錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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お待たせしました。
今回は私的五巻で印象に残ったシーンの一つです。はて、察していた方は何人いたのでしょうね。

それでは皆様、ごゆるりと。




19. イナズマノツルギ

 

 

 

 夕飯はまたもやシロウ監修の豪華料理だった。パエリアには浅蜊(アサリ)や烏賊が使われており、他にもウナギやら牡蠣やら、ナッツ料理やらと精の付く料理が並べられていたのは、単に我々五年生とN,E.W.Tを控える七年生のためだろう。料理の一つ一つにもここまで気を配るのはシロウらしい。

 

 さて、天文学の試験が夜にあるのだけれど、私は一つ肝心なことを忘れていた。『古代ルーン文字学』の試験が夕方にあることを失念していたのだ。幸い試験開始十五分前に気付き、急いで教室に向かった。しかし私が到着した時には既に全員が座っており、駆け込んだ私はものすごい恥ずかしい思いをした。

 で、肝心の試験だけど、それはあまり問題ない。教科書は網羅しているし、文字の解釈なども完璧。さらには現役でルーン魔術を使う剣吾君にも去年手ほどきを受けたから、そこそこ点数を取れている自信はある。

 特に質問の一つ、『ルーンを用いて術式を組む場合、気を付けるべき点と特徴を述べよ。』という問いには、私とハーマイオニー、他に剣吾君と親しかった面子は、完璧と言っても差し支えないほどの答えを書けただろう。

 問題は『天文学』。勿論座学試験は日ごろの積み重ねでパスしているだろうけど、天文図を書くのはまた別。如何に正確に素早く完成させるかが重要なのだ。星の位置は魔法術式にもつながるというのが、この学問の基礎である。いい加減にするわけにはいかない。

 そういう緊張した状態で、殆どのグリフィンドール五年生が天文台に道具を持って集っていた。例外はシロウとディーンの二人で、彼らは受講をしてないから明日の試験に備えるだけでいい。

 

 

 

 天文学の塔の天辺に到着したのは夜の十一時。空は雲一つなく、観測には十分な天候だった。ただまだ夏になっていないこともあり、夜風が少し肌寒い程度。それぞれが望遠鏡を設置し、試験官であるマーチバンクス教授とトフティ教授の合図で星座図を埋め始めた。

 二人の教授は生徒たちの間をゆっくりと歩き、私たちが不正をしていないか監督をしていた。ここら辺はマグル世界と変わらない。まぁこのお二人なら、魔法を使わずとも不正なんて見抜くでしょうね。気配遮断も簡単に見抜くような実力者ですから。

 ……悔しくなんてないもん、グスン。

 

 まぁそれは置いときまして、暫くはペン先が羊皮紙を擦れる音と、試験官の靴音だけが響く空間が広がっていた。私の持つ星座図もマイナーなものが全て埋まり、のこりはメジャーな星座を埋めるだけとなった。

 図に乙女座を書き終えたとき、ふと下のほうから扉の開く音がした。どうしてもそれが気になり、望遠鏡を調節しながらそちらに視線を向けた。何やら五つの人影が夜道を進み、一つの方向に向かっている。加えてただ進むのではなく、誰にもバレないように、隠密を心がけながら進んでいる。隠密行動が素人レベルの私でさえ、余りにもお粗末というレベルだけど。足音普通に響いているし。

 

 というか戦闘の人影に妙な既視感があった。ずんぐりとした姿の歩き方に、高い塔の上と地面という距離とこの暗さからでも見分けのつく、毒々しくケバケバしいピンク色の服は見間違えようもないだろう。

 真夜中過ぎにオババが散歩など考えられない。加えて配下を連れているということは、何かしら良からぬことを起こすのは否めないだろう。金星の位置を正確に埋めながらも、先程の人影について思考を巡らせていた。

 暫く図に集中していると、遠くで扉を叩く音と、大型の犬が吠える声が聞こえてきた。ホグワーツで犬を飼っているのは、ハグリッド以外ありえない。ということは、先程の集団はハグリッドの許にいることは確実である。しかし辞職を通告するのなら、態々真夜中に訪れる理由がないし、従者を連れる必要もない。ということはこれは訪問ではなく、襲撃……。

 

 

 その時校庭にバーンという大音響がした。私を含めた、慌てて反応した人の何人かが望遠鏡のレンズに顔をぶつけた。隣でロンは「アイタッ!?」と小さく悲鳴を上げていた。

 最早試験どころではなく、二人の教授の制止も聞かず、皆が音の鳴ったほうに目を向け、そして恐れおののいた。

 

 

「大人しくしろ、ハグリッド!!」

 

「そんなもん糞くらえだ!! ドーリッシュ、俺はこんなことでは捕まらんぞ!!」

 

 

 どうやらオババと手下がハグリッドを捉えようとしているみたいだけど、どうにも魔法が聞かないらしい。失神呪文が五方向から何度も飛ばされているけど、ハグリッドはその身に受けて尚堂々と立っていた。

 しかしここでハグリッドの愛犬、ファングが呪文で倒された。臆病な子だったけど、必死にご主人を守ろうとして、何度も魔法使いにとびかかっていた。そして弾き飛ばされたところに、オババの魔法が当たったのだ。

 それを見て、ハグリッドは雄たけびを上げた。ハグリッドと出会って五年になるけど、ここまで怒り猛った彼を見るのは初めてだ。ドーリッシュと呼ばれた魔法使いは、その状態のハグリッドのストレートパンチを受け、数メートル吹っ飛んだところで起き上がらなくなった。恐らく気絶したのだろう。

 

 

「何ということを!!」

 

 

 再び下の扉が開き、一人の女性が外に出てきた。声からして、間違いなくマグゴナガル先生だろう。

 

 

おやめなさい!! やめるのです!!

 

 

 闇夜にマグゴナガル先生の声が響き渡る。

 

 

「何の理由があって攻撃するのです!! 何もしていないのに、こんな仕打ちを……」

 

 

 しかし言葉半ばでハーマイオニーとラベンダー、パーバティの悲鳴でかき消された。小屋周り、残った四人から一斉に失神呪文が発射され、マグゴナガル先生目掛けて閃光が走った。誰も反応できない。先生ですら、急な攻撃に反応できず、最早呪いが当たるのは必然だった。そしてついに四本の赤い閃光が先生を突き刺す瞬間、先生が忽然と消えた。

 

 

「え? あれ?」

 

 

 生徒は愚か、教授たちも戸惑いの声を上げている。しかしすぐに先生は見つかった。真っ赤な布を頭からかぶり、不気味な髑髏の仮面をつけている人影が、ハグリッドの隣に佇んでいる。そしてその腕には、抱えられたマグゴナガル先生がいた。そして先生も、突然のことに思考が追い付いていない。

 

 

「南無三!! 不意打ちだ!! 怪しからん所業だ!!」

 

 

 近くでトフティ教授が叫ぶ。今回は助かったからいいものの、もし今の人影がいなかったら、先生は最悪命を落としていたのかもしれない。人影はマグゴナガル先生をハグリッドに託すと、轟音と地面に蜘蛛の巣状の亀裂を残し、その場から消えた。それでようやく気付いたのだろう、オババたちは第二の乱入者に警戒をしつつ、ハグリッド達に再び杖を向けた。

 

 しかし時すでに遅し。

 一瞬のスキを突き、ハグリッドは先生とファングを抱え、森の中へと走っていった。

 

 

「捕まえなさい!! 捕まえろ!!」

 

 

 オババが叫び、更に閃光が発射されたけど、ハグリッドの背中に跳ね返されて無意味に終わった。彼らも敗北を悟ったのだろう、城に戻ろうとしたけど、そうは問屋が卸さなかった。

 彼らのローブやマントにいつの間にか剣が刺さって縫い留めており、オババに至っては剣の檻に閉じ込められていた。

 

 

「あれって……」

 

「絶対にそうだ」

 

 

 グリフィンドール生徒たちは察したのだろう、あれをしたのが誰かを。反対に他の寮生や教授たちは、突如現れた剣に目を見開いていた。

 

 

 ――伏せろ

 

 

 たった一言、脳内に声が響いた。そしてそれだけで私は直ぐに行動を移した。

 

 

「みんな、伏せて!! 教授たちも、伏せてください!!」

 

 

 その声にグリフィンドール生は直ぐに伏せ、一歩遅れて残りの面子も床に伏せた。

 それと遥か上空で、一つの光が瞬いたのは同時だった。

 

 

 ――イナズマノツルギ(カラドボルグ)

 

 

 光は徐々に大きくなり、同時に空気を切り裂く音も聞こえてくる。そして光はやがて渦となり、一つの稲妻となって地面に落ちてきた。

 目の前は真っ白に染まり、遅れる形で鼓膜が破れる程の轟音と振動が私たちを襲った。必死に目を凝らすと、渦上の光の柱が立ち、大気が動き、地面を抉っていた。狙って外したのだろう、小屋は無事だけど、その代わり校庭の真ん中には巨大なクレーターが出来上がっていた。そしてオババたちは吹き飛ばされており、檻で態と守られていたオババを除いて、全員が重軽傷を負い、気を失っていた。

 肝心のオババも腕や足に軽傷を負っており、杖を落して動けない状態だった。そこへゆっくりと、しかしやけに響く足音で、変装したシロウが歩み寄った。オババも流石に理解したのだろう、今の人外の攻撃をしたのは、目の前に佇む人物なのだと。

 

 

「これは警告だ。これ以上罪を重ねるのならばその時は……」

 

 

 そこで言葉を切り、男は何かを上に投げた。そして落ちてきたのは、ナイフで一つにくし刺しにされた、二匹の蝙蝠だった。それを見たオババの下の地面は、何やら濃い色がゆっくりと広がっていた。心なしか、衣服も一部分が色濃くなっているようだ。

 冷ややかに一瞥した男は、登場した時とは反対に、消えるように退場した。いや、正確には消えるように見せかけて、周囲の空気に気配が溶け込んだ。その気配遮断は、私たちのが児戯に思えてくるレベル。そこにいるのにそこにいない、そんな感覚なのだ。

 

 

「うむ……皆さん、あと五分ですぞ」

 

 

 トフティ教授が弱々しくそう言ったけど、もう試験という空気ではなかった。アンブリッジの暴虐に教員への襲撃。止めは地形を変える一撃と、いろんな意味でお腹いっぱいな状態だ。

 マーチバンクス教授も察したのだろう。トフティ教授と一緒に解散を言い渡し、明日に備えるよう通達した。翌朝、件の場所を見に行くと、そこにはクレーターはなく、その代わり底の深い、バジリスクも通れそうな大穴が開いていた。

 

 

 

 






はい、ここまでです。
さぁさぁ、段々クライマックスに近づいてきました。予想通りだった方は何人いらっしゃったでしょうか?
今回マグゴナガル先生は呪詛の治療ではなく、シロウによるアンブリッジ勢力からの保護という形で退出させました。流石に四本は……ねぇ。

次回は久しぶりに外伝と同時更新をしようかと思っております。まだまだ拙い筆と遅い更新周期でございますが、どうぞよろしくお願いします。


さて、今年もサンタコスをして、子供たちに夢を配りますか。



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