こいつ、確か忍者だったわよね?
目の前でクネクネといつ見ても妙な動きをしている男。ビンズと言ったかしら。あの人が直接教育訓練に当たっている部隊があることは知っていた。この男もそれに所属していたはずであり、何度か見掛けたことがある。クネクネダンスは相変わらずのようであり、その奇妙さも、キレの良さも、特に変わった様子は無い。
正直、取るに足らない相手。楽勝だわ。ヒナ、楽勝。
その思いと共にタバコを吹かしながら、この場を
最も厄介な相手は何をおいてもドフラミンゴであることは確か。あの男一人でこの場全てが支配されると言っても過言ではないかもしれない。それぐらいの相手であり、どうしようもないかもしれない。本来であれば敵対する相手ではないのだが、聞いてはいけないことを聞いてしまった以上、相手はすべてを無かったことにするつもりみたい。
よって、このモサモサは瞬殺でカタを付ける必要がある。革命軍の彼とあの子だけではどう考えても抑えきれる相手ではない。全員で束になって掛かったとしてもどうしようもないかもしれないのだ。
ビビはどうかしら?
あの子には相手の特徴と注意点はしっかりとレクチャーしておいた。あの子の能力であれば見聞色と同義と言っていいし、あの体術を使えるなら多分大丈夫だろう。相手からアレを受けない限りは……。
「ビビッ!!!!!!」
気付いていないかもしれないので注意は促しておかなければならない。
「モ~サ~モ~サ~、随分と余裕のようだが、甘く見ないでもらいたい。昔とは違うのだ~~っ!!!!!」
どうやら軽く無視を決め込んでいたことで気分を害してしまったらしい。
「あら、それは失礼。ちょっとだけ反省するわ。ヒナ、反省」
少しだけ申し訳なく思ったゆえの私の言葉。でもそんなの関係無いとばかりに、モサモサの連呼に応ずるようにして、港の岸壁でも懸命に生きていた雑草が一気に成長してゆき、天へと伸びゆく見事なまでの蔦へと変わってゆく。そしてそれが向かう先は当然ながら私。
「モ~サ~モ~サ~~ッ!!!!」
私をその蔦で捉えようと言うのだろう。
遅い。舐められたものね。怒りも湧いてこないわ。ヒナ、平常心、字余りってところね。
私を絡め取ろうと、四肢の自由を奪おうと襲い掛かってくるすべての蔦を
「モサモサ君? 今、私がどんな気持ちでいるか分かって?」
「そんなもの、分からぬ」
私の低く抑えた声音にも関わらず、クネクネダンスを止めない目の前の相手は忍者らしく手裏剣を飛ばしてきた。
私がやるべきことはひとつだ。
この女心のひとつも分からないバカに本物の
私に襲い掛かろうとした蔦への
見聞色に掛かれば飛んでくる手裏剣を避けきるのは造作もない。
と同時に足の回転数を一気に上げる。スピードは
相手はバカのひとつ覚えのようにしてモサモサ言いながら更に蔦を寄越してくるが関係ない。
私の体はスピードを落とすことなく空中へ、
襲い掛かってくる無数の蔦の中を掻い潜り、繰り出すのは蹴り。
首筋目掛けて一気に刈り取る勢いで振り下ろす。
「私の体を通り過ぎる全ての物は……
「少しは分かったかしら、私の気持ち」
「……」
言葉も無いか……。
雨は止みはしないけど、もう一服したいわね。
****
「フッフッフッ、小僧、久しぶりだな。アラバスタ以来か、あの時はローがいたが……。丁度いい。連れて行くか」
怖っ!!!!!!
こんなに怖かったっけ? このおじさんって。いや、怖かったね。忘れるわけが無いよ。あの時の怖さは。でもやっぱり目の前にするとその怖さは段違いだよ~。
「なんか因縁があるみたいだな」
「知りたいか? そのガキはナギナギの実の能力者だ。本来なら俺たちが手に入れてるはずの悪魔の実。それをそいつが食っちまったってわけだ。なら、やることは決まってんだろ」
「なるほど、そういうことか。カール、ひとまず下がってろよ。おれが相手してやるから」
わーお! サボさん、かっこいい。
「よろしくお願いします」
ってぺこりと頭下げてって、
「そうはいかないですよ、サボさん。今日は僕も戦うんですっ!!!」
「バカ! 相手はドフラミンゴだぞ。メチャクチャ強い相手なんだっ!!!」
「そんなこと分かってますよ、僕だって!! それでもやるんですっ!!!」
恐怖をぐっと
「じゃあ見とけよ。強い奴とはこうやって戦うんだ」
そう言ったサボさんは一瞬で消えた。いや消えたように見えた。メチャクチャ早かったんだ。
サボさんは持ってた鉄パイプでおもいっきり殴ってたよ。鉄パイプが真っ黒に変色してたし。あれは武装色ってやつだよね。
二撃、三撃、息つく暇が無いくらいに攻撃を仕掛けてるんだ。
強い相手には最初から全力で行かないといけないんだ。僕は見ててそう思った。
二人の攻防は勢いだけで見ればサボさんが押してるように見えるんだけど、糸のおじさんの方も余裕の顔つきで相手してるんだよね。あれ多分、手抜いてるね。僕にも分かるよ。
サボさんだって絶対強いはずなのに。それ以上にこの糸のおじさんは強いってことなのかな。だとしたら形勢はすぐに逆転されちゃうじゃないか。
僕も戦わないとっ!!!
でも相手はメチャクチャ強いよ。どうしたらいいんだろう。僕に何が出来るんだろう。
いや、やるしかないんだ。
ビビ会計士補佐が言ってたのはこういうことだ。人にはやるしかないって思える時があるんだって。
それが今だ。今この時だっ!!!
僕は能力を使って自分の音を消すことにした。能力を試していくうちに気付いたんだよね。自分の音も消せるんじゃないかって。
よしっ、音が消えたぞーっ!!
突撃だーっ!!!
僕は走り出す。
「カールっ!!! 来るなっ!!!!!」
サボさんの必死な声が聞こえる。
でも僕は止まらない。
「フッフッフッ、ガキが何の真似だ」
怖いおじさんも笑ってるけど、僕は止まらないよ。
イメージだ。イメージするんだ。大事なことだってペルさんも言ってたよ。
繰り出すのは拳。これは物言わぬ拳だ。でも、僕のイメージでは……、
「
僕が今まで磨き上げてきた渾身の一撃を叩き込んだよ。糸のおじさんのお腹目掛けて。おじさんは笑ったまま。特に何をすることも無く。完全に油断してたんだと思う。でも世の中にはこういう言葉があるよね。油断大敵って。
僕の拳は……、
自分でも驚きだったんだけど、おじさんのお腹を貫いてたよ。もしかしたらってイメージはずっと持ってたんだよね。このナギナギの能力って無音から飛躍して無抵抗に出来ないかなって。つまりは相手の防御無効化だよ。
筋肉の防御も、皮膚の防御も、鉄みたいに固くする
思ってるだけだったんだけど、いざやってみたら出来ちゃったよ。これ、すごいや。ナギナギの能力。防御無効化が出来ちゃうね。
でもおじさんは一枚上手だなー。僕のイメージだと背中の先まで貫通して下手したら背骨までポキっとってイメージだったんだけど。咄嗟に僕の力に気付いてイトを使ったね。だから吹き飛ぶだけで済んだみたい。僕の力がまだまだ足りないってことなんだろうなー。
「フフフフ、フッフッフッフッ、ガキが面白ェこと考えるじゃねぇか。ナギナギから防御無効化か。そうそう思い付かねぇことだ。ますます連れて行きたくなっちまった」
立ち上がった糸のおじさんはあっという間にお腹に空いた穴を糸で修復しちゃってるよ。血は流してるけど。
「カール、お前はとんでもないな。ドフラミンゴに血を流させるなんて。会って間も無いけどおれは末恐ろしいよ。だがひとつだけ言わせてくれ、お前のネーミングセンスはちょっとどうかと思うんだ……」
「え? そうですかねー。静かなる大衆ですよ。革命軍的にもいい名前だと思うんですけど」
僕としては渾身の技名だったから、ここはしっかり反論しておかないと。
「ガキが粋がってんじゃねぇだろうなぁ」
って、もう眼前には怖いおじさんだよーっ!!!!!
でも、
「
サボさんが瞬時に繰り出した拳はさっきまでのとはまったく違ってて。
「ベクトルか。革命軍のガキが……、中々やるじゃねぇか」
糸のおじさんもしっかりと防御してる。
そこからの攻防はまさに一進一退。
サボさんも全力は出してなかったんだってことに今更ながら僕は気付いたんだ。
すごいや。本当に強い相手には全力と見せ掛けて、全力は出さないってのが大事ってことか。
僕はどうしようか。
もう同じ手は使えそうにないもんね。僕も見聞色ってのが使えたらなー。もっと色々出来るんだろうけど。
「ぼうや、久しぶりだな」
二人の攻防を眺めながらどうしたものかって考えてた僕に声を掛けて来た人。
え?
誰だろうって思わず見上げてみたら、白クマだったんだよね。
「ベポさん?」
いや、ちょっと違うよね。
「まあ正確に言うとはじめましてになるが。……ベポは元気にやってるかな?」
そこで気付いたんだ。この人はベポさんのお父さんだって。ロー副総帥にあの時の様子を教えてもらったから。
だから僕は言ってあげたよ。
「……ご愁傷様です。あなたのおかげでベポさんは帰らぬ人となりました。アーメン」
「そうか。それは残念だ……。って、嘘はいかんよ、キミ。ベポはちゃんとウォーターセブンで寝込んでた。まったく、ステューシー様の言った通りだな」
「わーお! バレましたか。ステューシー様? あ、あのキレイなお姉さんだ。どうですか、キレイなお姉さんは今日もキレイでしたか?」
「ああ、今日会ったわけではないが、多分キレイにされていることだろう……。って、キミ、そうじゃないんだよ」
この大きな白クマで、ベポさんのお父さんはデポさんだった。
何でここに現れたのは分からないけど。
ああ、そうか。雨降ってるもんね。
「この傘を貸してほしいんですか?」
「おお、有り難いな。実はそうだったんだよ、キミ……。って、…………」
ハハハ、そんなわけないよね。もちろん僕も分かってましたよ。
つまりはアレか、糸のおじさんと関係してるのかな?