錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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今回は終始マリー視点です。

そしていよいよクライマックスです。

某赤いイマジンさんから「最初からクライマックスで行け!!」と言われそうですが。



ではごゆるりと






18. 二つの顔をもつ男

「よくわかったな。あの黄色い猿の入れ知恵か?」

 

「いえ、クィディッチの初戦のときから何となく」

 

「あの猿じゃなかったか」

 

「他の二人はスネイプ先生を疑っていたみたいでしたが。それとシロウは猿じゃありません」

 

「東洋人はみんな猿だよ。特に極東の島国の猿はキィキィ五月蝿い。それにしてもスネイプを疑ったか。まぁわからなくもない。彼は一見怪しげな雰囲気を纏っているからな。誰もこ、こんな、か、かわいそうな、ど、どもりのクィレルを疑わないだろう」

 

 

クィレル先生、もう先生は要らないか、は鏡に目を戻すと、それをじっと見つめていた。恐らく、いや確実にあの「みぞの鏡」が賢者の石を手にする鍵なんだろう。なら少しでも邪魔をしなければ。

 

 

「クリスマスの夜にあなたの声を聞きました。それからスネイプ先生の声も。言葉だけを聞けば、スネイプ先生が脅しをかけているようにも聞こえるやり取りを」

 

「ああ」

 

 

クィレルは私に顔を向けずに返事をした。

 

 

「実に厄介な男だよ、スネイプは。クリスマスのときもそうだが、その前にも奴には邪魔をされた。ハロウィンのとき、トロールを城に入れたのは私だ。皆が騒いでいる間に石を奪うつもりだったが……」

 

 

クィレルはこちらに一切顔を向けていない。けどその口調は、明らかに苛立ちが込められていた。

 

 

「あの男、スネイプは真っ先に私を疑った。そして三頭犬の前で私を問い詰めた。あのままいけば、三頭犬がスネイプを噛み殺していたのに、そこにマグゴナガル教授がきた。そのせいで、三頭犬はスネイプを噛み殺し損ねたばかりか、あの猿のせいでトロールは君を殺せなかった」

 

「あなたのトロール?」

 

「さよう。私はトロールに関しては特別でね。意のままに操ることも改造することも自在さ」

 

「じゃあここに来るまでの二体は……」

 

「私が改造したものだ。だがそれでも苦労した。トロールや他の仕掛けはどうにかできても、三頭犬だけはどうにもならなかった。だからあの半巨人を騙して情報を聞き出したのさ」

 

 

半巨人って誰のこと? まさか……

 

 

「おや、知らなかったのか? ルビウス・ハグリッドは人と巨人の間の子だよ。魔法は効きづらいが、気性は巨人寄りだ。だから危険な生き物を好む傾向があるんだよ。例えばドラゴンとか」

 

「じゃああの卵も」

 

「全部私だ。御主人様の復活に、どうしても賢者の石が必要だったからね。あの馬鹿な男から情報を引き出す必要があった」

 

「ならユニコーンの血は?」

 

「御主人様は今は力を蓄えなければならない。いくら命の水で復活するとしても、それまでに力尽きれば意味がない。御主人様は常に私と共にいらっしゃる。あの御方は偉大だ。馬鹿馬鹿しい正義論を持っていた私に、真に正しいことはなんたるかを教授してくださった。だから私はあの御方のために、ユニコーンの血を飲んだ。さて…………」

 

 

そこでクィレルは杖を一振りすると、私の体は金縛りにあったかのように、動かなくなった。

 

 

「お喋りはここまでだ。君にはじっとしていてもらおう。私はこの興味深い鏡を調べなければならないのでね」

 

 

口も動かすことが出来ないので、喋りかけることも出来ない。

 

 

「ああ、見える。見えるぞ。御主人様が命の水を飲み干し、復活なさる姿が。だが石は何処だ!! 何故見つからない!!」

 

 

クィレルが鏡に向かって吠える。どうやら石が手に入らずに、イライラしているらしい。そのとき、

 

 

━━ その子を使え

 

 

謎の声が突然響いた。

 

 

「御主人様?」

 

━━ その子を使うのだ

 

「わかりました。ポッター!! ここに来い!!」

 

 

クィレルが杖を再び振ると、私の意に反して体はクィレルの隣へ歩いた。

 

 

「さぁ言え!! 何が見える!!」

 

 

今の私は、言われた通りに鏡を見るしかなかった。鏡に映る私は、とても情けない、心底怯えた表情を浮かべていた。と、突然鏡の中の私は微笑み、スカートのポケットから赤く光る石を取り出した。そして一度ウィンクをすると、そのまま石をポケットに戻した。途端、私のポケットに重たいものが入った。そっと気づかれないように布の上から確かめると、ゴツゴツした固い石が入っていた。

図らずも、私は賢者の石を手に入れてしまった。

 

 

「言え!! 何が見えた!!」

 

「……私が見えました」

 

 

とにかく今は嘘をつかなければ。

 

 

「大人になった私が、子や孫たちに囲まれているのが」

 

「どけ!!」

 

 

クィレルは私を後ろに追いやると、再び鏡の前に立った。今がチャンス。そう思った私は、できるだけバレない様に慎重に後ろに下がった。しかし、

 

 

━━ その子は嘘をついている。

 

 

謎の声が響き、私は足を止めざるをえなくなった。

 

 

「ポッター!! 本当のことを言え!!」

 

━━ 俺様が話す。直に話す。

 

「御主人様。それにはまだ力が……」

 

━━ それを話すだけの力はある。

 

 

声の言葉に、クィレルはターバンをほどいた。何メートルあるか分からないターバンの下には果たして、クィレルの後頭部にもう一つの顔があった。青白い肌に蛇のような鼻、そして紅く光る二つの目。その瞳孔は蛇のように縦長だった。そうか、この人が。

 

 

「……ヴォルデモート」

 

「マリナ・ポッター……」

 

 

首筋の傷跡が激しく痛む。間違いない。この人がヴォルデモートだ。

 

 

「この有り様をみろ」

 

 

低くしゃがれた、しかし力のこもった声が顔から発せられる。それは先程から響いていた声と同じだった。

 

 

「11年前、お前に呪いを跳ね返されてからこの様だ。そこらの塵と同じ、風が吹けば、それだけで消えてしまいそうな弱い存在になった。だがクィレルに憑いてからは、着実に俺様は力を蓄えていった。俺様のためにとこいつはユニコーンの血も飲んでくれた。いい僕だよ」

 

 

ヴォルデモートは言葉を続ける。

 

 

「そして俺様は自らの肉体を取り戻すのに、賢者の石から精製される命の水が有効だとわかった。さて、そのポケットの中にある石を渡してもらおうか」

 

 

やっぱりバレてたか。けど私もはいどうぞと渡すわけにはいかない。

 

 

「嫌です。渡しません」

 

「言ってくれるねぇ」

 

 

ヴォルデモートはクツクツと含むような笑いを、私を見ながら漏らした。

 

 

「お前の両親も最期まで俺様に刃向かった。俺様はまずお前の父親を殺した。勇敢に戦ったがね。次はお前の母親だった。大人しくお前を差し出せばよかったのに、あの女は俺様の前に立ち塞がったがために、死ぬことになった。両親の死を無駄にしたくはないだろう? その石を渡せば、命は助けてやる」

 

「…………一つだけ聞かせて下さい」

 

「まぁいいだろう」

 

 

ヴォルデモートがもしかしたら生きている、と漏れ鍋でハグリッドから聞かされたときから、どうしても本人の口から聞きたい事があった。今、目の前には他人に憑いている状態とはいえ、本人がいる。

 

 

「あなたは今のようになる前、そして復活したあとは何をするつもりですか?」

 

「知れたこと。この世界を我が手に納める」

 

「それは魔法世界、非魔法世界に関わらずに?」

 

「そうだ。そもそも何の力もないマグル風情に、何故力を持つ我々が隠れ忍ばねばならん? そのようなことはあってはならない」

 

「…………本当に?」

 

「それこそが俺様の最終目標。マグルを排除し、力ある魔法族だけの世を作ることがな」

 

「…………わかりました」

 

 

私の言葉に満足したのか、ヴォルデモートは上機嫌な表情を浮かべた。ああ、確かにわかったことがある。

 

 

「理解したか。なら話は早い。その石を「渡しません」…………何だと?」

 

「あなたにこの石は渡しません。自分の本当の願いに気がついていない、あなたには!!」

 

 

そう。彼、ヴォルデモートは自分の本当の願いに気がついていない。それが何なのかは私にはわからないけど、それだけはわかる。彼が自らの野望を語るとき、一瞬。ほんの一瞬だけ、その目に悲しみが感じられた。ヴォルデモートはそれに無意識に気がつかないように、目を向けないようにしている。

 

 

「……小娘風情が……」

 

 

クィレルとヴォルデモートの目に、怒り、憎しみ、怨み等の負の色が浮かび上がった。

 

 

「口で言っても聞かないか。クィレル!! 石を奪え!! 殺しても構わん!!」

 

「御意!!」

 

 

ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わず目をつむり、叫び声をあげた。

けどクィレルも一緒に苦悶の声をあげていた。手を離されると少し痛みが引いたから、目を開けてクィレルの方を見た。彼の右手は爛れて、次いでボロボロと崩れ始めた。

 

 

「何をしている!! 早く石を奪え!!」

 

「しかし御主人様。手が、私の手が!!」

 

「なら魔法を使え!! 小娘を殺せ!!」

 

 

ヴォルデモートの言葉に、クィレルは残った左手に杖を持って、呪いを唱え始めた。私は咄嗟にクィレルの元へ近づき、その顔と左手をむんずと掴んだ。

 

 

「ギィアアアァアァアアァァァアアアッ!?」

 

 

掴んだ左手と顔は、右手と同じように爛れて、そして古い瓦礫のようにボロボロと崩れた。クィレルは末期の声をあげながら、服だけを残して塵となって消えた。

命を奪った、という感覚もあったけど、それ以上に終わったという感情が私を支配し、その場に座り込んだ。しばらく立てなかったけど、ようやく立って歩けるようになってから出口に向かった。

 

でも私は思い出した。

殺したのはクィレルであって、ヴォルデモートではない。恐る恐る振り返ると、人の顔をした霞のようなものが、形作られているところだった。そしてその霞は、雄叫びをあげながら私に向かってきた。しかし私に触れるか触れないかのところで、壁に阻まれたかのように霞は跳ね返り、私はその衝撃で後ろへと倒れ込んだ。霞はそのまま消えてなくなり、私はどっと疲れが押し寄せてきて、そのまま眠ってしまった。

 

 

眠りにつく前に最後に見聞きしたのは、首もとで淡く光る、二振りの剣の形をしたペンダントと、私の名前を呼ぶ誰かの、安心するような声だった。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです


あと一、二話で一巻の内容が終了する予定です。
そしてそのあと、いずれ本作品で出演させる予定の、Fate陣営のキャラ設定とハリポタ世界の人物設定を書きます。

そして二巻に入る前に、一巻の没ネタ(おふざけ)、小話(時系列挿入本編)を書こうと思っています。


では今回はこの辺で


現在シロウのヘアスタイルは、オールバックに一番票が入っています。二巻に入るまでアンケートは受け付けていますので、詳しくは活動報告をご覧ください。


それにしてもクィレル。ヴォルデモートに忠告されていたのに、シロウを猿呼びするとは。アクマたちが聞けば絶対オーバーキルになります、はい。

そして11歳の少女を押し倒すクィレル、端からみればただの変態にしか……








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