連チャンです。
それではごゆるりと
部屋にいた奇っ怪な生き物を確認した途端、シロウが何やら膜みたいなもので部屋を包みこんだのを感じた。生き物もそれに気がついたようで、こちらに顔を向けた。そして恭しく頭を下げた。
「マリー・ポッター。なんたる光栄」
「……あなたは?」
「ドビーでございます、屋敷下僕妖精のドビーです」
生き物、ドビーはキィキィ声でそう言った。妖精の一人なのか。
「下僕妖精。つまり、ブラウニーのようなものか?」
「似て非なるものでございます、東洋……の……」
シロウの質問に対してドビーは答えたけど、シロウを見た瞬間、大きな目を更に大きく見開いた。そして神様に礼拝するように床に膝をつき、何度も頭を床に打ち付けた。
「も、もも、申し訳ございません!! このドビー、貴方様に対してなんたるご無礼を!!」
そう一声叫び、頭をガツガツと床にって!!
「ドビー待って!! 音をたてないで!!」
「ドビーの悪い子!! ドビーの悪い子!!」ガンガンッ!!
「お願いだから音をたてないで!! ドビーってば「大丈夫だ」……え?」
「ドビーの悪い子!! ドビーの悪い子!!」ガンガンッ!!
「遮断結界を張った。こちらからの音と衝撃は漏れることはない。向こうからの音は聞こえるがな」
「そうなの?」ガンガンッ!!
「ああ。だからいい加減頭を打ち付けるな」
シロウの言葉で漸くドビーは動きを止め、話をすることになった。私とシロウはベッドに座り、ドビーには椅子に座ってもらった。まぁこのとき、またドビーが頭を打ち付けていたけど。
どうやら今の主人に対して不忠な思考や発言をすると、自分で自分をお仕置きしなくてはならないらしい。
「いい加減本題に入るぞ」
「そうだね。ドビー、話って?」
「はい、実は……マリー・ポッター。今年はホグワーツに戻ってはなりません!!」
「「……は?」」
「恐ろしい、非常に恐ろしい罠が仕掛けられております!!」
「……その罠とは?」
シロウが質問すると、ドビーは突然唸りだした。そして椅子からかけ降りると、箪笥に突進し、またヘッドバンキングをした。いや、しようとした。突然真っ赤な布がドビーの腕に絡み付いて、ドビーの動きを強制的に止めてしまったのだ。布の端は、シロウが握っていた。
「確信はなかったが、妖精でも男なら効くのだな」
「……シロウ、それは?」
「これか? これは『マグダラの聖骸布』だ。対男性用拘束具だな」
「へ? 聖骸布!?」
「ああ」
ええ~……それってキリスト教の信者が耳にしたら絶対に怒り狂うと思うよ、たぶん?
「これは動きだけでなく、能力も封じる。だから魔法を使っても無駄だぞ、ドビー?」
シロウの言葉に、ドビーは泣きそうになっていた。少しやり過ぎ……ん? 何か落ちた?
私はドビーの汚れた服から落ちた、何かの束を拾い上げた。
「ッ!! ダメです!! それを見てはダメです!!」
ドビーがキィキィ声で叫ぶけど、私は無視してそれを見た。それは私宛に届くはずだった、友人たちからの手紙の束だった。
「……やはりな。おかしいと思い、何かに妨害されているとは思ってはいたが。まさかドビー、お前だったとはな」
「……ねぇドビー。これってどウいうコト?」
「ひっ!? ……マリー・ポッター?」
「答エて?」
私がドビーに問い詰めると、ドビーは渋っていたけど、やがて細々と話し出した。何でも私はこの家にいたほうが安全であるため、こうして妨害したと。手紙が届かなければ、ホグワーツに戻りたくなくなると思い、全て回収していたと。
「……聞いていい?」
「……なんでしょうか?」
「私が外に出ようとしたら急に扉が閉まったのも、脚が扉に挟まれたのも、庭に出ると何故かバスケットボール大の鉄球が飛んできたのモ、全部あなたのやったコト?」
「……」
「コ タ エ ナ サ イ」
私が詰問すると、ドビーは小さく首を縦に振った。
「何でそンナことしタノ?」
「……マリー・ポッターは……ここにいた方が安全なのです!!」
「……それで私が死んだら意味がないでしょう?」
「そんな、殺そうだなんて滅相も「知ってる? 人間ってね? やろうと思えばゴムの球でも殺せるんだよ?」……マリー・ポッター?」
去年から思ってたけど、魔法界って危険認識がかなりおかしいよ。普通なら死んでもおかしくないことを、平然とやっているのだ。
「たががゴムボールで死んじゃうんだよ? なのに貴方が投げたのは大きな鉄球。あの場で私が咄嗟に避けてなかったら死んでたよ?」
「……」
「私のことを思って行動したのはわかった。その気持ちは嬉しい。でも私は迷惑してるの。私の生き死を他人に管理されたくない。人生に忠告やアドバイスをするのはわかるけど、貴方がやってるのは、私に決められたレールを歩けと言ってるのと一緒よ?」
ドビーは黙りこくって私の話を聞いている。私は思う。ドビーは私が「生き残った女の子」だからここまでしている。ならもし私に片親、両親が残っていたら? 彼はこんなことしないだろう。
結局ドビーはマリー・ポッターではなく、「生き残った女の子」を死なせたくないだけなんだ。
「私はみんなの人形じゃない。ヴォルデモートから生き残った、というだけで特別扱いなんてされたくない! 私は『生き残った女の子』である前に、一人の人間なんだ!!」
「そこまでだ。落ち着け、マリー」
熱くなったところに、シロウからブレーキが掛けられた。階下からは、バーノン叔父さんの上品(笑)な笑い声が響いてくる。私が深呼吸していると、シロウがドビーに話しかけた。
「さて、ドビーよ。お前の想いは理解した」
「……はい」
「だがこの通り、本人は迷惑しているのが現状だ。故に、今後そのようなことはしないでもらいたい」
「……しかし」
「これでも降りかかる火の粉を払うぐらいはできる。それとも……私が信用ならんか?」
シロウの質問に、ドビーは大きな耳をパタパタさせながら、首を横に振った。とりあえずはドビーは何もしない、ということで話はつき、シロウはドビーの拘束を解くと、ドビーは指をパチリと鳴らして帰っていった。
何だかどっと疲れが押し寄せてきた。でもメイソン御夫妻は、まだ応接間にいるらしい。仕方ないから宿題の仕上げを、シロウに手伝ってもらいながら終わらせた。
「ああ、そうだ。明日の昼頃、ウィーズリー家のパーシーとモリーさんがオレ達を迎えに来るそうだ」
「え? そうなの?」
「ああ、だから準備しておけよ? ペチュニアさんには報告してある」
「ありがとう」
「礼はいらん。そのまま新学期までウィーズリー家にお邪魔することになるから、忘れ物がないようにな」
「はーい」
メイソン御夫妻は漸く帰ったらしく、下からペチュニア叔母さんに呼ばれた。私とシロウは返事をし叔母さんの元へと向かった。
はい、ここまでです。
今年は投稿できてあと1回でしょうか?
年末年始は少々忙しいので、もしかすると、これが今年最後の投稿になるかもしれません。
とりあえず、次回は隠れ穴での話になります。お楽しみを。
それでは今回はこの辺で、良い年末年始を。
次回はあの人がでるかも?