22/
そうして
近縁に滅びの時を今か今かと待ち
赤の熱射と九つの光はそれが自然にそう在って当然と言わんばかりに艶やかな極光を抱く。
この星に在って、ただ、生きる事がこの上なく難しい美しい夜がそこにあった。
◆
一般的な人型知的生命体と恒星の寿命ではそもそも論として
そう、その僅かたったの数行が現生人類に対して恐ろしい猛毒として作用するのが今ここに至る場所なのである。厳然たる事実として此処は殊更に異常空間というわけではなく、平時であれば例外的な研究者たちを除けば誰しもが避けて通る海である。
◆ ◆
――無茶無理無謀の3M、荒れ狂う大波も何のその…そんなデスシャドウの愉快な仲間たちと言えど、さすがに
波頭も見えない高波が現出直後のデスシャドウの鼻先に襲い掛かる。亜空間回廊で散々っぱら荒波と戦った直後にこれである。ぶっちゃけゲンナリしたいところだが、さりとてそんな暇もなければ余裕もない。何より地に足をつける暇もなく、浮足立つのを抑えようと
叫ばれた先、珍しく艦橋に上がっていた副長のヤッタランが返――
「キャプテン、こりゃあか「 一時の方向、熱源、こちらへ来る!」
す言葉をレーダーや計器類に目を走らせていた眼鏡クールな
だからこそ、いつもその時は瞳の光を切らさない。今日もまた、それに相違はなかった。
そして、ヤッタランもまたそれを知るがゆえにセリフに被されようとも気にも留めず、艦橋の外、耐熱対光線処理の施された窓の向こう、真っ直ぐに向かってくる緑と赤の二重構造の
例えば、そう。ヤッタランのような目と知識を持っている人間からすればである。
「あれは…まさか……信じられへん。密度行列砲の
翠の螺旋光を纏う赤色の光が一筋。一切の迷いなく一直線にひた走る。赤に添えられた翠は、さながら桜吹雪の如く宙に舞い散る。決して赤が
兵器である以上、その本懐は破壊以外にはあり得ない。極限まで研ぎ澄まされた
一言で表すのであれば「美しい」と表現するより他にない。
宇宙を満たすエーテルに
・――力が足りなければ足りるまで力を入れ続ければどこかで必ず不可能の壁を破る事が出来る。
一言でいえば『力づく』である。
しかしこれは海賊に限らず、ありとあらゆる場面で通用する常識だ。
成し遂げ得る地力さえあれば、誰もが達成可能な最も容易な論理である。
そしてデスシャドウを襲う誰かはその前提を満たしていたのである。
すなわち、威力の減衰を極限まで抑え込んだ強力な長距離光線兵器の実現とその運用である。
そうして、その力づくはデスシャドウに届いた。その威力は一撃でデスシャドウの
伊達でもなく、酔狂でもなく、第一装甲板はシャルバート
すなわち、ちょっとやそっとの事では傷一つ入らない。そういう代物で覆われている
◆
ラストリア星系での仕事を終え、拠点を置くサテライザーへの帰路に就こうした時だった。謎の怪電波――恐らくは女性のものであろう救援を求める声に応じ、舵をテレザードへ向けた時だった。
凄まじい引き潮に引かれテレザードへの道すがらサスペンダー星系へと引きずり込まれた。
造船した際のドッグナンバーをそのまま通称としてしまう雑さを機転で切り拓く男――大紅蓮団の団長・シマは直上の超新星を仰ぎ見て目を覆った。いや、何故に俺様はこんなところにいるのよ、と。
三角形に近い独特のフォルムをした大紅蓮団の座乗艦大紅蓮號は、しかし九つの光の乱反射の中L動力機関を最大限に回した。
――たしか、ここにゃあまだ避難を
第五惑星ムラサイ、その首都であるラフテルに彼女はいるはずだ。
シマがそんなことを思い出した、その時だった。
突然紫の燐光を弾かせながら
幾ら滅びかけているとはいえ、王族である。しかもその王族は女性だったはずだ。
…つまり、守る者もいないこの星に高値で売れる弱者がいるという事だ。
海賊旗を掲げている輩なんぞロクデナシばかりというのがスタンダードというものである。
よって―――
「応、
冒険軍団を自称しつつも
「さあ、悪党ども。俺様たちが、相手だ!」
ギラギラと眼球を光らせて、シマが笑った。
◆ ◆
あーあ。まぁた確認もせずにやっちまおうってんだから大将も大方成長ってのがないねぇ。まぁ、指摘もしないアタシにだけは言われたくないだろーけどサ。
号令を掛けられた副長――光圀ミトは内心で苦笑をこぼしつつも明らかに不審な航路を飛んできたと思しき船へ穂先を、そして切っ先を合わせた。
――が、問題はその後だった。
「そんじゃ、後は任せた!」
そう言ってシマが艦橋から飛び出して行ってしまったのである。
「ちょ、待った! 誰か止めな!」
叫びも虚しく、その頃既に艦橋に彼の姿はなかった。
23/
艦橋から姿を消したシマの姿はどこを通ったか大紅蓮號艦底格納庫にあった。体にピタリと合ったパイロットスーツで身を包んでいる。
左胸に髑髏をあしらった特注品で、大紅蓮団の仲間たちからはガキみたいだと褒められたシマ自慢の逸品である。
「ダンガード
シマが口角を飛ばしながら叫んだ。ダブルシートであるダンガードCの後部座席には当然という顔をして彼の妻――ユキが座る。
「「GO!」」
荒々しく笑い、シマとユキは声を合せて飛び出した。
ダンガードCは中型武神の中でも可変機能と電磁極肢をもった
その姿、まさしく龍である。同じく人型起動機構である
こと機動兵装として見るのであれば運用コストと格納スペースがかかるという欠点に目をつむる事さえできれば、既存の艦載機など及びもしない性能を誇るのが武神である。
特に雷撃型龍神機の輝きはそうそうお目にかかれるものではないが故に、星の海を一直線に切り裂くそれは大変美しかった。ダンガードCは射出された勢いのまま、赤色巨星の重力場と九つの陽の
◆
ピシュン、と。独特な作動音を鳴らして
艦橋の外、
「ったく。まぁ~た飛び出して行っちまったのかい」
言いながらミトの席に手をかけ肩をすくめた。伊達な動きが実に似合う。
「どこへ行ってたんです…っていうか何してたんですか姐さん!」
対して、ミトはわざとらしく言葉を切って笑う。笑みを放られ、しかし内容が内容なだけに苦笑で返すより他になく
「悪い悪い、ちょいと寝ていたのさ。ここらの海はあたしにしたら眠すぎるんだよ」
リトリル・ヴァン・バーティミアスはより深く笑みを浮かべて「で、あの子たち先に行っちまったんだね。こらえ性がないのは相変わらずだ」と、しょうもなさそうに、しかし慈しみの笑みを浮かべて踵を返そうとした。
「そいじゃ、アイツラだけにしてもおけないからね。後は頼んだよ」
《姐さん!目覚ましはちゃんと止めてくれねぇと眠れねぇぜ! さっき寝付いたばっかだったっていうのにサ!》
天井付近のスピーカーから不機嫌そうな声が落ちてきた。それを聞いた小柄な副長(ミト)が片手を腹に添えて背中をヒクヒクさせ「止めておやりよ。可哀想じゃないか」と、絞り出したかのようなか細い声を震わせながら背後に手を振った。
「…そいつぁすまなかったね。止めてから出るよ」
聞いた彼女はミトの態度に唇を曲げつつも悪びれもせず、されど苦笑の笑みを浮かべたままヒラヒラと手を振って艦橋から退席した。
◆ ◆
「さぁてと、締まらないことこの上ないが、さりとて旦那を放っておくわけにいかないからねぇ。ダンガード
やれやれと笑う真田技師長に片手で謝意を示しながら、リトリルは出撃した。
◆ ◆ ◆
「そいじゃあ一丁あの子達が着くまでに落とされないようしっかりやらなくっちゃね。じゃ、アッテンボローちゃん、しくよろー」
テキトーに左舷側に席に着く天然パーマの男に笑いかけると、左手でサムズアップを作った拳をゆっくりと上下反転させた。やっておしまい、と。
「合点承知でぇい!」
返す言葉から数泊遅れ、アッテンボローの立体認識式空間深度計からの瞬時判断によって紅蓮団が誇る二層式特殊電磁衝撃砲の初段兵装がデスシャドウへ向けて放たれた。
ルビの処理が間に合いましたので、本日2回目。
書き貯めが多いわけでもないのでまた休止期間が出てしまいますが、ともあれ宜しくお願いします。