錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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大学に行く前に半分まで執筆して、パソコンをスリープにしてから家を出て(スリープになっていることを確認して)、大学から帰ってきたら勝手にシャットダウンされている状況。
おかげで小説のデータも、課題レポートのデータも消える始末。この怒りをどこに向ければ。



それはそれとして、更新します。





10. 帰還者と襲来者

 

 

 

 差出人のわからない新品の箒。しかもそのスペックは現時点で速度、機動性、繊細さが最高である”ファイアボルト”。包みから転がり、床に落ちたそれを見て、箒にそんな詳しくないハーマイオニーでさえも目を丸くしていた。

 

 

「それ…本物?」

 

「うん。そうだと思う」

 

「でも誰から…?」

 

 

 誰から送られてきたのか。それが非常に気になり、包装に使われていた紙を隅々まで調べた。でも手紙などはやはり同封されておらず、結局見つかったのは、大きな包装紙いっぱいに広がる変な印だけだった。

 その印は三本の剣が三つ巴を描くように組み合わさり、そして中央にある一本の剣を囲んでいた。何よりも剣の形に目を引かれた。

 

 一つは剣というより斧といったほうがしっくりくるもので、剣の腹の部分には雪があしらわれていた。

 二本目の剣はまるで釘のような形をしており、その腹には花があしらわれていた。

 そして最後の三本目の剣、それは他の二本とは意匠が異なり、刀身が塗りつぶされておらず、宝石を思わせるような亀裂が入ったものだった。まるでゼルレッチさんの短剣のように。

 宝石に雪に花、いったいこれが指し示すものは……

 

 ふと頭の隅に三人の人物が浮かんでくる。

 一人は凛としてクールな雰囲気を纏った、赤が非常によく似合う女性。

 もう一人は優美という言葉を体現したような女性であり、桜の花が非常に良く似合いそうである。

 最後は聖女という表現が非常にしっくりくるものであり、雪のように混じり気のない純粋な白を身に持つ女性。

 

 

「…ねぇシロウ」

 

「何だ?」

 

 

 唯一混乱する私たちに参加していなかったシロウのもとに行き、包装紙の印を見せる。

 

 

「この印、シロウに…エミヤ家に何か関係ある?」

 

「先に聞くが、そう思ったわけは?」

 

 

 シロウに質問を返されたため、先ほど私が考えたことをそのまま伝えた。説明していくうちにシロウの表情は徐々に変わり、最終的には満足したような顔をしていた。

 

 

「成程な」

 

「それで、答えは正解なの」

 

「ああそうだ。それは遠坂、間桐、アインツベルンが自分の家紋とは別に、衛宮と合わせた四家共通の家紋として使っているものだ」

 

「というとこれは…」

 

「そうだ。その箒は俺たちエミヤ家からのプレゼントだ」

 

 

 やはりというべきか、予想した通りだった。ただそうなると、少し後ろめたい気持ちがある。普通のプレゼントに加え、私は皆よりも一つ多くもらっている。さらに言えば、現時点では相当高価な箒である。

 

 

「いいのかなぁ。私だけ特別扱いみたいで嫌だな」

 

「心配しなくても、皆の分もちゃんと預かっている。箒と同等のものをな」

 

「え?」

 

 

 シロウに指示された先を見ると、なるほど。確かにみんなアクセサリーとは別の物品を持っており、その全ての包装紙にエミヤの紋章が描かれていた。

 ロンとハーマイオニー、パーシーとジニーには学校指定のローブを模した対魔法用ローブ。そしてフレッドとジョージには何か分厚い本を手渡していた。

 

 

「そういえばハーマイオニー。クルックシャンクスはどこ?」

 

 

 膝でお昼寝するハネジローを撫でながら、ハーマイオニーに尋ねる。基本ハネジローと同じで自由行動させているらしいけど、入学してからと言うもの、ほとんど見かけたことがない。

 

 

「あの子は今狩りに行ってるはずよ」

 

「頼むからスキャバーズに近づけないでくれよ? 女生徒ならともかく、動物は雌雄関係なく男子寮に入れるんだから」

 

「その辺はちゃんと言い聞かせてるわ」

 

 

 どうもハーマイオニーはちゃんと躾けてるらしい。まぁあの子は多分ハネジローと同等の知能は持ってるだろう。それに野生の感が加われば、まさに最強の猫といえる。

 ふとシロウに視線を向けると、何やら虚空を見つめてボーッとしていた。でも彼から魔力が感じられるため、恐らく何か自分だけでやっているのだろう。

 

 

「シロウ、どうしたの?」

 

 

 目の焦点が合ったところで、彼に話しかけた。

 ちなみにロンとハーマイオニーは未だにクルックシャンクスとスキャバーズに関する話をしており、双子は書物を読んでは羊皮紙に何やら熱心に書き込んでいる。そしてジニーとパーシーはチェスに勤しんでいる。

 

 

「ん? ああ、少しな。知り合いと話していた」

 

「そう」

 

「ちょっと出てくる。夕餉時までには帰る」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 シロウはものの数分で準備で終わらせ、寮を出て行った。シロウの恰好、学校のローブや私服じゃなく、黒の上下に真っ黒なロングコート、黒い手袋をはめ、首には真っ赤なロングマフラーを巻いていた。

 何だろう、シロウの顔がどうも険しくなっていたような気がする。何も悪いことが起こっていなければいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 談話室で遊ぶ談笑するマリーたちを眺めていたとき、唐突に念話が入ってきた。加えて相手はハッチャケ爺さんことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。応じないわけにはいかない。

 

 

≪師匠、如何しました?≫

 

≪シロウ、問題が起こった≫

 

≪何かまずいことが≫

 

≪うむ、例のブラックという小僧を凛がそちらに送ったのだがな。どうも奴にトラブルが生じたらしい≫

 

≪トラブルというと?≫

 

 

 嫌な予感がする。

 

 

≪うむ。こちらの愚か者の魔術師が一人、隠れて紛れていたらしく、気が付いた時には既に移動を終えていたらしい≫

 

≪で、ブラックが捕まったと。師匠達はむやみに手を出せないから、俺で処理してほしい、というわけですね?≫

 

≪そういうことだ。頼めるか?≫

 

≪無論≫

 

 

 今回ばかりは仕方がない。凛特有の”うっかり”でもないし、ましてや今ブラックは杖を持っていない。

 幸い奴がこの世界に来てから、奴に付けたマーキングでどこにいるかは判っている。あとはダンブルドアから許可が出ればいいが。

 

 

「シロウ、どうしたの?」

 

「ああ、少し知り合いと話していてな」

 

「そう」

 

「少し出てくる、夕餉時までには帰る」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 着替えを手早く済ませ、真っすぐ校長室へと向かう。途中でスネイプに会ったため、合言葉を教えてもらった。

 

 

『牡丹餅』

 

「どうぞお通りください」

 

 

 合言葉で像をどかし、部屋に入る。ダンブルドアは俺が来ることを察していたらしく、既にデスク前に座っていた。

 

 

「どうしたのじゃ? 今は休暇中じゃろう?」

 

「ブラックがこちらの事情に巻き込まれた。これからその処理に向かたいが、いいだろうか」

 

「止めても行くのじゃろう? 付近までわしが送ろう。帰りは君の使い魔で知らせてくれぬか?」

 

「了解した」

 

 

 校長の許可も出たことだし、早速向かうとしよう。遠見の要領でダンブルドアにイメージを送る。大体を察したらしく、彼は杖を構え、こちらに近づく。

 

 

「わしの腕をつかんでくれ。”姿くらまし”をする」

 

「空間転移か。十年ほど前にも同じことをしたが、どうもあの感覚は好きになれん」

 

「慣れれば便利じゃぞ?」

 

 

 そう言いつつ、ダンブルドアは杖をかかげてその場で一回転する。途端に俺を襲う、細いパイプを通るような圧迫感。そして視界に次々と映っては消えていく風景。そしてそれらが落ち着いたとき、俺とダンブルドアはロンドン郊外にいた。

 

 

「あれは…確か」

 

「ストーンヘンジじゃのう」

 

「ふむ…あそこから魔力の胎動を感じるな。龍脈は破格のものが通ってるし、即興の儀式をするには十分だ」

 

「ではシロウよ。またあとでな」

 

「ああ」

 

 

 再び”パチンッ”という音を発しながら、ダンブルドアは姿くらましをした。

 さて、行くか。

 

 しばらく歩くとストーンヘッジから仄かな明かりが漏れているのが確認できたため、一つの岩の陰に隠れる。

 

 

「…私をどうするつもりだ」

 

「君が魔力を持っていることは確認済みだよ。あの憎たらしい遠坂が言っていたしね、君が魔法とやらを使えるって」

 

「こうして台座の上に縛り付けて、生贄にでもするつもりか?」

 

「御名答!! この世界では協会に怯えることもないからね、堂々と他人を巻き込んで私の実験ができるのさ!! これで私も根源に近づくことが出来る。ようやく私も本物の魔法使いになれる!!」

 

「訳のわからないことを」

 

「そのための前段階だ。降霊呪術の生贄として、君を使わせてもらうよ」

 

 

 …なるほど。真っ当な魔術師だな、こいつは。それに、この声、聴いたことがある。

 

 

「光栄に思うといい!! 君はこの私、ビーフス・トロガノフ様の役に立てるのだからな!!」

 

 

 思い出した。確か逃げ足だけが早い小物だった。一度高校を卒業したばかりの時に奴の捕獲を依頼されたが、まだ俺が未熟だったがために、あと一歩のところで逃がしてしまい、行方知れずだった。

 まさかブラックに紛れ、ここまで来るとはな。

 

 

「さて、そろそろ時間だからはじめようか」

 

 

 どうやら儀式を始めるらしく、トロガノフは香を焚き始めた。さて、俺も行動を始めよう。

 岩陰からこっそりと出て、奴の死角へと移動する。寝かされているブラックは俺に気づいたが、特に反応しないところを見ると、俺のしようとしていることを理解しているらしい。

 トロガノフは魔法陣を地面に刻んでいる。こういった陣は一部分でも欠損が出れば効力がなくなる。今奴はこちらを見ていない。

 というわけで、だ。

 

 

「――投影、開始」

 

 

 右手に現れるはコルキスの王女の人生を体現せし短剣。その名を”破壊すべき全ての符(ルール・ブレイカー)”、あらゆる魔術効果を打ち消す、対魔術宝具の贋作である。

 俺はそれを魔法陣に突き立て、次にこの世界の魔法で見えないように術を施す。そして俺は再び岩陰に隠れ、遺跡を囲むように罠を張り終えたとき、奴の準備が終わった。

 

 

「これで良し。さて、早速始めよう!!」

 

 

 相変わらずの大げさな身振りで発言し、台座へと歩み寄る。そして詠唱をはじめ、陣に魔力を流し込む。だが布石は打ってある。

 流れた魔力は短剣に達した瞬間霧散し、効力を失った。

 

 

「む? なんだ?」

 

「貴様のやり方が不完全だったんだろう」

 

「うるさい!! 私が間違えることはない!!」

 

 

 そして奴は台座の周りをくるくる歩き回り始めた。何やらぶつぶつ言っているが、恐らく答え合わせでもしているのだろう。

 俺はもう一度岩陰から出ていき、奴に近づいた。そして切嗣(オヤジ)の礼装だったコンテンダーを懐から取り出す。これはダンブルドアにも黙っていたことだが、俺は目標を確実に仕留める際には、銃を使うことは少なくない。

 この銃の弾には切嗣と同じ、俺の起源を織り込んだ”起源弾”を使用している。俺の場合、目標に打ち込まれたら魔術回路に俺の魔力が流れ込み、最終的には内側から剣が何本も生えてくると言うもの。切嗣よりも非道なものだが、相手を確実に仕留めるには適しており、今まで何度か使ってきた。

 っと、どうやら奴は儀式を再開させるらしい。再び台座のそばに立ち、詠唱を始めたため、俺は奴に照準を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不覚にも移動直後にとらえられ、情けなくも拘束されて生贄にされようとしている。隠れていたシロウが陣に小細工をしていたために問題はないが、いったいどうこの状況を打破するつもりなのか。

 考え事をしていると、再びビーフ……ビーフカリー・ライス? が戻ってきて詠唱を始めた。しかしまた魔力が霧散し、儀式は失敗する。

 

 

「何でだ!? 私の理論は間違っていないはず、だが何故失敗する!!」

 

 

 何故何故と繰り返す、自称完璧な魔術師。そしてその後ろから忍び寄るシロウ。その右手には、銃だと? あれもあちらの世界でいう魔術礼装なのだろうか。

 

 

「くそっくそっ!! 私は完璧なはずだ、間違いなd『それが外的要因からだったら?』なに? ッ!? お、お前は、まさか!?」

 

「久しぶりだな。まさか貴様が生きていて且こちらに来るとは」

 

 

 シロウ、もしかしてこいつは知り合いなのか? そしてその頭に標準を合わせている銃、随分と大きいのは気のせいか?

 

 

「な、何故貴様がここに!? 殺されたという話ではなかったのか!?」

 

「答える義理はないな。二十年越しの任務、ここで果たさせてもらう」

 

「ちぃ!? 食らえ!!」

 

 

 男は地面に何かボールのようなものを投げた。途端視界に広がる白。爆音がないことから、魔術による閃光だろう。私も真正面から見てしまったため、視界がつぶれて何も見えない。

 

 

「猪口才な、そんなものが効くとでも?」

 

 

 シロウの声と共に聞こえる金属音。そして続いて聞こえた銃声と悲鳴、金属が擦れあう音と聞くのも嫌になる肉が裂ける音。視界が回復したため、音が聞こえたそちらに視線を向ける。

 目に入ったのは煙を上げる銃口、無表情で正面を見つめるシロウ。そして全身を剣で串刺しにされた、人だったものだった。






ふえぇ…メインキャラたちの魔改造が進んでるよぅ…
はい、今回はオリジナル回でした。
オリジナルキャラであるビーフスさんですが、この話だけのかませ犬です。今後はアーチャーさんの警告に出た魔術師以外は出さないので、ご容赦ください。

正直に言います、ハリポタ三巻の内容忘れました。現在他の人の作品を読み、大体の内容を思い出している最中です。
さて、次回はスネイプ先生による防衛術授業と、原作から時期の遅れたブラック襲撃事件です。

それではこの辺で。


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