宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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第一章 第六回

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 そうして深緋(こきひ)と紫紺の光をまき散らし、通常空間へ現出を果たし至った空間(そこ)はテレザードを大きく離れた遠方空間。九つの虹の乱色光(ゼルレッチ)が氾濫し、空間を流れる塵が雲が如く(ただよ)う場所。

 近縁に滅びの時を今か今かと待ち()びる赤色巨星を抱いた地獄手前の大絶景(パノラマ)。音に聞こえし伽藍の深奥――かつて歩いて行けない隣側(紅世)とこの世を渡り歩いたという詩人名付けて曰く、その地獄の名を、『精霊堰の領域(ラーカイラム)』。

 赤の熱射と九つの光はそれが自然にそう在って当然と言わんばかりに艶やかな極光を抱く。

 この星に在って、ただ、生きる事がこの上なく難しい美しい夜がそこにあった。

  ◆

 一般的な人型知的生命体と恒星の寿命ではそもそも論として縮尺(スケール)が違う。

 人種(ひとしゅ)の縮尺において超新星化の過程にすぎないその爆発は遥か彼方の星の向こう、銀河の歴史を何ページか読み進める必要がある。しかし、惑星(ほし)の縮尺においてはわずか数行だ。

 そう、その僅かたったの数行が現生人類に対して恐ろしい猛毒として作用するのが今ここに至る場所なのである。厳然たる事実として此処は殊更に異常空間というわけではなく、平時であれば例外的な研究者たちを除けば誰しもが避けて通る海である。

  ◆   ◆

 ――無茶無理無謀の3M、荒れ狂う大波も何のその…そんなデスシャドウの愉快な仲間たちと言えど、さすがに亜空の底(面白空間)を突き破った直後とあっては地に足つかないのも仕方がない。

 波頭も見えない高波が現出直後のデスシャドウの鼻先に襲い掛かる。亜空間回廊で散々っぱら荒波と戦った直後にこれである。ぶっちゃけゲンナリしたいところだが、さりとてそんな暇もなければ余裕もない。何より地に足をつける暇もなく、浮足立つのを抑えようと(かし)げる体をどうにか掴んだ手摺を頼りに押さえつけ、ミーメは叫ぶ。

 叫ばれた先、珍しく艦橋に上がっていた副長のヤッタランが返――

「キャプテン、こりゃあか「 一時の方向、熱源、こちらへ来る!」

す言葉をレーダーや計器類に目を走らせていた眼鏡クールな女性(レディ)――麗羅(レイラ)・デスティニーの叫びが(さえぎ)った。セミロングに揃えた翡翠の髪がさらさらと揺れる。眼光は炯炯(けいけい)として光り、いかなる空間の変化も見逃すまいとしている。こんな時でさえその瞳は揺れることもなく、爛々と光る。彼女は知っていた。ワープ直後の状況は、出る方にしろ出られる方にしろ相手にとってはやばいのだと。

 だからこそ、いつもその時は瞳の光を切らさない。今日もまた、それに相違はなかった。

 そして、ヤッタランもまたそれを知るがゆえにセリフに被されようとも気にも留めず、艦橋の外、耐熱対光線処理の施された窓の向こう、真っ直ぐに向かってくる緑と赤の二重構造の光鑓(グンニグル)に視線を飛ばす。計器で分かる事もあれば直視で分かる事もある。

 例えば、そう。ヤッタランのような目と知識を持っている人間からすればである。

「あれは…まさか……信じられへん。密度行列砲の変奏版(コンバージョン)や」

 翠の螺旋光を纏う赤色の光が一筋。一切の迷いなく一直線にひた走る。赤に添えられた翠は、さながら桜吹雪の如く宙に舞い散る。決して赤が(ほつ)れぬように、優しく美しく翠は解(ほど)ける。

 兵器である以上、その本懐は破壊以外にはあり得ない。極限まで研ぎ澄まされた論理性(ロジスティクス)は無機質であるが故に美を獲得するが、密度行列砲という遠い遠い遥かな過去に置き忘れられてきた神殺しの一撃は、まるで絵画か彫刻の如き壮麗さ。

一言で表すのであれば「美しい」と表現するより他にない。

 宇宙を満たすエーテルに()(ほど)きを掻き分けて突き進む光線兵器は射程が伸びれば伸びるほど外界からの影響を受ける。当然、飛距離に比例してその威力は落ちてゆくのだが、螺旋による二重構造を持ったその赤の威力は被覆する緑色光線が減衰を軽減させることによって威力の低下を防いでいた。先端部こそは減衰を受けるが、しかし。この星の海の大原則として広く知られている一文を紹介すれば納得していただけるだろう。

 

・――力が足りなければ足りるまで力を入れ続ければどこかで必ず不可能の壁を破る事が出来る。

 

 一言でいえば『力づく』である。

 しかしこれは海賊に限らず、ありとあらゆる場面で通用する常識だ。

 成し遂げ得る地力さえあれば、誰もが達成可能な最も容易な論理である。(もっと)も、成し遂げる事そのものが全く容易ではないという前提を無視できればの話であるが。

 そしてデスシャドウを襲う誰かはその前提を満たしていたのである。

 すなわち、威力の減衰を極限まで抑え込んだ強力な長距離光線兵器の実現とその運用である。

 そうして、その力づくはデスシャドウに届いた。その威力は一撃でデスシャドウの高粘度準液体コーティング(流体装甲)をぶち抜き、第一装甲版の半ばまで浸透した。

 伊達でもなく、酔狂でもなく、第一装甲板はシャルバート遺跡(ヤード)から発掘した希少テクタイト鉱石を煉鍛(れんたん)して構築された要塞の如きそれである。そしてそれを覆う流体装甲は計算上は摂氏六〇〇〇度まで耐えうるはずだった。

 すなわち、ちょっとやそっとの事では傷一つ入らない。そういう代物で覆われているはず(・・)だったのだ。

  ◆

 ラストリア星系での仕事を終え、拠点を置くサテライザーへの帰路に就こうした時だった。謎の怪電波――恐らくは女性のものであろう救援を求める声に応じ、舵をテレザードへ向けた時だった。

 凄まじい引き潮に引かれテレザードへの道すがらサスペンダー星系へと引きずり込まれた。

 造船した際のドッグナンバーをそのまま通称としてしまう雑さを機転で切り拓く男――大紅蓮団の団長・シマは直上の超新星を仰ぎ見て目を覆った。いや、何故に俺様はこんなところにいるのよ、と。

 三角形に近い独特のフォルムをした大紅蓮団の座乗艦大紅蓮號は、しかし九つの光の乱反射の中L動力機関を最大限に回した。

 ――たしか、ここにゃあまだ避難を(こば)んでる王族が一人いるとかいないとかいう話、だったよな。

 第五惑星ムラサイ、その首都であるラフテルに彼女はいるはずだ。

 シマがそんなことを思い出した、その時だった。

 突然紫の燐光を弾かせながら三角龍(トリケラトプス)の様な面構えをした髑髏の旗印を掲げた船が現出してきた。

 幾ら滅びかけているとはいえ、王族である。しかもその王族は女性だったはずだ。

 …つまり、守る者もいないこの星に高値で売れる弱者がいるという事だ。

 海賊旗を掲げている輩なんぞロクデナシばかりというのがスタンダードというものである。

 よって―――

「応、副長(ミト)よ! ちょっと挨拶してやろうぜ。女一人しかいねぇ星に海賊旗(そんなもん)掲げて何の用だ?ってな!」

 冒険軍団を自称しつつも(はた)から見たら同じ海賊。そんなことは一顧だにせず、自らの正義に則ってシマは穂先を謎の海賊船へ向けた。

「さあ、悪党ども。俺様たちが、相手だ!」

 ギラギラと眼球を光らせて、シマが笑った。

◆    ◆

 あーあ。まぁた確認もせずにやっちまおうってんだから大将も大方成長ってのがないねぇ。まぁ、指摘もしないアタシにだけは言われたくないだろーけどサ。

 号令を掛けられた副長――光圀ミトは内心で苦笑をこぼしつつも明らかに不審な航路を飛んできたと思しき船へ穂先を、そして切っ先を合わせた。

 ――が、問題はその後だった。

「そんじゃ、後は任せた!」

そう言ってシマが艦橋から飛び出して行ってしまったのである。

「ちょ、待った! 誰か止めな!」

叫びも虚しく、その頃既に艦橋に彼の姿はなかった。

 

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 艦橋から姿を消したシマの姿はどこを通ったか大紅蓮號艦底格納庫にあった。体にピタリと合ったパイロットスーツで身を包んでいる。

 左胸に髑髏をあしらった特注品で、大紅蓮団の仲間たちからはガキみたいだと褒められたシマ自慢の逸品である。

「ダンガード(コア)、出る!!」

 シマが口角を飛ばしながら叫んだ。ダブルシートであるダンガードCの後部座席には当然という顔をして彼の妻――ユキが座る。

 艦長(キャプテン)が率先して最前線に突っ込むというぶっとんだ行動に出ようとするのを止めようとする者はなく――否、止めたが無駄に終わり、大紅蓮號の舵を握る光圀ミトは口の端を苦笑の形に歪めながら「もう諦めたわさ。まったくどれだけ経っても熱い(バカな)んだから」と(こぼ)し、倉庫番をもって任じる真田が「私ももう諦めた。無事に戻れ」と言いながらダンガードCの射出ユニットを弾いた。

「「GO!」」

 荒々しく笑い、シマとユキは声を合せて飛び出した。

 ダンガードCは中型武神の中でも可変機能と電磁極肢をもった特改型(とっかがた)と呼ばれる翼持つ武神・機竜(ドラグーン)の一種である。その筋のメカニックには主に雷撃型龍神機(サンダーフェロウ)と呼ばれているが、要は人型の機械竜のことであり、宇宙運用を前提に改装(チューンナップ)されているため地上運用を前提に作られる四肢とは形状を異にしている。

 その姿、まさしく龍である。同じく人型起動機構である特殊重機(レイバー)補助骨格機構(パワードスーツ)、或いはより攻撃的な人型起動歩兵(モビルスーツ)対害獣遊撃機(バスターマシン)とは異なり初めから宇宙空間、それも遠洋での運用を視野に入れて造られた武神はその機動機能が全く持って異なる。

 こと機動兵装として見るのであれば運用コストと格納スペースがかかるという欠点に目をつむる事さえできれば、既存の艦載機など及びもしない性能を誇るのが武神である。

 特に雷撃型龍神機の輝きはそうそうお目にかかれるものではないが故に、星の海を一直線に切り裂くそれは大変美しかった。ダンガードCは射出された勢いのまま、赤色巨星の重力場と九つの陽の(もと)を力強く蹴り飛ばしてデスシャドウへとひた走った。

◆    

 ピシュン、と。独特な作動音を鳴らして大紅蓮號(GR7)の艦橋に一人、タンクトップにフライト ジャケットを引っ掛けただけの榛色の髪を後ろに流した美女が入ってきた。

 艦橋の外、黄金色(こがねいろ)赤光(しゃっこう)を纏いながら滑走する僚機の姿を見やり、苦笑とも微笑ともつかない笑みを艶然と湛えて呟いた。

「ったく。まぁ~た飛び出して行っちまったのかい」

 言いながらミトの席に手をかけ肩をすくめた。伊達な動きが実に似合う。

「どこへ行ってたんです…っていうか何してたんですか姐さん!」

 対して、ミトはわざとらしく言葉を切って笑う。笑みを放られ、しかし内容が内容なだけに苦笑で返すより他になく

「悪い悪い、ちょいと寝ていたのさ。ここらの海はあたしにしたら眠すぎるんだよ」

 リトリル・ヴァン・バーティミアスはより深く笑みを浮かべて「で、あの子たち先に行っちまったんだね。こらえ性がないのは相変わらずだ」と、しょうもなさそうに、しかし慈しみの笑みを浮かべて踵を返そうとした。

「そいじゃ、アイツラだけにしてもおけないからね。後は頼んだよ」

《姐さん!目覚ましはちゃんと止めてくれねぇと眠れねぇぜ! さっき寝付いたばっかだったっていうのにサ!》

 天井付近のスピーカーから不機嫌そうな声が落ちてきた。それを聞いた小柄な副長(ミト)が片手を腹に添えて背中をヒクヒクさせ「止めておやりよ。可哀想じゃないか」と、絞り出したかのようなか細い声を震わせながら背後に手を振った。

「…そいつぁすまなかったね。止めてから出るよ」

 聞いた彼女はミトの態度に唇を曲げつつも悪びれもせず、されど苦笑の笑みを浮かべたままヒラヒラと手を振って艦橋から退席した。

◆     ◆

「さぁてと、締まらないことこの上ないが、さりとて旦那を放っておくわけにいかないからねぇ。ダンガード(ギア)、出るよッ」

 やれやれと笑う真田技師長に片手で謝意を示しながら、リトリルは出撃した。

◆     ◆     ◆

「そいじゃあ一丁あの子達が着くまでに落とされないようしっかりやらなくっちゃね。じゃ、アッテンボローちゃん、しくよろー」

 テキトーに左舷側に席に着く天然パーマの男に笑いかけると、左手でサムズアップを作った拳をゆっくりと上下反転させた。やっておしまい、と。

「合点承知でぇい!」

 返す言葉から数泊遅れ、アッテンボローの立体認識式空間深度計からの瞬時判断によって紅蓮団が誇る二層式特殊電磁衝撃砲の初段兵装がデスシャドウへ向けて放たれた。

 




ルビの処理が間に合いましたので、本日2回目。
書き貯めが多いわけでもないのでまた休止期間が出てしまいますが、ともあれ宜しくお願いします。
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