焼きも食べれそうやしな。
「……ケイミーケイミー? おかしいおかしい……、また誰かが足りなくない? ……その楽しい輪の中に足りないものってな~~~んだ? 答え……、おれ……」
お~、放ったらかされとったんわいだけやなかったわ、そう言えば。淋しそうに……、ヒトデが壁に寄り掛かっとるやないか。人魚はんの紹介によったらペットっちゅうことみたいやけど、せやのに魚人島で人気があるTシャツのデザイナーや言うんやから人は見かけに寄らんわな。いや、ヒトデは見かけに寄らんのか。まあええわ、とにかくよう喋るやっちゃでこいつ、ヒトデのくせに饒舌なんや。
「ほんまによう喋るなぁ。わいは喋るヒトデなんか初めてやさかいな。取り敢えずひとつ聞いといてええか? あんたはんはどんな味がするんや? ハマグリ風味か?」
せやからその口引っ張ってちょっかい出したるわけや。だってせやろ? ヒトデに口が付いとってぎょうさん喋っとんねんやから、引っ張ってみたくなるんがこれ、人間の性っちゅうもんや。
「い、いけませんよ。パッパグさんを食べるなんて。ひどすぎます」
「ダ、ダメ~~!!! オーバンちん、パッパグは私のペットなんだからダメだよ~~。それにハマグリ食べてるけどヒトデだから、ヒトデ」
「そ……そうだぞ、俺を食おうなんて思わねぇことだ。ハマグリ食っててもヒトデだからな。人ではないよ~~、ヒトデだよ~~のヒトデだからな」
「ダメだニュ~~~!! パッパグを食うぐらいなら俺のタコ焼きを食ってくれ」
「おい、ハチ!! ぐらいってその言い方はないぜ。おれを食っちゃならねぇのは確かだが、おすすめされたいのも確かだ。ハチが作るタコ焼きが美味いのも確かだが、ヒトデがタコ焼きよりも美味いかもしれねぇと思われたいのも確かだ」
何言うとんねん、こいつら。アホちゃうやろか。冗談のつもりで言うたんやけどなぁ。冗談が通じんのはかなんなぁ。唯一、ブルックって呼ばれとる骸骨だけが静観を決め込んどるんやけど、多分こいつにだけは冗談やて通じとるような気がする。思い共有する同士やて視線を交わすんやけど、何考えてんのか実際よう分からんわ。表情が変わらんのや、骸骨だけに。もっとこう表情筋を鍛えてやなぁ、ああちゃうわこの場合アレか、表情骨になるんか……。
でも、おもろいな、こいつら。たこ焼き食うか、ヒトデ食うか、たこ焼きとヒトデはどっちが美味そうかでなんでこんなアホみたいに喋っとんねんやろなぁ、ほんまに。
ええ空間やないか……。
そんな感慨に後押されてワイン口に含んでチーズ
視線の先にはわいがおるんやけど、わいを見てるんやないんは確かや。
もちろんわいは気付いとったで。見聞色でこの工房にアーロンが入って来たんは……。牛の丸焼き食うてたやつがワインとチーズに何の用やくらいに思っとったんやけど。何か様子がおかしいんや、これ。
「……ハチ……」
「……アーロンさん……」
「……お前は……、……お前がなぜここに……」
この世界には時間が止まってまう瞬間がたまにあるんやけど、これはそうわお目にかかれん瞬間やろ。纏う空気感が一気に変わりよったわ……。
「……ハチ、ここで何してる? 横にいるそいつは麦わらといたやつじゃねぇのか? ……答えろ」
わいは丁度こいつらの真ん中くらいにおんねんやけど、かなんなぁ……。わい、めっちゃ邪魔やん、これ。せやからそうっと自分の立ち位置ずらしていくわけや。その時ちょっとだけ盗み見たアーロンの表情は冷えに冷えとったわ。
「ニュ~~~~、……アーロンさん、今はこいつらと一緒にいる。……こいつらは命の恩人だ!! ケイミーとパッパグも助けてくれた!!!」
こいつらどうやら知り合いみたいやな。昔一緒におったとか、もしかして海賊やっとったとかそんなんやろか。タコのやつは若干ビビり気味なんやけど、
「ハチ!!! てめぇ何言ってやがる。そいつらのせいで俺たちがどうなったか忘れたわけじゃねぇよな。人間という下等種族に俺たち魚人がやられたんだぞ!!! それを忘れたとは言わせねぇ。……よりによっててめぇは何でそいつらと一緒にいるんだぁっっ!!!!!」
ようそんだけ怒れるわこいつも。もう凝り固まってしもうたもんは引っ込みつかんようになってるんやろうけどなぁ。
「アーロンさん、俺たちは……、……ニュ~~~~!!! 俺たちは……間違ってた……。俺はそう思うんだ。ナミにひどいことをしちまった。あいつは……あいつは何も悪くなんかないのに、俺たちは……、俺たちは……俺たちがされたようなことをそのままあいつらにしてしまったんだ!!! アーロンさん、そうじゃ……」
瞬間やった。わいは動きに刹那分早く気付いとったけど止めるつもりは毛頭あらへんかった。止めたところでどうなるもんでもないやろしな、こんな時は。
アーロンはまっしぐらにタコんところに突進してって拳おもっきり振りかぶって殴りよったわ。言葉は時として痛いくらいに人を抉りよるからな。痛みに堪えられんかったらそら、拳つき出すしかないやないか。
それでもタコは何も防御せえへんかった。こいつら長年の付き合いなんやろな、実は。互いに相手のことは分かり過ぎるくらい分かっとるっちゅうわけや。殴られること分かり切った上でも言うたってわけか。
「ノコギリのアーロン!! これ以上の喧嘩はこの私が許しませんよ。……この時雨を以てしてお前を仕留めますっ!!!!」
「お客様……、店内での乱闘はご法度でございますよ。これ以上なさいますと私と致しましても蹴りを入れさせて頂きます♪♪♪」
まあ店が破壊されることにならんかったんわ、ええことや。嬢ちゃん二人がしっかりと後ろからタコのやつを支えとるわ。それにしても副市長はん、土壇場で入ってって、あんたそれもしかしてただ蹴りたいだけちゃうやろなぁ。
「殴るなら殴ってくれ、アーロンさん!! 俺は感謝してる。アーロンさんにずっと守ってもらってたこと。島にいた時も海に出てからも……。でも俺は麦わらにも感謝してる!!! この気持ちは変わらねぇ、変えられねぇ!!!! あいつに助けられちまったから、あいつはすげぇいいやつだってことを知っちまったから!!!!!」
「黙れ!!!! 黙れ、黙れ黙れ黙れっ!!!!!! それ以上口を開けば俺はてめぇを殴り続けなきゃならねぇじゃねぇかっ!!!!!!」
痛いやないか。痛すぎるくらいに痛いやないか、なぁ、アーロン……。
それでもこいつは更に拳振り上げて振り下ろしに行くんや。憎いの先の先まで行ってもうてるやつは振り下ろしに行くしか術を知らんのやろ。
「ダメ~~~~っ!!!!!! はっちんを殴るなら私を殴って!!!!!! はっちんは何も悪くないんだから。ただ私を助けてくれただけなんだから。私が悪いんだから。あの観覧車に乗るのをずっとずっとずっと夢見てる私が悪いだけなんだからっ!!!!!!」
「ケイミー、よせ!!! こんな時に何言い出すんだ。アーロン、あんたのことは知ってる。何なら俺を殴ればいい。ヒトデの俺を殴ればいいじゃねぇかっ!!!!!!」
「アーロンさんですか、私はタコさんともついこの前出会ったものですからお二人に何があったのかは存じてません。けどね、お二人に通じ合う何かがあったってことくらいこの骸骨にも分かりますよ。そんな二人が久しぶりにたまたま偶然出会ったんです。そこで最初に出るのは拳じゃないでしょうよ。そんな悲しいことはない……」
結局や。
アーロンが振り上げた拳の振り下ろし先は見つからんかった。黙ったまんま振り上げた拳戻しよって出ていきよったわ。
わいもアーロンを探しに
でや、
草原広がっとる丘の上で海の方眺めてぼ~~っとしとったわ。遠く見つめてな……。
「で、アーロン、お前は何を見とんねんや?」
隣に
「…………城と観覧車だ……」
「城と観覧車?」
わいはよう分からんかったさかいにただ聞き返すだけやった。
「魚人島の真上にシャボンディのマングローブ地帯が広がってる。俺たちはよく海の上まで顔を出してた。そこから見えるのがシャボンディパーク。でかい城と観覧車が遠くに見えるんだ。派手でな、キラキラと輝いて見えた。確かにあれは……俺たちの…………いや俺の…………憧れだった」
「なるほどなぁ、さっきの人魚の嬢ちゃんの言葉でそれ思い出したってわけか……」
キラッキラッした憧れか……。こいつも人間臭いこと言うやないか。まあ、憎い憎いに振り切っとる時点で十分人間臭いんやけどなぁ。
「思い出したも何もねぇ。あの光景を、景色を忘れるなんてことはねぇ。シャボンディパークの城は、観覧車は海の中にいるやつらにとっては憧れ以上のものだ。……………………こんなはずじゃねぇんだ…………、俺たちはあいつらを守るためにやってきたはずだった…………俺たちがいるのはあんなやつらを守ってやるためだったはずだった…………」
アーロンが溜めに溜めたうえで絞りだしよった“こんなはずじゃねぇんだ”は思わず俺も身を切られたような痛みを感じてもうた。腹の奥底にずっしりくるようなそんなやつや。
「アーロン、痛いやないか。痛すぎるで、お前が
わいはその振り下ろされたもんのひとりや。わいの故郷は既に無い。知り合いもどこ行ったんか分からん。ヴァスコはこの前久しぶりに
アーロンは何も返してけぇへんわ。黙ったまんまや。せやけど、ちょっとだけ効いとるような気がせんでもない。せやったら畳み掛けたったらええ。
「あいつらさっき言うとったで。シャボンディパークに行くってな。あそこはめっちゃ危ないんやろ、お前らにとっては。人攫いと天竜人が
「何だと!!! 本気か……、何考えてやがる、ハチのやつは……」
「……そんなに心配か? せやったらお前が連れてってやったらええやないか。夢叶えたったらええやないか」
「……何言ってやがる、今更俺がそんなことしてどうなる。出来るわけがねぇだろうが」
「はーさよかー。まあ好きにせえや。わいもそこまで面倒見切れんよってなぁ。せっかく……」
その時やった。
しんみりしとったところを無理矢理わいたちの現実へ引き戻しにきよったもんを感じたんは……。
一瞬やったけど、ほんまに一瞬も一瞬やったけど、刀で一閃されるようなめちゃくちゃ鋭い気配を感じたんは。
こら、あの時の、……アラバスタのアルバーナん時のあいつや……。間違いあらへん……。
この島におるんか? 何やっとんねんや? ん~~~~、分からんわなぁ。分からんけどや。あいつは政府の五老星のスパイや言うやないか。裏で何かが動き出しとる。今朝の新聞もそうや。
こら、何か繋がってけぇへんやろか?
まあええわ。
「なぁ、アーロン、シャボンディに行かへんねんやったら、もう少しわいに付き合えや。そしたら振り上げた拳のさらに振り上げ方ぁ、教えたるさかいな」
アーロンは何とも言えん表情しとるけど、ええんやこれで。
おもろなってきたからな。
ハットやローが言うアレや。
魂が歓喜しとるってやつやろ……。
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