宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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6年半も放置状態ですみませんでした。
実は細々書いておりましたがまとまりが悪く。

ともあれ、全話リライトして改稿も行いました。
お読みいただき、お気に入りに入れてくださっていた方々にはお待たせしてごめんなさい、とだけ。

それから、前話の頭の方から新作部分になりますので申し訳ありませんが読み進めるにあたっては引き続きの場合は前話からお読みくださいますよう、付してお願い申し上げます。


第一章 第五回

18/

 Wooooooooooooooooooooooo!!

 デスシャドウの深奥、(ふね)を舟たらしめる龍骨が鳴動していた。

 獣の慟哭(どうこく)のように、遥かかつてより伝わる船乗りのカンツォーネのように、深く静かな唄声だった。狭い点検路を、そして(ふね)を支えるそれが、そして艦自体が喜んでいるようでもあり忌避しているようでもある。

 デスシャドウ号における龍骨を含む舟の基礎骨格を巡る整備は主にたった三人の手に委ねられている。整備にかかる通路は潜水艦ほどではないにしろ他の例に漏れず狭い。

 狭いが、狭いにも関わらず、デスシャドウのそれはまるで神殿が如き装飾と意匠が施されている。構成材質こそ超硬化テクタイト鉱石であると測定結果が出ているものの、しかし靴に感じる質感も足音のそれも石質のそれにしか感じない。床にも壁にも見事な彫刻が施され、そして彫刻の上からクリスタルのような透明質の何かでコーティングが成されている。

 不思議なことに、振動は感じてもそれ以外の明確な揺れというものがここでは感じられない。揺り籠のような心地好い微震を感ずるのみである。そう、たとえ現状のように亜空の隙間に陥(おちい)ろうともである。

 それが宇宙海賊戦艦の深奥を形成しているというのだから、不可思議な話である。

 そんな、デスシャドウの最深部に3人分の人影があった。

 ノッポとチビと良い感じの3人である。

「しっかし(アネ)さん、今日はコイツやけにうるさいっすね。さっきの幻聴やらこの揺れやらいったい何がどうなっているやら」

 そう言って軽く竜骨を裏拳で叩くのはノッポである。狭い整備用通路にガツンガツンと木霊する。

 軽い調子でカッツンカッツンと後ろ歩き、高らかに靴音を鳴らしながらノッポは軽薄そうな、それでいて人好きのする笑みを浮かべて言う。

「たしかにさっきからやけに揺れますねぇ~。今日は確かアルベルトさんでしたよねぇ~……酔っぱらってらっしゃるんですかねぇ~~?」

 それに答えるのはやけに間延びをしたものの言い方をする少女だった。

 赤を基調とした法衣にも似たゆったりとした民族衣装は裾が長く、ともすれば床につきそうなほどだったが不思議とその気配はない。

 若竹色の髪を揺らしながらふわふわとした足取りでゆく様は危なっかしそうでいて、やはりその気配はない。

 彼女――エメラダ・エトゥーヴァは何が楽しいのかニコニコと笑いながら歩く。神殿廻廊とも呼ばれるこの整備路にあって実に似合っていた。

「……あなた達、随分と余裕ね」

 そんな二人のやりとりを呆れ果てたような表情で眺めるのは最後尾を歩く銀髪碧眼の美女だ。ノッポとエメラダ(チビ)が極端な背丈なのに対し丁度中庸とでも表すべき背丈である。ワインレッドのルージュを引いた薄い唇を薄く引き、切れ長の瞳を(くす)ぶらせ、(あで)やかな長髪を揺らしながら悠然(ゆうぜん)と歩を進める。

 かつての己の境遇を考えればこのバカバカしいまでに騒々しい環境は、悪くない。腰に手を当て、彼女はさらに続けた。

「あなた達にはどうでもいい事かもしれないけれど、「いやぁ、どうでもよくはないっすよ。だって、滅茶苦茶で面白そうじゃないっすか。それに、ボクは姉さんと一緒に逝けるんなら本望っすもん」…貴方、本当にばかね」彼女の言葉にノッポが声を被せ、彼女はさらに呆れたように息をついた。

「ったく、ノッポはズルいんですよ~。あとあと~、舟は沈む時は沈みますしぃ、それは海に出る決意を固めた時に腹を括っているだけなのですよ〜。シファル姉さまだってそこはそうなんじゃないんですかぁ~?」

 エメラダが若干拗ねたように口を尖らせて、くるくると回りながら答える。すると、彼女がステップを踏むごとに整備路の彫刻に光が走った。

『ラッティエル、ラファザエル、クロックロール』

 今は失われた言語で、かつての発音をするとその様になる文言だ。

「相変わらず良い腕してるっすねぇ、エメっち」

「何度も言ってますけど~、エメっちは微妙じゃないですか~?」

 二人のやり取りにシファルと呼ばれた銀色の美女は青銀色の瞳を細め、次いで口許を綻ばせた。

「飽きないって良いコトよね……本当に。大帝も、いえ、ガトランティス(わたしたち)もこの舟くらい享楽的だったら、あるいはもう少し違う結末があったのかしら」

 かつて見た景色を思い出すように、暖かい風情を伴った微かな呟きが漏れ出た。

「シファル姉様?」

「いえ、なんでもないわ。…それにしても、」

「姐さんもそう思うっすか?」

「みんな考えることは同じですねぇ〜」

 三者三様、竜骨の奏でる『神曲』に耳を澄ませ、胸を高鳴らせた。

 三人が三人とも、海賊船の船員としては異端としか言いようのない『神官職』である。デスシャドウの深奥である龍骨の核に古代語にて刻まれた三天王式神霊起動殻〝東雲〟というその文言に頭を垂れたが故に此処に在る。

 古く、神は歌を求め自らも(うた)い、韻律を奏でることで福音の原型を成したと云う。それは(たわむ)れであったとも儀式であったとも言われているが、その真相は定かではない。しかしながら、現代において神曲と呼ばれる力ある音律は存在する。真実は(よう)として知れず、しかし事実だけは真実の残り香として存在する。

音は流転する。その(ささ)やかな調べの隙間にヌーの影を潜ませつつも精霊の(たえ)なる翼の庇護の下、水面(みなも)に写った月影のように。

 世界は緩(ゆる)やかに秘めやかに(おごそ)かに、そして艶やかに伽藍(がらん)(いろど)る。

「美しいですよねぇ~」

「美しいっすねぇ」

「美しいわね」

 聖域を知覚する三人は(かす)かな微震を感じつつも歩みを止めず、竜骨の(いなな)きを愉しみながら艦首へ向かう。この奏上を仕上げるのだ。

「ところで良い加減名前教えてくださいよ〜」

「いやいや、世の中知るも知らぬもどうでもいい事ってあるじゃないっすか。ボクの名前なんてその最たるものっすよ」

「またそれですかぁ〜?」

 そうこうするうちにエメラダとノッポがまたじゃれはじめた。

 その様を二人の後ろを歩むシファルは面映ゆそうに眺めた。

 ――こういうのも悪くはない。

 かつての仲間が見たら大層驚くであろう穏やかな表情だった。

もっとも、そんな穏やかな表情はそれほど長くは続かなかったのだが。

 

19/

 デスシャドウ艦内のあらゆるところで各員が出来ることを全力で行なっていたその頃、戦闘艦橋はデスラーとブルースの怒号とでも呼ぶべき応酬を重ねていた。

「だからそっちじゃねぇっつってんだろ!」

「貴様の頭には脳の代わりに真綿でも詰まっているのかね?よく右舷に目を配りたまえ。高波の癖を読み取れるだろう。全くこれだからチキンヘッドは。」

「それを言うなら左舷下方向見てみろよ。エネルギーの硬化反応あんだろ?下手すりゃ座礁だ」

「…なるほど。確かにこれは私の見落としだ」

「いや、俺も悪かった。たしかにあの波を受けたら横転してたわ」

 先ほどから引いては返す波の如くこれら緩急のある応対が舟の行く道を決める最前線で繰り広げられていた。されど、その喧騒こそがデスシャドウがこれまで歩んできた轍そのものだった。

 だからこそ、艦橋にいる誰もが油断なく、しかしどこか平然とした心境を取り戻していた。

   ◆

 そんな二人の事を目の端に捉えながら、バルジは機関室のスットコドッコイたちの遊びを眺めつつ逐次状況のやりとりをしていた。

 そして――

「〈おう、ミーメ!ちょいと遊んじまったけどそっちゃあどうでぇ!〉」

 艦橋内にカルシファーの弾むような笑い声と共に轟くような声音(こわね)が落ちてきた。

「応、カル。いやどうもこうもないな。取り敢えず外の景色は綺麗だが、問題は見惚(みと)れてるとそのまんま気持ちよく昇天しかねないところに居るということだ。今回は流石に丸太じゃ済みそうにないからな!」

 ミーメはミーメで何が楽しいのか微かに口角を上げて笑いながら応じた。大変残念なことに、このデスシャドウ号において最もバカなのは誰を置いて他になくミーメ(キャプテン)その人である。

「〈ったくよぉ、まぁたお前ぇさんは腕でも組んでへらへら笑ってたんだろうが〉」

「…分かるか?」

「〈どんだけ長い付き合いだと思ってんだよ。つーか、ミーもなんか言……だめか〉」

「なんか失礼なんじゃないかなっ?」

「〈ヘッ、んで? どうするつもりだったんだよ〉」

「さぁな。いざとなったら全員で竜骨の中にでも引きこもってやり過ごすつもりだったさ」

 ミーメ、ミーちゃん、カルシファー、最古参三人の(じつ)()のない、そして行き当たりばったりな会話に通常回線での通信が龍骨外郭部点検用タラップから一報が入った。

「あら、それじゃあ次善の一手が見つかって本当に良かったわ。蛮族が土足で踏み込んでいい場所ではないもの」

 呆れ果てたような声音である。

「シファル!」

「悪かったわ、麗羅(レイラ)。ちょっと探し物に時間がかかってしまって。…貴女の宿命の星を見つけるまでの時間、ちゃんと作ったわよ。〝白銀〟のシファル・サーベラーの名に懸けて、この舟を導きましょう。アルベルト、ブルース(貴方たち)、疲れたなんて言わないわよね?」

「「誰にモノ言ってやがんだ魔女!!」」

 シファルの煽りにお約束とばかり応える 二人はある意味名物だ。

 そして、艦橋中央部後方壁寄りに設置された次元羅針盤が久方ぶりに仕事を始めた。

「みんな元気だねっ、ミーメ!」

「ああ」

「小僧(わっぱ)、主機回復完了だ。好きにやれぃ!」

 ミーメの手元の通信機から窯爺の声が飛び込み、そして

「みんな、ありがとう。それじゃあ記念に一枚撮るか!全員艦橋に上が「バカほざいてねぇでとっととずらかるんだよ!」…亜空間回廊を抜ける!総員現出後に備えろ!!」

 …いくらなんでも記念写真はないだろ。

 

 デスシャドウがいよいよもって(くら)い光の落ちる先へ消え始めた頃うっすらと深緋(こきひ)輝幻影(オーラ)を纏いながらメイン・サブ合わせて三基のノズルから陽炎(かげろう)の様な噴射光を放ち、パステルカラーの壁を突き破って姿を消した。

 

20/

 光と音の大瀑布を抜けると、そこは赤い地獄だった。

 (さざなみ)の立てる気持ちの良い音と白い波が宇宙空間の中で異様に、しかし美しく弾けては消えていた。

 ‘A(アー)銀河星系の外れ、緋の下で彼らは出会った。

 後に『火の七日間事件』『水の廻遊惑星跳躍戦役』『宇宙静止作戦』『海賊航路事変』『第一次融界動乱』そして『王の帰還』と呼ばれる事となる近代宇宙史における大事件の中心を担うこととなり、果ては英雄などと呼ばれることとなり、大いに顔を(しか)めることとなる男たちの第一幕(ファーストコンタクト)だった。

 これら銀河の歴史の一|頁(ページ)に刻まれるべき事件の終結に大きく関わる事になるとは、この時はまだ誰もが知る(よし)もない事なのだった。

 ―――ただ、輝く緋の光が妖しく優しく見守るだけである。

 

21/

 三対の切っ先は眼前の空間を切り裂き、鋼の如き意志は空間の湾曲すらも乗り越える。

軋む竜骨もそのままに、デスシャドウはその堪え難い重力波を凌ぎ切った。

 両界の層を渡り行くための変奏極の奏上も無しに飛び込んだ次元廻廊(その場所)は現行する中納言級突撃剣型戦艦の中にあって堅牢剣鬼と(ささ)かれるデスシャドウをして難敵だった。だが、ミーメを筆頭とした大ばか者共の宇宙海賊戦艦(おもちゃ箱)は耐え切った。

 (ミーメ)が故郷から強奪したこの舟は、歴史という名の分厚い書物の頁に埋もれ忘れられ、もはや姿形すら当時の面影を失ったその正体は、かつて故郷(ヴァルハラ)を救った大勇者ジークフリートが振るった聖剣・デルフリンガーを核として構成された『道拓く王の剣城(つるぎ)』である。

 強奪されたその当時の姿を失っていたとしても星が鍛えた神造兵器としての概念核には些かの憂いもなく。―――もっとも、増毛屋とクソガキ共の終わらない日曜日の延長線とどちらの我が強いのかと聞かれれば、いくら星が鍛えた神造兵装と云えど器と一緒に匙をぶん投げるだろうが―――――

 




あとがき

そんなわけで、前書きでも触れましたが6年半ぶりです。
一応、第一章は最後の節だけ改稿しきれていないことを除けば書き終わっております。

続く2章、3章、4章、終章、どれくらいかかるはお約束できませんが、書き終えるつもりでおります。
それでは、ルビをハーメルン仕様にする作業が挟まるため週1くらいのペースになるかもしれませんが、出来だけ早く1章まではお届けできるように頑張ります。

お待たせしてすみませんでした。
完結させるつもりはちゃんとあります。

ではでは。
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