「おい、あれって…」
「エミヤ君…だよね?」
「あの格好は何だ?」
「まるでマグルの本に出てくる兵隊だ」
「それに今のシロウ君…少し怖い…」
(…なんでみんな俺を見てヒソヒソ話してるんだ?)
自覚のない衛宮士郎君でした。
結局あの後、シロウは出かけてから一時間足らずで戻ってきた。
帰ってきたとき煙のような、それでいて酸っぱいような匂いがシロウからしていたけど、ほかの人は気づいていないみたいだったから私は黙っていた。多分懐の盛り上がりが関係しているのかも。
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そして休暇が終わる一週間前、休み明けすぐに行われるレイブンクロ―との試合のために、グリフィンドールチームは集まって練習することになった。
しかしやはり私のファイアボルトを一目見たいのか、観客席に沢山の野次馬が押し寄せたため、フーチ先生に頼んで人払いを頼むことになってしまった。
で、いざ練習を始めようと思うと、今度はフーチ先生がファイアボルトに夢中になっていた。
「このバランスの良さは素晴らしい!! ニンバス系も素晴らしいですが、あちらは尾の先端にわずかな傾斜があり、数年もするとそれが原因でスピードが落ちるでしょう。シャープな握り柄といい、生産中止になった”
延々と
ファイアボルトに跨り、地面を蹴る。
素晴らしいの一言だ。軽く触れるだけで、私の思いのままに箒が動いてくれる。柄を掴んで操作するのではなく、私が考えた動きを箒が実行している、と言ったほうが適切だろう。急加速も急ブレーキも、私が念ずるだけで行われる。
「マリー、スニッチを放すぞ!!」
ウッドの呼びかけに応じ、箒を一旦停止させる。チームの方針で、スニッチを放して一分後に探すことになっている。しかし今回、今まで探してから捕まえるまで十分ほどかかっていた時間が、なんと2分足らずまで縮まった。
この結果にチームは満足だったみたいで、それからは何度もスニッチを獲る練習をした。
「今度の試合は敵なしだ!!」
中でもウッドの喜びようは半端ではなく、今にも踊りだしそうな雰囲気だった。
「ところでマリー、吸魂鬼対策はできているのか?」
「うん、一応」
「それは良かった」
「でももう現れないんじゃないか?」
ウッドの心配にフレッドが問いかける。
「流石に今度出てきたら、ダンブルドアが黙っちゃいないと思うぜ?」
「それに今度現れたらシロウが容赦しねぇだろうよ」
「「というかキレたシロウのほうが怖いぜ」」
「それはそうだが…」
双子の言葉に渋い顔をするウッド。
「二人とも、ウッドは心配しているんだよ。吸魂鬼が出たらみんなに影響があるから」
「それもそうだな」
双子は私の言葉に頷き、箒を方にかけた。
「さぁ、今日はもう暗い。帰って休もう」
ウッドの一声でみんなは箒を手に取り、着替え部屋に向かった。箒の調子も大丈夫みたいだし、今日は何を食べてもおいしく感じそう。
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冬季休暇が明けて最初の週末。今日はレイブンクロ―との試合である。控室にいても試合場の熱気が伝わってくる。
「いいかマリー。レイブンクロ―のシーカーはチョウ・チャン、これがかなりの選手だ。箒は”コメット260”とファイアボルトとは天と地の差だが、油断しないほうがいい」
セドリックの時と同じく、真剣な顔で忠告してくるウッド。やはりそれほどに強い選手なのだろう。
チョウ先輩とは何度か話したことがある。一つ上の彼女はとても人当たりのいい先輩で、何度か勉強を見てもらったことがある。レイブンクロ―が象徴する聡明さも兼ね備えており、シロウには及ばないものの、その知識量は非常に多い。
今回彼女が相手となるということは、彼女の頭脳に勝つことが要求されるだろう。さて、どうなるのだろう。
フィールドに入り、全員配置に着いたところでホイッスルが鳴った。
『全員飛び立ちました。今回の目玉は、なんといってもマリーの駈るファイアボルトでしょう。ファイアボルトには様々な機能が組み込まれており、一例として自動ブレーキが…』
『ジョーダン? 試合の解説をしてくれませんか?』
『了解です、マグゴナガル先生。さて、クワッフルは現在グリフィンドールチェイサーの手にあります。彼女は――』
ジョーダンさんの実況の通り、クワッフルは今アリシアさんが持ってる。そして今、キーパーの防御を潜り抜け、シュートを決めた。グリフィンドール観客席から歓声が響くと同時に、何人かの選手もその場でターンをして喜びを示した。
その時、スニッチが地面スレスレを飛んでいるのを見つけた。まだチョウ先輩は気づいていない。
私は箒を傾け、一息に加速して急降下する。ついでに後方を確認すると、先輩が追ってきていた。なるほど、私をマークするのか。なら私は振り切るのみ。
再び一気に加速し、先輩を引き離して一気に加速する。
しかしもう少しでスニッチを掴めるというところで妨害された。レイブンクロ―のビーターが打ったブラッジャーが私の目の前を通り過ぎ、進路変更をせざるを得なかった。ついでにスニッチも見失い、再び上空に舞い戻ることになる。
肝心の先輩は未だ私にピッタリとつき、自分で探すよりもマークした私を基準に行動することにしたようだ。
それから試合は動き、八〇対四〇でグリフィンドールが勝ち越している。しかしここで先輩にスニッチをとられれば、グリフィンドールは負けてしまうだろう。先輩もずっと私をマークしている。
「何を躊躇している、マリー!! 心を鬼にするんだ、箒から突き落とす勢いでやれ!!」
ウッドの吼える声が聞こえる。しかし流石に突き落とすことはできないため、フェイントをかけることにした。
実際にスニッチは見つけてないが私は急降下を開始した。続いて先輩もトップスピードで追いかけてくる。向こうもスピードが乗ってきたときに私は箒を傾け、一気に急上昇させた。急な方向転換に着いてこれなかったらしく、彼女は驚いた表情を浮かべながら箒にブレーキを掛けていた。
再び彼女が上がってくるまでにスニッチを探す。そして見つけた。スニッチはレイブンクロ―のゴールポスト足元を飛んでいた。
一息に加速し、スニッチ目がけて一直線に向かう。下方にいた先輩も私の動きに気づき、箒を走らせた。しかし彼女よりも早く、私がスニッチに近づいていく。
「あっ」
その時先輩が一点を指さし、叫んだ。つられて私も視線を向ける。
そこには三人の背の高い黒い姿が頭巾を被り、こちらを眺めていた。一瞬吸魂鬼と錯覚したけど、奴らが出てきた時とは違い、気温が凍るほど下がっていない。ということは、あの三人は誰かの質の悪すぎる悪戯だろう。
「『
念には念をいれて、一応守護霊を詠んでおいて私はスニッチに突進した。そして一分もかかることなくスニッチをその手に掴んだ。
ホイッスルが鳴り響き、グリフィンドールの勝利が告げられる。
気が付けば私はグリフィンドールチームと寮生にもみくちゃにされていた。
「いぇーい!!」
「てぇしたもんだ!!」
ロンとハグリッドが賛辞の言葉を送ってくる。
「相変わらず素晴らしい
病気(本人談)から回復したルーピン先生が若干嬉しそうに、しかし困惑したような表情を浮かべながら近づいてきた。
「先生、あれは本当に吸魂鬼だったのですか?」
試合から気になったことを聞く。私の問いかけにルーピン先生は苦笑いを浮かべた。
「その答えはついて来ればわかるよ」
先生の言葉に従い、フィールドの端に連れてこられる。そこには真っ赤な布で簀巻きにされたマルフォイ、クラッブ、ゴイル、マーカス・フリントが宙づりにされていた。なるほど、彼らがやっていたのか。
「悪質で下劣な卑しい行為です!!」
「君はマルフォイ君達を随分と怖がらせたみたいだ」
マグゴナガル先生の怒声をバックに、ルーピン先生から解説を受ける。
どうもマルフォイたちは私が吸魂鬼に苦手意識を持っているということで、試合中に妨害しようとしたらしい。彼らの中では、パニクッた私がプレイ続行不可能になることが計画されていたのだろう。
しかしながらそうはいかなかった。私の杖からは白銀に輝く男が飛び出し、どこからともなく
ああー。その刺突剣といい、この真っ赤な布、たしか”マグダラの聖骸布”といい、絶対シロウだね。聖骸布はマダム・ポンフリーが何やら歌を紡ぎながら管理しているから、暫くはマルフォイ達が解放されはしないだろう。
「そんじゃっ、帰ったらパーティーしようぜ!!」
「祝勝会だ!!」
フレッドとジョージの言葉を皮切りに、グリフィンドール生は寮へと浮かれた空気を伴いながら帰って行った。
それにしても、シロウは試合中も試合後もどこに行ったんだろう?
◆
――その後、体は問題ないか?
――問題ないのならいい。
――お前の力が必要だ。
――証拠の最重要キーの捜索をその子といっしょにしてもらう。
――なに、監獄に比べたら恵まれているだろう?
――もう少しの辛抱だ。
はい、ここまでです。
来週は大学の必須科目で離島研修に行かねばならないので、来週の更新はありません。
その代わり、明日か明後日に番外編か続きを更新しようと思います。
それではこのへんで。
感想お待ちしております。