お待たせいたしました。第五巻に突入です。
今回はプロローグのため、通常回よりも短めにするつもりです。
それではどうぞ。
0. プロローグ
夏真っ盛りの夕方のイングランド、プリベット通りに住む
シロウやシリウスさんからの手紙は、ヴォルデモートの情報を探したくても探さないように私を窘めるような内容ばかり。ロンやハーマイオニーからも、今はじっとしておくように言われる始末。ダンブルドア先生に関しては返事すらもない。現状私はまるで魔法界から切り離されているような感覚だ。
「良い右フックだったぜピッグD」
「けどストレートが入らなかったな」
「ガードが固すぎなんだよ」
ぼうっとしてると複数の男の子の声が聞こえてきた。顔を観なくてもわかる、従兄のダドリーとその取り巻き達だ。そういえば今日は部活の試合があると言っていた。丁度いい、時間も良いころ合いだし一緒に還るとしようか。
「やっほーダドリー」
「ん? あ、マリー」
「ええ!? あの子がダドリーの従妹なのか?」
「随分と大きくなったなぁ。あのチンチクリンが」
チンチクリン言うな。まぁどうやら帰るとこみたいだし、ダドリーのグラブを持って同行した。取り巻きの内、初めて見る私より10cm程身長の高い(155cm)男子がこっちをチラチラ見ながら顔を赤らめては、ダドリーに小突かれていた。なんでか知らないけど、初対面だし、ダドリーが気を使ったのかもね。
私とダドリー以外が別れた後、急に雨が降りだしたため私たちは小さな土手の地下道に避難した。しかし雲一つなかった空から突然雨は降るものなのだろうか。日本の雨で「狐の嫁入り」というのに似た現象であるけど、嫌に風や雨粒が冷たく感じられた。走ったせいもあって少々肩で息をしていると、次第に吐息が白い霧となって目に見えるようになった。それに少々肌寒い。
「……ダドリー」
「な、なんだ?」
「私が『逃げろ』といったら文句を言わずに逃げて」
「ま、まさかそっち方面の?」
「うん。たぶんそう」
この異常な冷え込みようといい、後方から聞こえる何かが凍り付く音は、私の知る限り吸魂鬼以外考えられない。この場から脱出するには魔法を使うか、シロウの黒鍵ぐらいしかないだろう。でも私は黒鍵を持っていないし、魔法界における成人年齢十七歳に達していないため魔法は使えない。
ならできることは息が続く限り走り続け、家に帰ることだけである。
「走るよ!!」
「う、うん!!」
私の声に合わせて二人同時に駆け出す。同様に吸魂鬼も速度を上げて追ってくる。そのまま逃げおおせると思ったら前方からもう一体の吸魂鬼が出現した。思わず私は足を止めてしまい、ダドリーは滑って転んでしまった。それが分け目となり、私は首を掴まれて柱刷りになり、ダドリーは寝ころんだまま幸福を奪われていった。
「こ……の……離……しなさ……い!!」
スカートから引き抜いた杖で殴りつけ、吸魂鬼の手から離れる。まさか二体もいるとは思わなかった。この様子なら、地下道の外にまだいても可笑しくない。
「『
咄嗟に幸福を思い浮かべ、私の守護霊たる天使を出す。出現した天使は直ぐに口を開けて歌いだし、吸魂鬼を追い払うと同時に周囲のぬくもりを取り戻していく。
一分ほど展開した後守護霊を消し、ダドリーに駆け寄る。幸い魂は取られておらず、彼は寒さに凍えつつ気絶しているだけだった。確かこの場合はチョコレートを食べさせればいいはずだけど、不運なことにこの場に持ち合わせていない。かといって運ばないわけにもいかないと色々試行錯誤していると、前方から何かが来る足音がした。一度しまった杖を出せるように準備していると、前方から来たのはシロウだった。
「本当にすまない」
「話は後、ダドリーの治療をしないと」
「チョコレートは持ってきてる。オレが運ぼう」
ダドリーの顔一つ分大きいシロウがダドリーを担ぐと、もう片方の腕に私を抱えて一機に駆け出した。一分も立たないうちにダーズリーの家につくと、すぐに私は叔父さんと叔母さんに状況を説明し、ダドリーの介抱にあたった。今の状態でも口にしやすいようにと作ったホットチョコレートは、見る見るうちに顔色をよくするダドリーに安心するも、私宛に一通の手紙が届いた。
『拝啓マリナ・リリィ・ポッター殿
魔法省は本日八月五日、午後六時十五分ごろに貴殿が守護霊呪文を使用したことを確認いたしました。これは未成年魔法使い制限事項令に反する行いであると判断し、貴殿のホグワーツから退校処分することを決定いたしました。つきましては……』
フクロウに送られてきた手紙には、私の退学通知が入っていた。横から覗き込んできたシロウと叔母さんの顔は、呆れと怒りの表情を浮かべた。尚ダドリーはソファに座らせて毛布で体を温めさせ、叔父さんにはダドリーに湯たんぽを作ってもらっている。
「大臣は多少マシになったが、その他はまだまだ無能が多いようだな。……戯けどもが」
「魔法省って、正当防衛も認めてないのかしら?」
「魔法を使ったという結果しか見てないのでしょうよ。それかマリーを邪魔と思っている脳無しどもか」
叔母さんとシロウが何やら話していると、更に手紙が四つ届いた。三つはハーマイオニー、アーサー・ウィーズリーさん、シリウスさんからで今は家でジッとしているようにという通知だった。最後の一通はまた魔法省からの通知で、私の放校処分は保留にして後日、後程通知される日に裁判を行うとのこと。また随分と掌を返してきたと思い差出人を見てみると、一枚目は知らない人、二枚目の通知はアメリア・ボーンズ女史からだった。
「ボーンズ女史は中立だ、信頼できる。一枚目は……カエルか」
「カエル?」
「マリーを良く思わない愚か者さ。すまないがオレはこの地域を離れる。次会うときは裁判の時だ」
シロウはそう言うと外に出て、音もなく消えていった。魔法に出会って五年目、私の気分は非常に落ち込んでいる。そして空は私の気持ちを表すように土砂のような雨が降り始めた。
はいここまでです。
ついに来ました、新章突入です。原作でも大きな転換を迎える第五巻ですが、さぁあのガマガエルをどうしてくれようか。
次回もよろしくお願い致します。
ではまた、いずれかの小説で。