ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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すいません。書くことに苦しんでました。


第89話 それはまだ何かでしかない、それでも……

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 “春の女王の町” セントポプラ

 

 

緊縛(ロック)を掛けるべく動いているよりも、降り落ちる雨を感じながらゆっくりとタバコを吹かす時間の方が長くなり始めた頃、不意に現れた存在。

 

それは優に3mは超えようかという巨体。それは外見から判断するに白クマ。

 

ひとまず自分の戦い自体は余裕がある状態とはいえ、ビビの戦いの行方とカール君と革命軍の彼の戦いの行方に注意を向けるべく見聞色にはより比重を掛けていたのだが、何の気配も感じさせること無くこの白クマは現れた。

 

私には何ともハードルが高そうなノリツッコミとやらを披露し合っているが、十分に油断ならない相手。

 

会話が通じている以上はきっとどこかの種族なのだろう。間近で見るのは初めてではあるが、話には聞いていて思い当たる種族がある。

 

新世界に存在するという移動する国の話。それは大海を渡る巨大な象の上に築かれているという話。そんな国を統べるのがミンク族であり、彼らは獣の種族だ。白クマが居たとしてもおかしくは無い。

 

それにハット達の中にも同じように白クマが居ると聞いてはいたし、あの口ぶりではどうやら親子のようでもある。であれば、味方ということになるのか。いや、早合点は禁物。ヒナ、禁物だわ。

 

モサモサ君の両足目掛けて最後の緊縛(ロック)(ほどこ)して、雁字搦(がんじがら)めに拘束することに成功した。ビビの方でも青髪の彼女への攻撃が立て続けに当たり始めていて、ジ・エンドね。

 

あとは……。

 

「これはこれは、珍しいやつが来なすった。用心棒がシマを空けて物見遊山ってか」

 

革命軍の彼とドフラミンゴによる戦いの行方が問題だったがドフラミンゴ本人には白クマの方が気になる存在のようで、

 

「それはキミも同じじゃないか。ドレスローザを離れようとしなかったキミが楽園へと動き出した。こんな好機はそうそうない。ゆえに、質問には答えてもらいたいな」

 

二人の間で交わされてゆく会話。互いを纏う空気は一気に変わりゆき、降り落ちる雨には風が加わっていく。

 

「フフフフ、何の話をしようってんだ? 悪ぃが心当たりが有り過ぎて答えようがねェ」

 

「キミはカイドウと繋がっているな? ……まあ、待ちたまえ。これは質問じゃない。周知の事実なのだから。問題はその先だよ、キミ。……そうだ、リトルワノクニのワ人をカイドウに引き渡していやしないかね?」

 

「フッフッフッフッ、何を言い出すかと思えば、()()()()()()……」

 

「……そんなことだとっ?! 運搬船を襲われるぐらいは大目に見る。だがな、決死の覚悟で国を飛び出してきた彼らを連れ戻すとは……、あるまじきことだっ!!!」

 

二人のやり取りを聞きながら私の直感は告げている。いい情報が取れそうだと。

 

リトルワノクニといえば、政府が管理するトリガーヤードに在って謎の領域。この白クマはそこの用心棒というわけか。しかもさっきステューシー()と聞こえた。

 

それは“歓楽街の女王”の名。ということは、リトルワノクニの元締めとその用心棒という関係。そして運搬船と言った。

 

さあ、一体何を運んでるのかしら?

 

「ベラベラとよくしゃべる野郎だ。後ろの海兵が聞き耳立ててやがるってのになァ。だがまあいい。知られたところで何も影響はねェ。なァ、白クマ野郎。お前が俺に問い質すべき質問はそんなことじゃないはずだ。お前らはその内、武器を作る力を失う。ステューシーのババアはさぞお冠だろうなァ」

 

「ああ、大層ご立腹だ。武器取引の流れは均衡していた。上手く棲み分けていた。ドンキホーテファミリー、巳姦(みかん)屋、リトルワノクニ。長年に渡る3つの均衡を潰すつもりかとな。とはいえ正直そんなことは俺にとってはどうでもいい。ワ人たちはもう同胞に近い存在。彼らを苦しめると言うのであれば……、キミをここで潰すしかない」

 

やり取りが不穏な方向へと向かっているのとは裏腹に、私は内心ほくそ笑んでいた。

 

得難い情報ね。武器取引の現状と流れの変化をこんなところで耳に出来るなんて。幸運だわ……、ヒナ幸運。

 

「フフフフ、フッフッフッ、お前も聞いてるだろう。バナロのルチアーノが死んだってのは。世界は繋がってる。ドラッグの動きと武器の動きも然りだなァ。ババアに言っとけ。世界はそろそろ終わりを迎えるってな。それと、お前にもだ。カイドウはお前が言う同胞とやらをワノクニに引き渡す。禁を犯した奴らの末路は分かってるよなァ?? 奴らは本望だったろうよ。クニの土へ還れたんだ。……まァ、首は……ねェがな」

 

ドフラミンゴが言い終えるや否やの瞬間、(ほとばし)りが走るのを感じた。覇気、電気、その両方……。

 

知りえた情報は数多いけれど、私は少し反省よ。幸運だなんて思ったことに、ヒナ反省。

 

思いの瞬間には白クマの手先からは稲妻のような電撃が放たれて、ドフラミンゴからは鞭のようにしなりを利かせた糸が放たれて、それは両者の真ん中で激突した。轟音と爆発的な衝撃を周囲に(もたら)しながら。

 

「……この場でキミを土に還らせてやりたいね。……この島からは帰さないっ!!!!」

 

何とか(ほとばし)る感情を抑えようと見受けられる白クマの声音は最後には激情のまま放たれていく。その感情は理解もするし共感も出来る。それこそ感情移入しそうになるくらいには心を揺さぶられていた。この状況で私はどう動くべきか。ビビたちを思って当たり前のようにして動くことを考えていたが、ここは冷静になる必要があるかもしれない。

 

立場上は動かない方がいいかもしれないのだ。それはドフラミンゴが政府側の人間という建前の話ではない。私が守らなければならないのはネルソン商会の話。繋がりを悟られるわけにはいかない。露ほども。

 

それに、私の評判は知れ渡っていると思った方がいい。規則を重んじる人間、上の言うことはちゃんと聞く人間だと。そんな人間がここで敵対を見せるのは疑念を抱かせる可能性はないだろうか。ほんの少しであろうとも。

 

でも、それでも思う。

 

いや、思わざるを得ない。

 

何て私は卑しい人間なのかと。心の中で噛み締める。忸怩(じくじ)たる思いを。ヒナ、忸怩。

 

 

そんな思いを余所にして、

 

「……熱くなってるところ悪ぃが時間切れだ。これから許しを与えてやらなきゃならねェ奴がいるんでな。……鉛玉を使って。なァ、そうだろう……ビビ()()

 

ドフラミンゴが口にした言葉の真意に私は直ぐには気付いていなかった。

 

気付いていたのはビビだけで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青髪の女性は倒れ込んでいた。

 

孔雀の(はね)という飛び道具にモシモシの能力(ちから)、加えて祖国の体術である“水覇気(みずはけ)”を何とか使いこなせた私。相手の懐に飛び込んでの接近戦でひとつ武器を持った私にとって、もう彼女は敵では無かった。

 

だから大きな白クマさんとジョーカーのやり取りにも途中から耳を傾けていたのだ。

 

白クマさんはベポ君のお父さんであり、私はジャヤで二人の戦いを間近で見ている。親子での戦い、戦わざるを得なかった状況。波間に揺れる船上で思いを巡らし、自分に照らし合わせてみたりと、それなりに心のしこりとして残っていることのひとつである。

 

胸の内はちょっと複雑だ。それでもこの人が今この場で敵か味方かと問われれば敵だとは言い辛い。じゃあ味方か。それも何とも分からないけれど……。

 

ただ会話の途中から思いには共感出来た。

 

リトルワノクニはこの人にとってのクニだ。祖国では無いのかもしれないけれど、間違いなく守りたいものであり、失いたくはないものなんだろう。それだけは分かる。伝わってくる。

 

だからこそ私はその思いと共にジョーカーを睨みつけていた。

 

そして最後に飛び出してきた言葉に私は居ても経ってもいられるはずは無かった。

 

「行かせないっ!!!」

 

私はそう口にしていた。

 

「ローさんのところに行かせはしないっ!!!!!」

 

そうはっきりと口にしていた。

 

と同時に私はカルーの背に(また)がって、一気に動き出す。

 

私だけじゃない。カール君も、ヒナさんも、サボさんに、白クマさんまで一気に動き出す。

 

最初に踏み込んだのはサボさん、両手を黒く変色させて突撃。

 

そこへ雨中を引き裂くようにして迸る白クマさんの電撃。

 

空中から畳み掛けるようにしてヒナさんの禁縛(ロック)の蹴撃。

 

最後はカール君と同時に私も撃ちこんでいくのは拳ひとつでの拳撃。

 

祖国の砂の大地に思いを馳せ、私の内に流れゆく水流に全神経を集中させ、一気に解き放つ。

 

それでもジョーカーは口角を上げた。受け止め、躱し、そして避けた。

 

「フッフッフッ、どいつもこいつも熱くなりやがって、こいつで頭冷やすんだな、影騎糸(ブラックナイト)!!!」

 

更には捨て科白と共に両腕から紡ぎだされてゆく糸は一瞬の内に形を成していき、それはもう一人のジョーカーを生み出してゆく。

 

これが分身体……。

 

生み出された分身体は直ぐ様サボさんとの間合いを詰めて蹴り。動きは本体と何も変わらない。

 

「ビビ!!! カール!!! 止まっちゃダメっ!!!!!!」

 

ヒナさんの注意より一瞬早くモシモシの能力(ちから)は分身体の両手から伸びゆく糸の動きを察知して、カルーの背中を叩いていた。この際カール君も一緒に乗せて動く。

 

危なかった。

 

一瞬遅かったら操り人形になっているところだった。

 

「フッフッフッ、だったらこういうのはどうだ? 手ごろな相手じゃねぇか」

 

恐ろしいことに分身体が喋っていた。そして、その相手とは明らかに操られていると分かるウルージさんだった。

 

「済まぬ。海兵の(かた)……」

 

操られたままウルージさんはヒナさんに突進していく。

 

このままでは……。

 

このままでは行かれてしまう。

 

焦燥感に駆られながらも、私には分身体に操られないようにカルーに動き続けるよう呼び掛けてただ逃げ惑うことしか出来なかった。

 

ローさんが……。

 

ローさんが……。

 

殺されてしまうッ!!!

 

奥歯をぐっと噛み締める。

 

ジョーカーを目線で焼き殺してやるぐらいの勢いで睨みつける。

 

どうすればいい?

 

どうすれば……?

 

「ビビ会計士補佐……」

 

背後から掛けられる声音とは裏腹にカール君は私の腕を痛いくらいに掴んでいる。

 

情けない。

 

自分が情けない。

 

もう無理なの?

 

 

違う。

 

 

絶対に違う。

 

 

やるの。

 

 

やるしかないの。

 

 

出来るか出来ないかじゃない。

 

 

やるしかないの。

 

 

私の中の(ほとばし)る、駆け巡る、煮え(たぎ)る全ての感情に意識を割き、向き合い、糧とするべく瞳を閉じる。

 

 

力を……。

 

 

何としてでも力を……。

 

 

開き、射る。

 

 

サングラスを。

 

 

 

瞬間、

 

 

 

私の中で弾ける何かがあった。

 

 

 

それはまだ何かでしかない。

 

 

 

それでも、

 

 

 

遠くへ消えゆくように去るサングラスの右眼、

 

 

 

それが雨に煙るなかでも割れたように感じられた……。

 

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