錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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だ……誰もFFネタにつっこまない。
やはりDCFF7はマイナーなのか……


まあそれはさておき、更新です。

それではごゆるりと






16. 神話よ再び

Side マリー

 

 

 

「お前たち、急いで出口に向かえ!!」

 

 

シロウはそう言うと、ヒュドラ目掛けて飛び出した。

私はようやくわかってしまった。彼は止まらない。私達が逃げ切るか、あの怪物を倒すまで、決して止まることはない。

 

 

「……行こう」

 

「「「マリー!?」」」

 

「……私達は、早くここから出なきゃいけない。シロウが生き延びる可能性を高くしたいのなら、尚更」

 

 

本当は私だって嫌だ、シロウを残して行きたくはない。でもこのまま残れば、シロウの足手まとい以外何でもない。だから私は、私達は走った。

脱け殻のところまで来たとき、一際大きな地鳴りと地響きが起きた。

 

 

「危ない!!」

 

 

突然後ろから突き飛ばされた。強い力だったから、私は前方に転がった。私がいた場所に、上から岩が降り注ぐ。どうやら先程の衝撃で、天井が崩れたらしい。

 

 

「ケホッケホッ……ロン、ジニー、大丈夫?」

 

「ゴホッゴホッ、僕とジニーは大丈夫だ。ロックハート……は……」

 

「え? ……うそ」

 

 

ロンの視線の先を見たとき、私はあまりのことに絶句した。最初は目に写るものを頭が認識してくれなかったけど、徐々に状況を把握した。

岩が落ちた場所、そこでは右半身が埋もれたロックハートが、頭から血を流して寝ていた。幸い呼吸があるから、生きてはいるみたいだ。けど、いつまで持つかはわからない。

 

そこに再度大きな地鳴りと地響きがした。今回は天井は崩れなかったけど、その代わりに秘密の部屋のほうから何かが飛んできた。その何かは、部屋とこの空洞を遮る壁を突き抜け、私達の側に打ち付けられた。

その何かは、血だらけになったシロウだった。

 

 

「あ……ああ……」

 

「そんな……」

 

「ヒッ!? ち、血が……キュウ……」

 

 

ジニーはシロウとロックハートの惨状を見て気絶、私とロンは恐らく顔面蒼白だろう。ロックハートはこのままでは助からない。シロウもこれでは、助かる見込みは低い。

部屋のほうから、ヒュドラの勝ち誇るような咆哮が響く。そして自分が通れる穴を作ろうと、壁を崩そうとしていた。不死鳥がいるけど、この子だけでは太刀打ちできないだろう。

私の頭に、「あきらめる」の五文字が浮かんだ。

 

 

「……不死鳥よ」

 

 

そのとき、私の耳に一つの声が聞こえた。そちらに顔を向けると、彼が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side シロウ

 

 

伝説に違わぬ凶悪さだ。何度首を切り飛ばしたことか。あの銀の剣に力を吸われすぎたか、はたまたオレが子供に戻ったことで、最大魔力量が減っており、全盛期に充たない量なのか。

いずれにしても、宝具の真名解放には、僅かに魔力が足りそうにない。せめてと思い、鶴翼三連を叩き込んだが、徒労に終わってしまった。加えてそのとき奴の牙が掠り、毒を受けてしまった。ヒュドラのそれは、バジリスクとは比べ物にならないほど強力てあり、動きが鈍ったところにやられた。

 

奴の尾に吹き飛ばされ、壁を突き抜けて地面に叩きつけられた。恐らく、最低でも(あばら)を二本はやられているだろう。

地面に横たわり、朦朧とする意識で霞む視界に、真っ赤な鳥の影が見えた。遠くでヒュドラの咆哮が聞こえる。

オレは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、俺は夜の森にいた。木々の葉は全て枯れ落ち、地には雪が降り積もり、今も粉雪が静かにちらつく。俺はヒュドラに吹き飛ばされ、暗い洞窟にいたはず。それがこのような場所に、アインツベルンの森に似ている場所にいる。

 

 

━━ 諦めるのか

 

 

後ろから声が響いた。低く渋い、体の奥底まで染み渡る、懐かしい声だった。

 

 

━━ お前は、諦めるのか

 

「いや、まだだ。あの子達を帰すまで、死んでも食らいつく」

 

 

俺は答えながら、体ごと後ろを向いた。

前方には鉛色の大男が、大理石から削り出したかのような大剣を携え、無言で立っていた。

 

 

━━ ではお前はどうする

 

「無論、俺も生きる。俺はあいつとは違う。最善の結果(ベター)ではなく、最良の結果(ベスト)を掴む。そのために、前に突き進む」

 

 

俺は男の問いに答えた。男は何も言わなかった、が、俺の近くに歩み寄ってきた。

 

 

━━ あのとき、あの子を守ると誓ったときと変わらない、良い目だ。消滅するとき、止めとなったお前の刃とお前自身に、我が思いを魔力に重ねて託したのは正解だったようだ

 

 

男はそう語ると、俺の目の前に大剣を突き刺した。

 

 

━━ この先、このような奇跡は二度と起きないだろう。お前にこれを託す。お前の行く道に立ち塞がる、数多の壁を打ち砕く力となろう

 

 

最後まで口を開かずに語った男は、俺に背を向けて森の奥へと歩き出した。

 

 

「……イリヤを、守ってくれてありがとう。彼女は今も、元気にしている」

 

 

男は一度足を止めたが何も言わず、今度こそ去っていった。

男の思いは伝わった。

狂気に侵されて尚、冬の少女を守り続けた彼の英雄の祈りは、時を越え、世界を越えて届けられた。ならば俺も応えよう。

 

目の前の剣を手に取る。膨大な情報が流れ込む。同時に大英雄の思いも流れ込む。

いつしか周りは真っ暗な空間に変わっていた。それでも情報は流れる。

 

全てを受け止めよう。

衛宮士郎の敵は自分自身、思い浮かべるは最強の自分。ならば、膨大な情報に負けはしない。

そして俺の視界は白で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上する。

月明かりのみが差し込む洞窟に、俺は寝そべっていた。近くに不死鳥が佇み、腕と胸の傷口に、真珠のような涙を落としていた。不死鳥の涙は、驚異的な回復力を有しており、バジリスクの毒をも癒すという話だ。

先程までの体の鈍りが取れた。ということは、傷とともに、ヒュドラの毒をも癒したのか。

 

 

「……不死鳥よ」

 

 

オレは立ち上がり、鳥に声をかけた。鳥は一声歌うと、俺の肩に舞い降りた。マリーとロンがこちらに顔を向けるが、今は無視した。

ロックハートは……成る程。ロン達の身代わりになったな。

ジニーはオレとロックハートの惨状を見て、気絶したようだな。

 

オレはロックハートに重なる岩をどけた。幸い奴は生きているが、潰れた右手足は涙を以てしても、治ることはないだろう。

 

剣を造り、ロックハートの右手足を切り落とす。不死鳥はその傷口に涙を落とし、塞ぐ。これで失血等の心配は無いだろう。一つのあるとすれば、『幻痛(ファントムペイン)』ぐらいだが、それは奴の精神力次第だ。

 

 

「こいつを先に医務室へ。その後はこの子達だ、頼めるか?」

 

 

オレの問いに不死鳥はまた一声歌い、ロックハートを掴んで飛びさっていった。さて、と。

 

 

「シロウ、大丈夫なの!?」

 

「さっきまで血だらけだったよね!?」

 

「う、ううん……あれ? シロウ……さん? え? なんで!?」

 

 

この三人をどうしようか。正直ロックハートが五体満足なら良かったが、そうでなかったため、三人を残した。だが、このままでは余波に巻き込まれるだろう。

 

 

「……三人ともよく聞け。一応オレは不死鳥の涙のおかげで、傷も毒も癒えた」

 

「「「……」」」

 

「あのヒュドラは倒さねば止まらん。だからオレは行く」

 

「無茶だよ!?」

 

 

マリーが即座に否定する。同時に部屋のほうの壁にヒビがはいる。もう時間がないか。

 

 

「オレは大丈夫だ、秘策もあるしな。それより、オレが良いと言うまでこの岩場の陰から出るなよ。非常に危険だからな」

 

 

オレはそう言うと、マリー達の制止を聞かず、部屋のほうに向かった。

先程天井が崩れたからか、元から地上に空いていた穴と繋がり、地上に続く大きな空間ができていた。加えて空間は横にも広く、戦うには十分な広さだった。

 

壁から十五メートルほどの場所に立ち、オレは懐から真っ赤な大きな宝石を取り出す。

この宝石は、剣吾の『火』と『風』の属性魔力が込められており、オレが飲むことで一時的にその属性が使える、一種のドーピング剤のようなものだ。

凛の宝石とは違い、純粋な魔力ではないので、飲んだオレが制御できなければ、一発で内側からやられてしまう、諸刃の剣である。

 

だが迷うことはない。

奴の首は切っても再生する。大英雄もその甥に、ヒュドラの傷口を松明の火で焼き塞がせたという話だ。

残念ながら今この場には、それを頼める剣吾も凛達もいない。ならば、初めから使用する武器に炎を纏わせればいい。魔術師ならば、足りないものは他所から持ってくるのだ。

 

オレは宝石を一飲みした。途端、体の内側から焼かれるような痛みが走る。純粋な攻撃力のみを孕んだ剣吾の魔力は、オレを内側から蹂躙した。

視界が赤くなる。己の魔力とせめぎあう。だが。

 

 

「……ここで、やられるわけにはいかない!!」

 

 

そうだ。

衛宮士郎は、他の誰にも負けてもいいが、自分には負けられない。だが、今自分の背中を見守る者達、元の世界で愛した人達のためにも、ここで負けるわけにはいかない。

暴れる魔力を抑え込む。体が熱を持つが、無視をして抑える。

そして魔力は鎮まった。オレの中で一つとなり、体を駆け巡る。

 

壁の亀裂が広がる。あと三秒ほどで壁は崩れ、ヒュドラが襲いかかるだろう。そしてこの十五メートルの距離は、奴にとってはギリギリ間合いの内側、突破と同時にこちらに向かうだろう。

 

思考をクリアに、残りの魔力を見ると一発勝負。

創造理念、基本骨子、構成材質、制作技術、憑依経験、蓄積年月の再現。固有結界は使用不要、そもそも魔力量が足りないし、奴に最適な宝具を、オレは今記録した(しっている)

 

 

「--投影、開始(トレース・オン)

 

 

左手を上に掲げ、まだ虚空の未だ現れぬ剣の柄を握り締める。想像を絶する重量、今のままでは、オレにこれを扱うことはできない。ならば、彼の者の怪力をも複製してみせよう。

 

 

「……行くぞ」

 

 

大剣に剣吾の魔力を注ぎ込む。刀身は火炎を纏い、大剣を取り巻く疾風によって、爆炎となる。両袖が焼け落ち、皮膚も焼ける。だがそれでも全て注ぎ込む。爆炎はいつしか紅蓮の焔となり、岩の大剣は炎の剣となった。

 

壁の奥からヒュドラの咆哮が響き、亀裂が広がる。

 

 

━━ 三

 

 

地鳴りは止まず、寧ろ激しくなる。今の疲弊したオレの体では、限界を超えない限り、奴を一刀のもとに切り伏せるのは困難。

 

 

「--投影、装填(トリガー・オフ)

 

 

故に限界を超える。限界を超えたとき、初めて見えてくるものが、掴み取れる力がある。

脳内に九つの斬撃、二十七の魔術回路を総動員させ、前を見据える。

 

 

━━ 二

 

 

壁が崩れ、遂にヒュドラが姿を現す。その九つの頭、十八の双眼。全てに狙いを定め、大英雄の御技を、今ここに解き放つ。

 

 

全工程投影完了(セット)。--是、射殺す百頭(ナインライブス・ブレイドワークス)!!」

 

 

迫り来る高速を、神速を以て叩き、切り伏せる。

九つの斬撃はヒュドラの首を全て落とし、纏う炎で切り口を焼き塞ぐ。斬撃の余波により、ヒュドラの上の岩盤が崩れ落ちる。岩は全てヒュドラの上に落ち、その体を地に埋めた。

ヒュドラは完全に沈黙した。刀身の炎は消え、剣は魔力に還って霧散する。

 

 

 

 

 

 

あ、不味い。完全にガス欠だ。

流石に無理が祟ったのか、全身の力が抜け、オレは後ろに倒れこんだ。が、地面には倒れず、誰かから支えられた。そしてそのままゆっくりと下ろされ、何かに頭をのせたまま寝転がる体勢となった。

 

 

「……隠れていろと言った筈だが?」

 

「……わかってる。でも心配だったから」

 

「そうか。すまないが、暫くこのままでいいか? 力が入らん」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

不死鳥が帰ってくるまで、このまま魔力を回復させよう。幸いすぐに動けるようになるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ロン

 

 

シロウが部屋の方に行ってからすぐ、僕らは岩陰から状況を覗き見ていた。

シロウが何かを飲み込み、暫く喘いだあと、考えられないほどの大きな剣を片手に掲げた。

前からシロウの身体能力はおかしいとは思っていたけど、流石に今回は開いた口が塞がらなかった。身長の1.5倍はある剣を、あんな軽々と持つことなんて、普通はできない。

 

更に驚くことに、剣は紅く輝く炎を纏い始めた。同時に僕らがいるところに、すごい熱風が流れ込んできた。それとほぼ同時に壁が崩れ、ヒュドラがシロウに襲いかかった。

 

 

「「シロウ!!」」

 

 

僕とマリーは思わず叫んだ。でも瞬きしたときには、既に全部終わっていた。シロウが剣を振り終えたときには、ヒュドラの頭は全て切り落とされ、その体は岩の下敷きになっていた。

 

まるで神話の一コマのようだった。

剣を振り切ったシロウは真っ赤な腰布をはためかせ、力強く立っている。その剣が切り伏せたのは、伝説に語られる、九つ頭の蛇神。シロウの立つ様は、神話に出てくる英雄のようだった。

 

改めてシロウの規格外さを知った。そして本能的に、これは知られてはいけないものとわかった。シロウが表に出るのを嫌がっている、そう漠然と感じた。

それにしても、本当に彼は凄いと思う。魔法界とマグル界を含めて、彼が最強なのではないだろうか? まぁ流石にマグルの『()()()』とかだったらやられるかも知れないけど。

 

 

あっ、剣が消えた。

前から思っていたけど、剣吾もシロウも虚空から剣や槍を出すよね。どうやってるんだろう? 魔法使いが杖を振って呼び寄せるのとは、若干違うような気がする。だってあんなふうに、粒子になって消えることはないし。

 

あっ!? ヤバイ、シロウが倒れる!!

咄嗟に前に出ようとしたけど、その必要性はなかった。

いつのまに移動していたのか、マリーが後ろからシロウを支えていた。そしてそのまま膝枕の体勢になった。

どうやら疲れて力が入らないらしい。上から差し込む月明かりと相俟って、僕の目にはとても神秘的に写った。

 

……もう少しここにいようか。

ようやく終わりを告げた騒動に安堵の息を漏らしながら、僕とジニーは暫く目の前の光景を見ていた。

 

 

 

 

 

 




はい、ここまでです。


バーサーカーとの邂逅ですが、アニメ版UBWの2期opの歌詞をもとにしました。
そしてシロウの言葉、わかる人はわかると思います。


さて、次回は事後説明ですね。

それでは今回はこの辺で



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