ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第76話 それが甘い考えであることは百も承知だけれど

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 “春の女王の町” セントポプラ

 

 

麗らかな陽気が漂い、穏やかな木漏れ日差す光景を想像していた私であったが、セントポプラのパープルステーションに降り立ってみれば、雨だった。

 

でも私は雨が好き。砂漠に覆われた祖国では雨と言うのはとても貴重なものだし、何よりもあの戦いの終わりと共に降り出し降り続けた雨を忘れられない。

 

そして今目の前で降っている雨もまた春の陽気に誘われたような穏やかな雨。肌寒さを感じることもなく、道行く人々が着込んでいる様子も無い。

 

雨は大通りの所々に水たまりを作りだしていて、大通りの両側には街路樹と街燈が佇み、真っ直ぐ伸びたその先には王宮らしき建物が見える。頂きには冠が見て取れた。

 

セントポプラは春の女王が統べる町。優しく降り注いでくる雨はもしかしたら女王の涙だったりして。もちろん悲しみの涙ではなくて歓喜に打ち震える涙。

 

……だったらいいな。

 

「ビビ会計士補佐、こんなことなら船から傘持って来たら良かったですね」

 

「そうね。沢山あるのにね」

 

私の物思いを繋ぐようにして呟かれたカール君からの言葉は尤もな話だった。私たちの船倉にはキューカ島で大量に積み込んだ色とりどりの傘がある。あれはこんな時のためにあるのではないかと思ってしまうが、一方で商品でもあるため無闇に使うわけにもいかないという考えも浮かんでしまう。

 

「クエ?」

 

カルーからは何か問題あるかと言わんばかりの表情を向けられた。確かにカルーであれば雨など気にもしないところであろうが私たちはそうもいかない。

 

「カルーはいいよね。雨に濡れても平気そうだもんね。でも僕らはそうはいかないよ。塩の木(ソルトツリー)をどう運ぶのかっていう問題もあるしさ」

 

言いながらカルーの頭を撫でてやっているカール君の言う通りである。私たちは塩の木(ソルトツリー)を持って来ている。これを雨の中で木工職人のところまで持ち運ばねばならない。それは私たち3人だけでは到底無理な話であるため、誰かに頼まなければならないが一体誰がこの雨の中やってくれるのか。

 

「まあいいや、ビビ会計士補佐、ひとまず僕らは傘を買いましょうよ。あそこで傘を売ってそうです」

 

「うん。そうね」

 

考えても仕方ない。じゃあまずは考えなくてもいいことをやってしまわないと。

 

でも、

 

「ねぇ、カール君、やっぱり黒じゃないとダメ? この水玉模様いいと思うんだけどな」

 

「何言ってるんですかビビ会計士補佐。僕たちネルソン商会の制服は黒ですよ。黒い服に黒い帽子を被るんです。だったら傘も黒を選ぶのは当然じゃないですか」

 

考えなくてもいいと思っていたことが実は結構考えなければいけないことだったりするわけで。

 

「それは分かってるけど……。ほら、こんなに可愛いのよ」

 

水玉模様の傘を開いて持ち、軽くポーズを取ってみる。

 

「確かに可愛いですけど……。それはその水玉の傘が可愛いんじゃなくてビビ会計士補佐が可愛いからであって。だからこの黒い傘でもビビ会計士補佐ならとっても可愛いですよ」

 

水玉模様の可愛さをアピールしようとしたら、面と向かってとんでもないことを言われてしまって、正直照れる。

 

「はい。じゃあこっちの黒い傘でいいですね」

 

「はい、お願いします」

 

私に最後に残された道はただ頷くことだけであった。

 

「ビビ会計士補佐、塩の木(ソルトツリー)をどうやって運ぶか問題も解決しそうじゃないですか? あの人たちに声掛けてみれば」

 

私の代わりにお会計を済ませてくれて、漆黒の傘を私に渡しながらカール君が目を向ける先へと視線を辿らせてゆけば、優に4mは有ろうかという巨体が目に映る。

 

黒装束に包まれて、大きな番いの羽が見える後ろ姿は声を掛けるには少々以上に尻込みさせるものがあるけれど。思い立ったが吉日のカール君には躊躇というものは全く無くて、

 

「わーお! 大きな体ですね~!! すいません、ちょっと僕たちのお願い聞いてくれませんか?」

 

早速にも声掛けちゃうのよね~。そうやってぐいぐい行けちゃうところ羨ましいけど、私には出来ないかなって思ってしまう。単身バロックワークスに乗り込んだ人間が何を言うのかって言われるかもしれないけれど、それとこれとは別の話。

 

かなりのサイズ差がある二人の話し合いはとんとん拍子で進んでるようで、直ぐにも私はカール君から手招きされる破目となってしまう。

 

「ご紹介します。僕たちの会計士補佐であるビビです。ビビ会計士補佐、こちらはウルージさんです」

 

そして早速にも紹介をされて、ウルージという名前と僧のような格好と顔にはたと思い当たってしまう。ジョゼフィーヌさんからの影響で私も手配書を眺めないという日はない生活となってしまっていた。だから直ぐに分かってしまう。この巨体の人物が億越えの賞金首である“怪僧” ウルージ、破戒僧海賊団の船長であると。

 

「お初にお目に掛かりますかな、シルクハットの方。どうやら我らにお話がありなさるとか。伺いましたが我らもアクアラグナにやられて漸くこの島へと流れ着いた身」

 

体の大きさに似合わず物腰はとても丁寧なウルージさんだけど、間近で感じられる威圧感は半端がない。それでも交渉を始めてしまい、それが終わってないようなら進めるしかない。そのためにカール君も私を手招きしたんだろうし。

 

でも、

 

「ウルージさん、何をおっしゃってるんですか。こんなにキレイなお姉さんがお願いしてるんですよ。それを断るんですか?」

 

カール君が私に口を挟ませることなく話を進めてゆく。方向が若干アレだけど。

 

「フフ、シルクハットの人。キレイは正義と言いなさるか」

 

「当然です。キレイなお姉さんには万物みなすべて、問答無用で頭を垂れないといけません。キレイなお姉さんからのお願いには答えるという一択しかありません」

 

「好き勝手言いなさる。だが、筋は通っているか」

 

「僧正、このような者の相手など……」

 

カール君の暴論に面白いとばかりに頷き始めているウルージさんに部下の人たちが堪らず意見具申しているけれど、私でもそうするだろう。でもここはカール君に乗っかってキレイなお姉さんを演じなければならない。上目遣いと笑顔。

 

「シルクハットの方、この話、受けよう。よろしいかな?」

 

「やったー! さすが、ウルージさん。やっぱりキレイなお姉さんは正義ですよね」

 

「ありがとうございます。……あの、ちゃんとお金……お支払しますので」

 

受けてくれるというウルージさんに対して急に居た堪れなくなった私は対価を払う旨を伝えるも、

 

「そう言いなさるな。キレイは正義ですからな。お気持ちだけ受け取っておこう」

 

穏やかな笑みと共に煙に巻かれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はカルーの背に揺られて進んで行った。ウルージさんたちに申し訳なくて私も歩いて行こうとしたのだけれど、カール君とウルージさんがそれを許してはくれなかった。キレイは正義で押し通されてしまえば私にはもう何も言えない。よって私は黒い傘を差して、カルーの背中の感触を味わいながら進んでいった。途中、お洒落なオープンカフェや雑貨屋さんに服屋さんを見掛けたけれど、ウルージさんが両腕に抱え持つ私たちの塩の木(ソルトツリー)の束を見る度に寄って行こうなどと言う罰当たりな自らの考えには鉄槌を下していった。

 

木工職人の工房はセントポプラ郊外にある木材市場の外れに建っていた。私たちはウルージさんたちに感謝の言葉を繰り返した。繰り返してもし過ぎることは無かったはずだ。

 

でもカール君はと言えば。ウルージさんに質問攻めを繰り返していた。質問攻めはここへの道中からずっと続いていて、私はヒヤヒヤものだったけれど。到着したからといってそれが止める理由とはならないようで、今はウルージさんの背中から生える羽について満足いくまで答えを得られたのか、その拳でパンチを放てばどれぐらいのパワーかと質問を始めていた。

 

カール君が時間を持て余すようには到底思えないので、私は私の仕事に早速にも取り掛かろう。この工房に話を付けなければならない。

 

 

 

相手が気難しい職人であれば難儀しそうであったが、結果から言えば簡単だった。ここ最近は塩の木(ソルトツリー)のような特殊な木材を持ち込むような人間は珍しいらしく、むしろ歓迎された。繊細な加工をするためかゴーグルを装着したその職人には、総帥さんとジョゼフィーヌさんから言付かった依頼をそのまま伝えてゆく。椅子にテーブル、そしてデスク。驚いたことに1日もあれば作り上げるには事足りるようで、職人は早速にも私たちが渡した塩の木(ソルトツリー)に手を加えてゆく。

 

その過程で職人からこの異様なまでに白い木についてのレクチャーを受けた。塩の木(ソルトツリー)とは天空の鏡(シエロ・エスペッホ)の塩田から海水を吸い上げて塩化しているみたい。でもその真髄は水の循環にあるという話。職人曰く、この塩の木(ソルトツリー)は今も生きているという。加工してもその生が途絶えることはないという。

 

私はその話を聞いて思い付いたことがある。総帥さんとジョゼフィーヌさんの依頼をこなしても塩の木(ソルトツリー)は余ると言うし、ここは私にも作って貰おう。私が作って貰うもの。それは何か?

 

私には水の循環と聞いて繋がるものがあった。それは私の祖国、アラバスタ。砂に覆われた私の祖国では水というのは切っても切れない存在である。そしてそんな中からアラバスタ体術というのは育まれていったのだ。

 

ペルから教わったことがある。アラバスタ体術の真髄もまた水の循環にあるのだと。アラバスタ体術には別名がある。それは水覇気(ミズハケ)。体内の水分を循環させて、必要なところに水分を集めて力を行使する。集められた一点の水分はそれだけで爆発的な力を生み出してゆく。

 

 

これを踏まえれば塩の木(ソルトツリー)は武器になるかもしれない。私だけの武器に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塩の木(ソルトツリー)の行く末を満足いくまで見終わって工房を出たところで、雨が上がっていることと外が騒がしいことになっていることに気付いた。

 

「ビビ会計士補佐、港に海賊がやって来たみたいです。どうしますか?」

 

どうしますかって、どうしたいかはカール君の顔にもう書いてある。

 

「行きなさるのであれば、私も共に行こう。もう少し体を動かしておきたい」

 

ウルージ僧正さんは既にやる気満々で、私の選択肢はどうやらひとつしか残ってないみたい。

 

「カルー、港へ行くわよ」

 

私たちはカルーの背中に乗って港へと道を急いだ。もちろん、ウルージさんまでは乗せられなかったけれど。

 

 

 

「よ――――く考えたんだ。よ――――く考えたんだぜ? この島を襲うか襲わねぇかを。そりゃまーこの島には春の女王がいて軍隊もいる。だ・が・よ、俺たちは海賊だぜ。襲わねぇ理由なんてねぇんだな、こ・れ・が。ウハハハハ、カネと食い物を全部寄越せーっ!!!!!」

 

海賊は既に暴れ回っていた。港に駐屯しているはずの女王軍もどうやら蹴散らされたみたい。最近見た手配書を思い出す限り、襲っている海賊団は大カブト海賊団。船長はミカヅキ、懸賞金は3600万ベリー。大した相手ではない。みんながいればだけれど。

 

そう。ここには私とカール君にカルーがいるだけ。もちろんウルージさんが加わっているけれど。姿を見せていない。なぜならカール君が言ったから。

 

「僕だけで戦いたい」

 

って。

 

ここのところカール君がずっと鍛錬に励んでいるのは知っていた。力が付いてきていることも認めている。能力者でもある。

 

でもだからと言っていきなり海賊の船長クラス相手に勝てるほどの力が付いているかと言われれば何とも言えないし、能力もまたナギナギという戦闘には直接は向かないような能力である。一体どこまで戦えるというのか。私の不安はそこにあった。万が一の場合は私が何とかしないといけない。カール君をここで失うわけにはいかない。

 

「わーお! 海賊さんだ。僕もよ――――く考えました。よ――――く考えましたけど、海賊さんを潰さない理由が見つかりません。なので潰れてください」

 

カール君は自信があるのかやる気満々で、海賊達を挑発してるけど大丈夫か気が気でない。

 

「ギャハハハ、小僧が威勢のいいこって。安心し・な・よ。俺たちで直ぐにでも潰してやるからよっ!!!!!」

 

カール君が能力を発動している。あの膜のような空間はいつか教えてくれた消音空間だ。でもあんなものでどうやって戦おうというのか。

 

音を消したところで、振動を消したところで……。振動を消す……?

 

 

もしかして……。

 

 

カール君の狙いが分かったような気がしたところで戦いに割って入ろうとする二つの影。

 

「私の体を通り過ぎる全ての物は緊縛(ロック)される」

 

「嵩取る権力を引き裂くのがおれの役目だが、その前にケチな海賊がいれば教えてやらないとな」

 

 

それは少し懐かしい姉の様な存在と見知らぬ誰かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 外洋 ブルー=パープルライン

 

私の向かう先はセントポプラ。それしか無かった。アブサロムから知りえたことをハットたちに伝えることは最重要なことではあったが、正直電伝虫を使う気にはなれないし、まずは一番近くで守らなければならない子を守る。それが私がしなければならないこと。ヒナ、当然。

 

だが問題はそれだけではない。私が知りえたことは相当なインパクトを持っている。はっきり言って、私の如何がこれから始まる戦いの趨勢を握っていると言っても過言ではないかもしれない。この情報を上にあげるのか否か。

 

あげれば海軍は戦う前に相手の情報を知りえることになる。今回の情報は知っているのと知らないのとでは雲泥の差が出来る。それぐらいの情報である。

 

つまりは、上にあげれば海軍すなわち政府がこの戦いに勝つ可能性が高まる。あげなければZに勝つ可能性が高まる。この先の世界の行く末を決めてしまう可能性がある。そういう情報だ。

 

だがこれは2者の戦いではない。間違いなく白ひげは現れるだろう。であれば事はそう簡単ではない。

 

三つ巴の戦いになる。Zに加わるであろう戦力によって互いの力は均衡するだろうか。そもそもにこの戦いは三つ巴になるのだろうか。三つ巴というのは二つが手を組めばそれで終わる。そんなことはみんな分かってる。であれば水面下で駆け引きが始まるのは知れたこと。

 

リスクとリターンを天秤にかける。起こり得ることを並べていく。それを組み立ててゆき、戦いの流れを読む。戦いの流れ? そんなものは始まってみなければ分からない。どれだけ入念に準備をしようとも想定外のことは必ず起こり得る。

 

どれが正しいのか?

 

私はどうすればいいのか?

 

 

ハットにとって一番良いことは?

 

 

考えに考えても、考え抜いても答えは出ない。見つからない。ヒナ、放心になりたいけれど、そうもいかない。

 

 

それでも考えに考えたあげく、行き着いた答えはどっちにしても変わらないかもしれないということ。

 

 

どちらにせよ行き着くところには行き着き、行き着かないところには行き着かない。

 

 

であれば、私は自分を信じて、ハットを信じて、みんなを信じて、ひとつの答えを選ぶだけなのかもしれない。

 

 

 

セントポプラへと向かう海列車の中で頭から煙を出しそうになるところまで至ってしまいそうだった私は電伝虫を取り出していた。白電伝虫も準備しておく。この際である。盗聴については私の白電伝虫を信じるしかない。だからあとでハットにも連絡を取ろう。それがいいわ、ヒナ納得。

 

「モネ少将、Zに関する緊急且つ重大情報を入手致しました――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 “春の女王の町” セントポプラ

 

「どうして僕の戦いを途中で止めたんですか? 理由を1000文字以上で文書にして出して貰わないと僕は納得出来ません」

 

「ああ、カールってったか。おれだけを責めるのはお門違いだよな。責めるならあっちの海兵を責めるべきだ。ほとんどあいつがやったんだし」

 

「キレイなお姉さんは関係ありません。なぜならキレイだから。理由は簡単です。キレイなお姉さんは正義なんです。でもあなたは違いますよね?」

 

カール君と新たに現れた見知らぬ男との攻防はカール君が一方的で相手はたじたじ。カール君の攻めは暴論も暴論なんだけどなぜか勢いがある。カール君にはそろそろ眼鏡を掛けさせた方がいいかもしれない。そうすればより勢いをつけられるかも。クラハドールさんみたいに。

 

「ビビ、しばらくね。ケガも無くて何よりだわ。あなたの気配を海賊の近くに感じて、久しぶりに全力を出してしまった。まあ当然、ヒナ当然よ」

 

「ヒナさんも相変わらずで良かったです。危ないところを助けてもらいました。と言ってもカール君はあのまま戦っても何とかやれたかもしれないけど」

 

優しい笑みを浮かべながらタバコを吹かすヒナさんは相変わらずカッコイイ。

 

「あの子がカール君か。可愛い子じゃない。あなたがぞっこんなのも納得するわ。ヒナ、納得」

 

ヒナさんがこの島へやって来たのはなぜだろうか? 今私たちの周りを取り囲む状況はきな臭いものだらけだけど。それと関係があるのかどうか。

 

「ヒナさんがここへやって来たのって、もしかして……」

 

「あなたたちの状況は把握しているつもりよ。あなたがこの島へやって来た本当の理由もね。それより、あの男、気にならない?」

 

私がこの島へやって来た本当の理由。それは塩の木(ソルトツリー)を木工職人に引き渡して家具と武器の製作依頼をすることではなくて、ジョーカーが口にした取引を掴むため。それを知っているということだろうか? ヒナさんは海軍情報部に移ったと言う話だから、もしかしたらそんな情報も逸早く掴んでいるのかもしれない。でもヒナさんが言う通りあの男は気になる。カール君に対して防戦一方で今にもペンと紙を握らされそうになっているあの男が誰なのかは。

 

「カール君、それぐらいにしてあげなさい。でないと彼はここで仕事が出来なくなってしまうから。きっと1000文字書こうとしたら夜中になってしまうかもしれない。そうじゃない? 革命軍特殊連絡隊長君」

 

「助かるよ。1000文字書くのは簡単だがこいつを納得させられるかは別の話だからな。おれは運がいいのかもしれない。こんなところで最近海軍情報部監察入りしたっていう噂のヒナ准将に会えるんだからな」

 

「革命軍がこの島へ何の用かしら? セントポプラの情勢は女王健在で平穏そのものだけど。それとも……、別の何か?」

 

「やっぱりあなたも掴んでるのか? なら正直に言わないとな。おれも緊縛(ロック)は怖い。実は革命軍としては最近四商海入りしたネルソン商会には興味を持っていてお近づきになりたいと思ってる。ほんとは総帥さんに直接会いに行くのが筋ってのは分かってるが、取り敢えずこいつが言うキレイなお姉さんに取り持ってもらおうかと思ってね」

 

「その答えは赤点の答えだわ。失望ね、ヒナ失望」

 

「ほんとだよ。キレイなお姉さん、あなたの総帥さんに取り次いでくれれば分かる。きっと話がいってるはずだ。革命軍の連絡役がそろそろ現れるって」

 

驚いた。革命軍が現れるなんて。それに、私の知らない話がどうやらあるのかもしれない。よく分からないけれど。

 

「その様子じゃあビビは知らなさそうね。まああなたがこんな嘘をつく理由はないでしょうから本当なんでしょう。でも、本当に本当の理由は別にあるはず。あなたはこの島にZの副官が居ることを知っている。あなたのかつての仲間が居ることを……」

 

ヒナさんの最後の言葉を聞いて、革命軍の男の表情が変わった。纏う空気感が一瞬で変わっていった。

 

聞こえるのは縛られた海賊たちの呻き声のみ。沈黙がこの場を支配して、二人とも言葉を発しようとはしなかった。

 

その数分にも感じられた沈黙を破ったのは革命軍の男。

 

「……ほんとに良く知ってるな。さすがは海軍情報部監察。確かにおれはその情報を掴んでここに来た。その口ぶりならあなたは知ってるんじゃないか。アインがどこに居るのか。Zの副官はどこに居るのかを」

 

それに対してヒナさんが直ぐに答えを返すことは無くて。また再び沈黙が支配するけれど、

 

「私は居場所までは知らないわ。……けれど、ビビならそれを知ることが出来る」

 

口を開いたヒナさんの矛先はいきなり私へと向かって来る。

 

「へ? 私?」

 

「そうよ、ビビ。あなたの能力を最大限使えば拾えるはず。Zの副官の声が分からなくてもその相手の声なら聞き洩らすことなんか無いはず」

 

一瞬動揺した私だったがヒナさんの言わんとすることは理解出来た。そして私の胸の奥底にも一瞬で火が点けられていった。

 

「ええ。分かった」

 

私が返す言葉はそれだけだった。当然ながら否やはなかった。

 

 

ジョーカーっ!!!!!!

 

 

 

そして声を聞き洩らすことはなかった。

 

 

 

あいつは居た。

 

 

 

この島に。

 

 

 

~「お前が言いたいことはつまりこういうことだろ。俺に政府を裏切れってな。フッフッフッフッ、七武海なんざ今直ぐ辞めてもどうってことはねぇ代物だが、こういうことにはタイミングってもんがある。フッフッフッフッ、それを変えろってんならお前、高くつくぜ」~

 

~「Z先生は必ず勝つ。Z先生はあなたの加勢を望んでないことは分かっているけど……、私はZ先生に勝ってもらうためなら何だってするって決めたの。悪魔に魂だって売るって決めたの」~

 

~「フッフッフッフッ、いい心掛―――――――」~

 

 

―――プルプルプルプルプル―――

 

 

電伝虫!!

 

 

このタイミングで……。

 

 

ヒナさんが私の代わりに傍らに電伝虫を準備してくれている。相手は……ローさん。

 

 

出ないわけにはいかない。

 

受話器を取り、今の状況を話す。

 

 

 

~「フッフッフッフッ、ネズミが聞き耳を立ててやがるな。まあいいが……、………………プッチか。どうやら“ブリアード”の奴は腕を上げたらしいな。話は終わりだ」~

 

 

 

私が電伝虫の受話器を落としてしまったのはジョーカーの最後の会話を拾ったからだけではない。

 

 

「もさもさ~」

 

 

「あら、サボ。来てたのね」

 

 

「フッフッフッフッ、勢揃いしてんじゃねぇか」

 

 

さっきまで会話を拾っていた相手が突然にして目の前に姿を現したから。

 

 

こんなときに私の脳裏を過ったことは何か?

 

 

ウルージさんはどこへ行ったかな。

 

 

プッチに居るはずのオーバンさんとアーロンさんは大丈夫かな。

 

 

そして、

 

 

ジョーカーがここに居て良かった。

 

 

ローさんが無事でいられるなら。

 

 

再び降り出した雨が冷たく感じられることからして、

 

 

それが甘い考えであることは百も承知だけれど……。

 

 

 

 

 


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