ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第70話 根っこ

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 シャボンディ諸島

 

 

「知り合いか、知り合いじゃないかって聞かれたら知り合いと答えるしかないわね」

 

3階の窓を叩き割って入り込むという派手な侵入方法をほぼ真下で見せつけられた私たちはチムニーの質問に対して何とか否定したいところではあったが、肯定するしか選択肢は残っていなかった。海列車での会話を盗聴されていたわけであるから。

 

チムニーも人が悪い。知り合いだと分かった上で敢えて聞いてくるなんて。彼女の両の頬っぺたを抓ってやりたくなる。

 

麦わらも麦わらだ。確かに言ってはいた。ガレーラの社長には世話になったから暗殺未遂と聞いて跳んできたと。ただだからと言ってそのまま跳んで侵入していくことはなかったであろうに。

 

「全力で否定したいがな……。まるで身内の恥ずかしい場面を見られてしまった気分だ。決して身内ではないんだが」

 

まったく兄さんの言う通りである。

 

「まあそう言ってやるな。あそこにオレンジ髪の小娘が見える。あの居たたまれねぇ姿を見るに想像が付くだろう」

 

クラハドールの言葉の意味を確かめようと視線を隣の建物屋上に向けてみれば、確かにナミの姿を見て取れる。その姿はぽつんと正座している状態。

 

なるほど、ガレーラの社長に会いに行くのはいいが、向こうも厳重に警戒しているようだし、騒ぎを起こさないよう慎重に行くようにと言ってる側から突入されて大騒ぎになってるのを見て、言葉にならない感情に打ちのめされているみたいだ。

 

「状況から判断すれば悪い人でしかないんだけど、あなた達が言うからにはそう悪くないんでしょう。ウチの社長に会いたがってるみたいだし案内してあげようかな。今頃中で走り回って鬼ごっこ大会になってそうだし」

 

あり得る。っていうか間違いなくそうなってると思う。

 

「麦わらの船員(クル―)をやるのも大変そうだな。あれでは身が持たないだろうに」

 

「……俺から言わせて貰えば貴様のお守りも大概ではあるがな」

 

「ところでだけど、あの窓の修繕費用、筋としてはあの人たちに請求するけど、支払い能力が無かった場合あなた達に請求ってことで問題ないよね」

 

新聞記者に野次馬連中の群衆を掻き分けてガレーラ事務所へと入っていく兄さんたちを尻目にナミへと声を掛けようとしていた私に聞き捨てならない言葉が飛び込んできた。

 

あらぬ請求を跳ね除けるのは会計士の務めである。

 

「ねぇ、ナミー。そんなところで座ってないで降りてきなさいよ。じゃないとあんたの1億ベリーを……」

 

「ちょっと!! 私の1億ベリーをどうするつもりよっ!!!!」

 

怒り心頭の勢いで立ち上がったナミを眺めることが出来て私はにんまりだった。カモがネギを背負った瞬間が見れて。

 

そうこなくっちゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事務所内は当然の如く騒がしかった。大勢の走り回っている足音が響き渡っている。2階に上がってみればそれはさらに顕著となり、通路の先で棍棒やトンカチを担いだ男たちが追い掛けるようにして走り去っていくのが見える。

 

「やり方が汚い……。これ、……100万ベリーだなんて。もっとまけてよ」

 

事務所に入って直ぐにも発行された請求書を手に取りながらさっきからナミはあーだこーだ言っている。

 

「私に言ってもダメ。異議申し立てはこの子に言わないと」

 

「却下。ひとの事務所の窓ガラス割っておいて割り逃げは許されません。だから1ベリーたりとてまけられません」

 

「払わないとは言ってない。だけどこの金額は納得いかないわよ」

 

両者睨み合っているが、旗色はナミの方が悪そうだ。私はカネのキューピッドを務めたに過ぎず高みの見物である。今の私なら誰であっても心からの笑顔を振りまけそう。

 

「先に断っておくがウチのボスに泣きつくのも無駄でしかねぇぞ。カネに関する最終ジャッジはこの女がする」

 

「そういうこと~。だから勿論折半なんてしな~い」

 

若干涙目で歯を食いしばるナミに向かって微笑みを添えて言葉を放ってやる。兄さんがちょっとだけ不憫そうな表情を浮かべているが、ダメダメ、この子は下手に出ればつけあがるんだから。

 

 

そして、そんなところへ現れる救世主は誰か?

 

「いたぞーっ!!! 麦わらーっ!!!!!」

 

ナミが頼りにしている船長の登場である。否、頼りにはしてないか、ことカネに関しては……。

 

この吹き抜けの空間にて、麦わらは追いまわされたあげくなのか上から飛び降りるようにして現れた。

 

「おお、ナミ。おまえも来たのか。なぁ、一緒に探してくれよー、アイスのおっさんが見つからぬぅぇぇ……」

 

「こんのバカたれがぁぁーっ!!!!!」

 

怒りの鉄拳、顔面目掛けてスマッシュヒット。すごく……痛そう。

 

心からの痛みを訴える擬音を吐き出して床に倒れこみながらも麦わらからは、

 

「あー、黒いやつ……、おまえらどこ行ってたんだよ、勝手に迷子になりやがって」

 

ひどい言われ様だ。

 

「……ああ悪かったな。少し迷ってた。それより麦わら、お前の航海士に謝ってやった方がいいぞ。お前が割った窓をカネ払って直すことになってほら、ご立腹だ」

 

兄さんは甘い。多分面倒くさくなって迷子になってたことにしたんだろうけど、このアンポンタンにははっきりと分からせてやらなければ。

 

「勝手に迷子になったのはあんたでしょうがっ!! 私たちは引率の先生じゃないんだからね。……ほら、分かったらさっさとナミに土下座するっ!!!」

 

「ずびばせんでした」

 

平身低頭、きれいな土下座。うん、大変よろしい。

 

 

「あなたが麦わらのルフィね。私はアイスバーグの秘書、チムニー。肩に乗ってるのは猫のゴンベ。すごく痛そうで可哀そうだからウチの社長に会わせてあげる♪ ついて来て」

 

麦わらの追手に対してストップストップと事情を話して止めたのちにチムニーは麦わらに自己紹介して見せた。

 

なんとなく楽しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら全員、ンマー……俺に用か?」

 

真っ青な髪を撫でつけてるようなガレーラの社長アイスバーグは自室のベッドで横になっていた。側の点滴台と頭を包帯で巻かれている様子は事件の傷を大いに物語ってるけど、ペットなのか白いネズミを手であやしていて状態は悪くないように見える。

 

「おっさん、おれたちは本当の話を聞きに来たんだ」

 

「だろうな。チムニー、そちらは?」

 

「お待ちかね……ネルソン商会の人たちよ」

 

「お前らがそうか。新四商海入り、歓迎する。ここへ来たってこたぁ、チムニーの話受けてくれるんだな」

 

「ああ、引き受ける。あんたとはしっかりと話をしたいと思っていた。四商海の後輩として」

 

それぞれが言いたいたことを口にして話し合いの場は始まりを告げた。

 

 

まずは麦わらの一味とロビンへの誤解を解いていく作業。

 

 

「ンマー……なるほど、ニコ・ロビンは海賊小僧の一味だがドフラミンゴの指示でも動いてるとそういうわけか。分かった。チムニーから色々報告は受けている。お前らの言うこたぁ信用しよう。海賊小僧、これで満足か?」

 

「ああ。……話してくれてありがとな、黒いやつ。それに悪執事も。おっさん、おれはロビンの昔のことは分かんねぇ。でもあいつは仲間なんだよ。あいつから本当のことを聞きてぇ。だからロビンがまたここへ来るんなら、おれもここで待つっ!!!!」

 

「そうか。チムニー、部屋を用意してやれ」

 

どうやらガレーラの社長も麦わらの言葉に動かされる何かを感じ取ったみたい。それは私も同じ。

 

この子のこういう真っ直ぐなところは私も一目置いている。バカであることに変わりはないが、愛すべきバカではあると思う。

 

麦わらとナミがチムニーの案内の下で一旦部屋を後にしていく。

 

次は私たちの番だ。

 

 

 

 

 

「ンマー……俺もおまえとは話をしたいと思っていた」

 

私たちに対して歓迎の意があることはこの部屋に入った瞬間から察していた。彼の言葉を聞かずとも。

 

ベッド脇のサイドテーブルに馴染むように置かれた『ロイヤルベルガー』の中瓶を目にしたから。それは紛れもなく私たちが作りだしたもの。私たちのお酒だ。

 

「四商海にゃあ根っこが腐ってきてる奴らも多い。だがお前らの根っこはこれだろ」

 

そう言って私たちの『ロイヤルベルガー』を手に取り掲げて見せてくれる。

 

「ああその通りだ。その酒には俺たちのロマンを詰め込んでいる」

 

兄さんはゆっくりと言葉を紡ぎ出してベッド側の椅子に腰を下ろしてゆく。

 

私は壁際の長椅子に落ち着いて思いを馳せる。『ロイヤルベルガー』の瓶を目にすると私の頭の中は一瞬で故郷の島へと戻りゆく。万年雪に覆われたあの凍てつく大地に戻りゆく。思えば遠くへと来たものだ。

 

クラハドールは座りはしなかったが長椅子の隣で壁に身体を預けていた。こいつはベルガー島は知らない。そこを共有することは出来ない。こいつにはこいつの思いを馳せる場所、物があるのかもしれない。けれど、共感はしてくれてるかもしれない。私もこいつの根っこに思いを巡らしてみてもいい。それぐらいのつながりは出来てきているような気がする。

 

「ヤルキマンマングローブの根っこを見たか? ありゃあ凄いもんだ。びくともせんってのはああいうこったろう。……四商海なんかに収まっちゃぁいるが俺は船大工だ。俺の根っこはどこまでいこうと“水の都”にある。トムという世界で一番偉大な船大工が作り上げたもんにある」

 

「あんたの造船所は是非見せてもらいたいな」

 

「ああ、見せてやるとも」

 

彼はなぜ水の都と言ったんだろう。水と霧の都ではなくて。今ではなく過去、そこに大事な立ち返る場所があるんだろうか。

 

「ンマー……それでもな、俺たちは四商海になっちまった。道理を引っ込めて無理を通さにゃあならん時もある。これだけ組織がでかくなってくるとな。チムニーはそのためだ。……おまえら、もう天竜人には会ったか?」

 

「……まだだ――――――」

 

 

――――――プルプルプルプル――――――

 

 

何の因果だろう。このタイミングでまた掛かってくるなんて。

 

「ジョゼフィーヌ、頼んだ」

 

「え、私?」

 

兄さんから手渡された電伝虫の表情は嫌悪感を抱かせるには十分だったけど、しょうがない。

 

「コールか」

 

ガレーラの社長がそっと呟いた言葉は直ぐに私の耳から消えていって、

 

 

~「わちす、わちすよえ」~

 

初めて耳にする人称表現に私は一気に警戒レベルを引き上げた。

 

「お前ら運がいいな。アムル聖、俺たちが担当していたオカマだ」

 

天竜人にオカマなんかいるの?

 

否、とにかく早く返さないと。

 

「アムル聖、お電話ありがとうございます。お初に失礼致します。ネルソンでございます」

 

~「アイを買って来るのよえ」~

 

え? 何? アイ……? アイって愛?

 

ここにきて禅問答か何か?

 

もう、何なのよ~。

 

私は助けを求めるべくガレーラの社長に視線を向けてみる。

 

「そりゃあ爪楊枝のことだ。俺たちが船に使ったあとの残りもんの木材で作っている」

 

アイって爪楊枝のことなの?

 

「ンマー……、爪楊枝ってのは愛だからな」

 

何言ってんのこいつ……。

 

~「虫歯のある新しい奴隷を買ったのよえ。また挿し込んで新しい愛の歌(ラブソング)を聞いて眠るのよえ。前の奴隷では眠れなくなったえ、今度は大丈夫よえ~」~

 

何言ってんのよこいつも~。

 

奴隷の虫歯全部に爪楊枝を挿し込むことで夜通し叫びたおす奴隷の悲鳴を子守唄にしないと眠れないらしい。この天竜人は。愛の歌(ラブソング)って……。

 

ああ、もうダメ。

 

「承知致しました。アムル聖、愛を確認して参りますので少々お待ち下さい」

 

私は言い終わるや否や、手近にあった包帯を取って電伝虫をぐるぐる巻きにしてやった。

 

「貴様、どういうつもりだ。それが愛の確認作業か」

 

「クラハドール、まあそう言うな。こうでもしないとジョゼフィーヌもやってられないんだ」

 

「兄さん、貸して」

 

私が兄さんから借りたのは何の変哲もない紙袋。私は気が狂いだしたわけでは決してない。強いて言えば気が狂いださないようにするための自己防衛術だ。紙袋に顔を押し付け、息を吸い込んで有らん限りの声で叫び出す。

 

「クソどうでもいいーっ!!!!!!!」

 

己の細胞に巣食いだしそうだった膿のような澱のようなもの全てをこのひと叫びで全部身体の外へと吐き出せた様な気がする。

 

海列車内で何度かやり取りする中で私が編み出した術であり、兄さんにも少しだけアイデアをもらった。とにかく、

 

あ~すっきりした♪

 

すっきりしたらやることやらないと。包帯をするするすると解いていって受話器を上げる。

 

~「愛は確認出来たのよえ?」~

 

「勿論でございます。確認致しました。愛をお届け致します。暫しお待ちください」

 

そして受話器を下げる。

 

「お前の妹は変わっているな」

 

心外だわ。きーっと睨みつけてやるつもりで口角を上げながらゆっくりと振り返ってみる。

 

爪楊枝に愛なんて名付けて売りだすあんたも十分変わってるわよ。

 

「早速ですけど、その愛を売って下さいますか? 私たちに」

 

でもここでふと考えてしまう。

 

愛を売るために愛を買う私たちって一体何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョゼフィーヌが“愛”を売り買いするために部屋をあとにしていった。“愛”の管轄はチムニーが担当しているらしい。年端もいかぬ少女には持て余す気がするがどうだろうか。愛、だからな……。

 

この空間にいるのは俺とクラハドール、そしてガレーラの社長であるアイスバーグのみ。これなら話す内容を闇深いものへとしていくのも問題ないであろう。出来ればガレーラの裏側を掌るスパイマスターのチムニーにも居てもらいたかったが、社長に直接報告を上げているようなので、眼前の人物も多くを知る立場にあるということだ。根っこが船大工とはいっても。

 

さてまずは、

 

「この部屋、“掃除”は大丈夫か?」

 

「……ンマー……問題ないだろう。チムニーが定期的にやってる」

 

これからきな臭い話しを始めると匂わせるためにも聞いておく。盗聴されてる可能性について。

 

「俺たちの海列車内での会話を聴いたのならあの取引についてある程度把握してるよな。ガレーラは実際のところ絡んでるのか絡んでないのかどっちだ?」

 

盗聴の可能性が低いなら早速でもこういう話になる。あの場で表立ってガレーラの名は出てこなかった。だが、よくよく考えればあの取引は海列車内で行われた。そして海列車を運行しているのはガレーラだ。しかもウォーターセブン近隣の島が関係している。奴らはガレーラを通さなかったのかどうか。それによっては話が変わってくることはあるだろう。

 

「ない。俺たちはハコを提供したに過ぎん。お前の質問にはその先に青い薔薇協会(ブルーローズ)と俺たちがどういう関係かってことがあるんだろうが、あまり良いとは言えんな。奴らは何度も海列車を“ヘブン”の輸送に使わせろと言ってきたんだが、ことごとく断っている。俺たちの立場はこんなもんだ」

 

短時間ではあるがこの男の人となりは分かって来たような気がする。ゆえに嘘は言ってないようだ。

 

「分かった。じゃあ、あんたはこの取引をどう思った?」

 

「ンマー……お前らの前途に危惧を覚えた。言っただろ、俺の根っこは船大工だと。取引は趣味じゃない」

 

俺はもしかして聞く相手を間違えているのだろうか? 爪楊枝に愛と名付けて売りだすやつに聞くのは無駄であったのか……。

 

「……だがな、チムニーの考えは違う。あいつぁ、これには裏が有りそうだと言っていた。“ヘブン”の話をしながら本当は何の話をしていたのか。祭り屋が組んでいる相手は本当にギルド・テゾーロだけなのか。青い薔薇協会(ブルーローズ)がサンファルドを分割してまで手離さなかったことにゃあどんな意味があるのか。ンマー……匂うな」

 

やはり違和感を持ったやつが他にもいたか。クラハドールに視線を向けてみれば、目を左右に動かしたあとに閉じて見せた。ここでは話さない方がいいという合図だ。

 

「有り難い。有用な意見だ。次はあんたについて聞いておきたい。護衛を引き受けるわけだからな。……ドフラミンゴから狙われる背後関係は何だ?」

 

「そりゃあ海列車しかないだろ。ここから赤い大陸(レッドライン)へ向けて伸ばすのが気に食わないんだろうな。奴ぁ、マリージョアへ入る流れじゃなくてな、出る流れを警戒してると俺ぁ睨んでる」

 

なるほどな。天竜人、マリージョアにいる奴らが動きやすくなると困るとそういうわけか。マリージョアに極力留めておきたい。そうしなければ何かが流れ出すのか動き出すのか。

 

「ところでだが、チムニーからあんたには戦闘の素養があるって聞いたがどうなんだ? その様子ではそれがあっても無理そうか?」

 

「しばらくはこの点滴を外せそうにない。ンマー……無理だろうな。だが戦闘の素養があるというのは確かだ。お前が海列車で遭遇した“ベクトル”を会得している」

 

何だと!?

 

「ベクトルっていうのは何だ?」

 

「お前にはまだ早い。いずれ教えてやってもいいが」

 

ああ、そうかい。まあいいだろう。焦ってもいいことは何もない。

 

粗方聞きたいことは聞き終えた。あとは俺たちの船に関することぐらいだが、今ここで話してもどうだろうか。ローがいないしな。さわりだけでも話しておくことにするかどうするか……。

 

「俺からもひとつ聞いていいか?」

 

あまり途切れることなく続けていた会話が途切れて生まれた静寂の空間をまた動かしていくかのようにクラハドールが口を挟んでくる。こいつはこの場では話をしたくなさそうではあったが、何か思うところでもあるのだろうか。

 

「ボス、あんたは気付いてたか? この部屋の家具の配置に」

 

ん? 何の話だ。

 

家具の配置?

 

この部屋は扉を開くと奥の右側にベッドと椅子がある。奥の左側に長椅子がある。手前の右側にも長椅子があり、手前の左側にはデスクと椅子がある。

 

何だ?

 

―――――――――――――、

 

!!

 

「気付いたか?」

 

「点対称の配置ってことか……」

 

俺にはイマイチまだ良く分かってなかったが、言われてみれば確かに点対称の配置のような気がする。

 

「そうだ。家具だけじゃねぇ。部屋の扉とあの窓、そしてクローゼットと向こうの窓、掛け時計と向こうの壁掛け絵画の配置まで全部が点対称配置だ。この意味何だと思う?」

 

「俺に聞いているのか?」

 

点対称だからって何だと言うんだ。そういう趣味ってことであって……。

 

「いや、アイスバーグ氏に聞いてる」

 

「……………………」

 

おい、何だと言うんだ。

 

「アラバスタで火拳のエースに出会った。奴の背中にはスバースティカが描かれてた。あれも点対称だ」

 

「……プラバータムか……」

 

ここで繋がってくるのか。

 

 

「ンマー……さすがだな。脚本家ってのは。確かにプラバータムだ。俺もそこまで詳しいわけではない。この事務所は第一ドックに居る俺の部下が設計し、建てた。プラバータムは俺じゃない。そいつだ」

 

プラバータムは頭の片隅に追いやっていたことだった。だが、火拳のエースは今大事件の中心にいるではないか。そして奴の後ろ盾となる白ひげも必ず動き出す。その白ひげこそがスバースティカを掲げて海を渡る親玉だ。

 

底が見えない。

 

闇が深い。

 

一体全体どこまで辿っていけばいい。

 

裏側に潜む何かはどこまで繋がってやがる。

 

今回のヤマは今までとは桁が違いそうだ。

 

そんな予感がした。

 

 

そう、嫌な予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し疲れた俺たちは船の話を持ち出す気にはなれず、一旦部屋の外へ出た。よくよく考えてみればアイスバーグはけが人だった。ローが居れば舌打ちされているところだろう。

 

伸びをしつつ、吹き抜けの手摺から下を窺ってみれば、何とも騒がしかった。手近の護衛員に聞いてみれば別の麦わらの一味の連中が到着したとのことだ。

 

「んナミさ~~ん、元気だったかい? お、もしかしてあなたは……、麗しのジョゼフィーヌさんでは……」

 

「「うっさいっ!!!!!」」

 

容赦ないな、二人とも。

 

 

「人手は多い方がいいかな。……再度の襲撃が今夜である可能性は高い。ウチの社長をお願いします」

 

そっと俺たちの隣に現れ、階下の賑やかさとは裏腹に静かに紡ぎだされたチムニーの言葉には背筋をしゃんとさせるものがあった。

 

守らねばならないものがある。

 

生かさねばならないやつがいる。

 

 

 

大窓の外に見えたのは変わることなく根っこから湧き上がって来る無数のシャボンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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