ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第72話 置いてくわけにはいかない

『第二のガレーラ・カンパニーシャボンディ事務所襲撃事件』から少し時は遡る。

 

 

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 “水と霧の都” ウォーターセブン

 

 

「なるほど、そやつらが超新星と呼ばれていると……」

 

「ああ、そうらしい」

 

ボスたちに別れを告げて海列車をあとにした俺はハヤブサの背上にいた。浅い海中を揺蕩(たゆた)っている線路を辿りながらの飛行は大変そうに思えるが、特に苦も無い様子だ。

 

こいつには海列車内での状況とクラハドールから知らされた状況とを説明してやっていた。その情報の中で興味を惹かれたのが超新星と呼ばれる海賊達の動向だ。

 

偉大なる航路(グランドライン)記録(ログ)を辿って先へ先へと進んでく中で海賊たちは選別されていく。そうやって脱落せずに名を上げて来た奴らが今、中枢にて一堂に会してるらしい。一時に相見えるのも珍しいらしく超新星たちと人知れず広まっているようだ。

 

“大喰らい” ジュエリー・ボニ― 1億4000万ベリー

 

“魔術師” バジル・ホーキンス 2億9900万ベリー

 

ユースタス・“キャプテン” キッド 3億1500万ベリー

 

“海鳴り” スクラッチメン・アプー 1億9800万ベリー

 

“赤旗” X(ディエス)・ドレーク 2億2200万ベリー

 

“怪僧” ウルージ 1億800万ベリー

 

“殺戮武人” キラー 1億6200万ベリー

 

と、いずれも懸賞金の額は億を超えてる奴らばかり。この中には当然ながら麦わら屋も入ってくる。奴も額は確か2億ベリー。剣士で9000万の奴もいたはずだ。そいつも億越えでないとは言えそう変わらないだろう。

 

「……荒れますね。この先の海は」

 

「だろうな。だが逆に都合がいい。荒れた海は商売になる。何なら奴ら相手にも売ってやりゃあいい」

 

「海賊がまともに買ってくれますか?」

 

「まともに売らなきゃいい話だ。……楽しみだな」

 

「副総帥殿、悪いお顔をされていますよ」

 

首を捻ってこちらを見上げてくるハヤブサの視線には呆れたとでも言うようなものがあった。ここは副総帥として窘めておくべくターバン越しに頭をペチペチと叩いてやる。

 

「減らず口はそれくらいにしておけ。……見えてきたな」

 

「ええ。大噴水です。寄られますか? このままサン・ファルドまで飛んでも構いませんが……」

 

「それではお前の身がもたねぇだろ。って言いたいところだが海列車が行ったあとかもしれない。その時は頼む。ひとまずベポを置いてきてるんだ。寄って行こう。少しは良くなってりゃいいが……」

 

「そうでした。心配ですね、ベポ君。……少々急ぎましょう」

 

満身創痍だったベポの様子を思い出し、少しずつ近付いてくる大噴水をしっかりと見据えてゆく。掌越しに伝わって来たハヤブサの脈動する筋肉の動きはより力強さを増していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼らがいますよ」

 

ハヤブサが顔を向けた先には海列車の駅。そこへ丁度入って行こうとしている連中が見える。

 

あれは麦わら屋のところに居た奴らだ。ぐるまゆ屋とトニ―屋とでも名付けておこうか。

 

「こちらに気付いたみたいですね。それに、用があるみたいですよ。……降りますか?」

 

ベポに早く会ってやりたいが、麦わら屋の連中も色々あったのかもしれねぇ。行きがけの駄賃か……。

 

「ああ、そうしてくれ」

 

俺の返事を合図のようにしてハヤブサは高度を下げ始め、ゆっくりとブルーステーションと呼ばれる駅の前に降り立った。

 

「悪いな、わざわざ降りて来てもらって。あんたらを見掛けてどうしても頼みたくなったことがあってよ」

 

「アラバスタの時にいた医者の奴だな。俺、もう一回会いたかったんだよ~」

 

銜えタバコのままこちらへと寄って来たぐるまゆ屋は言葉とは裏腹にしてどうにも不本意な表情を浮かべている。かたやちょこちょことやって来たトニ―屋は何の汚れもなさそうにして目をキラキラと輝かせながら話しかけてきていた。

 

「何の用だ?」

 

何とも面倒くさそうな雰囲気を双方に感じ取って、それをそのまま言葉に乗せてみれば、

 

土下座をされた。綺麗な土下座だった。

 

仲間を一人しばらく面倒を見てやってくれとのことだった。多くを語りはしなかったがどうも仲間内で決闘となってしまったらしい。ただ仲間は必ず戻ってくると言い張った上で、ここに置いていくわけにはいかないから連れ出してくれとのことだ。島に漂う怪しい雲行きに危険を感じているらしい。

 

「―――――――そりゃあんたにも用事ってもんがあるんだろうが、必ずシャボンディには連れて来てくれ。頼む。これは俺たちの問題。俺たちでどうにかしてやりたいし、あんたに頼むなんて違うってのは十分分かってるつもりだが、今のあいつは俺たちの言葉を聞かねぇ。だがあんたらなら無理矢理連れ出すことは出来るよな。頼むっ!!!!!」

 

「サンジ…………、俺からも頼むよ。ウソップを連れて来てくれよ~」

 

そしてハヤブサからはどうしますかとでも言うような無言の視線を向けられて来る。

 

あぁ、面倒くせぇな。と思いつつも俺の答えは、

 

「分かった、分かった。引き受けてやるから、顔を上げろ」

 

結局こうなった。

 

「あんた、恩に着るよ。チョッパー、渡しとくもんがあったんだろ」

 

「ああ、そうだった。ウソップはケガしてたんだ。替えの包帯と塗り薬」

 

こうしてトニ―屋からは治療用に資材を受け取った。最後にトニ―屋が俺の能力を聞いたようで恐る恐る蹄でつついてきて、能力についてあれこれと質問してきたが、シャボンディ行きの海列車がそろそろ来るようで、ぐるまゆ屋に連れられて行った。

 

 

 

 

 

「あれだな、……麦わら屋の船は」

 

「ええ、旗のマークを見る限りはそのようで」

 

再びハヤブサの背上となりウォーターセブンの外縁部に広がっている裏町へと近付いてきたところで、羊の顔を象った船首像を特徴とする船が沿岸の岩縁に横付けされてるのが見て取れた。

 

「あの鼻の長さは……間違いない。ウソップ君のようです。」

 

「ああ、あんな鼻は鼻屋ぐらいしかいねぇだろ」

 

と言ったあとに思いだす。そういえばもう一人いたことを。

 

「副総帥殿も案外お人好しですね。ああいうところはあなたのいいところだとも思いますが。参りましょう」

 

一言、二言余計なハヤブサに対しては再びペチペチと叩いてやる。

 

 

俺がお人好しだと? まったく余計だ。土下座されて頼み込まれてはしょうがねぇだろう。とはいえ、それでも受けてしまうことがお人好しというのかもしれねぇが……。

 

癪に障ったので更なるペチペチを繰り返してやった。

 

 

 

 

 

鼻屋はどうやら船の修理をしてるらしく、板とトンカチを持って船内を動き回ってる。トニ―屋が言ってた通り身体中至るところを包帯で巻いていた。余程の決闘だったらしい。それもあってか少々事情を知ってしまってるが故にか見てられないものがある。

 

手荒に行く可能性もあることをハヤブサには事前に言ってる。奴は任せると言ってきたが、さてどうしたものか。ひとまずは

 

「船番か?」

 

声を掛けてみる。

 

新しく板を張り釘を打ちつけてた鼻屋が俺たちに気付いて、

 

「おまえら……、アラバスタん時の……何でこの島に居るんだよ。しかも一緒に」

 

驚いたように返事を寄越してくるが作業は中断しようとはしていない。

 

「ウソップ君、久しぶりだ。実はこちらのネルソン商会の方にご厄介になることになってな。ここにはいらっしゃらないがビビ様も一緒なのだ」

 

「ビビも一緒? アラバスタの戦いは終わったじゃねぇか。これからって時に……、また何かあったのか?」

 

「まあ……、我々も色々とあってな……、君と同じように」

 

鼻屋の問い掛けに答えたハヤブサがあとは任せたとばかりにこちらへ視線を寄越してくる。言うべきことは言ったと言わんばかりに。

 

しょうがねぇな。

 

「お前は何やってる、ここで?」

 

「見りゃ分かんだろ。()()()だ。修理してんだよ」

 

「……()()()のだろ」

 

「…………いや、俺の船なんだよ」

 

「じゃあ、あの旗はどういうことだ?」

 

ハヤブサから引き継いで鼻屋に対して問い掛けを始め、最後の言葉で(おもむろ)にメインマストの上ではためいている麦わら帽子を被った髑髏マークが入った旗を指差してやった。

 

「…………うるせぇ、俺の船っつったら俺の船なんだよ。メリーは俺の船だ。だから修理してる。何か文句でもあんのかよ」

 

鼻屋は若干のべそをかきながら俺に言葉を叩きつけてくる。どうしようもねぇ奴にはどこまでも冷徹な現実ってやつを(まなじり)に焼きつけてやる必要がありそうだ。

 

Room(ルーム)

 

船を包み込むようにして能力を展開し、

 

「タクト」

 

指先で船を水の上から持ち上げてゆき、鼻屋の真上に持って来てやる。見せてやるのはこの船の惨状。

 

「見ろ」

 

船の竜骨は痛々しいまでに(ひび)割れしてしまっていた。もう手の施しようが無いと素人目でも分かるぐらいに。目を背けずに見てるが鼻屋の様子も痛々しいまでの表情。正直見てられるもんではない。

 

何の義理があるわけでもねぇんだがな……。

 

とはいえ、始めたからには最後までやってしまわなければならない。

 

船を水の上に戻しゆけば、

 

「……何だよ、何なんだよっ!! 知ってたんだよ。俺には分かってたんだ。メリーがもうダメなのは。だからってここへ置いてけねぇだろうがっ!!!!!! こいつも仲間なんだから……」

 

鼻屋の悲痛に満ちた叫びが返って来る。

 

「俺は医者だ。船のことは分からねぇし、お前の仲間のこともな。ただ医者として言わせて貰えば、どれだけ手を尽くそうともダメな時はある。それがどうしても生きてもらいてぇ顔馴染みってこともある。それでもどうしようもねぇんだ。そんなときはしっかり目開けて看取ってやるしかねぇだろうが」

 

知らずに俺も感情を昂ぶらせてしまっていた。

 

「……お前の仲間も同じように思ってるだろうよ。お前をここへ置いてくわけにはいかねぇとな。仲間なんだろうが」

 

俺の言葉が一体どれだけこいつに刺さるのか何とも言えない。

 

鼻屋は押し黙っている。言葉にならねぇ感情が胸中を渦巻いてやがるのかもしれない。

 

言葉にしようとするが歯をくいしばり、それを押し留めてるような様子だ。

 

どうすればいいのかは分かってる。分かっていても迸る感情をどうにも出来ない。割り切ることが出来ない。

 

どいつもこいつも、しょうがねぇな……。

 

「さっき俺の能力は見たよな。オペオペの能力(ちから)だ。この力を以てすればな、今ここでお前の心臓を鷲掴みにして抜き取って、お前の目の前で握り潰すことが出来る」

 

目を細めながら脅し文句を並べ立てたあとに、意識的に口角を上げてゆく。

 

「何なら試してみるか?」

 

隣に居るハヤブサの目は非難に満ちているが任せた以上は黙れと言いたい。

 

「ヂクショーッ!! こえぇーよっ!!!」

 

半べそかいた鼻屋はぶるぶる震えながらそう叫びを口にした。

 

「嫌ならひとまずついて来い。ここで死ぬのか、まだまだ生きるのか、今選べ」

 

俺は情け容赦なく畳み掛けてゆく。

 

答えは決まっていた。

 

鼻屋はヂクショーを繰り返してたが。

 

最後に船をどうするのかと聞いてきたので答えてやった。

 

「また戻ってくればいい。お前の船なんだろ。船は逃げねぇ」

 

と。

 

 

面倒事を背負い込んだがまあいい。ベポに会いに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿屋の2階にて、ベポにはピーターが付いていた。

 

良くはなってるらしいがまだ動けないとのこと。頼みますと部屋を開けてくれたので様子を確かめるべく入ってみれば、ベポは寝ていた。

 

動けない以上痛みはあるんだろうが、寝顔を眺める限りは大丈夫そうだ。触診してやりたいところではあるが寝かせといてやろう。

 

「大事は無さそうですね。良かった、良かった」

 

ハヤブサも安心したようだ。少しだけほっとした表情をしている。

 

鼻屋は初めて間近でベポを見るのかもしれない。おっかなびっくりな様子ではあるが、気遣う表情を見せていた。

 

「ひどいケガなのか?」

 

「ああ、初めて奥義を使ったらしいからな。ベポはミンク族と言ってな、動物の種族なんだ。ミンク族は生まれつき戦闘種族らしいんだが、その奥義というのが命を削って力を呼び覚ますもんだからこの有り様だ。俺もこいつがここまで動けねぇ姿は初めてみる」

 

「ベポ君は普段はのんびりしてますからね」

 

「父親に会ったのが相当堪えてるってのもあんのかもな。ああ、こいつはな。兄貴を探そうとして海に出てたところを俺たちが迎え入れたわけなんだが、見つかったのは兄貴じゃなくて死んだと思ってた父親だったというわけだ。しかも戦った相手はその父親だ……」

 

言葉にしながらベポを眺めやる。こいつの心境はどんなもんだろうか。自分の中で消化しきれてねぇこともあるだろうが。

 

「こいつの親父さんは何をやってるんだ? 海賊か?」

 

興味を持っているのかやけに質問してくる鼻屋に対し、疑問が湧かないでもないが。

 

「いや、新世界に居る歓楽街の用心棒をやってるらしい。要は謎めく闇の人間ってことだ」

 

「親父さんが大好きなんだろうな。俺には分かる。なんとなくだけどな。だから大好きな親父さんには楽しくやっててもらいたいんじゃねぇか。分かんねぇけど、こいつには親父さんが楽しそうには見えなかったのかもな」

 

鼻屋は随分と知ったようなことを言うもんだ。そういう可能性もあるかもしれねぇが、どうだろうか……。あの時はカールが掛かっていた。あの場で俺たちのすべてはカールの為に存在していた。戦うべき敵と見定めたから戦ったわけであって……、それとも何か、父と子の傍目には分からねぇ何かがあったってことだろうか。

 

「それはウソップ君の経験からくる話しかな?」

 

「……俺の親父は俺と同じ海賊だ。俺は親父に憧れて海賊になった。遠い海で海賊やってる親父を俺は誇りに思ってる。親父は楽しくて、心底楽しくて海賊をやってるんだと俺は思う。だから俺は親父が楽しそうにしてなけりゃ直ぐに分かっちまう自信はある」

 

「そうか……」

 

なるほどな。

 

鼻屋の言葉が部屋の中に沁み渡っていくようで、どうにも思いを馳せずにはいられなくなる。父様(とうさま)は既にいないが……、俺も……同じ思いだな。父様(とうさま)は確かに楽しそうに仕事をしてたと思う。

 

「…………ドクター…………」

 

ベポが薄目を開けていた。

 

「起きたのか、ベポ。無理するな、寝てていいぞ」

 

俺の言葉に、ハヤブサと鼻屋の頷きにベポも頷きを返してくるが、

 

「……寝る。……けど、……言って……おきたい。……ドクター、……俺……もっと……強く……なりたい」

 

言葉を繋げてくる。

 

ありったけの思いを乗せた言葉を。

 

迸り、渦巻いてたであろう感情のすべてを混ぜこんだような言葉を。

 

「ああ、知ってる。だから、寝てろ」

 

俺が返すべき言葉はそれだけだった。

 

ベポは少しだけ笑って見せ、そして目を閉じる。

 

「……下へ行って水を貰って来る。鼻屋、お前もその包帯、そろそろ替えた方が良さそうだ。あとで替えてやるよ。ここを頼む」

 

そう残して俺は部屋をあとにした。

 

あいつのあんな言葉を初めて耳にした。

 

 

置いてくわけにはいかない。あいつも……、だが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階下に下りてみれば、そこは食堂を兼ねたこじんまりとしたロビーが広がっている。水を頼もうと奥に足を踏み入れたところで、思いも寄らねぇやつが席についてるのが視界に入ってきた。

 

左右に垂らした長い金髪。両目の上の特徴的な刺青。

 

バジル・ホーキンス。

 

中枢にいるとは聞いてたがよりによってこの島に、しかもこの宿屋にどうしているってんだ。思わず鬼哭(きこく)に覇気を纏わせようとしてみたが、

 

「久しぶりだな。そう身構えるな。戦うつもりはない」

 

戦意は感じられない穏やかな声音が返ってきた。

 

「何でここにいる?」

 

当然の質問だ。そうそうこんな奴らに会ってたまるか。

 

「俺が宿屋にいては悪いか? 海賊も宿に泊まる。たまたま泊っている宿がここだというだけの事」

 

何でもないことのようにホーキンス屋から答えが返ってくる。

 

「お前の総帥を見掛けないが、一緒ではないのか?」

 

「ああ、商人には色々あってな……」

 

ホーキンス屋とは北の海(ノース)の海上での一戦以来。あの時はこいつらから仕掛けて来たところを返り討ちにしてやった。直接相対したのはボスだったのであまり面識があるとは言えないが、俺が奴の船に乗り込んでメインマストをこの鬼哭(きこく)で叩き斬ってやったのだ。船をあとにする際に二言三言交わしたような記憶がある。

 

「ウチのボスに恨みでも?」

 

「恨みなどない。戦いではよくあることだ。お陰でより強く、より慎重になれた。むしろ礼を言いたいぐらいだ。あれは覇気とやら……だったんだな」

 

「そうだ。よく覚えてんじゃねぇか」

 

「この偉大なる航路(グランドライン)前半でもそうそう巡りあうことが無かった。覇気とやらには。こちらから探しに行って初めてほんの一握りの者たちから知りえたものだ。お前達はそれをこの海へ入る前に使いこなしていた。異常だ」

 

「師匠がいたもんでね……」

 

今はいねぇが。

 

嫌なこと思い出させてくれんじゃねぇか。

 

「なるほど。……で、そんなお前達はもう四商海だ。四商海に手を出すつもりはない」

 

「そうかい。なら話は終わりだな」

 

「そう邪険にするな。これも何かの縁だ。お前を見てやる」

 

そうして口を閉ざしたホーキンス屋が不意に束となったカードを取り出し、自らの能力を少しだけ使ってるのか藁と化したものを漂わせてゆき、その先にカードを並べてゆく。

 

ぶつぶつと何やら呟きながら俺は何かを見られてるらしい。気分の良いもんじゃねぇ。

 

そうして並べられてゆくカードと奴の呟きが止まって、

 

「―――――――『生存』死亡率99%。……興味深いな。お前には死相が出ている」

 

は???

 

99%死ぬってことか?

 

俺が?

 

「それがどうした。占いだろ」

 

「俺の占いはよく当たる。とりあえず生きろ。確率は1%ある」

 

ふざけた野郎だ。

 

頼みもしないのに勝手に占っておきながら、この先近いうちに99%の確率で死ぬ、生きる確率は1%だと言いやがる。

 

「ああそうさせてもらう。達者でな、お前も」

 

ハヤブサの背上ではこいつら超新星相手に商売してやると息巻いてみたが、こんなふざけた野郎には売りつけてやる気にもならない。

 

が、

 

俺たちは商人だ。

 

「ホーキンス屋、いいタロットがあれば欲しいか?」

 

俺の問いに対して、暫し逡巡したあと、

 

「いいタロットとの巡り合わせは至上の喜びだ。見つかれば頼む」

 

微笑みながらの答えが返ってきた。

 

人にとんでもねぇ占い結果を伝えておいてよくもそんな表情が出来たもんだ。

 

「ああ、待ってろ。取り敢えず生きててやるから」

 

「期待してる」

 

話は終わったと振り返り、宿屋の婆さんから水を貰うことにした。

 

生存確率1%……。

 

地獄はいつだって変わらねぇんだ。

 

 

まだ命を置いてくわけにはいかねぇだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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