ネルソン商会記 ~黒い商人の道筋~   作:富士富士山

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第92話 お(あと)はよろしうないよ

偉大なる航路(グランドライン) 『中枢地域(エリア)』 “美食の町” プッチ

 

 

正直な話、“ブリアード”っちゅうやつに思うところはあった。なんやかんや結構な頻度で遭遇してるけど、ほんまのところわいらは別に標的にされてるわけちゃうんちゃうかってことや。

 

さっきも弾の軌道からして明らかにおかしかったわけで、()ろう(おも)たらいつでも()れたはずなんや。せやのに一撃必殺で()んのはそもそもそんな気ないっちゅうことちゃうかってな。

 

アラバスタん時もそうや。あん時の狙撃、わいが丁度ええ具合にあいつの射線に被せたったけど、あれほんまはわざとちゃうんかとわいは秘かに思うてる。

 

狙いは暗殺やのうて警告やったんとちゃうやろか。わいらがあそこに居合わせることが出来たんもあいつの気配を察知出来たからや。ほんまに暗殺したいんやったら気配なんか一切見せへんかったらええことやないか。見聞色がメッチャ凄いんやったら朝飯前に出来るやろうしな。

 

わいらはもしかしてあの場に引き寄せられたんやろか? せやけど何でや? なんであの場面をわいらに見せる必要があったんや?

 

……あかん、あかん、分からんでェ。こんな難しいこと考えんのは性に合わんのや。

 

 

「アーロン、お前の歯はァ一体どないなっとんねん。さっき自分で丸ごと吹き飛ばしとったくせに、もうサラの歯やないかァァっ!!!」

 

そうや、そうや。わいが考えんのはこういうしょうもないことでええんや。

 

「サメなんだ。歯くらい直ぐに生え変わる。何度でもな」

 

何でもないことみたいに言いよってからに、ただの人間からしたらえらいこっちゃやで、ほんま。

 

「よう出来とるわ。また使わせてもらうでェ、お前の歯ァ。ええ飛び道具やないか」

 

「その言い方は聞き捨てならねェな。俺は使ってもらった覚えはない。使わせてやったんだッ!!」

 

不死鳥はんの背中ん上で器用にも寝っ転がっとるアーロンが歯だけ怒らせて凄んできよったわ。

 

「さよかー。って、あ~らよっとな……」

 

そんなもんは右から左に流してもうたら、手ェ滑ってもうたわ。わいの銃……、ほなさいならってか。

 

「おいッ!! てめェの武器はてめェで何とかしろよッ!!! 俺のこの歯がなけりゃどうなってやがるッ!!!」

 

「ええ動きしとるやないかー、アーロン。おおきになー。その調子で頼むわー」

 

わいが落とした狙撃銃をすんでのところで歯で受け止めたアーロンがな~んかわめいとるわ。褒めたってるちゅうのにな~にが気に食わんねんやろなー。

 

「良い性格してるよい」

 

「不死鳥はんもおおきにィ。わいには褒め言葉にしか聞こえへんわァ」

 

するりと会話に入り込んで来よった不死鳥はんにも感謝、感激、雨霰(あめあられ)や。

 

ほんまやったら真っ逆さまに落ちてるところを助けてもろたわけやし。体は青白い炎やっちゅうのにな~んも熱うない快適具合なわけやし。もやし……、()うとる場合ちゃうか。

 

「……褒めてねェよい」

 

「え? 何て?」

 

わいがそのまま聞き返したったら、不死鳥はんが苦笑しとるんが何となく分かったわ。ええ人やないか。こんなええ人に乗せてもろうてるんやさかい、アーロンもそないにわめいとらんと大人しうしとかな。さすがの不死鳥はんも堪忍袋の緒が切れて……、

 

「お前だよい」

 

「あれ? わい口に出しとったっけ?」

 

不死鳥はん、とうとうほんまに(わろ)うてるわ。

 

 

「さっきから気になってたが、アーロンって、もしかしてジンベエのところに居たやつか?」

 

「ほ~う、不死鳥はん、アーロンと顔見知りやったんか?」

 

「……日和(ひよ)っちまったアニキなんざ知らねェな」

 

ガーガーわめいとったアーロンが急に黙り込んだ思うたら呟きよったわ。アニキ言うてる時点で知っとるやないか。ほんまにめんどくさいやっちゃな。

 

不死鳥はんも無言で顔だけ向けてこっち窺っとるわ。

 

「不死鳥はん、勘忍やで。こいつはそういうお年頃なんや。勘弁したってくれ」

 

「誰がお年頃だッ!! ふざけやがって!! で……ジンベエのアニキは……元気なのか?」

 

アーロン、ほんまに素直ちゃうやっちゃで。せやけどや、

 

「ああ、元気にしてるよい」

 

不死鳥はん、あんたほんまにええ人やな。

 

 

 

不死鳥はんが言うにはプッチまで偵察に来たっちゅうことらしいわ。ほんまはサン・ファルドが目当てやったらしいけど、こっちにメッチャ強い気配感じてやって来たっちゅうこっちゃ。

 

 

今朝方の号外は読んでる。白ひげ海賊団はすぐ近くまで来とるってな。わいのことも手配書見て知っとったみたいで、何か情報掴んでへんかって聞かれてもうたわ。

 

不死鳥はん、勘忍やで。聞く相手を間違(まちご)うてるわ。そういうことはクラドルとかローに聞かな。わいに聞いてもあかんわァ。

 

思うとったらアーロンに指差されて突っ込まれてもうたわ。何のための電伝虫やとな。そらそうやわな。せやからちゃ~んと聞いたったで。

 

 

決戦の場は間違いなくサン・ファルドになるってな。

 

 

こんだけ大盤振る舞いしたったんやから、不死鳥はんのええ人具合だけでは釣り合わへん。

 

 

というわけでや、わいらは今空を飛びながらも透明人間になろうとしてる。

 

 

不死鳥はんの見聞色マイナス、“無地(むち)”の領域。姿も気配も消し去って、消し去ってもろてトルリの丘ん上まで行ったんでェェ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トルリの丘ん上も下と変わらず木ィだらけやった。ただ今度はブドウやのうてオリーブみたいやけど。(たっか)いところほどオリーブの質は良うなる言うからなァ。

 

それでや、問題はそういうことちゃうんやな。

 

わいが企んだことが目の前で繰り広げられとるわけや。若干想定とちゃうけど。

 

あとは不死鳥はんの見聞色ん強さがどれくらいかっちゅう話やで。

 

一番(たっか)いところのオリーブん木の上におる奴よりもどうなんかっちゅうな。

 

せやけど、もうここまで来たら正直出たとこ勝負やろ。

 

わいらは息潜めて成り行きを見守るだけや。

 

なんでかって?

 

高いとこにあるオリーブん木の下にはいつの間に登って来たんか知らんけど、さっきの海賊嬢ちゃんがおるんやわ。

 

 

 

「どうされた? オリーブの実でも取って差し上げようか?」

 

奴はオリーブん木の(ぶっと)い枝に腰掛けながら静かァに言葉切り出しよった。

 

それに対して海賊嬢ちゃんは無言や。そういえば下のレストランん時は一緒に()った取り巻き連中がまったくおらんわ。一人で地べたに足投げ出して座りよって、まるで寛いでるみたいに見えるやないか。

 

やっぱええ根性しとんな、この嬢ちゃん。

 

「めんどくせェことはナシだ。てめェ、……ヴァン・オーガーだよな。“ブリアード”の」

 

さすがはテーブルん上で飯食うことに(こだわ)っとった嬢ちゃんや。気持ええくらいのド直球で突っ込んでいきよったで。アーロンもわいの隣で無言のまま頷いてまうほどや。

 

「困ったものですねェ。これでも隠密の身なんですがね、私」

 

奴はゆっっくりと自分の銃を動かし始めよった。トン、トン、トンって一定間隔でオリーブの木ん(みき)相手にビート刻んどるわ。

 

「……駆け出しの億超え海賊が相(まみ)える相手としては私は少々お高いんで……、こんな上から失礼しますよ」

 

「はっ!! 言ってろ!!! てめェだけは許さねェからなァ」

 

「なるほど、どうやら私に因縁がおありのようだ。……申し訳ないが身に覚えがありすぎて、ねェ」

 

奴は笑みを浮かべとる。人を食ったようなって(たぐい)のやつや。

 

 

「だったら精々思い出せ。ウチらの因縁は……ソルベだッ!!!」

 

嬢ちゃんはひと思いに言い切ったあとに立ち上がりよってからに、

 

「……はて、随分と昔話を持ち出して来ますねェ。お若いあなたが何だと言うんです」

 

嬢ちゃんが腰に手当てていきり立っとるっちゅうのに、奴はトントンしとった銃を止めてもうたわ。一気に興味が失せたっちゅう顔しとるで。パイナップルみたいな頭をアーロンに肘置き代わりにされとっても気にならんくらいに不死鳥はんは興味津津やっちゅうのにな。

 

「はぁぁ、これも巡り合わせか。私はこれでも忙しい身でしてねェ。価値を見出せないものには一切時間を掛けないことにしているんです。……瞬殺でもよろしいか?」

 

一気に口角上げてきよった。

 

「撃てよォ」

 

嬢ちゃんも売り言葉には買い言葉や。しかも中指突き立てるおまけつきやで。

 

そこからは一瞬の出来事やった。

 

奴は銃を構えるんか思うたら人差し指向けよってからに、

 

あれは飛ぶ指銃(シガン)ってやつで、気付いた時には嬢ちゃんの体を貫通しとったんやけど…………、

 

 

 

ちゃうかった。ぴんぴんしとるわ。

 

 

 

piece・forward(ピース・フォーワード)

 

大往生(エンドリミット)!!!」

 

 

 

そう嬢ちゃんが言い放ったあとの奴の顔、まさかっちゅう顔しとったんや。嬢ちゃんに指銃(シガン)が貫通してもぴんぴんしとったからなんか、嬢ちゃんが繰り出した攻撃を見ての反応やったんかは分からん。両方かもしれへんけどや、

 

奴の体は見るからに老けとってなァ、いつ死んでもうてもおかしくないんちゃうかって言うくらい、まさに大往生手前ってやつや。

 

「……“超神系(カルディア)”か。悪魔の実にて……存在しないはずの第四の系統、“動物系(ゾオン)”の古代種、幻獣種よりも……更なる希少種」

 

声まで(しわが)れてもうてるけど、そんなんどうでもええっちゅうような内容やないか。横で幻獣種そのもんなお人が片眉吊り上げとる。

 

なんやねん、カルディアって……。

 

「さすがに知ってるか。“超神系(カルディア)”は肉体が見えてもそれは幻だァ。実体は無くても覇気で捉えられる“自然系(ロギア)”とも違う。肉体は思念化して(ソウル)の実体が消えちまう。だから“ベクトル”でも捉えることは不可能」

 

嬢ちゃん、無敵かァ!!

 

「だが、てめェ!! 最後に何をしたッ!!! ウチの業は必殺だった。確実にてめェは死ぬはずだったッ!!!!」

 

何やて?? よう分からんけど紙一重の攻防やったみたいや。

 

「“ブリアード”と奉られてる以上は……朽ちて消えるわけにはいかん。見聞と武装を掛け合わせれば……(ソウル)に障壁を掛けることも可能じゃ。……名乗らんか」

 

死ぬ間際の体んなって語尾まで変わってしまっとる奴はオリーブの木ん枝の上で座ってるだけでもしんどいみたいに幹に寄りかかっとる。

 

名乗れ()うたか? もう名乗っとるやないかァ思うたら、

 

嬢ちゃんの体が一気に()っこくなりよったわ。

 

もう、どないなっとんねん。

 

「うえっへっへっへ……」

 

「なるほど……、繋がった。ソルベの王太后……。でじゃ……そろそろ出て来んか」

 

あかん、バレとったわ。

 

不死鳥はんとアーロンには首左右に振って降参するでの合図や。

 

というわけで姿見せたッたら、

 

「マイナス野郎と一緒か。ふざけんなよ、覗き見しやがって!! この変態野郎がッ!!!」

 

もう婆ちゃんから嬢ちゃんに戻っとるやんけ。

 

アーロン、止めとけよ。ここで下等種族がって言いたいんはわいも痛いくらいに分かるけど我慢や。お前が逆立ちしてもこの嬢ちゃんみたいな婆ちゃんには口では勝てん。多分な。

 

「何だとっ!! この下等種族がッ!!!」

 

って思ても言うわなァ。アーロンやもんなァ。

 

「黙れッ!! 上等変態野郎ッ!!!」

 

もう、わいはよう分からんわ。どう思う不死鳥はん?

 

 

「ああ、変態だよい」

 

ってお(あと)はよろしうないよ、不死鳥は~~ん……。

 

 

 

「てめェだよなァ。ソルベの国民全員その銃で人質に取って、くまに引導渡しやがったのは」

 

「任務……、ただ……それだけじゃ」

 

「てめェ!!!」

 

()()との共同戦線、……()()()()()に始まり今に続く」

 

 

ヒトォンデ?? ヒトォンデ()うたか??

 

 

ヴァスコに()うてもわいの中で消えかけとった熾火(おきび)には正直()うて火は点かんかった。せやけど、今確かに火は点いた。

 

わいの亡くなってもうた故郷の名を口にされるとな。

 

 

「おれァ海賊だよい。この場で動く義理はねェし、お前に相対する道理もねェ。エースを取り返す。それだけだよい。だから情報持ってんならさっさと出せ」

 

半ばモノを考えられんようになってしもうてるわいを尻目に不死鳥はんは己のやるべきことやってる。

 

「マイナス変態野郎!! だったらここからさっさと消えやがれッ!!! 油売ってんじゃねぇよッ!!! Zも黒ひげもさっさと潰して見せろッ!!!!」

 

振り返った嬢ちゃんが涙流しながら叫んどった理由はよう分からんけど、気持ちは伝わってきたわ。

 

「なァ、不死鳥はん。ここまでほんまおおきにやでェ。海賊嬢ちゃん、あいつを逝てまいたいんは分かるけど、ここはわいらに免じて引いたってくれへんかァ? あいつも元に戻したってェなァ」

 

「はァ?? てめェは覗き見してやがったってのに人の話聞いてねェのか? 有り得ねェだろ」

 

「そこを何とか頼むわァ。わいらネルソン商会……、あいつのご主人様を引きずり下ろすつもりやさかいなァ。なァ、どや、それで」

 

 

瞬間、殺気が湧きたちよったわ。せやけど、そんなん知らんがな。わいかてとっくに殺気はダダ漏れさせとるんやさかい。

 

 

永遠にも思える無言の空間や。

 

 

「信じていいのか?」

 

逡巡のあとの嬢ちゃんの問い掛けにわいは頷くだけに留めとく。オリーブの木ん上におる奴が言葉を発することはない。

 

 

「分かった。引いてやる」

 

同時に見違えるみたいに元の体に戻ってる奴が一人。

 

「アーロン、拳の振り上げ方やけど、わいにもよう分からんわァ。せやけどなァ、敵わんかもしれん相手にこそ牙見せたる代わりに慈悲見せたったらええんとちゃうやろか」

 

わいの言葉にアーロンからも無言や。せやけど想いは伝わってるんちゃうかと思う。

 

 

 

「おれァ聞かなかったことにしておくよい。“ブリアード”に正面切るたァな、もう好きにしろい」

 

不死鳥はんもおおきにな。見届けてくれて。

 

 

 

「この世は運命(さだめ)と意志のせめぎ合い、その只中。巡り巡りゆくは、一弾。我が銃の名は千陸、千の(おか)を超え定めた相手を確実に仕留めゆく。此度はゆえに絶対……。天夜叉の運命(さだめ)に一つの意志を穿つ」

 

奴は既に狙撃体勢に入ってしもうてた。わいはどうすんのか? 

 

なるようになれや。ドフラミンゴがどうなんのか知らんけど、ひとおもいに逝てまうんやったら世話ないわ。

 

 

 

穿命弾(フェイタムスポッツ)!!!!!」

 

 

 

それは天を切り裂くような一発やった。

 

 

そないな時に電伝虫や。

 

シャボンディに集合やっちゅうことやったけど、

 

運命やっちゅう一発も、ドフラミンゴの行く末も、何もかんもわいの中心には入っては来んで、

 

 

 

 

ほんまの中心に()ったんは、

 

ヒトォンデ。

 

そのどうしょうもなく抗い難い故郷(あいしゅう)の名だけやったんや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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