「御主人様、準備は整いました」
「よくやった。あとは邪魔者を分断し、こちらの邪魔が出来ないようにする」
「エミヤシロウは如何しますか?」
「奴はオレ様の手札の一つで始末する。奴さえいなければ、我らの悲願に大きく近づける」
「流石はご主人様です」
「いいか、くれぐれも当日失敗するなよ」
「御意」
バレンタインもとうに過ぎ、時期は五月へと移り変わった。日本では桜の花は散り、葉桜が五月晴れの空に映えているだろう。
しかしホグワーツではまた別の理由で緊張感が高まっている。理由は至極単純、もうすぐ対抗試合の最後の課題が発表されるのだ。そのため、選手らは勿論、生徒らもピリピリしている。課題をするのはオレ達で生徒らではないのだがなぁ。
今オレ達代表選手は、課題発表の会場に移動している。といってもクィディッチの試合場が会場らしいのだが、また一度目のように見世物でもするのだろうか? いやはやどの世界でも、ヨーロッパ人は見世物が好きなのだろうか。いや、極端に言えば、水族館や動物園も見世物か。
「今度は何だと思う?」
偶然合流した全代表選手のうち、ディゴリーが聞いてくる。因みにデラクールらはしきりに地下トンネルだとかコロシアムだとか憶測を話しており、ダームストラングの二名はじっと黙っている。
「クィディッチ競技場を使うということは、よほど広い敷地が必要になるのだろう。一つ目が戦闘力、二つ目が知力とくるのなら、恐らく次の評価対象は判断力と応用力だな」
「ということは、突発的に何かが起こる課題ということ
「それも推測の域を出ないだろう。どうせ今から聞くのだ」
ディゴリーやマルタンと談笑しながらフィールドへと向かう。しかし何だな。道中一言もしゃべってないが、ダームストラングの二人も精神的にも物理的にも、最初に比べて距離が縮まっている。流石に約一年も同じ学び舎にいたためだろうか。
他愛もない話をしていると、オレ達六人はクィディッチフィールドに到着した。しかしフィールドは様変わりしており、一面にまだ低いが木が植えられている。しかもただいい加減に植樹されているわけではなく、何かの法則に従って植えられているのだ。はてさて、これだけの広大な敷地を用い且つまるで道を作るように木が植えられているとなると。
「なるほど、迷路だな」
「その通り、流石はエミヤ君!!」
俺が予想を口に出すと、背後からバグマンが大きな声を出しながら登場した。その後方には各校の校長や魔法大臣、審査員たちも控えている。
「第三の課題は見ての通り、広大な敷地を用いた巨大迷路だ。この迷路の中心に優勝杯が置かれ、辿り着いたら課題クリアという形式だ」
「待て、それなら今までの得点にヴぁ何の意味ヴぁあるンだ?」
「ああそれはだね、これまでの点数と今度の課題の合計点で優勝を決めるのさ。だから最初に優勝杯に辿り着くに越したことはないが、だからと言って優勝できるわけではないのだよ」
「とどのつまり、第三の課題の結果次第では彼女らも優勝を狙えると」
「その通りだ」
バグマンは単純に第三の課題が迷路としか言ってないが、確実に当日は道中様々な妨害があるだろう。第一の課題は龍、第二の課題は水魔と命の危険が伴うものが普通にあったため、今回もそういうのがあるかもしれない。備えは万全にしておいたほうがよさそうだ。
「では課題は今日から一か月後に開催する。諸君、十分に準備を済ませ、全力で臨むように。それじゃあ解散!!」
バグマンの一声で解散となる一同。
全員一度寮や自分らの拠点に戻って夕食に行くみたいだが、オレはダンブルドアに頼まれ、ホグワーツ駅に行かねばならない。どうやら第三の課題は選手の親族も観戦可能らしく、オレはその迎えを頼まれたということだ。はて、他の人間は兎も角、凛たちは第二魔法で来るはずなのだが、それ以外にオレの関係者で来るものはいるのだろうか?
その疑問は直ぐに解消された。
到着した汽車から降りてきたのはディゴリーの両親の他に他二校の選手の両親たち、そしてウィーズリー一家の残りのメンバーだった。ついでに言うと何故か凛たちも汽車から降りてきた。流石にシィと華憐は疲れたのか、凛とイリヤに抱かれて眠っている。あとで軽食を作っておく必要があるな。
「直接会うのは一年ぶりね、シロウ」
「目を離した途端あれだもんね」
「恐らく士郎さんのそれは死んでも治りませんよ。アーチャーさんの例がありますし」
「「ホントよねぇ」」
久しぶりに顔を合わせるのに、早速嫌味を言ってくる我が妻たち。紅葉はその隣で苦笑いしているし、ウィーズリー夫妻に関しては紅葉と一緒になって苦笑い。ビルとチャーリーに関しては事態を理解していないようだ。
「……ン"ン"、立ち話もなんだ。他の客人もいるし、校舎に移動しよう。『そちらの皆さま、ホグワーツはこちらでございます』」
デラクールたちの親族たちも伴ってオレは歩き出した。時計を確認すると、あと一時間ほどで夕食の時間が終わる。まぁ校長の〆の挨拶の三十分前ぐらいに到着する。ゆっくりとまではいかないが、焦って書き込むような事態にはならないだろう。
夕食には間に合い、両親らは多少好奇の視線を受けながらも比較的平和な夕餉を楽しみ、それぞれの拠点へと向かった。で、ウィーズリー一家が特別に拡張されたグリフィンドール寮に来るのは分かるのだが。
「可愛い―!! 何歳なの?」
「四歳!!」
「八歳!!」
まさか凛たちもこちらに来るとは。いやまぁ、魔法で空間が拡張されているから十二分に収まるのだが、目を覚まして食事を済ませた二人の下の子がグリフィンドールの女性陣にもみくちゃにされている。ふとした拍子にオレが父親であることが広まりかねない。ウィーズリー一家とマリーは事情を知っているからいいのだが、他の生徒にはあまりバレるわけにはいかないのだ。
「それで、本当に体に影響はないのね?」
「ああ、外見が奴の特徴を受け継いだ以外は被害がない。魔力は前より増えたし、回路も頑丈になった」
他の生徒が娘らに夢中になっている間にオレは手早く診察を受けていた。一応宝石を通して報告はしていたが、念のためということで診てもらっている。が、やはり体表と頭髪以外は特に何も被害は見つからなかった。
三人から特に問題はないということでお墨付きをもらったが、今後はどうなるかわからないという念が押された。まぁ確かに、アーチャーとなら兎も角相手は「
「パパ……ねんね」
「「「「ぱ、パパぁ!?」」」」
……いや、シィに空気を読むことを期待するのは無理だったか。そもそも幼い子供が両親揃わない環境で過ごし、そして定期的に会えるとなると甘えたくなるものだろう。だからこうしてこの場でシィがオレを父と呼ぶのも仕方がないのだ……たぶん。
「シィちゃん、ベッドはこっちよ」
「んむぅ…パパとねる」
「お父さんたちは難しい話してるからね。明日またお願いしようか」
「あい……」
マリーが咄嗟にシィを寝室に連れて行ってくれたおかげで変にあの子が寝不足になることはなくなった。マリーには今度好物を作るとしよう。
さて、非常に心苦しいがこの場にいた関係者以外の記憶は消させてもらおうか。みんな、いい夢を見るといい。
久しぶりに更新しました。色々とリアルが忙しく、つい一昨日らへんに外伝が運よく更新で来たぐらいです。
次回より第三の課題、並びにクライマックスに突入します。
それではまた。