宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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第1巻 馬鹿騒ぎの夜明け前
序章


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 サスペンダー星系第五惑星ムラサイ。

 そこに、もはや文明の影はなく固有の知的生命体は滅びの運命を受け入れ、かの星に残るはチロト王家最後の一人となった王女ただ一人。

 星の灯が消えるのを刻一刻と待っていた。

 

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 光届かぬ暗黒の宇宙を一隻の(ふね)が進んでいる。雄々しく突き立つ二本の角と突き出す一本の槍、三対の切っ先を船頭としたその艦の名はデスシャドウ。

 黒の旗に白い髑髏(どくろ)を染め抜いた戦旗(バトルフラッグ)を掲げ、今日も今日とて星の海を往く。

 道行く先を阻むものあらば粉砕し、無茶無理無謀と嗤われてなお、(おの)が心の(おもむく)くままに突き進む。三角龍(トリケラトプス)が如き武骨な面相、艦の後方には流麗豪奢(りゅうれいごうしゃ)船尾楼(キャビン)

 その様はまるで大航海時代(かつて)の帆船のようでもあり、されど宇宙(ソラ)()宇宙戦艦(ふね)に相応しい頑強さを見る者に感じさせる雰囲気を漂わせた舟だった。

 そんな優美な(ソラ)行く舟の船尾楼は外観のイメージを裏切ることのない大時代的な木製の書架や机、天球儀や額装された油彩画が内装を仕立てている。

 しかし何より目を引くのは絢爛豪華なシャンデリアだろう。懐古趣味を丸ごと封じ込めたような、さながら子供の玩具箱のような部屋だ。

 そんな古色蒼然とした(クラシカルな)(おもむ)きの中、張り出しの窓の際に据えられた背の高い椅子に腰かける人の姿があった。肩よりも少し伸ばした美しい蒼髪をたらした美丈夫である。手の中で香り豊かな葡萄酒(ワイン)を満たしたグラスを揺らめかせ、その(こう)鼻腔(びこう)で楽しんでいる。グラスの淵に口づけてその濃厚な味わいを舌先で愛おしみ、充足した一時を過ごしているようだった。

 しかし、そんな至福の一時も長くは続かなかった。

 頭の中に直接呼びかけてくるような、痛切な(コエ)が聞こえてきたのである。

「…だ……か………たす…て」

 目を(つむ)り、鼻と舌で幸福を味わっていた椅子に腰掛ける彼――ミーメは即座に決断した。

 迷う事もなく長く蒼く美しい髪を(ひるがえ)し、部屋を後にした。船室(キャビン)の扉を開くと、待ってましたと言わんばかり、彼より小柄な人影があって口をにんまりと開けて問う。

「冒険かい?」

 彼女の手にはミーメがふだん(まと)っていて、今日は洗濯中だった愛用のマントがあった。――艦内の廊下を輪切りにするかのように翻っていた洗濯物は最早影もなく、今は物干用の吊り縄だけがその名残を見せている――彼女は 手早くそれを相棒の肩に引っ掛けて笑う。

 実に愉しそうだ。

 事実、彼女の胸は弾んでいた。

 心は躍っていた。

 瞳は輝いていた。

 ミーメには(かす)かでか細く(はかな)い誰かの痛切な救いを求める声を途切れ途切れにしか聞こえなかった。否、このデスシャドウのクルーをして大半がそうであった。

 しかし彼女――ミーちゃんにはその声の全てが聞こえていた。

『誰か、助けて下さい。このままでは、このままではこの海が殺されてしまう。彼らが来たのです!』と。

 かつて経験した星破壊の一撃(ステラバスター)発動阻止作戦以来の大冒険の匂いが色濃く感じられて、ミーちゃんはもうそれだけで楽しくて楽しくて仕方がないのだった。

「楽しそうだなぁ、ミーちゃん」

「そりゃあそうでしょ!だって冒険なんだよ!」

 ドヤ顔をしながら答えたミーちゃんは、しかしドヤ顔のまま足元に転がっていたバナナの皮に足を取られてすっ転んだ。

 まるでスラップスティック・コメディのような完璧な転倒だった。

「いったー! 誰なんだよっ!?こんな所にバナナの皮捨てたのは~!」

 ムキィーと叫び、しかしその声に怒りの色はない。ただ楽しく、とても愉快そうに。だから足は足早に、弾むように二人は艦橋(ブリッジ)へ急いだ。

 

2/

 目の前の男の手が震えた。

 きっと私の手も少し震えたと思う。

 頭に直接なだれ込んできた聲の詳細は雑音(ノイズ)まみれでよくわからない。

 けれど、これだけは分かる。

 分かってしまう。

 目の前の男は手にしていたルークを碁盤 中央、天元に叩いて立ち上がった。

「楽しくなりそうだな!」

 私は角をビショップの前に打ち放って立ち上がった。

「ああ、楽しくなりそうだ!」

 こんな会話が、デスシャドウ中で起きた。

 そして―――――

 

3/

 二人がブリッジへ到着するとメインクルーのほとんどはぞろりと揃って笑っていた。

「キャプテン、声はテレザード星近傍! 意外と近いわね」

 超空間解析席に座る美女が歯を光らせて笑い、

「そうか」

「機関部はいつでも超光速跳躍(ジャンプ)いけますよ!」

 機関室へと繋がる艦橋操作席に座る優男が顔面に似合わないセリフを飛ばし、

「バナナの皮でも踏んだのか?」

 青い肌に金の髪を短く刈った武骨な男が笑いかけた。

「なんか言ったのかな?」

 威嚇(いかく)の笑顔でミーちゃんが答えた。

「デスシャドウ号、発進!」

 そしてミーメが締めるように宣言した。

 宇宙海賊戦艦デスシャドウが、生温い休暇を終えて咆哮する。

 眼前(さえぎ)るをことごとく蹴散らして進まんとするその鋼鉄の意思を示す三対の切っ先が星の海の波を掻き分けて、やがて眩い光を撒き散らして消えた。

 それは超光速跳躍の光。

 一条の青い軌跡を放ちつつ、紫の燐光を纏って船は行く。

 行く先は知れずとも、漕いだ先にある冒険を求めて。

 

 今彼らは新たな旅にその一歩を踏み出したのだ。

 




気が付けば最初の投稿から9年もの月日が流れ、最後の投稿から約6年半もの月日が流れておりました。

止まっていた期間も物語を終わらせることを考えてがおりました。
取り急ぎ、第一章までのリライト部分を含む執筆が終わりましたので、改稿も含めて投稿いたします。

改めて、宜しくお願いします。

2024年10月25日
改稿版投稿開始によせて
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