宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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第一章 第二回

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 ラストリア星系連合。

 古くは銀河帝国と覇を競い、宇宙大学の深淵に手を伸ばさんとする知恵者を輩出した十三の星で形成された連合国家である。否、あった(・・・)

 だが、それも今は昔の物語。

 現在、かつてラストリア星系連合の盟主星オリバンダーのあった場所には何もない。すなわち、宇宙史において星砕きの一撃(ステラバスター)が使用された唯一無二の大戦争の爪痕である。

「こりゃあ、想像してたのよりちみっとばっかり酷いやな」

 海賊航路の北端を更に奥深くへ進んだ先、かつてのラトリア遺跡を往く舟の主がこぼした。

 広大な星の海は今や大海賊時代と揶揄(やゆ)されるような時代を経て、おおよそ人の生きる領域を確保し終わり凪いだ時代を迎えている。

 ゴロツキやバカモノは後を絶たないから宇宙保安局なる治安組織や宇宙を席巻する銀河帝国はそれぞれに特化した宇宙艦隊をいくつも抱えてはいるが、しかし治安出動のそれよりは調査活動のそれに比重があることからも分かるように人の脅威よりも自然の脅威に対処する時代である。

 だから、よく言われるのだ。

『海賊なんてものは時代遅れの凡骨さ。今の時代、流行らねぇよ』と。

 だがしかし、骨になっても戦うだなんて大それた(こころざ)しまではないにしろ、規則の外側で『生きるも死ぬも己次第』という状況をこそ望み、そう生きる人間は絶えなかった。

 

 黒い旗に白い髑髏(どくろ)を染めぬいた覚悟の印を(ひるがえ)す人種はまだいるのだ。

 デスシャドウしかり、そしてこの舟――大納言級宇宙海賊戦艦大紅蓮號(GR7))また、そういった種類の人間(アウトロー)たちの集まりの一つだった。

 ラストリア遺跡――かつて星砕きの一撃が放たれたそこは星が原始に還り、薄く伸びるガス状にまで減退し、星の墓場と化している。十三の星々で構成されたかつての壮観は既に失せ果(おお)せ、盟主星オリバンダーはもとより中核を成した星々はガス状になるか、文字通り粉々に砕け漂うばかりの有様である。(コア)が露出するに至るほどの衝撃を得た星の余波は特に凄まじく、超高温のそれが急激に冷やされ割断(かつだん)されると同時に弾けたのだろう、球形を保った星ですら大規模なクレーターだらけである。 ――おおよそ、当時そこに人がいたとしても大半は生き残れなかったであろうことは疑う余地もない。

 元より、大気の層に穴が開いた星が大半で あったであろうことも想像に難くないのだ。

 そんな地獄のような、墓場のような場所を大紅蓮號は進んでいた。

 遥か北西のヴェルクーリ大海洋における素晴らしい戦果は先の三ヶ月の大戦闘を(ねぎら)うに十分な報奨金が約束されていた。宝珠ヴェルントルリヒターの奪還、其処(そこ)此処(ここ)の海を荒らし回り悪名を売り、悪逆の限りを尽くしてきたバーティミアス海賊旅団の首領『絶界のバーティミアス』切込隊長『隻眼のウシャス』『流転のパールバティ』『灼眼の八雲』を討取り撃滅せしめたのだ。そりゃあ、もう。目がお金の形に成ってしまうような、思わずウヒヒヒヒと笑ってしまうような報奨金が手に入ることは明々白々だった。

 意気揚々、そんな言葉が大変似合う状況の中だった。

 聲が聞こえたのだ。

 か細い、ともすれば擦り切れてしまいそうな雑音を持ちながら、しかし痛切に訴えかけるその聲は意気揚々士気旺盛な彼らの魂を燃え上がらせるに必要過剰だった。

 運命は()くの如く扉を叩くとはよく言ったもので、要するに冒険家の性というやつはどんな星の間にあろうと変わらないという事だった。

 そして、運命という言葉を嫌う彼らに対する皮肉の如く、状況は川の流れのように至るべきところに至る事となる。L動力機関を全力で回し、聲の発信元であるテレザード星へ向け超光速跳躍航法へ移行して(のち)、彼らは宿命と出逢う。

 灼熱の緋の下で、彼らは出逢う。宿命の糸は繋がることとなる。

 繰り返そう。運命は斯くの如く扉を叩くのだ。

 

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 超光速跳躍航法。

 いわゆるワープと呼ばれる超長距離短縮移動技術は地球型であればその祖は二十二世紀末の星間戦争であることはよく知られているが、ではそれ以外の民族であればどうかと言うと、それは物のやりとりを簡便にする物質転送機が大元になっているというのが定説である。

 ところで、多くの技術はその祖を巡って争いになることも珍しくはない。

 また、中興の祖とでも呼ぶべき進化の過程に戦争に持つということは論を待たないものと思う。

 だが、酷く胡散(うさん)臭くはあるものの、どうも「遠くへ行きたい送りたい」という単純な願いの発露であるこの技術においては例外らしいという研究結果が出ている。

つまり、この技術の祖についてはある程度その発明者が特定されており、どうもこの発明は発明時点において完成していたらしいということである。

 これはある意味では大変珍しく、それ自体が研究史の中において一定以上の評価を得てもおかしくはない光明である。もっとも、この研究をした人間も研究成果を読んだ人間もその多くが「知らなければ良かった」と口を揃えるのだが。

 曰く、元は無駄好きの社長率いる新聞社が毎朝の新聞配達にかかる人件費を削るためにその数百倍に登ろうかという研究費を投じて個人研究の果てに作られたのだ、と。

 しかも、話のオチは「新聞は人の手で作られ、人の手で配られてこそ血が通う。よってこんな機械は必要ない!」という現場の一声に社長が感涙して研究に関わる全てを二束三文で売り払ってしまったというのだから、この分野の研究者からしてみれば噴飯ものという言葉すら通り越して、殺意を覚えるバカバカしさだと口憚らないのも致し方なしというものだろう。

 ()に恐ろしきは「やってみよう」という心意気に多額の費用を組めた会社の底力か、あるいは社長の気紛れに嬉々として賛同した社員か、ともかくこの愉快犯のような連中の功績によってこの技術は結実したらしい。

 ところで、通常は超光速跳躍と云えば亜光速まで速度を上げ、位相のズレた空間に無理矢理割り込んで空間と空間にバイパスを通して文字通り跳躍するのであるが、ある一定の条件を満たすと跳躍現象の代わりに潜行現象が発生し超光速跳躍は超空間潜行掘削へと変質する。つまり、現出位置が大きくズレ込むであろうということが研究開発の過程で発見されていた。それも、超高速跳躍などとても比にはならないほど遠方での現出が見込めるであろうという事が、だ。

 そしてそこから得られる知見とは即ち、より遠くへより少ない動力で移動できる端から見ればまるで魔法のような移動手段の開拓を感ずれることとなるのである。

 しかしながら、彼らはこの発見を世に公表することをしなかった。当然、書面にも残さなかったしデータもすべて削除したので後世にこの研究結果は残らなかった。

 理由は二つあった。

 一つは、発見したはいいが実験してそれを確かめる術を持たなかったこと。

 そしておそらく最大の理由であろうそれは「見つけられるものなら見つけてみろ」――そう、考えたからである。

 そして、見つけて驚けとも考えただろう。

 要するに、だ。それは単なるイタズラ心というヤツだった。

 しかして、理論と現実の境界線は厚く、今までこの航法は発見されてこなかった。

 船の構造が弱ければ潜行したまま浮上出来ず、動力が少なければ航行に必要な推進力を失い圧力に耐えきれずに船が圧壊し、なにより、突撃した亜空の底を突き抜けて通常空間に現出できたとして、どこに出るかまでは判明しなかったことが災いした。

 開発した彼らすら、理論値でしかその存在を確信するに至らなかったのである。

 現実にそれが実現されるまでにはかなりの時を要し、実現して尚、その問題の壁は厚く高かった。

 だがしかし、彼らは机上であれその存在を確信するに至るほどの精度の論理を組み上げた。

 故にもってその航法に名はつけられた。

 曰く、亜空の底を突き抜いて跳ぶ航法。

 故に「深亜空貫潜航法(ディープライド)」と。

 

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 動力機への火入れから跳躍へ至る過程(突撃シークエンス)は主に艦橋に上がる機関運行班のモニタリングと機関室の整備屋連中、そして跳躍のタイミングを計る航海班――今時分で言えば艦橋に上がっている人間――アルベルト・デスラーによって行われる。

 デスシャドウはその自由を体現した艦内規則(校風)故に艦橋に誰が上がるかなどはその日の気分次第の面が少なからずあるのだが、こと航海班と機関運行班だけは例外的にシフトが組まれ、その通りに運営されている。

 ――もっとも機関運行班などと言えば聞こえはいいが機関室にハンモックやらテントやら寝袋やらを持ちこんで棲家(すみか)とし、機械弄り(それ)以外は何もしたくないという連中の集まりなわけで、艦橋勤務なんざ罰ゲームもいいところなので持ち回り制にして不公平を無くしているだけという見方もできるが、これは蛇足というものだろう。

要するに、彼らは生粋の機械整備師(エンジニア)の集まりだったのだ。

 社会生活不適合者の集まりである海賊船の中にあってすら、彼らは極めつけの数寄者(すきもの)どもだった。

 そして、そんな連中がいるおかげでデスシャドウはグズって言う事を聞かない事で勇名を馳せる圧縮波動重力エンジンを駆る事ができているのである。

 そんなじゃじゃ馬な主機を、換装後ただ一度の動作不良をも許していない辺りに彼らの凄まじい熱意と整備技術が透けて見える。それがデスシャドウ不動の不敗神話を支えているのだと艦外の誰にも思われている。だが、そういう連中が()って(たか)って叩いて締めて(なだ)めても、どうにもならないときはどうにもならないものである。

 ぶっちゃけ、今回はどうにもならなかった。

 その潮の目の異常さがデスシャドウの鼓動を上回ったのである。

 今回、デスシャドウの鼻先に襲いかかったそれは視認できうるほどに濃いエーテルの波頭だった。

 宇宙(星の海)の暗闇ですらうっすらと光を帯びるほどの高波はあまり例がない。跳躍直前の潮目の悪化程度で跳躍(ジャンプ)に失敗することなど今まで 一度としてなかった(ふね)がその操舵に支障をきたすほどに、それは凄まじかった。

 大自然の驚異は、人間の浅知恵を軽々と凌駕する。

 大宇宙絶対の真理である。

 

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 宇宙には微細な粒子が乱れ飛んでいる。

 …というよりも、宇宙を構成する空間とはすなわち微粒子の曼陀羅である。そして曼陀羅を構成する一つが流体粒子(エーテル)である。珍しく質量を持ったエネルギー体であるそれの構成は、敢えて言うなら粘度の高い水に近しい性質(それ)を有している。

さて、ではその質量の大きいエネルギーの塊が勢いをもって艦首を横殴りにした場合どうなるか?

 結論は単純なもので逆三角形を描くデスシャドウの艦首、バルバスバウに相当する下部の切っ先から亜空間航路へ突入する所を艦が左にズレただけではなく捻りが加わって右の角から艦全体に捻じれを起こしながら突撃することとなった。

 当然だが、光速に近い速度に達している状況で真横から殴りつけられればいかな圧縮波動重力エンジンの馬鹿力をもってしても角度にズレを生じさせないことは出来なかった。

 その時、艦橋の窓から覗く光景は美しく荘厳な紫の燐光で彩られていた。

 筆舌に尽くし難いその妙なる光景は、無理にでも言葉で例えるなら宇宙交響詩(オーロラ)の様だったと、後にそれが視えていたミーちゃんは語る。

 





2016年3月26日 初稿
2024年10月26日 改稿
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