ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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UAが4000を超え、30名もの方にお気に入りに登録していただきまして、読んでいただきましてありがとうございます。
どうも展開が遅くなってしまっていますが、
7話をどうぞ!!


第7話 陽動

北の海(ノースブルー)” ジェットランド島 元フレバンス王国 珀鉛(はくえん)鉱山

 

 

 

 雪空の下、けたたましい警報音が鳴り響いている。建物正面にある馬車寄せに、ローのROOMで移動し外に出ると目の前には長屋の建物が幾列かに分かれて並んでいるのが見える。

 

 建物内から鉱山労働者らしき人たちが顔をのぞかせているが、警備兵に中へ入っていろと制止されている。

 

 労働者とはいえ、大方奴隷だろう。行きは新世界から奴隷を運び込み、帰りは珀鉛を運び込んでいるのだ。理にかなっており、効率的だ。

 

 そんなことを考えている場合ではない。警備兵たちが長屋の間、間からこちらへ向かっており、指さして叫んでいる。

 

 まだ体は重い。私の今の力では見聞色マイナス、“縮地”の領域は荷が重いのだろう。覇気を使いすぎている。

 

「急げ! 奴らを鉱山から引き離す。東だ」

 

 そう言って、ローが走り出す。

 

 私たちは外に出て白いコートは脱ぎ棄てて、漆黒のコートを身に纏っている。

 

 ローの背中のハートの図柄が何ともまぶしい。

 

 彼は早くも鬼哭(きこく)を鞘から抜いている。私も何とか気力を振り絞って走り、ローを追いかける。

 

 そして、右腰に差しているものを抜く。私の得物は良業物“花道(はなみち)”。

 

 ローは左から向かってきた警備兵と斬り結び、突き飛ばして、いなしながら前進している。相手もサーベル。海兵のマリーンルックスではないが、白い制服で青が黒に変わっている。そして、特徴的な掌マーク、帽子にも上着にも入っている。

 

 私も左斜めよりあらわれたやつを見定める。右手にサーベルを構えている。雄叫びをあげて斬りかかってくる。両手で花道を持ってその衝撃を受け止め正対しながら、瞬間右に体を捻って態勢を変え、相手の腹に斬撃を見舞わせる。

 

 だが次の瞬間、

 

飛び道具……。

 

 高速で駆け抜けてくる銃弾を感じ取り、一瞬早く見切りよけることに成功する。

 

 これぐらいの見聞色は発揮できるように回復してきたのか。

 

 サーベル隊の奥にライフルを持つ者たちを確認する。複数の気配を感じ取るのは無理だ。先に仕掛けるしかない。

 

「ロー」

 

「わかってる」

 

 先行くローにもライフルの注意を促す。ローはサーベル隊の連中を猫をあやすように軽くいなしながら進んでいる。

 

「私がやる」

 

 そう言って、私は一瞬、裂ぱくの気合いを己にいれる。

 

 うん。いける。

 

 走って、剣を打ち合ったことが準備運動になったようだ。体のキレが戻ってきている。

 

 その場で大きく跳躍すると目の前に迫ってきていた別のサーベル男の頭をブーツの先で叩き潰すように乗っかって勢いをつける。

 

(ソル)

 

 一瞬で着地して、純白の地面を瞬間に叩きつけるようにして移動する。

 

 海軍に脈々と伝わる人知を超えた体技、六式のひとつだ。

 

 ロッコに拝み倒して教えてもらったものだ。死にそうになったが。

 

 ロッコは海兵ではないが海兵であった父に教わったのだろう。父さん……。いや、今は考えてはならない。

 

 私は無意識に思考の速度を1段、2段上げていた。高速で移動し、高速で思考し、見聞色を働かせながらライフル隊との10m程の間合いを一気に詰める。相手の時間が止まったような表情がわかる。

 

「百花繚乱」

 

 (ソル)のまま、ライフル隊10名ほどを一瞬にして駆け抜けながら斬撃を浴びせ付けてやる。まるで、咲き乱れる花々のように血潮を吹いて倒れる彼ら。

 

 そうしてライフル隊を片づけると、背後には私に置いてけぼりにされたサーベル隊。私の力に怯んだのか無闇にこちらに突っ込んではこない。突っ込んでこないならこないで結構。

 

 私は先を行くローを追いかけた。

 

 

 

 

 奴隷を収容する連なる長屋の先には開けた大地、珀鉛と舞い降りる雪によって当たり一面真っ白である。そこまで行って、

 

「ROOM」

 

 ローが能力を発動させた。私は迫りくる警備兵たちを蹴散らそうと構えていたのだが、大人数で向かっても無意味と悟ったのか向かっては来ず、一人の男が目の前に現れた。

 

「ロー」

 

「大丈夫だ。俺がやる」

 

 ローが自信に満ちた表情でそう返してくる。目の前に現れた男が多分、先ほど電伝虫で会話していたその人であろう。確か名前はコーギー。

 

 こいつは警備兵とは違い黒スーツに白シャツ黒ネクタイで黒コート、世界政府の役人の格好のようだが、かぶる帽子には白抜きで掌マーク。あれなら私たちの正装に似ていなくもない。白シャツを除けばだが。

 

 顔には右眉から右頬までざっくりと傷が入っており、口髭を頬を伝って髪までつなげてたくわえている。背は私よりも低い。

 

「おまえたち二人か。どこの馬の骨だ、海賊か? くんくん……、海賊の臭いはしないな。ここがどこだかわかっててやって来たのか?」

 

 コーギーがそう口にする。私たちはこいつにしてみれば、確かにまだまだ馬の骨でしかないのかもしれない。海賊の臭いというのはよくわからないが。

 

「おまえに答えるつもりはねぇ、コーギー屋。どこぞの馬の骨で十分だ」

 

 ローがシニカルな笑みをたたえつつ答える。

 

「俺の名前知ってるしっ!! 馬の骨の分際で生意気にほざきやがって、さっきの会話聞いてやがったな」

 

 さっきの会話、情報がありすぎる。

 

 珀鉛(はくえん)は不老不死の力を持っているかもしれないということ。

 

 そして、それは五老星(ごろうせい)に届けられている可能性が高いということ。

 

 そして、ベルガー商会がかつて珀鉛(はくえん)に絡んでいたのかもしれないということ。

 

 何よりも、そのことで私の父が殺されたのかもしれないということ。

 

 父のことで気が動転してしまったが、他の3つも十分に危ない情報である。ベルガーが珀鉛(はくえん)に絡んでいた。つまり、父が珀鉛(はくえん)に絡んでいた。

 

 そのことでローは私たち兄妹をどう思うだろうか? それでなくとも私たちは彼に伝えなければならない事実が存在するというのに。

 

「さあ、どうだかな。おまえは俺たちを知らねぇのかもしれねぇが、俺たちはおまえが政府の闇組織“ヒガシインドガイシャ”の監督官様なんじゃねぇかと思ってんだが?」

 

 ローは可笑しそうにしてコーギーに聞いている。

 

「はっ!! 俺たちが何なのか知ってるしっ!! ふざけやがって」

 

 コーギーはどうやら怒っているようなのだが、どうしてか少しコミカルに感じられる。

 

 ローもそうなのか、ははっとさも可笑しそうに笑いながら、

 

「おまえとの会話はなかなか面白ぇが、そろそろやることやっちまおうか?」

 

と言って、鬼哭(きこく)を正面に構える。

 

「待て待て。その前にそこの女。さっきおまえが使っていたのは剃だろう? 海兵でもないのになぜ使えるんだ?」

 

 コーギーが疑問を呈してくるが、こんな小男に口を聞いてやるような情けは持ち合わせていないので、ぷいと横を向いて知らんふりをする。無視してるしっなどと癇癪を起しているが知ったことではない。

 

 私は警備兵に睨みを利かせて、こいつらを蛇に睨まれた蛙の状態にすることに専念しようと、花道(はなみち)を構える。

 

 コーギーが右腰に結わえていたものを取り出している。取りだしたものは鞭。

 

「馬の骨がーっ! 生意気な口を叩けるのも今のうちだーっ!!」

 

「“蛇の動き(セルペンテ・モジオーネ)”!!」

 

 コーギーの叫びと共に、右手から放たれた一見すると何の変哲もない黒色の鞭が、まるでうねうねと蛇の動きのようにローに襲いかかっていく。その動きを頭の中で知覚化すれば長い一連の出来事は視覚化すると一瞬の出来事である。

 

 ローが見聞色の覇気を働かせて一瞬早く回避の動きを見せたように思われたが、コーギーの右手には少し捻りが加えられて、叩きつけるようにしてローの左足に絡みついていく。その瞬間、

 

 ROOMが消えた。

 

 え……?

 

 私はその光景を右手に眺めていたが、一瞬わけがわからなかった。

 

「くっ、海楼石(かいろうせき)か?」

 

 ローが絞り出した言葉に対し、

 

「フフフっ、ただの馬の骨でもないようだな。そうだ。この鞭には海楼石(かいろうせき)の成分を練りこませてある。おまえを取り囲んでいた膜は能力によるものだろう?」

 

コーギーはそう笑って呟きながら、鞭を引っ張り出す。

 

 海楼石(かいろうせき)、悪魔の実の能力を無効化する力を持つ石。政府の闇組織だけあるわ。

 

 ローは左足に絡まる鞭に体勢を崩されて背中から倒れ、あいつに引き寄せられていく。

 

 そんなことになろうとも私は心配はしていない。ローは生意気な年下だがやる時はやる男だからだ。

 

 コーギーはローとの間合いを一気に詰めて、地に背を付けているローに向けて拳を繰り出す。鉄製のアーマーグローブをはめている。あれにも海楼石(かいろうせき)が入ってるんだろうと推測できるが、そんな瞬間も焦りなど感じていない。

なぜなら次の瞬間にはコーギーの驚愕の表情が見えたから。

 

 コーギーが繰り出した拳はローに吸い込まれていったが、

 

「武装硬化」

 

 ローがそう呟くと、彼の体は黒く変色していった。

 

「まさか……、覇気か……」

 

 やっとのことで出てきたコーギーの言葉、ローが怖いくらいの表情で嗤っているのが容易に想像できる。

 

 その瞬間の隙を彼は見逃さなかった。

 

「ただの馬の骨呼ばわりするおまえの負けだ。医者には敬意を表するもんだぜ」

 

 そう彼は言うと、鬼哭(きこく)の刃にも覇気を纏わせてコーギーの腹に突き刺す。

 

「シュヴァルツ・メッサー」

 

 私はその瞬間、彼が突き放したような冷たい表情でコーギーを見据えているのが想像できた。

 

 コーギーは、がはっと咽び、地に倒れこんだ。

 

 その倒れゆく姿を見届けてローは鞭を切り離すが、一向に起き上がる様子がないので私が駆け寄っていくと、こちらを見上げてくる。

 

 まさかこいつ、起こしてくれと手を貸せと言っているの?

 

 そんな彼に私は睨み返して、目だけで会話を、取っ組み合いをしていたが、

 

「生意気ーっ!! ……でもお疲れさん」

 

 そう言って手を貸してやった。

 

 立ち上がってこちらを見つめてくるローはにんまりと勝ち誇ったような表情で笑みを浮かべていた。

 

 むかつくーっ!!!

 

 そう思いながらも鉱山の方向を見つめる。

 

 

 あとは向こうから聞こえる爆発音を待つばかりか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
戦闘描写、どうもまだまだ手数が少ないですね。
もう少し増やしていきたいです。
あと技名考えるのが一苦労します。
誤字脱字、ご指摘、ご感想、よろしければどうぞ!!

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