――我は壊すもの
――我は創るもの
――我は古
――我は新
――我は真
――我は偽
――壊そう
――護ろう
――この世界を
フランスのボーバトン校と北欧のダームストラング校が来た翌日、ダンブルドア先生によって選抜方法が発表された。口から蒼い炎を燃やす巨大な杯、「炎のゴブレット」によって選抜されるらしい。なんでも自分の名前を書かれた紙を今日一日の間にゴブレット入れ、明日発表されるのだとか。
更に校長先生は念のため、「年齢線」なる結界をゴブレットの周りに張るそうだ。これによって17歳以下は弾かれる仕組みになっているらしい。
双子のフレッドとジョージが「老け薬」なる魔法役を調合し、ゴブレットに名前を入れようと企んだけど、案の定結界に弾かれてしまった。
「忠告したはずじゃよ」
突然姿を現したダンブルドア先生が、口元に微笑を浮かべながら言葉を発する。
「過去にもそう考えた人間はいたのでのう。じゃがワシがそれを見逃すとでも思うたかのう。まぁ二人の行動力は素晴らしいと思うがのう」
クスクスと笑いながらその場を後にする先生。うん、やっぱり先生はただものじゃない。と、そこに一際大きな歓声と共に一人の生徒がやってきた。ハッフルパフのシーカーである、セドリック・ディゴリーだった。
セドリックが名前の書かれた紙をゴブレットに入れると、蒼い炎は一瞬紅に色を変え、バチバチと火花を散らして再び蒼に戻った。名前を入れ終わったセドリックは興奮した面持ちで部屋を後にしようとしたけど、その時取り巻きの数人がシロウを後ろから押す形になった。
「おっと?」
考え事をしていたのか、急にぶつかられたことに対応が遅れたため、シロウはその場でよろけた。そしてその時、偶然にもシロウは「年齢線」の内側に入ってしまった。
……大広間という沢山の目がある場で。
「あ、悪……い…?」
「……えっ」
「おいおい……なんの冗談だ?」
シロウも自分が今どこに立っているのかようやく気付き、額に手を当てていた。周りからヒソヒソと声が上がり始める。
と、そこに偶然にも剣吾君が居合わせた。彼は一瞬で状況を判断すると、シロウの許に近寄った。
「士郎さん、何やってるんですか」
「いや、俺も正直……」
「可笑しいと思ったんですよ。俺より年上なのに学年が下だから」
剣吾君が咄嗟にフォローの言葉を入れる。流石親子だけあって彼の思惑をすぐに察し、シロウは剣吾君に会話を合わせている。阿吽の呼吸というのはこういうことを言うんだろうか?
「いくら戦場を転々としていたといっても、自分の年齢を忘れないでくださいよ。ほら、今何歳ですか?」
「あーえー、何歳だったかな?」
「しっかりしてください、20歳でしょう。エントリーしないのなら離れたほうがいいですよ」
剣吾君に促され、「年齢線」の外に出るシロウ。はたから見れば完璧な演技だけど、シロウの事情を知ってる私たちからすれば、非常に苦しいフォローだったと言える。自分がこれ以上にうまいフォローができるかはさておいて。
「な、なんだ。エミヤって実は年上だったのか」
「ハハ、ハハハ…納得してしまう自分が怖いわ」
「まぁ……戦場を転々としていたら仕方ないな。うん」
しかし事情を知らない人たちはそれで納得したらしい。それでいいのか、シロウには悪いけど少しは疑うことを知ろうよみんな。
そんな騒動があった一日が過ぎ、シロウは実は17歳以上という大きな衝撃を残したまま選手発表の時間となった。ただシロウはやはり昨日のうっかりが響いているのか、若干、というか結構落ち込んでいる。親子二人して「うっか凛病」なんて呟いている。二人ともリンさんに怒られるよ~。
豪華な夕食も平らげ、あとは選手発表されるのを待つだけ。シロウは特別出場するみたいだけど、そこらへんダンブルドア先生はどうするんだろう?
「ゴブレットに選ばれたものは隣の部屋に入るように」
校長先生がそういうと同時にゴブレットの炎の色が変わり、紅に燃え盛った。そして一度激しく火柱を上げた後、一枚の少し焦げた紙切れが吐き出された。
ダンブルドア先生が勢いよくそれを掴むと、朗々と力ある声で読み上げた。
「ダームストラング校代表は、ビクトール・クラム!!」
「ブラボー、ビクトール!!」
ダンブルドア先生の声が響くや否や、拍手喝采と共にカルカロフの声が響いた。クラムは無言で立ち上がると、皆の歓声を受けながら隣室へと移動していった。
広間が静かになると同時に、ゴブレットの炎は再び燃え盛った。そして再び吐き出された紙片を、先生は力強くつかみ取った。
「ボーバトン校の代表選手は、フラー・デラクール選手!!」
名前を呼ばれた女生徒は、シルバーブロンドの髪を靡かせながら隣室へと移動していった。どうもあの優雅さは本人の身のこなしではなく、なんかこう遺伝子的なものに刷り込まれた雰囲気を感じる。
三度炎が激しくなり、また一枚紙片を吐き出した。書かれていた名前はやはりというべきか、セドリック・ディゴリーだった。かれははにかみながらも堂々と隣室へと移動していった。
これですべての学校から選手が選抜されたことになる。このような状況で、シロウはどう介入しようというのだろうか?
と、ここで先ほど以上に炎が燃え上がり、紙片が二枚排出された。
流石に皆予想外だったらしく、ダンブルドア先生たち含む教員たちも驚愕に顔を染めていた。紙に書かれていたのはボーバトンとダームストラング、両校の選手が更に一人づつ選出された。またこれに関してはマダム・マクシームもカルカロフも予想外だったらしく、非常に慌てていた。
「……これはどういうことじゃ?」
「わ、わわ、わーたしも、びびびっくーりです!!」
「なんなんだ一体!? 一人ではなかったのか!?」
どう見ても本当に驚いている様子からして、不正を働いたという筋はないだろう。
大広間が騒然としている中、そんなことお構いなしにゴブレットの炎は燃え続ける。そして今までで一番激しく燃え上がる炎は長く伸び、一直線にシロウ目掛けて伸びた。そして伸びた炎はまるで縄のようにシロウの腕に巻き付き、ゴブレットに強引に引き寄せた。
「……これは」
「前代未聞じゃ…」
炎が巻き付いた部分の布地は焼け焦げており、右腕にも刻印のようなものがついていた。ただ元の地肌が黒い分、刻印は目立ってなかったけど。
シロウを引き寄せた後の炎はたちまち勢いをなくし、ゴブレットの炎は静かに消えた。しかし本来各校一人づつの代表選手が二人ずつになり、剰え最後の一人は杯に選ばれた気来がある。
沈黙が支配する中、二人目の代表選手たちは隣室に移動した。
◆
さて本当に、本当に面倒なことになった。一応介入することにはなっていたが、選手になるつもりはなかった。だがゴブレットに、名前を入れていないに関わらず、選手として選ばれてしまった。
ハッキリ言おう、面倒くさい。
「あれ? シロウ、どうしたんだい?」
俺たち居ることに疑問を持ったのだろう、セドリックを先頭にして俺たちに三人が近寄ってきた。どうでもいいがフラーとやら、プライドが高いのはいいが、少々その見下すような視線は控えたほうがいいぞ。
「俺たちも何が何だかわからん。俺たち三人は理由もわからずに選ばれた、各校二人目の代表だ」
俺の言葉に残り二人は頷き、セドリックたちは驚愕に顔を染めていた。そして疑問に思うような表情を浮かべると、俺にセドリックは質問してきた。
「君は名前を入れたのかい?」
「否だ。俺が率先してこんなことに首を突っ込むように見えるか?」
「……ふーん」
この男、信じていないな。視線でわかる。はぁ、紳士と皆に思われているのだろうが、やはりこの男もまた子供であるのが分かった。洞察力が足りない。
その後、色々と教員たちによって会議が開かれたが、実行委員会の決定によって各校二人体制で執り行われることが決定した。
さて、詳しい話は今後日を改めて行われることが決定し、今回は解散になった。さて、今回はマリーは巻き込まれないで済んだが、ある意味俺が関わることでより複雑になっているだろう。
果たして今回の選抜が偶然か、それとも俺を邪魔に思う奴らによる陰謀か。どちらにせよ、警戒しておくに越したことはなかろう。俺はしばらく表立って動くことになるから、俺が動けないときの行動は剣吾に任せることになるだろう。まぁ、あいつならそこらの魔法使い程度なら一掃できるから問題ないだろうが。
談話室で行われているパーティーをスルーし、寝室にて今後どう行動するべきかを考える。次第に周りのベッドで同級生が寝ていくのを認識しつつ、俺は夜が明けるまで窓辺に腰かけて思考を巡らせていた。
選抜の次の日、俺は前日集められた部屋にいた。なんでも選手の杖の状態を調べるのと、新聞のインタビューのためらしい。
しかし文屋が酷いのはどこの世界も同じようだ。リータ・スキータなる記者が一人一人インタビューを行っていたが、メモの内容は酷いものだった。捏造八割、疑問一割、真実一割の内容でどんどんメモを取っていく。いい加減腹も立ったので少し脅す羽目になった。
考えてもてくれ。曰く、
――その双眼は鋼の様であり、まるで人形の様。何を考えているかわからない。
だそうだ。後者は兎も角、俺は歴とした人間であるから人形の目などではない。それにイリヤの体は蒼崎製の人形体、奴の書き方がとことん気に入らなかった。
加えて何度もエントリーした理由を聞き、その度に否定を無視してメモを取っていた。誰が怖いもの知らずだ、誰が目立ちたがり屋だ。こちらはほとほと迷惑しているというのに。
「君は戦場を渡り歩いてきたという情報を仕入れたけど、怖かった? どんな影響を与えた?」
「……それをきいてどうする?」
「へ?」
最後にしてきた質問に対し、俺は答えを出さなかった。戦いが俺に与えたもの、それはどんなに手を伸ばしても、零れ落ちる命があるという残酷な現実。それを説明したところでこの女は理解せず、都合のいいように書き連ねるだけ。何も言わないほうがましだった。
さてインタビューも終わって杖調べとなったのだが、ここでもまた不本意ながら周りの注目を集めることになった。それはそうだろう、この世界に今時アゾット剣なんて使う者はいない。
この日のために招かれたオリバンダー老は全員の杖を入念に調べていく。そして俺の番が来たので剣を取り出すと、ダンブルドアとスネイプ、オリバンダー老を除いた全員が騒めいた。
「そうじゃ、よーく覚えておる」
俺の手から受け取ることなく剣を見つめる老、その目は爛々と輝いており、普段よりも生気が感じられた。
「万華鏡のように美しい短剣を帯びた人物から受け取ったこの剣、忘れるはずもなかろう。何年も待っておった担い手、それがエミヤさんじゃった」
懐かしそうに語る老。最後に剣を床に突き刺して簡易の防音結界を張ると、剣は万全と言われて杖調べは終わった。
その夜、談話室の隅で宝石を用いて凛たちと交信していた。流石に今回は今まで以上に一筋縄ではいかない事案である。加えてだが、体内に埋め込まれているアヴァロンが若干力を持ち始めているのも、不確定要素の一つだ。
「士郎、用心しなさい」
凛が真剣な声で言葉を発する。
「去年の黒化英霊のこともあるわ。本来セイバーがいないと機能しないアヴァロンが何かしら反応を示しているのは、彼女関連で何か起こるかもしれないわよ」
「だろうな。今年は特に厄介事が多い気がする」
「一応剣吾がいるけど、まだあの子は英霊を相手に出来るほど強くはないわ。黒化英霊が出ても足止めがせいぜいだと思う」
「あの子には悪いが、もしもの時は頼ることになる。出来るだけこちらの状況は報告する」
「ええ、そうして頂戴。一応来年の5月ごろ全員でそっちに行くわ。様子見もかねて」
「ああ、頼んだ」
談話室に人が集まり始めたため、交信を切る。対抗試合の試練は三つ、せめて一つ目が妙なものでないことを祈るばかりだ。
――ときは近い
――いよいよもって赤が目覚める
――かの宝具を持つに足るものか、試させてもらおう
以上です。
次回は時間が飛んで、早速第一の試練に入ろうと思います。
更新は早くても成人式以降になるかもしれません。
それでは皆さん、良いお年を。