錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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ついに新学期が始まり、五巻のメインパート開始です。
それでは皆様どうぞごゆるりと。




3. 新たな教員と警告

 

 

 

 無罪放免になって早一週間、私たちは明々後日の新年度開始に向けて準備をしていた。結局ヴォルデモートの情報は大して得ることは出来ず、また不死鳥の騎士団のことも大して知ることは出来なかった。両方とも子供にはまだ早いという理由でモリーさんが中心に遠ざけ、食事中以外でも話題に出すことすら憚られる空気を作り出していた。

 

 

「別に私は戦おうとは思っていないのに」

 

 

 スーツケースに新しく買った教科書や新調した服を詰めていく。それにしても最近は二月ごとに下着を新調している気がする。第二次成長期だからどんどん女性らしい体に変わるのは分かるんだけど、せっかく上下揃えて買ったのに上だけ買い替えて揃ってないのは自分としてはなんか気持ち悪い。

 

 

「それにしても『防衛術の理論』なんて本、確かに実践だけじゃなくて理論も大事だけど。なんで今年やるんだろう。普通は一年とかでやるはずだし、今年私たちが受けるO・W・L(普通魔法レベル)試験対策だとしてもこれは……」

 

 

 正直って無駄な気がする。中を読んでみたけど、変に理屈っぽく書かれているけど結局私たちが四年間教わったことが描かれている。それに少なくともグリフィンドール生はシロウや剣吾君によって教授されているし、とくに衛宮一家と親交の深い私たちはその更に先まで教わっている。

 それに何か、まるで私たちに魔法を使わせないようにしているとも見て取れる。

 

 

「考えても仕方がないか」

 

 

 そう結論付けた私は早々に荷造りを済ませ、床に入った。そういえば裁判が終わった後シロウはどこかに行ったけど、どこで何をしているのだろう。流石に新年度初日の晩餐に遅刻、なんてことはないだろうと思いたい。

 

 

 そんなこんなで時間は過ぎ、私たちはホグワーツ特急の長い旅を終えて大広間の席についていた。目の前には豪勢な料理、しかもシロウの味付けのものが並んでいたけど、今までの様に楽しんで食べることが出来ないでいた。

 その理由は教員席にある。「闇の魔術に対する防衛術」の教員席に、なんとあのガマ女が座っていたのだ。しかも口元に笑みを浮かべながら、その目は明らかに私たちを見下しているのがわかる。

 

 

「さて、みんな大いに食べ大いに飲み、腹も満たされたことじゃろう」

 

 

 デザートもクズ一つ残さず完食された後、ダンブルドア先生が立ち上がり演説台に立った。この後は毎年恒例の先生の話と、いくつかの禁則事項、そして新しい教員の紹介だ。去年の様な特別なことがない限り、変に話がこじれたりすることはない。

 

 

「秋は実りの季節とも言われ、木々の葉も衣替えをする季節じゃ。新入生も在学生も『ェヘンェヘン!!』……?」

 

 

 突如先生の演説に割り込んできた甲高い特徴的な咳払い、それはあのガマ女から発せられたものだった。絶対意図的に妨害したものとわかる。暫く先生は何か話すのかと待機していたが女は話す素振りを見せない。しかし話を再開しようとすると、また咳払いで妨害する始末。仕方なく先生が女の紹介をすると、ようやく女は立ち上がり、そして堂々と先生よりも前に歩を進めた。

 

 

「校長先生ありがとうございます。ホグワーツの生徒の皆さん、こんばんわ。ご紹介に預かりましたドローレス・アンブリッジです」

 

 

 ものすごく甲高い耳障りな猫撫で声で話始めるアンブリッジ、シロウは険しい顔をし、他のハーマイオニーやロンも顔を顰めている。そのまま時折気持ち悪い引き笑いを織り交ぜつつ、教育のあるべき姿について語っていたけど、最初一分ほどで聞いている人は殆どいなかった。強いて言えば私やハーマイオニー、シロウとか他の真面目な人たちだけである。

 

 結局アンブリッジが言いたかったのは『魔法省全体(笑)はホグワーツの方針が気に入らないから干渉するぜ、こちらに都合のいいようにな』、ってことだ。まぁ魔法省全体ではなく、一部の反ダンブルドア派の人たちが勝手にやっているのだろうが。

 それにしても厄介だ。O・W・L試験は実技もあるのだけど、防衛術では杖を出すことも御法度になりそうだ。校長先生の話を何の躊躇もなく妨害し、あまつさえ自分の演説を始めるような女だ。罰則などもえげつないものに違いない。要するに自己中腐れだから気を付けるのだ。

 

 

「明日の一発目はあの女、注意しといたほうがいいわね」

 

「そうね。何をするかわからないもの」

 

「とりあえずあのババアが碌な奴じゃないことはわかった」

 

 

 三者三様に意見を言いながら私とハーマイオニーは女子寮に、ロンは男子寮に向かった。シロウは校長室に向かったためこの場にはいない。

 因みにだけど今年からグリフィンドールの監督生はロンとハーマイオニーの二人になり、クィディッチのチームキャプテンはアンジェリーナさんになった。明日からはウッドに変わるキーパーの補充のためにテストをしなければいけないらしい。彼に匹敵するキーパーがいるかは分からないけど、まぁチームワークが出来る人が入るなら歓迎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校長室にはオレとダンブルドア以外いない。今月の合言葉はつい先ほど変更されたばかりで、アンブリッジも入ってくることは出来ない。

 

 

「……彼女を今年は遠ざけるという話だが」

 

「そうじゃ」

 

「……あんたが何故この手法を取るのか理解はできる。が、このままだと彼女がヴォルデモートに体よく利用されるぞ?」

 

「……」

 

 

 オレは問いかけるが、ダンブルドアは沈黙したまま窓の外を眺めている。彼女を信頼して、そしてダンブルドアが手を出さないことでヴォルデモートの警戒心をさらに煽るということらしいが、逆にヴォルデモートに利用される恐れがある。それに今年はアンブリッジが教師として赴任してきているため、内側から情勢が崩されかねない。アンブリッジはヴォルデモートの派閥ではないが、言わば魔法省の回し者、ファッジはまだしもその他の奴らの総まとめみたいな女だろう。

 

 

「それに、あのアンブリッジは油断ならん。誰彼構わず、自分の気に入らん奴は排除するだろう。自分に都合のいいように法を変えたりしてな」

 

「分かっておる」

 

「ならば何故……いや、よそう。これ以上言ってもあんたは意見を変えまい」

 

 

 ずっと外を眺め続けるダンブルドアに、オレは論ずることを辞めた。今年は去年の様に剣吾はおらず、ヴォルデモートも復活したことにより、マリーの護衛が出来ないときがどうしても出てしまう。となるとマリーの周りはどうしても手薄になってしまい、彼女に被害が及ぶ可能性が高くなる。

 

 

「今日は寮に戻る、それと警告だ。あの女、何か企んでいる。最悪あんたがまた学校から追い出される事態になるぞ」

 

「心得た。彼女の行為には目を光らせておこう」

 

 

 話を終わらせ、オレは校長室を出た。そして寮に向かうために目の前の角を曲がると、目の前にアンブリッジが出てきた。……どうでもいいが彼女は小さいため、オレは彼女を見下ろす形になってしまう。

 

 

「あなたはここで何をしてるのです? 生徒は寮にいるはずでは?」

 

「校長先生に呼び出されていたものでね。抜け出したわけではないから校則違反にはならないだろう?」

 

「呼び出されていたという証拠もないでしょう?」

 

「この先にあるのは校長室だけだが? なんなら直接本人に聞いてみるかね?」

 

 

 暫くオレ達は正面から睨みあい、微動だにしなかった。その間に解析魔術を行って気づいたが、彼女の悪趣味なピンクの服の袖には彼女の杖が隠されている。そしてそのの指が杖に伸ばされた。その指が杖に触れる前に、女の動きは止まった。何故なら俺のアゾット剣の柄頭が、彼女の目と鼻の先に既にあるからだ。自惚れるつもりは毛頭ないが、ちょっとした閃光を飛ばすだけのこの世界の魔法使い()()が、オレに勝とうなど百年早い。

 ああ訂正、魔術師(こちら)は空間転移が出来ないが、それが普通にできるのは魔法使い(そちら)の強みだろう。だがそれだけだ。肉体強化も満足にできずに、英霊の末端とはいえ名を連ねる俺の素の速さに付いてはこれない。

 

 

「なん……!?」

 

「こちらのセリフだ。生徒に理不尽な攻撃をしようものなら、正当防衛もまた認められる然るべきものだろう?」

 

「くッ!! 極東の猿が!!」

 

「今の言葉、教師としてあるまじきものだと思うが? 教員が差別主義の愚か者とはやれやれ、魔法省も相当な人手不足らしい」

 

「言わせておけば……!!」

 

 

 オレの挑発にやすやすとのるアンブリッジ。その顔は憎悪に歪み、自分以外のものが全く見えていない。やれやれ、この手の類の人種は厄介極まりない。いつどこで、何をしでかすのかが全くわからないのだからな。

 オレは奴の鼻先に柄頭を向けたまま口を開いた。

 

 

「よく覚えておけ。何を企んでこの学校に赴任したか知らんが、貴様の思い通りには早々ならんぞ?」

 

「小僧が、図に乗るな」

 

「怖い怖い」

 

 

 剣をしまってそのまま通り過ぎる。しばらく歩いてすぐ、オレは振り返りつつ剣を切り払う。すると一筋の閃光が切り払われて霧散した。その奥では杖を構えたアンブリッジがいた。魔法が切り払われたことに対し、奴は驚愕の色を浮かべている。二年前に学習しなかったのだろうか。それに今の閃光の色からして、致傷力の高い『麻痺呪文』を使ったのだろう。

 

 

「……忠告はしたぞ」

 

 

 静かに言葉を紡ぐ。僅かに身をかがめ、ほんの僅か足に力を入れる。そして奴がもう一度魔法を放つために杖を動かそうとして、もう一度動きを止めた。オレの拳が奴の目の前にあり、アンブリッジはそのまま地面に崩れた。その顔は何が起こったか分かっておらず、拳圧で生じた風でその髪はぼさぼさだった。

 

 

「魔法にばかり頼るからだ、戯けが。閃光を飛ばし合うだけで殺し合いを経験したつもりか? 私からすれば、貴様らのそれは子供のお遊戯にすぎん。二年前に学ばなかったのか? 別にあの魔法無効化の魔具がなくとも、貴様程度ならば奇襲を受けても対処できる」

 

 

 オレの言葉が聞こえたのか、アンブリッジは立ち上がろうとした。が、あらかじめ黒鍵で「影縛り」を施していたため、奴は動くことは出来ない。杖も地面に落ちているため、魔法を放つこともできない。

 

 

「今一度言う。この学校で貴様の思い通りになるとは思わないことだ。外部に依頼しても、貴様とは戦いの年季が違う、手段とその対抗策を用意するのは容易い」

 

 

 最後にほんの少し殺気を込めて一睨みすると、アンブリッジは顔を青くして息を詰まらせた。剣吾やイリヤたちはこの状態でも普通にこちらに来るものだが、得意げにしていた割には軟弱だ。マリーでも腰を抜かさずに堪えるぞ。

 さて、明日の一限目はアンブリッジか。忠告はしたが反省せずに何か企てるのだろう。一応気を付けておくか。

 

 

 

 






はい、ここまでです。さて次回はアンブリッジの授業と、クィディッチの選手選抜の様子を書きたいと思います。
あと三日で帰国、早いものですね。帰ったら大学の新学期に開始にヒイヒイ言いつつ、アクエリオンを復習してTOEICの勉強しないとですね。FGOの剣豪はいつくることやら。

それでは皆様、またいずれかの小説で。



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