錬鉄の魔術使いと魔法使い達   作:シエロティエラ

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こんばんは、約ひと月ぶりのハリポタの更新です。大変長らくお待たせしました。
それでは早速どうぞ。




7. ホッグスヘッド・バーにて

 

 マリーたちの一生涯クィディッチ禁止がまかり通ると、アンブリッジは以前以上に大きな顔をするようになった。奴の機嫌がよくなることに反比例し、学内の空気は日に日に悪くなるばかりだった。更に冬となり雪も積もることで、例年以上にこの学校では冷たさを感じる。この世界では違うとはいえ、子持ちの親としては、子供たちの笑顔がなくなっていくのは心苦しいものである。

 

 

「……計画の第一段階としては」

 

「生徒たちを思うと辛いが、わしが一旦ここから去る以外にあるまい」

 

「アルバス……いや、君が出ていかずともこちらが……」

 

「魔法省が出来ることは少ない。今大臣がすべきなのは出来るだけ少ない犠牲で、アンブリッジを処罰しやすくすることだ」

 

「……そうだな、私が気づくのが遅すぎたばかりに」

 

 

 今オレ達は校長室にいる。この場にいるのはオレとダンブルドア、そしてファッジの三人でアンブリッジの処遇に関して話し合いをしている。今のところダンブルドアが一時的に学校から姿を消し、あえてアンブリッジをのし上がらせたうえで、魔術師(オレたち)の流儀で消すことが最善策として挙げられている。しかしこの方法だと、多かれ少なかれ生徒たちに被害が及ぶことは、想像に難くない。ましてや奴はマリー否定派の統領とも言っていい存在、ダンブルドアがいなくなれば最後の枷が外れ、見境なく行動を起こすだろう。

 

 

「……だが現状これ以外に方法が思いつかないのも事実じゃろう」

 

「そうだが……」

 

「……私も今はこれ以外思いつかん。一度時間を置き、もう一度考え直そう。次はいつがいい?」

 

「一か月後だ、それ以外は私の予定がどう足掻いても崩せない」

 

「分かった。じゃあダンブルドア、ファッジ。またひと月後に」

 

「「ああ(うむ)」」

 

 

 その言葉を最後に、オレは校長室を後にした。ああ、何やら部屋とオレに盗聴魔法のようなものが仕掛けられていたが、まぁ話し合いを始める前に破壊させてもらった。校長室のものに関しては、まぁダンブルドアもファッジも気づいていただろう。オレにかけられていたものは、「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)」で無効化し、念のため聖骸布で魔法無効状態にしているから、追加の魔法も受けることはない。今頃奴は悔し気にハンカチでもかんでいるだろう。

 それにしても妙に静かだ。今日が休日で、生徒たちがホグズミードに行くにしても、それでも外に積もった雪で遊ぶなり比較的暖かい図書館や大広間に人がいても良さそうなのだが……。ああ成程。

 

 

「……作ったそばから風紀の乱れと難癖付けられれば、誰だって楽しくなくなるだろうよ」

 

 

 誰かが作った―恐らく一年生だろう―三体の雪だるまが、アンブリッジによってそこらの雪に戻されていたのだ。その理由が、校風を乱しているかららしい。作った一年生はそんな理由で寮から減点をされている。全く、ここを自分お城と勘違いしているのか、はたまたオレの妨害に腹が立ち、腹いせに理不尽な行いをしているのか。いずれにしても見逃す気は無いため、その騒ぎに近寄る。

 

 

「失礼、少しよろしいか?」

 

「なんです? ……ッ!? あなたは……」

 

「何やら騒がしかったから来てみましたが。たかが雪だるま一つで減点とはいかがなものですか?」

 

「たかが? 学校の風紀を乱しておいて減点するなと?」

 

「ここは牢獄でも何でもないのです。そこまで子供らを縛る権利はないはずですが」

 

「……」

 

 

 オレの言葉に口をつぐむアンブリッジ。一年生たち、どうやらレイブンクロー生の男女三人組の様だ。仲がいいのだろう、その三人は動くこともできず、こちらをはらはらとした表情で見つめている。さて、先程から黙っているアンブリッジに一時的な止めを刺すとしようか。

 

 

「何ならば魔法大臣殿と校長に直談判しますか? 丁度先ほど二人が校長室に行くところを見ましたが」

 

「ッ!? いえ、結構です。そこの三人、罰則と減点は無し、以後気を付けなさい」

 

 

 そう言うとアンブリッジは足早にこの場を去った。その後ろ姿から、奴がいら立っているのが見て取れる。一つため息をつくと、オレは三人に向き直った。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい……あの、あなたはシロウ・エミヤさんですよね?」

 

「そうだが……どうかしたかね?」

 

 

 一応自己紹介を済ませると女子二人は何やらコソコソと話し合い始めた。男子のほうはキラキラとした目でこちらを見る。何というか何やら居心地が悪い。しかも向けられるのが負の感情じゃないだけに、余計に何やらむず痒い感覚に陥る。以前の世界では感謝されることはあっても、オレは戦場に出るのが主な行動だったため、こういう視線にさらされることがあまりなかった。

 

 

「雪で遊ぶのは楽しいだろう。だが今年一年だけ我慢してもらえないか? あの女がいる限り、自由にできるのは各々の寝室だけだ」

 

「「「……はい」」」

 

「すまんな。その代わり、今晩の夕食は楽しみにしておくといい。私と他のスタッフで、とびきり美味しいものを作ろう」

 

「「「はい!!」」」

 

「いい返事だ。さぁ、体が冷える前に談話室に行くといい」

 

「はい!! シロウさん、ありがとうございました!!」

 

 

 三人は元気よく返事をすると、レイブンクローの学生寮に向かって走っていった。やれやれ、元気のいいことだ。さてあの子らにああ言った手前、夕食は腕を振るわんといかんな。

 ……アレはあっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は休日ということで、私たちはホグズミード村にいた。でもいつものように「三本の箒」にいるわけではなく、今回は「ホッグズヘッド・バー」という大人向けのパブにいた。なんでもハーマイオニーが何やらしたいらしく、この店で一番大きい個室を借り、何人かの生徒を寮に関係なく集めていた。

 そしてある程度集まったとき、ハーマイオニーが今回の集まりの主旨を述べ始めた。

 なんでも今のままじゃ、自分たちはアンブリッジの思うままにしか動けず、魔法学校にいるのにろくに魔法も学べなくなる。理論も大事だけど、ヴォルデモートの復活が疑われている今、この先それだけで生きていけるわけではない。それならば、自分たちで魔法を学ぶ集まりを作ろうではないかという話である。ただそんな集団を作ろうとすれば、アンブリッジによって抑圧されることは免れない。というわけで、秘密組織のような集団として活動しようと言うものである。

 

 

「でもバレたらどうするの?」

 

「勿論罰せられるでしょうね。私たちはあの人達の思惑に逆らっているのだから、最悪退学もあり得るでしょう」

 

「なら……」

 

「だからそれが嫌な人は辞退して大丈夫よ。それはあなた達自身が考えて決めたこと、私たちがとやかく言う権利はない」

 

「でもそんなリスクを背負ってでも現状をどうにかしたいと思うなら、この活動を一緒にしましょう」

 

 

 ハーマイオニーのその言葉に、辞退する人と参加する人の二手に分かれ、辞退する人はそのまま帰途についた。参加する人は名簿に名前を記入し、今後の方針に関する話し合いに参加することになった。

 それにしてもこの状況、アンブリッジにバレたら本当にひとたまりもないことになるだろう。恐らく私のような書き取りは確実になるし、そのためにまた変な法律を制定するかもしれない。そんな危険を冒すくらいなら、関わらずに今を受け入れるのもまた一手だろう。でも私としては、今の停滞した状態を抜け出したい。今回ハーマイオニーが考案したものは、その一歩だと思う。シロウは反対するかもしれないけど、私はこの集団に参加することにした。

 

 

「……で、この集団の名前だけどどうする? 流石にダイレクトな名前は駄目だろうし」

 

「それに通信手段もどうにかしないといけない」

 

「場所もどうしようか」

 

 

 みんなで頭をひねらせ、色々と考えを巡らせる。しばらく飲み物を飲みながら考えていると、一人の女生徒、スーザン・ボーンズさんが手を挙げた。

 

 

「確か前の『あの人』の恐怖時代、ダンブルドア先生がなんかレジスタンスみたいなのを率いてたよね」

 

「うん、『不死鳥の騎士団(オーダー・オブ・フェニックス)』ってのを率いてたね。ただ僕も名前しか知らないけど」

 

「だからそれに因んだ名前はどう? 不死鳥だから『不死鳥の尾羽(フェニックス・テイル)』とか。略称で『PT』にすればわからないし」

 

「成程、みんなはどう思う?」

 

 

 どうやらスーザンの意見にみんなは賛成なようで、この集団の名前はそれに決まった。あとは通信手段だけど、それに関してはハーマイオニーがすでに考えているらしい。ガリオン金貨に似たメダルを介し、メンバーのみと連絡が出来る仕様らしい。ぱっと見はガリオン金貨によく似ているため、持っていても怪しまれることはないだろう。

 さて残る問題は活動場所だけど。

 

 

「流石に空き教室はばれるよね」

 

「叫びの屋敷じゃあそんな人数は入らないし」

 

 

 最後の難関、場所についてまたもやみんなで首をひねらせることになった。何度か飲み物を御代わりしながら悩むこと数十分、ネビルが何か閃いたかのように顔を上げ、口を開いた。

 なんでも『必要の部屋』という名前の部屋があるらしく、ある一定条件を満たせば何もない壁に扉が出来、中に使用者が必要としているモノが揃えられた部屋に変化するらしい。フレッドとジョージも使ったことがあるみたいなので、その部屋があることは確実だろう。後日、その部屋が使えるかどうかを確認し、使えそうだったらそこを使うことが決まって解散となった。

 

 

 学校に戻ったころには空も暗くなり、夕食の時間もすぐに来た。今日はシロウがキッチンの料理長だったらしく、机の上には今まで見たこともない料理が並んでいた。私たちは魚は食べるものの、ムニエルやフライなど、結構手間がかかっているもの以外食べることはない。スターゲイジーパイは例外として。

 でも今目の前に並んでいるのは純粋に塩焼きされたものや煮込みハンバーグ、よくわからない黒く細いものと人参などが合わさったサラダなど、いつもより手間がかかっていないように見えてとても美味しそうなものばかりだ。

 

 中でも一番目を引いたのが、真っ赤なスープの様なソースのようなものだった。白い四角いものが確認でき、ひき肉やトウガラシなどが使われているのが匂いでわかる。見ただけで辛い物というのがわかるけど、食べてみたいという欲求も湧いてくる。隣に置いてある白米を今日特別にある茶碗によそい、赤い食べ物を小さい深底の皿に入れて一緒に食べる。

 食べた瞬間、喉が焼ける様な辛さと熱さが体を駆け巡る。体中の汗腺が活発に動き、全身から汗がとめどなく流れ出る。体が水分を求め、カボチャジュースではなく、水を何度も注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返しながらスプーンを進める。今まで食べたことがない料理、でも辛さの中のおいしさがわかり、私は無言でスプーンを進めた。そして自分の皿をすべて食べ終えたさい、全身の汗が蒸気のように登っているのが分かった。

 一息ついて周りを見渡すと、全ての寮のいたるところから蒸気が上がっているのが確認できた。そしてそれを見た周りの人も、一口食べるという連鎖を呼び、他の料理も合わせて初めて御代わり分の料理も含めて、完食されるという事態になった。これには料理長だったシロウも驚いたらしく、

 

 

「何でみんなそんなにアレを食べれるのだ? いや、()()に比べて出来るだけ辛さを抑えてはいるが、それでも西洋人にはきついはずなのに」

 

 

 とか呟いていた。後から聞くと、今晩の料理は一から十までシロウの主導でメニューが決められており、例の辛い料理は麻婆豆腐というメニューだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全な余談だけど、教師には全員に一人分の料理が並べられ、アンブリッジのは格別の辛さだったらしい。隣に座っていたスネイプ先生とダンブルドア先生曰く、アンブリッジの麻婆豆腐は仮令皿に盛られたとしても、絶対食べたくなかったとか。

 

 

 ヨウ、オレ外道マーボー。コンゴトモヨロシク

 

 

 とでも語りかけてきそうな、煮えたぎるマグマのようなものだったらしい。しかしシロウが来てからは、出来るだけ食べ物は残さないという暗黙の了解がホグワーツには出来上がっており、加えてその日の夕食にはファッジ大臣もいたこともあり、自分だけ流石に我儘を言えなかったアンブリッジは、麻婆豆腐を完食したらしい。それが原因か知らないけど、それから二日間アンブリッジは自室から出てくることなく、アンブリッジの授業はスネイプ先生が臨時を務め、非常に充実した授業だった。

 

 

 

 





はい、ここまでです。
いやーついに出てきてしまいました、地獄の窯で作られたと思われても仕方のないアレが。私自身麻婆豆腐は激辛が好きですが、泰山のは食べたいとは思いませんね。

さてようやく更新もできるようになりました。このまま一気に五巻完結まで持っていこうかと思います。剣吾が主人公の外伝はあと数話で簡潔にしますが、ハリポタが完結したら終わらせようと計画しております。

それでは皆々様、またいずれかの小説で。


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