錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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予告通り更新します。





13. 彼の名は

 

 

 

 薬草学の授業、変身術の授業と本日の学業をこなし、私とロン、ハーマイオニーは寮に荷物を置きに向かっていた。結局シロウはその日の授業を出席せず、念話も通じなかった。

 

 

「シロウはどうしたんだろう?」

 

「知らないわ。時々彼が何を考えてるか分からないことがあるし」

 

「そうね」

 

 

 ときどきシロウの考えていることが分からない。それは私も同じである。生きてきた年数、潜り抜けてきた修羅場の数が圧倒的に違うのも相まって、彼の行動を読むことができない。

 

 

「ん? なんだこの音?」

 

「なにか…鳴き声のような」

 

「ネズミの鳴き声みたいね……ネズミ?」

 

 

 どこからかネズミの鳴き声が聞こえてくる。そしてガサガサと茂みが揺れている。

 

 

「そこの茂みからだね」

 

「ちょっと覗いてみよう」

 

 

 三人並んで茂みに忍び寄る。しかし半歩も踏み出さないうちに二つの影が飛び出した。

 一つはネズミ、どこか見覚えのある大きなネズミ。もう一つは猫で、見覚えのあるつぶれた顔面と、鮮やかな橙の毛並みをしていた。更に言えば、猫は口に札のようなものを加えており、

 

 

「スキャバーズ!?」

 

「クルックシャンクス!? どうしてっ、やめなさい!!」

 

 

 互いにペットの名前を呼び、追いかけるロンとハーマイオニー。咄嗟にかけだしたものだから、二人はその後ろから一匹の黒い犬が出てきたことに気づいていなかった。

 

 

「あなたは…、確かシロウといっしょにいた…」

 

「…」

 

 

 あの日、漏れ鍋にいた真っ黒な犬が、私の目の前にいた。真っ黒の犬は私を見つめ、そして二人と二匹が去っていった方向を見た。

 

 

「追いかけるんだね?」

 

「ウォン!!」

 

 

 私の問いかけに一つ吼えて答える黒犬。そして少し進み、立ち止まって私に顔を向けた。恐らくついてきてくれ、と言っているのだろう。私は黙って先を行く犬の後を追った。

 しばらく歩くと、一本の大木の生えている広場に着いた。一見普通のかなり大きな柳に見える大樹。しかし黒犬が柳に近づいたとたん、その大きな体躯をしならせて枝を振り回し始めた。

 成程、あれが暴れ柳。枝を振り回す光景を見る限り、私のニンバスが砕かれたのも頷ける。

 しかしこの黒犬は先読みしているかのように動き、根元にある一つ飛び出た(こぶ)に近より押した。すると不思議なことに柳は暴れるのをやめ、大人しく元のようにそびえ立った。

 

 

「…その(うろ)に入るの?」

 

「…ウォン」

 

 

 またも私の問いに答える黒犬。根元に開いている空洞のその先、繋がっている場所に二匹と二人はいるのだろう。ならば鬼が出るか蛇が出るか、この犬の言うことを信じて中に入ろう。

 犬が瘤を抑えている間に洞に近づき、空洞に入った。確か忍びの地図によれば、この道はホグズミード村の端も端、叫びの屋敷なる建物に通じているらしい。この道は正直いうと新しい。魔女像の背中から伸びる通路は正直古ぼけており、いつ区連崩れてもおかしくない代物だった。 

 

 比較的安定した地盤の通路を進むと、果たして私と黒犬は建物の部屋の一つに辿り着いた。村で聞いた話とは違い、結構きれいにされている内装は、最近まで使われていた形跡を残している。穴が開いていたであろう壁や床は補修され、腐っていたであろう箇所は張り替えされていた。

 

 

「ウォン!!」

 

 

 黒犬は一言吼えると階段をのぼり、最上階の一つの部屋に入った。一体何があるのだろう。

 疑問に感じた私は杖を構え、部屋の扉を開いて中に入る。そこで目に入ったのは異様で、だけどどこかデジャヴを感じる光景が広がっていた。

 大きめの部屋の中央には魔法陣がしかれ、淡く発光している。その中央には一匹のネズミがおり、エネルギーで形成された鎖につながれていた。

 側にあるベッドには足を怪我したらしいロンが腰掛け、その隣にはハーマイオニーが治療しながら付き添っていた。そして魔法陣の奥、部屋窓からの明かりが届かない位置に…。

 

 

「…やっぱりここにいたんだね、シロウ」

 

「相変わらずの察しの良さだ。それに、俺だけじゃないぞ」

 

「え?」

 

「わしらもおる」

 

 

 シロウの視線の先に目を向けると、そこには校長先生、魔法大臣、ルーピン先生、スネイプ先生がいた。

 

 

「なんか、すごい勢揃いですね」

 

「今回は少しばかり特殊じゃからのぅ。ところで…」

 

「そうだな。そろそろもとに戻ったらどうだ、()()()()?」

 

「…」

 

 

 私の隣に座っていた犬は一目シロウを見ると、次の瞬間にはボロボロの衣装をまとった一人の男になっていた。

 

 

「さて、数か月ぶりに人間態に戻った感想は?」

 

「嬉しいに決まっている。ようやくこの時が来たのだからな」

 

 

 シロウの問いに答える男。犬の時の毛の色同様、黒いボロボロのローブを着た男は部屋をぐるりと見渡し、そして口を開いた。

 

 

「はじめまして、かな? 私はブラック、シリウス・ブラックだ」

 

「そうですか、貴方が今世間では大量殺人鬼と恐れられている」

 

「ああ、世間ではね」

 

 

 私が話しかけた人、シリウス・ブラックは殺人鬼とは思えないほどの綺麗な笑顔、殺しを一度でも喜々として犯した人が浮かべる者ではない笑顔を浮かべて私に答えた。

 

 

 






クライマックスにむけて動き出した事態。ネズミの処刑と黒い淀みの襲来まであと少しです。
次回はもしかしたら今週中に更新します。

では今回はこの辺で。感想お待ちしています。



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