錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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お待たせしました。
新年度になってからと言うもの、私の所属する学部は高校公民及び中学社会科の教員免許が取れるため、そのカリキュラムを受けたところ全然時間が取れなくて。
この先も時間を見つけながら投稿するという形になります。

ではどうぞ。




10. シロウの真実

 

 

 

 校長室の暖炉から煙突飛行をすると、私たちが辿り着いたのはシリウスさんのアパートだった。シリウスさんは事前に話を聞いていたらしく、すぐにそれぞれの寝室に通された。そのまま夜明けまで睡眠し、最初はモリーさんとシロウだけがアーサーさんの様子を見に行くことになった。

 シロウがついていく理由は、アーサーさんに薬を提供したのが彼だから、モリーさんだけなのは、もしもの時のために子供に見せないため。どちらも話は分かるものの、納得いかないのが現状だ。特にウィーズリー兄妹らは当事者なだけに、不満の声は大きい。モリーさんは分かっているのだろう、でも今日の様子次第で明日以降連れいていくかどうか決めるそうだ。

 

 

「なぁマリー、どういう夢だったんだ?」

 

「僕らも詳しいことを知りたい」

 

 

 ひと眠りしてから朝食を食べていると、フレッドとジョージが私に聞いてきた。ただ食事中に話せる内容ではないため、話はお茶を飲んで一息ついてからにした。

 私が話し始めるころには、食卓にはウィーズリー兄妹だけでなく、シリウスさんやルーピンさんも一緒にいた。そんな大人数に囲まれる中、昨晩見た悪夢を覚えている限り正確に話した。無論、私がアーサーさんを襲った蛇の中にいたことを含めて。話し終わると、皆顔を青くしたり何か考え込んだりと各々行動をしていた。特にジニーは私と一つ違いであれど最も年下なため、フレッドが落ち着かせるために部屋に連れて行っていた。

 因みにいうと学校の心配はいらない。丁度昨日が冬季休み前最後の授業日だったため、今日から冬季休暇に入るのだ。ただその休暇の始まり方が最悪だったのが問題だけど。

 話も終わり、モリーさんたちが戻るまで手持無沙汰になったため、私は建物内を散策することにした。階段を上っていると、一人の老いたしもべ妖精を見つけた。名前はクリーチャー、彼はぶつぶつと何やら呟きながら、踊り場にある出っ張りを磨いていた。そういえばこの踊り場、窓もないのに壁にカーテンがかけられている。それにこのしもべ妖精の様子を見る限り、とても大切なモノらしい。

 

 

「……ブラック家以外のものがまた入り込んでいる。親不孝者もだ。奥様がお知りになったら何といわれるか」

 

 

 どうやらこのしもべ妖精は、私たちがこの屋敷にいることが不満らしい。まぁ当然かもしれない。このブラック家、シリウスさん以外は相当な純血主義の家柄らしい。故にヴォルデモートの考えに賛成だった人たちも多かったようだ。その中でシリウスさんの存在は、きわめて異端なものだったのだろう。きっと家に自分の居場所がなく、学校が安らげる場所だったのかもしれない。

 そんなことを考えながら私はクリーチャーに近寄った。

 

 

「こんにちは、今一時的に部屋を貸していただいているマリーです」

 

「……『生き残った女の子』が話しかけてきた。ただ他とは違う言葉なため、クリーチャーは戸惑っている」

 

 

 どうやらクリーチャーは、ブラック家を持ち上げる様な言葉で話しかけると、あまり失礼なことは言わないらしい。まだ初めてのコンタクトだし、これだけがわかったので十分だろう。

 

 

「ごめんなさいね、急に押し掛けてしまって。申し訳ないのだけれど、冬季休暇が終わるまで居させては貰えないかしら?」

 

「……今の管理者は不本意ながらシリウス様です。あの者が許したのなら大丈夫でしょう」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 私はそう会話を閉めると、そのまま階段を登っていった。背後からまたクリーチャーがつぶやく声が聞こえたけど、先程とは違って少し物腰が柔らかかったから、気にせずにそのまま階上に向かった。

 二階ほど上がると、一つの部屋に入った。その部屋の壁は正面に大きな幹があり、そこから幾重にも枝分かれした木の絵画が描かれていた。そしてその枝には途中途中と枝先に人の顔が幾つも描かれていた。先のほうに行くほど顔は絵画調のものから写真に近い顔に変わって行っていた。そしていくつかの顔は、まるで焦げたかのように潰されていた。

 

 

「『純血よ永遠なれ』。この私が家を出たのも、この家訓が原因と言っても間違いではない」

 

 

 いつの間にか後ろにいたのか、シリウスさんが話しかけてきた。口調こそは穏やかだったけど、部屋を見るその目は決して穏やかじゃない、親の仇でも見る様な目をしていた。それだけで、彼がどれだけ純血主義を嫌っているのかが分かった。

 

 

「顔と名前が消されているのは、この家の家訓に反したものさ。そしてその子々孫々は決して家系に加えられない」

 

 

 恐らく自分の顔があったであろう場所を撫でながら言葉を続ける。暫く無言で佇んでいると、シリウスさんはこちらに顔を向けた。その目にはもう憎悪は宿っていない。

 

 

「君ももう気づいているだろう。君が見た夢はただの夢じゃない」

 

「……」

 

「恐らくヴォルデモートが意図せずに君に見せたのだろう。だが同時にこの繋がりを奴が利用する可能性もあるのだ」

 

「……わかってます」

 

「いいかい、心を強く持つんだ。奴が入り込む隙を持たない様にするんだ」

 

「『閉心術』……ですか?」

 

「……そうだ」

 

 

 互いに真剣な顔をして会話をする。たぶんだけど、今回の一件でヴォルデモートは私との精神的繋がりに気付いただろう。今後は私が騙されるような内容を、夢として見せてくるかもしれない。やはり早くスネイプ先生に「閉心術」を教わったほうがいいだろう。

 その時階下から扉が開く音と、何人かが喜びの声を上げるのが聞こえた。

 

 

「どうやら帰ってきたらしい。それに今のを聞く限り、アーサーは大丈夫らしい」

 

「そうですね。私たちも降りましょうか」

 

 

 そう言葉を閉めると、どちらからともなく私たちは階下に降りた。どうやらアーサーさんの状態は良く、偶然シロウが持っていた血清が効いたらしい。というか、シロウがいつ血清を入手したかわからないけど、とりあえず今は一命をとりとめたことに安堵した。

 

 

「明日はみんなで見舞いに行きましょう。特別な処置とかはそんな必要じゃないみたいだし、この調子ならクリスマスイブには退院できるそうよ」

 

 

 モリーさんのその言葉に皆は喜び、歓声を上げた。モリーさんがいない間にやってきたパーシーも、余程心配だったのだろう、無事の報を聞くと椅子に座り込んでしまった。

 興奮冷めやらぬ中、モリーさんの指示で私たちは一旦自室に戻ることになった。まぁこれに関しては仕方がない、モリーさんは私たち子どもが物騒な話に関わることを、極端に嫌っている。子を大切に思う気持ちが人一倍強いモリーさんのことだ、本当ならこの建物ではなく、実家の「隠れ穴」に私たちを居させたいのかもしれない。

 でもこのご時世、まだ護りを強化していない「隠れ穴」では、やはり不安があるのだろう。そんなことを考えながら食堂の前でぼうっとしていると、モリーさんとシロウの話し声が聞こえてきた。会話の内容から察するに、ヴォルデモート関連のことではないらしい。後ろ髪をひかれる思いがしたけど、私は食堂の扉に耳を近づけた。そして気づいたけど、私以外にもウィーズリー兄妹たちが、何やら妙な道具を使って階上から盗聴していた。

 

 

『それで、アーサーの部屋に行く前に何をしていたの?』

 

『少し個人的な用事でして。まぁ彼に使う薬を担当医に渡していただけですよ』

 

『そう、ありがとう。でも貴方の話、それだけじゃないでしょ?』

 

『ああ、これを見てほしい』

 

『『『『……ッ!?』』』』

 

『シロウ……それはまさか』

 

『ああ。どうやらお互い、同じものを求めていたようだな。まぁ私からしてみれば、こんなものに縛られるのは愚行としか思えないが』

 

『まぁ君からすればそうかもな』

 

 

 一体何の話だろう。騎士団とヴォルデモートは同じものを探しているのだろうか。そしてそれは魔法省に保管されていると。

 

 

『すまないが、これに関しては別に無理に確保しなくてもいいと思う』

 

『正確なものはダンブルドアが有しているからいいかもしれんが』

 

『だがそれでも奴らの手に渡ると考えると……』

 

『あそこに置かれているのは全貌の断片だ。曲解などいくらでもしようが……ゴフッ』

 

 

 何か良くないことが起きている。それは先ほどの咳き込むような音と、何か液体物が床に落ちる音、そして部屋の中が騒々しき鳴る音が証明している。

 

 

『な、何だこの色は? ……く、黒い……』

 

『大丈夫なの?』

 

『……問題ない』

 

『問題ないわけないじゃない!? とりあえず床を拭いて、何か体にいいものを……』

 

『無理だ、もうどうにもならん。これは私の運命(フェイト)、人の身の器でありながら、必要だったとはいえど一時的な力を欲した代償だ。こうなることは覚悟していた。セブルスの薬でも、精々少し先延ばしにするだけだ』

 

 

 シロウの言葉、恐らく一年ほど前の悍ましい、それこそこの世の全ての負の要素を詰め込んだような魔力の奔流が関係しているのだろう。あの時彼は何ともないと言っていたけど、実際は彼の体を蝕んでいたのだ。ならばこの前の小さなゴブレットも理由が分かる。いくらシロウであっても、あの地下牢で何か飲み食いすることは許されない。でもシロウの側にはゴブレットがあり、私たちが入った直後にスネイプ先生がそれを回収した。

 

 

『先ほども言ったが、遅かれ早かれこうなることは決まっていた。私は後悔していないよ。それに未来(さき)の布石は既に敷いている』

 

『……シィちゃんや華憐ちゃんはどうするの?』

 

『それを言われると痛いが、()()を抜きにしても長くてあと数年だった。私の力は体に負担をかけすぎる、髪と肌の変質に留まっていた今までがおかしいだろう。奴を思い出すと、よくもここまで長生きしたと思うよ私は』

 

 

 シロウの言う奴とは、恐らく並行世界のシロウ。シロウの言葉と彼の容姿から察するに、彼は長く生きたとして三十少し前まで。そう考えると確かに長生きである。でも今のご時世から考えると、それでも若い寿命であることには変わりない。

 それにモリーさんも言ったように、まだ幼い二人を思うと悲しくなる。私はそっと扉から離れ、自室に向かった。途中ロン達とすれ違ったけど、彼らも一様に顔を下に向け、何とも言えないような悲しい表情を浮かべていた。

 自室に戻った私は、しかし何もする意思が起こらず、ただ椅子に座って窓から外を眺めていた。外では真っ白な雪ではなく、鈍色(にびいろ)の空から冷たい雨が降り注いでいた。

 

 

 

 





 はい、ここまでです。
 今回はシロウがひた隠しにしていたことが、まさかのマリーたちにバレることを取り上げました。正直この展開は五巻でやろうとは思っていたのですが、まさか自分でもこのタイミングでやるとは思わず、書きながら驚いていました。
さて、Twitterや個人メッセージでよくいただいた質問に一つお答えしようと思っております。
 セドリックの生存如何ですが、彼は生きています。彼が死ぬことになったのは。「移動キー」の転移に巻き込まれたことが間接的要因であると私は考えております。ですので、彼が転移しなければ即座に回収されるだろうとし、生存させました。今後出すかどうかは決まっていません。

 さて新年度も始まり、新入生、新社会人として新たな門出を迎えた方々もいらっしゃると思います。そんな中このような暗い内容になってしまいましたが、どうか今年一年を楽しかったと、胸を張ってい言えることをお祈りいたします。

 それではまた、ハリポタの次話にてお会いしましょう。


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