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紫の燐光に縁取られた光の渦へ突入し、最初に知覚したのはけたたましく自己主張を
警報の種別は異常事態を示す比較的軽度のもので、けれどもそれ故にほとんど鳴る事のない種類のものだったから、ミーちゃんの背筋はびくりと震えた。
――なんだろっ?こんなの久しぶりだよ?
そんな未知への恐怖は艦橋の外に広がる今までに見た事もない…あれ?
なんだか見た事がある気がするよっ?な絶景に消え去った。それは滝の様であり、それは虹の様であり、それは……。
「綺麗だね、ミーメ。 まるで、
ミーちゃんの唇は意識することなくそんな言葉を紡いだのだった。
◆
上下左右、知覚する事も難しいほどの複雑な振動を抜けてデスシャドウは亜空間廻廊内への突撃に成功した。―――これを成功したと呼んでもいいのであれば、だがな。
深い深い色合いの中に
これと似たような光景を、俺は知っている。
そう、この光景は―――
「綺麗だね、ミーメ。 まるで、
俺以外の仲間には聞こえないであろう、だが俺にだけは辛うじて届くような呟きが、
その呟きを聞いて思い出した。
―――たしかに、ここに似た光景を
あれは、ミーちゃんと出会ってすぐの頃だった。
まだお互いに大した信頼や連携はなかった。俺は
ほとんど他人みたいなやつと一緒に居ても気疲れして仕方ない。だったら何でもやって早く共感しようと手と手を取り合ってどんな滅茶苦茶な事にも首を突っ込んで回っては逃げ回った。
その総仕上げがアレだった。『空の大盗賊』アンタレスと一戦交えたあの時だ。
しかし、あの時の感動は忘れようがない。
それは、それほどまでに筆舌に尽くし難い美しさだったのだ。
|……。…………。《いや、ここは素直に白状しておくこととしよう。》
単に美しいだけの記憶で済んだのであればどれほど良かった事か。
俺たちが首を突っ込んだ時点で事態は引き返しようのない状況に陥っていた。
結果、艦尾垂直尾翼は折れて溶けて吹き飛び、
ホント、よくもまぁ生き残れたもんだと。くぐり抜けた頃には変な連帯感が生まれてミーちゃんとも意気投合。
懐かしい話だ。
――ミーちゃんのセリフで
9/
亜空間廻廊は荒れていた。
船の揺れは未だ収まる気配すら見せない。
切っ先は艦橋の高さまで上がって、そして落ちた。
艦全体が傾きながら横転に近い状態になりつつある。ここが上下左右のない宇宙だったから良かったようなものの、これが海だったらとっくの昔に藻屑である。
――洒落にならねーぞ、オイ。
しかし、デスシャドウに乗る海賊たちは誰一人として慌てる事もなく冷静に対処していた。
突入した亜空間航路のそれが
そもそも未知の光を纏いながら跳んだのだ。どこに繋がっていようが不思議ではないし、こういう状況すら当たり前のことだ。それが、船乗りの常識というものである。
が、常識だからと云ってそんなものを歓迎できる人間などいるわけもないし、いるとすれば精神に何らかの異常を抱えていること請け合いだ。だから、船がねじ切れなかった奇跡に思わず笑ってしまいそうだった。
「デスラー、この状況
だから、船の右側に両存している漕ぎ手の席の隣、艦橋中央の副長席に座るヤッタランは前方から目を離さず右隣に向けて言葉を放――とうとした瞬間、艦橋の後方、階段に繋がる扉が
そして扉が吹っ飛んだ数瞬後、押っ取り刀で駆けつけた人が叫「何をやっているんだアベルトっ! 今の横殴りは何なんだ!!」んだ。
――――訂正しよう。
デスシャドウに乗る、事が起きた時に起きていた連中はまったく慌てたそぶりも見せなかったがこの騒ぎで起きた連中の中には慌てる者も少なくなかった。
「五月蝿いぞブルース!遅刻だバカ野郎! それと私はアルベルトだ。いい加減にしろこのトリ頭が!!」
―――重ねて訂正しよう。普段は優美をもって己を律することを旨とするデスラーにしては珍しく、いや相当に焦っているのか頭に血が上っているのか、彼の口調も荒れていた。
まぁもっとも、おっとり刀で駆け付けた相手がパジャマの上からジャケットを羽織った上に頭にはナイトキャップとくればイラッとしようものであるが。
なにはともあれ、ブルースが艦橋の席についたこの時をもって、宇宙海賊戦艦デスシャドウはようやっと目を覚ましたのだ。
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デスシャドウの漕ぎ手は二人いる。右のブルース・J・スピード、左のアルベルト・フォン・デスラーである。この二人を合せてデスシャドウの両腕と呼ばれるのだが、この二人、操舵以外の相性はあまりよろしくない。もっとも、それは喧嘩友達のような歪な形の友情であるので誰も何も言わないのだが、とにかく二人揃うとやかましい。
ブルースはおっとり刀ではあるものの席に着くやいなやコンソールビューを取出し左右で違う情報を処理し始め、振り向く事もなく デスラーに問うた。
「五月蝿いも糞もあるか。今の揺れ…いや、
「見てのと……いや、ジャンプしようとして、何かに
野獣のような笑みが浮かんでいるのだ。
楽しいのだ。
楽しくて楽しくて仕方がないのだ。
子供のように純粋に、二人はこの難局を面白がっていた。これだから、海賊はやめられないのだと。
「
獣じみた笑みは尚一層深く、艶やかで美しく、デスラーの瞳に映る狂喜もまた眼前の波を乗り越える事にしか興味が無さ気だ。
「あぁ、任せる。この
ミーメは楽しげに笑う二人を見て腹を決める。
この二人に任せて沈むなら、この艦に乗る愛すべき馬鹿野郎たちはみな笑って死ぬだろうと。同時に、
「
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視界の端、艦橋の外、光の帯が滝のように落下していくのが見える。が、今はそんな事はどうでもいい。どうせデスラーとブルースが罵り合いながらなんとかするだろう。
目下の所、私がどうにかしなければならない最大の案件は
「――バァールジィィィィ!一体に何があった!? この
間違いなく
私は乗艦して間もない
「〈うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!〉」
問題はこちらだ。絶対間違いない。
そしてもう一つ。
何より問題なのが
「
問題解決の方法は、おおよそ全て機関長に委ねられているという現実が、同じ
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「――バァールジィィィィ!一体に何があった!?
ジャンプの報は聞いた。暫くぶりの本格的な火入れだからな、燃えるゼってな具合よ。
何より直前の怪電波だ。何が起きても不思議じゃあねェさ。
艦が揺れたとしても、まぁワープ直前だからな。珍しくもない…いンや、それはそれで問題なんだろうが、ミーメ(あの小僧)の船だ可笑しかぁねぇさ。
―――だがよ。
「〈うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!〉」
どこの誰が主機が
思わねェだろ、普通。
◆
幾つかあるにはあるのだが、敢えて一つ。
強いて挙げるのであればそれは艦の
正しくは『心臓に対して
取り急ぎ、築毛と育毛に勤しむ彼らの事について少し語りたい。
◆ ◆
前述したように、デスシャドウの強さの要因は幾つかある。
艦の
そしてその認識はあながち間違いではないのだが、されどそれは真実に比して
しかし、その真実はほとんど艦外に漏れていない。それ故の
通常であれば主機関の改造だの改装だのは
……主に趣味で。
当たり前の話ではあるが、理由が理由すぎて外から見てこれを看破できるはずもなく、
解答は次のようなものになる。
『ん?機関室? いや、あそこで一番偉いのは窯爺だからな。俺にはなんにも言えんよ。それにあそこの事はよく分からん。ま、アイツらが楽しそうにしてるんならなにも問題はないだろ。好きにさせておいた方が上手く回るさ』
まるで思考を
そうして、機関室は現状―――魔窟と呼ぶにふさわしい独立自治区と化している。
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時を少々巻き戻そう。先刻の女性……であろう声は機関室の住人にも聞こえていた。そして、切れ切れに聞こえる内容からは心弾むような
―――ま、
だが、まず間違いなく
そして年がら年中
だから、
いやはや、勘と云うヤツはバカにできないものだ。不幸中の幸いというべきか、経験則の勝利というべきか、窯爺の予感は的中したのだった。
―――不幸中の幸いっつーよか普通に不幸だけどもなァ。
艦橋に上がっている
―――まぁ、そうなるだろうなぁ。…って、さっきから周り
…また地の文に突っ込む
まぁいい、それでは
想定通りだったのだが、どうしたことだかジャンプ開始直後にワープ機関への撃鉄が下りたのだ。しかも下りたまま上がらない。正確には圧縮波動重力エンジンから延びる幾つかの超空間跳躍専用
当然のことながら、異常事態である。事実であるとか冷静に言っている場合では全然全くないのである。
というか、
…しかも、一言の断りもなくである。
そんなことは有り得ないはずなのだ。
だが、目の前に現実としてある以上、それはどれだけ否定したくとも事実は事実であり、如何なる言い分も紙上の染みに過ぎないのだ。
それが万古不変、大宇宙の真理である。
2017年1月3日 改訂
2024年10月27日 改稿