宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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第一章 第一回

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 無限に広がる大宇宙。

 果てしなく広がる星の大海。

 そこは数多(あまた)の死で満ちている。

 生に厳しく死に優しく、およそ尋常の生命体が生きるには不向きな場所。

 どのような場所であれ、そこに在る理由、そこに行く理由、そこを行く理由は身の内にある。

 (こいねが)うなにか、探し求めるなにか。

 知性ありと自称する生命体に共通する万古不変の流行り病。

 その名を好奇心と云う。

 秒針が振れる(いとま)すらない刹那の間、羅針盤の指し示す闇の向こうに恋い焦がれ、私たちは旅に出る。

 憧れは止まらない。

 心の震えが体の震えを超えた時、静寂と光に満ちたその場所に漕ぎ出してしまうのだ。

母なる大地()(かいな)の外で、旅人は何かと出逢う。それを知るがゆえに、比肩するもののない未知なる海へ飛び出すのだ。

 

 無限に広がる大宇宙。

 生まれ来る星もあれば死に逝く星もある。

 生命の姿は偉大なる星々しかなく、しかし、だからこそ、その息吹に魅入られる。

 そうだ、宇宙は生きているのだ。

 

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 無限に広がる大宇宙。

 静寂と光に満ちた世界。

 煮え(たぎ)る夢に駆られて漕ぎ出す星の海。

 しかし、今の彼女にとってそれらすべては思慮(しりょ)の埒外だった。

 生まれ来る星?

 おめでとさん。

 死に逝く星?

 おつかれさん。

 今の彼女にとって、無限に広がる大宇宙なんてなんの価値もなかった。

 否、そんな物に意識を割く余裕が全くなかったのである。彼女にとっての大問題、それは 背後から刻一刻と迫り来る―――

  ◆

 天の川銀河の辺境に位置するサスペンダー星系には属する星の数が極めて少ない。そもそもからして主星たるサスペンダー自体が非常に小さい恒星である。

 それにも関わらず、かの星系を構成する星々に生命の系統樹が成った事は誰の目から見ても奇蹟そのものだった。

 多くの天文学者はそのように口を揃え、そしてサスペンダー星系の各惑星に根ざした知性ある住人達自身がそう断言して(はばか)らない。

 そんな元来が生命の種を支えきるのに難のある環境である。そのバランスはいつ崩れたとしてもまるで不思議ではなく、故にそれは起こるべくして起こったのだろう。

 地殻のズレ、急激な環境の変化、天候不順、全てが重なって自然の脅威は爆発した。

 ――人類の文明の栄えも今は昔の物語。

 もはや語る者もないそれは、物語ですらないのかもしれな……

「勝手に殺すな―――――――!!」

 おや、勝手に地の文を読むとは!

 小説の登場人物にあるまじき所業だね。

 

閑話休題(まぁ、それはそれとして――)

 

 ここは惑星セイレーン。

 サスペンダー星系第三惑星。

 通称、魅惑の唄のセイレーン。

 発見順ゆえに割り振りが前後するものの、第五惑星ムラサイの姉妹星である。

 姉妹星といってもそれは一〇〇〇年に一度だけ、二つの星は一時期的な双子星と化すのである。その特性故、それが明るみに出るのに時間がかかり、結果惑星番号の振り分けは姉妹星であるにもかかわらず分かたれる事となったのである。

 そして現在。遠く引き離された姉妹は久方ぶりの邂逅(かいこう)を楽しむ―――はずだった。

 だがしかし、摩訶不思議な奇跡と旅路を歩んできた二つの星に栄えた知的生命体は奇遇な事に時を同じくして絶滅の危機にあった。

  ◆    ◆

 セイレーンの第一大陸ヴェイフォウは既に半分が海の底に沈んだ。小さな諸島・列島は早期にその姿を消し、海の生態系は進化と繁栄への糸口を掴もうとしていた。

 そしてそんな厳しい状況の中、少女が未だ海に飲まれていないヴェイフォウの残骸の中を走っていた。

 後年、高名な冒険家として名を馳せる彼女――ウォーリアス・(みお)は、しかしこの時本当に命の危険を感じていたのだった。主に背後からゴロゴロと迫ってくる巨大な球形大岩石のせいで。

 なぜ彼女がそんな危機的(インディー・ジョーンズな)状況に陥ったのか?

それを説明するには時間を少々遡る必要がある。

 それは、彼女の相棒が「あら、随分と素敵なヴァカンスになりそうではありませんこと!」と喝采を叫んだあたりまで遡る必要がある。

 ――相棒レ・シルヴィアーナ・ヴァリエールは、その性格を一言で表した〝野次馬ド根性〟(トラブルチェイサー)という異名が端的で的確だ。

 澪が冒険家として名を馳せた一方で彼女の名は馳せなかった。

 当然だ。

 東に天変地異の兆し有れば見物に行く。

 西に妙な噂アリと耳にすれば嗅ぎまわる。

 南で変事起これば駆けつけて引っ掻き回す。

 北で大事あらば首を突っ込む。

 彼女のそんな強すぎる癖が炸裂した結果、 冒険家としての名前よりも異名の方が馳せてしまった

  ◆    ◆    ◆

のさ。困ったもんだろ?

 ところで今一番困っているのは当たり前だけど僕の後ろでゴッロンゴッロンと楽しげにリズミカルに弾んでる大岩石(かわいこちゃん)なのは取り敢えず当たり前として、今この状態に至った経緯を簡単に教えてあげよう。

 シルヴィー(相棒)のせいだ。

 あれは4日くらい前のこと。

 機械義肢(オートメイル)の聖地、ラーメタルの二つの衛星のうちの一つ、エスメラルダ。その主都であるテルリンクから離れた辺りにスラム一歩手前のような町がある。

その町の名をサンハーラという。

 そして、さしもの荒くれ者どもの巣窟といえど、住宅街ともなればさすがに揉め事の数は激減する。掃き溜めにも鶴と云うか、寝床でドンパチする趣味の持ち主がこの街には少なかっただけとも言える。

 そんなサンハーラの住宅街の端に京極堂という銘板が掲げられた襤褸(ぼろ)いビルヂングがある。それが僕らの棲処(すみか)なんだけど、そのビルヂングの1階に銘板に負けず劣らずの古惚けた看板がある。無垢(むく)の板にペンキでテキトーに一筆書きされたそれには『萬事請負〼(よろずごとうけおいます)地獄堂』とある。

(……誰の趣味で始めたのかわからないけれど、良い趣味しているよ。いや、ホントに)

 さて、そんなわけでそんな折にそんな僕らの所長(ボス)が余計なニュースを持ってきてしまったんだなこれが。

 サスペンダー星系における太陽の超新星化、一〇〇〇年ぶりの姉妹惑星の邂逅。

 そして、早すぎる超新星化の謎だ。

 この時点でトリプルリーチ。

「そりゃあ、シルヴィーが燃えないわけないんだよねぇ、本当。困った話だ」

 その様なわけで燃えて爆発したシルヴィーに所長――ヘルマザリアが面白そうに『じゃあ回収し損ねた文化財保護の依頼が来てたりしたら。シルヴィア、君は行くか?』などと吹いたものだからさあ大変。

 結局巻き込まれるのは僕なんだから勘弁してほしいよ。

 姐さん、絶対楽しんでるよね。

  ◆    ◆    ◆    ◆

 …さて、どうかな?

 分かってもらえたかな?

 そんなワケで現在絶賛危機的(インディー・ジョーンズな)状況なわけだけど、人間ってやつは欲をかくと(ろく)なことがないから君たちも気を付けるんだよ?

 …ところで、僕の相棒はどこで何をやっているのかな?

 僕、今とっても助けが欲しいんだけど。

 

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 星の海に燦然(さんぜん)と輝く命の炎。

 その源泉たる無数の銀河。

 それら銀河と銀河の間に横たわる凪いだ海を俗に銀河間空間と云う。

 天ノ川銀河の外縁部を越えた先に広がる凪いだ(くら)い海にもまた、恒星の姿はない。

 そんな無明の銀河間空間に、ポツリと一つ、光る星がある。

 その星の名を〝幻惑のテレザード〟という。

  ◆

 星の名前の由来は大別すれば発見者の意図に依るというのがその大半を占める。

が、この星に関して言えば諸説あるといえばあるが、大勢としてはかつて起きた大規模な星間戦争の際、この星に囚われた女性に由来すると言われている。

 人型に限らず知的生命体同士の諍いの歴史を紐解けば、それは星の数ほどに存在する星間戦争の歴史に直結する。それはまるで(めく)っても捲っても終わりの見えない極厚の書物のようなもので、テレザードにまつわる物語もまた、例に漏れずその様な戦記物の物語に仕分けされる。

 それは今から幾星霜もの月日を遡った日々のこと。

都市型移動要塞(パラドックス級超巨大戦艦)を唯一の領土として立国した一つの国の物語。―――武闘国家イルミダスから離反した一派の野望にまつわる物語だ。

 その一派の名を、ガトランティスという。 

 ガトランティスは人知の果てに作り出されたと言われる超常兵器ゴレムを用い宇宙は全て自らのものと豪語し暴れまわった。

 (くだん)の星間戦争においては天ノ川銀河太陽系第三惑星地球。そしてかつて地球と戦争状態にあった星間国家ガミラスの連合。そしてガトランティスを追撃するべくやてきたイルミダスの四つの勢力が入り乱れた大戦争と成り果てた。

 テレザードという星の名前は、ゴレムの崩壊と神造兵器〝ノア〟の覚醒、そしてアケーリアスの遺産が覚醒せんと瞼を震わせた際、その終息に大きく貢献した女性にちなんでその名がつけられたと言われている。

 しかし、伝承は伝承だ。

 真実、その当時に語られた静謐の星そのものであるのか否か、諸説はあるが真実は(よう)として知れない。

  ◆    ◆

 さて、斯様(かよう)な来歴を持つテレザード星だが前述したようにテレザードには『幻惑』という 二つ名が()されている。これには今日(こんにち)おいてテレサシードと呼ばれているテレザード原産の希少鉱石が強く影響している。

 テレサシードには大きく分けて二つの効果が確認されており、一つは『相反する性質同士の結節点となる』という効果であり、もう一つは『還帯能力の拡張効果』である。

 そして、これは効果とまでは言い難いがテレサシードは薄くではあるが自力発光する。

 それゆえ、テレザード星の外観は緑青色(フォレストグリーン)の輝きを薄く発し、果ては惑星外部を周回する円環すらもが幽かに|明青緑色《ターコイズブルー)の輝きを放っている。テレサシードにまつわる特殊効能を除いたとしても、琳琅(りんろう)と呼ばしめるほどの美しさを持ったテレサシードは、単純に貴石として非常に高い価値が付けられる所以(ゆえん)である。

 通常、恒星ではない天体が自ら光を発することはなく、(いわん)や周回する環を()いてをや。

 その事情も相まってこの惑星(ほし)は数少ない銀河帝国における直轄領に区分されている。

 今もってテレサシードが枯渇していないのはこのためである。

 

 では、テレサシードに確認されている二つの効果についてだが、まず『相反する性質同士の結節点』について詳述すると、テレザード星においては惑星内部に点在する反物質で構成された内海(うちうみ)と惑星そのものを構成する物質としての性質とが両立した状態として観測できる。少なくとも物質と反物質が対消滅を起こすことなく併存している事例は今()ってなおテレザード星をおいて他に確認されていない。

 これを端緒として両立し得ない性質を一つ所で繋ぎ止め成立させているのがテレサシードであることが判明した。超々希少鉱石と呼ばれる要因でもある。

 

 そしてテレサシードに関して判明しているもう一つの効果『還帯能力の拡大効果』であるが、こちらはあまり一般的には知られていない。

 理由は単純で、この効果が効果として発露されるための条件が極めて限定的であり、なおかつ類例が非常に少ないからである。

 そもそも還帯能力とは何かという点から述べる必要があるだろう。それは星の海を渡る(あまね)く生命帯が持つ【時の環を往還する力】のことである。

 時の環とは過去と未来が結節した輪環のことであり、時間という縮尺(スケール)で観測した場合の世界の在り様である。世界とは、全く異なる法則や暦の重ねによって成り立った輪環が数え切れないほどの層として重なったミルフィーユのようなものであり、これが縦方向への層となる。

 更に、「その日右手で靴を履いたか左手で靴を履いたか」程度の違いしかない様なほとんど同じと言って過言ではない若干の差だけがある輪環が横軸方向に対して連続する。これによって時間という名の世界は球体に近い形をしていると言われており、前述したように縦方向への環と横方向への環で作られた球体が幾層にも重なった積層球体として考えられている。

 また、第一から第七までを数える生命帯にはそれぞれ固有の聴貫覚(ちょうかんかく)があり、これらの層を横断するか縦断するか、あるいは往還する力を持つ者がある。

すなわち、「静聴(リディア)」「幽照(シュタイナー)」「旅人(ミライザー)」「鏡鳴(ダイバー)」「譚淵(クイーン)」「幻燈(トト)」「深渦(ダナサイター)」と呼ばれる七色の特異能力(カテゴリ)である。

 そして、少なくともこの星では多かれ少なかれ素質の差はあれど例外なくその能力が肥大・拡張される事が証明されている。近年の研究によりそれがテレサシードによるという事と、 テレザード星においてその効能が最大に発揮されるという事だけは分かっていた。

 また、強力な能力者であれば星に近づいただけでその庇護を受けられるとPSI(テレパス)の存在は一例を除いては確認されていないように。

 そのため当然ながら検証も出来ていなければ再現性の確認も不可能であり、科学的検知から見た場合その信憑性は限りなく低いと判断されるだろう。

 もっとも、検証のしようがなくとも、反証のしようがなくとも、再現性の確認が出来ずとも、ほとんど何も判っていなくとも分かっている事が一つある。

 

 それは、この広い宇宙には分からないことで一杯だということである。

 

 

それでも、星の命名元であるテレサという前例が目指すべき星を導いている。

夢と浪漫こそが未知の地平を切り拓くのだと、星の海を行く全ての知的生命体が理解しているのだから。テレサシードは、そんな未知を切り拓く一助になると期待を寄せられている。

それ故に、この星には幻惑の二つ名が与えられているのだ。

  ◆    ◆    ◆

 最後に、前述した七つの生命帯について以下に記す。

 

 源詩司る始まり 第一生命帯フォトン

 繋ぐ海の語り部 第二生命帯エルターン

 広がりの淵行く 第三生命帯オクターヴ

 行きて帰る続き 第四生命帯グリ

 〝神の一手〟  第五生命帯クラウンクラウン

 豊穣と退廃の昊 第六生命帯コウヅキ

 去り際の変奏極 第七生命帯ライン

 

 そして、前述した七色の特異能力は七つの位階に分けられる。

 

 第一位 超能力(レベル7)

 第二位 深能力(レベル6)

 第三位 大能力(レベル5)

 第四位 強能力(レベル4)

 第五位 異能力(レベル3)

 第六位 低能力(レベル2)

 第七位 無能力(レベル1)

 

 この内【超能力者(第一位)】が全能をこの星で振りかざし、極点を越えた時、特別にこのように呼称される。

 〝万華鏡能力(カレイドスコープ)〟と。

 

  ◆

 

 そんなテレザード星の表面、北半球より少し上、荒れ果てた荒野に白銀(しろかね)の輝きを放つ物体が垂直に突き刺さっていた。

 それは巨大なツインノズルを持った外宇宙航行用の個人用星間航行船のようであるが、表面についた傷の多さや不必要な凹凸が見られる点などから既製品ではなく私製品である事が伺える。

 星の表面に突き刺さったその様はまるで犬神家の一族(どこかの探偵小説の一場面)であるが、巨大質量の塊である宇宙船が果たして地面に突き刺さる事ができるだろうか。

 速度が出ていれば星と船が。速度が出ていなければ船だけがプチっといったことだろう。

 だがしかし、その船は壊れる事もなく、また星をそれほど傷つける事もなく、荒野に直立していた。

 普通であれば大惨事であるのだが、ところがどっこいギッチョンチョン。そうは問屋が卸さなかった。

 ◆     ◆

 脳髄(のうずい)に直接響いた(コエ)を辿って超光速跳躍を繰り返して辿り着いたものの、彼女が自船に施した非常識(ピーキー)改造(チューンナップ)は改造した本人の想像の上を行っており、有体(ありてい)に言って通常空間へ現出(ワープアウト)した位置は目標座標を行き過ぎていた。

 と言うか、現出点で止まれずに勢い余ってテレザード星に突撃したのである。

 これが残念な着星姿勢の原因であり、聲が聴こえてからものの十数分という即行が可能だった要因でもあった。

 しかし幾ら何でもやりすぎである。

 大事な事なので二度言おう。スピードにのり(やり)すぎである。星に突き立つ様はまるで大昔の伝奇小説だが、これをやっちまった本人にそんな豊かなパロディー精神の持ち合わせはあるまい。

 そもそも「あちゃー、これはヤバイど! どどどどど! どっと、それよりもだよ!」などと言いながら逆さまに突き立った自船の中で「お腹が減ったね!これじゃ戦はできないね!」とこぼして船の状態をそのままに固形携行食(ハードスティック)(さかな)に味噌スープを口に運ぶ(キメる)始末なのだから、シリアスとは無縁の人なのだろう。

 そうして幾ばくかの時間で豊かとは言えない質素な食事を全力で楽しんだあと、彼女は

「さあ、やるど!!」

 と声を上げて頬を二度叩いてから頭に引っ掛けていたゴーグル型電子演算機(コンソールビュー)を目元に下ろした。

 左右に展開する情報に目をやりつつ、右手で机の端を叩いて周囲に電子スクリーンを展開する。

 眼鏡のレンズ面に表示された管制制御系と電装系の現況(バイタル)チェックをしつつ、電子スクリーンで船外状況をざっと目を通し、最後に操縦盤(パイロットコンソール)に敷設された計器類(メーター)に目をやった。

 唇を(すぼ)めてお世辞にもうまいとは言えない哀歌(エレジー)を吹きながら、眼と手は絶え間なく動き回り、始めてものの二分でそれを終わらせた。

 そして窄めた左手に握った右の拳を叩き付けて一人合点した。

「うん、つまりここはテレザードだねっ」

 女性にしては低く(かす)れた、聞く人によっては男性のそれと勘違いされそうなハスキーボイス。舌ったらずな、童子(どうじ)染みた口調でそう言う瞳はキラキラと輝いた。

 瞳の中の(カガヤキ)は静かに弾け、

「…じゃあ、少し彼女を真似てみようかな」

 口を弧の字に歪めて彼女は嬉し気に呟いて(まぶた)を落し、そして次に瞼を開くとその瞳には紫色の燐光(りんこう)があり、ぼんやりと揺れていた。

 両腕(りょうわん)は翼のように広げて挙げる。その様はまるで一音を(かな)でんがためにピアノに指先を叩きつける前の演奏家のよう。

 すぅっと、静かに深く息を吸い、そして空気を打った。

 指先を打ち付けられた空間には同心円状に紫を基色とした七色の波紋が広がる。

 反応は薄く、波紋の端がゆらゆらと水面に写る月の如く(はかな)げに消え、やがて彼女の瞳の燐光もなりをひそめてその幻想的な光景は幕を下ろした。

「ちぇっ、見つからないのでやんの」

 不貞腐れたように唇をとがらせてシートを後ろに倒して目を瞑った。

 自身の近くの範囲に何者も感ずる事ができずに機嫌を崩したようだった。

 しかしこの時奇跡(不思議なこと)が起こった。

「来てくれたのですね。」

 彼女の耳元で、先ほどの聲と同じ声が聞こえたのである。

「うん、興味が湧いたからね。そうだ、僕の名前は―――」

 振り向きながら、なお朗らかに彼女は名乗った。あくまで楽しげに、心から嬉しげに。

まるで、祭りの始まりの鐘を聞いた子供のように。

 ◆     ◆     ◆

「悪魔を討ち払って下さいますか?」

「まずは、君の名前を教えてほしいな。あの声は君だろう?」

 振り向いた先にいる、亜麻色の髪の乙女を前にして、常と変わらぬ笑みを浮かべて彼女は問う。

「そうでしたね。私の名前は―――」

 これが、ある事件における最初の分岐点。かの大英傑ミーメより先に声の主と出会った彼女の夢と希望で満ち溢れた稚気と、悪戯心に満ちた行動力がこの先の物語をより加速させていったのである。

 

 




大分加筆しましたら、前回まで入っていたところまで全然届かない感じになりました。
字数的には約8,000字ほど。
基本的に改稿版は5,000字程度にしようと考えているのですが、上振れするぶんにはいいかな、と。

ともあれそんな感じで。

2016年1月31日 加筆しました。
2016年2月3日  加筆しました。
2016年2月15日 節構成を編集しました。
2018年2月2日  加筆修正しました。
2024年10月25日 改稿いたしました。

…笹本先生の「ARIEL」のパロディである「●S~」を変えざるを得なかったのは本当に悔しいので、どこかでもう一度挑戦したいものです。
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