錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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久々の更新です。いやはや、ようやくテストも終わり、束の間の暇が出来ました。
それでは一か月ぶりの最新話、どうぞごゆるりと。






5. 第一の課題

 

 

 

 外部にも代表選手の話が公表され、選手には毎日のように手紙や雑誌のインタビュー申し込みが舞い込んできた。無論俺も例外ではなく、俺を応援する手紙や、俺をズルした卑怯者と糾弾する手紙――寧ろ後者のほうが多い――が毎朝フクロウ便で届き、平穏に過ごせる日がない。

 そして俺たちは代表選手とはいえ一学生でもあるため、課題に備えることに加え、日々の学業もある。ハッキリ言って、いくら俺でも首が回らない状況だ。週一のホグズミード行きが今や数少ない癒しである。

 まぁ、そうも言ってられないか。一週間後まで迫った第一の課題のために、そのホグズミードもそろそろ記者たちの宿泊先となるのだろうが。

 

 

「……はぁ」

 

「エミヤ君。ため息つくのはいいけど、周りに聞こえないようにお願いね」

 

「む? ああマダム・ロスメルタ、すまない」

 

 

 机に突っ伏しているところに、トルコ石色のハイヒールの靴音と共に、一人の女性が俺の許に来た。パブ『三本の箒』を切り盛りしている女店主、マダム・ロスメルタである。

 

 

「代表選手、選ばれたみたいね。まぁ元々ここで接客していた時も、普通の魔法使いとは違う雰囲気だったし、ただ者じゃないとは思ってたけど」

 

「……私としては余り出場したくはないのだがね。まぁ選ばれた以上は出るしかあるまい」

 

「そう。頑張って」

 

 

 そう言って俺の目の前に一つのグラスジョッキが置かれた。琥珀色の液体が五割ほど入っている。

 

 

「これは?」

 

「元従業員への労いよ。当店自慢の蜂蜜酒、年齢的には大丈夫でしょう?」

 

「……ありがたくいただこう」

 

 

 他人の行為は無碍にできない。酒はあまり飲まないが、せっかく出されたのだからいただくとしよう。

 ちびりちびりとジョッキを傾けていると、パブの入口が開く。まぁ日中とはいえ今は昼時、昼食を摂りにこの店に来ても可笑しくないだろう。そろそろ俺もお暇しようか。

 と、覚えのある声が聞こえたのでそちらに目を向けると、そこには大柄なハグリッドとムーディ教授がいた。二人とも俺に気づくと、片やにこやかに、片や相変わらずの仏頂面で近づいてきた。

 

 

「おうシロウ、元気か?」

 

「ああ、エミヤか」

 

 

 席に着くなりハグリッドは蜂蜜酒を、ムーディは自前の酒瓶の中身を呷った。その時わずかに妙な匂いが鼻をついたが、薬の類だろうか? 普通の薬ではないと思うが、まさか風邪薬ではあるまい。

 と、ハグリッドが俺に顔を寄せてきた。

 

 

「……お前さん酒は飲んでも大丈夫なのか?」

 

「これでも年齢的には成人してるぞ」

 

「おお、そうか……」

 

 

 それだけを言ってハグリッドはジョッキをまた傾けた。しかしどこか落ち着きがない。まるで内緒話があるが言いだせない子供の様。

 

 

「……俺に話があるのでは?」

 

「む? おおそれなんじゃが、今日の夜時間はあるか?」

 

「今晩か? 特に予定はない。せいぜい一週間後にある第一の課題の準備をする程度だ」

 

「ならちょっくら俺の小屋まで来てくれ。見せたいものがある」

 

 

 ハグリッドはぼそぼそと俺に耳打ちする。その間ムーディの目はせわしなく動いていた。これの意味することは一つ、隠れてやらなきゃいけないことをするつもりだ。そしてここまで経過し、比較的親しい間柄である俺だけに聞いてきた。まさかとは思うが。

 

 

「……ハグリッド。それは対抗試合関連か?」

 

「むぐぅ!? ゲホッゲホッ!!」

 

 

 俺の問いかけに咽るハグリッド、確定だな。彼には悪いが、今回は彼の嘘をつけない気質を利用させてもらった。

 

 

「だとしたら悪いが断る。確かにそうすれば課題を熟しやすいだろう。だが他の生徒が不公平だろうよ。まぁ、恐らく他の二校の選手はズルするだろうがな」

 

「ならどうして」

 

 

 ハグリッドが納得してないような表情を浮かべている。ムーディはこちらを観察するように、義眼もこちらに向けている。

 

 

「これが試合や実戦であれば成程、先に相手の情報を掴むことは理に適っている。だが今回はあくまで課題だ。それにこの様子からすると、相手は人ではない、それこそ幻想種のようなものだろう?」

 

「ならばこそ、情報を集めようにもわかるのは生態だけ。本番でどのように動くかなど予想もできない。ならば最初から見ないほうがまだマシかもしれん。それに、幻想種で課題に活用できるものとなれば、自ずと選択の幅は狭まるだろう」

 

 

 俺はそれだけ言うと、カウンターにジョッキを持って行った。ついでに一応酒の料金とチップも一緒にカウンターに置く。振り返った先に座るハグリッドは呆然としていた。ムーディはこちらを試すような視線を向けている。

 

 

「まぁ心配するな。なるようになるさ」

 

 

 二人以外のいくつかの視線――まぁ恐らくは文屋だろうが――も背中に受けつつ俺は店を後にした。

 

 

 

 

 

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 一週間後、俺たち6人の選手は一つのテントに集められた。そこは会場の近く、すでに大きな歓声や野次が聞こえてくる。古来より見世物は大きく盛り上がるとはいえ、これは本当に辟易する。

 

 

「やぁみんな集まったね。楽にしたまえ」

 

 

 テントに一人の男が入ってきた。大会の進行役らしい、ルード・バグマンという男だった。その横には小袋を抱えた別の魔法使いがいる。

 

 

「諸君にはこれからこの袋の中の模型を取ってもらう。そして諸君のミッションは一つ、金の卵を取ることだ!!」

 

 

 バグマンは仰々しく課題内容を発表した。卵となると、他にもダミーの卵もあるのだろう。とすれば、必然的に卵生の生き物に限られてくるわけだ。まぁ恐らく弱めのドラゴンや大蛇になるだろうな。あるいは怪鳥か。

 

 

「レディーファーストだ」

 

 

 バグマンはまずボーバトンのデラクールともう一人を呼んだ。二人が袋に手を入れると、2番と5番の数字をつけたミニチュアが取り出された。

 本物そっくりに動くドラゴンの。

 

 

「2番、ミス・デラクール。ウェールズ・グリーン種。5番、ミス・マルタン。ゲルマニア・ホワイト種」

 

 

 やはりというべきか、袋からミニチュアを取り出した二人は驚く素振りを見せず、逆に毅然とした態度を見せていた。大方、マダム・マクシームから事前に聞いていたのだろう。

 その後に中国火の玉種を引いたクラムと、ハンガリー・ホーンテールを引いたもう一人も同様だった。ただディゴリーも落ち着いていることからすると、この中でドラゴンと知らなかったのは俺だけか。さて、どう対処したものか。

 

 

「次、ミスター・ディゴリーだ」

 

 

 最後に回されたホグワーツ組。先に手を入れたディゴリーの手には、1番の番号が点けられたドラゴンがいた。スウェーデン・ショート-スナウトという種類らしい。

 

 

「では最後に、ミスター・エミヤ」

 

 

 最後に回されてきた俺。心なしかバグマンともう一人の魔法使いの目が語っていた。この子は――対外的には俺はまだ子供――可哀そうに外れくじを引いたと。

 こんなところでも「幸運E」は出るのだな。

 

 

「6番、ミスター・エミヤ……ウェールズの赤き龍、『Y Ddraig Goch(ア・ドライグ・ゴッホ)』」

 

 

 やれやれここで赤い龍とは、どこまで俺たちの因果は深いのだろうな。そう思わないか、セイバー?

 もしかしたらアヴァロンの活性化も、彼の龍の魔力に起因するものなのかもしれんな。さて、本当にどうしたものかな。

 

 

 

 





ああー久しぶりに書くと時間がかかる。こんにちは、ホロウメモリアす。
ほぼリハビリのような感じで書きましたので、もしかしたら今までよりも更に拙い文章になっているかも。
さて、皆さまも予想していたでしょう。ついに次回、赤き龍のお披露目です。試合をどのように運ぼうかなぁ。

ではまた次回。



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