宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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第一章 第七回

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 ――エメラルドの如き鮮烈な赤色の一撃はただそれだけでデスシャドウ右舷装甲板第一層の表面深度80%を焼き払った。亜空間廻廊から飛び出たと同時に艦橋にてヤッタランが用いた防御兵装「重層空間天蓋壁(リヴァイアサンロード)」を薙ぎ払った上で、である。

 薄暗く狭い部屋の中、それをモニター越しに見る人影があった。

 将棋を打っていた男が言う。

『私たちの出番だな』

 相手をしていた女が言う。

『ええ、私たちの出番ね』

 男が取り出したのはカスタネットだ。

 打ち鳴らしの音が工房に響く。

 女が取り出したのはシンバルだ

 高い打ち鳴らしの音が響く。

 男のカスタネットと女のシンバルが派手に無駄な音響を狭い工房に鳴らした。

 ここはデスシャドウ第二の変人窟。人呼んで魔境。すなわち――兵装工房である。

『ヤッタラン副長、重層空間天蓋壁が砕けるまでどれくらいあったね?』

『デスティニー女史、彼奴(きゃつ)らの舟との相対距離は?』

『『交渉役(コンプロマイザー)は必要ない。我ら工房主(マイスター)が矛盾を贈ろう』』

 抑揚のない、しかし自信にあふれた声音だった。

「悪いんやけどそれは…あの星に降りられた後の話や。今の条件で兵装に火入れするわけにはいかんよ」

 だが、ヤッタランの回答は苦々しげではあるものの戦闘を否定するものだった。

『『…何故か?』』

「主機が安定せんのや。…なぁんか悪いモンでも食ったんと違うか?」

 その割には出力は落ちているわけでもなく、ヤッタランは首をひねり、バルジはまさかという顔をして、デスシャドウの舳先はムラサイへ向く。

 

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デスシャドウ艦内のざわめきを他所に、一機で飛び出したダンガードCは猛スピードでデスシャドウへ肉薄していた。

 ◆

「レーダーに感有り…これは「あれは武神や!ハーッ!この海でこんなモン見られるとは、 ワイは運がええな!しかもなんや、ドラグーンやん!!四肢の形状からするとあれは雷撃型(サンダーフェロウ)やな?よう光っとるわ。…でも、なんやろう、なんか変やな。角か?」…副長、解析を頼んでもよろしくて?」「応」

 先ほどとは逆に副長(ヤッタラン)レーダー手(レイラ)の声に被せるようにして戦慄(わなな)いた。と言うか、つい一瞬前までの曇った表情は完璧に消し飛んだ。

 無理からぬことだろう。武神は基本的に特殊重機や補助外骨格と異なり大型だ。普通は艦載機としては扱わず基地付きの局地戦仕様や防衛シフト専用として運用されるものだ。

 それが宇宙戦艦から飛び出して来ようとは!

 武器・兵器・航空機その他諸々の機械マニアのヤッタランからしてみれば垂涎(すいぜん)の品以外の何物でもない。

 しかし――

「貴重品やけどドラグーン(それ)単体で沈められるほどこの船も脆くないねん」

 ぽちっとな、という若干気の抜けた声と共に右足元奥のペダルを踏み締めながらレバーを引く。

 右舷バルバスバウ下部、電磁ネットバリアーの起動キーである。右舷直上に超新星を頂く状況下においてその効果は明らかに減衰しているものの、レーダーの捉えたサンダーフェロウの電磁極肢から発せられるパルス信号に対し逆位相で整形されたそれは主機の代わりを果たす必要のなくなったカルシファーの助力もあって優にその攻撃を御し切れる、はずであった。

◆     ◆

 ダンガードCの基本設計思想は『電光石火の具現』である。具体的には空間に電撃のレールを敷いて滑走する力を、空間を斬り裂く刃と共に振るうことによってただの航宙戦力では実現し得ない速度で接敵し、これに打撃を加えることを可能とする。

 しかし、いかんせん速度を優先した構造は航宙機と比べて大型に分類される武神と言えど小型化をせざるを得ず、結果単騎駆けには些か不安の残る出力とせざるを得なかった。

 今回で言えば打撃力はともかく突破力に劣り、デスシャドウのそれを抜け切れるか微妙といった具合である。だが、それは単騎で駆けなければ良いというだけの事でしかない。

 シマとユキは確信していた。

 シマにとってはもう一人の妻を、ユキにとっては娘のように愛おしい彼女を。

「ったく、アンタ達もう少し後ろのことを考えて動くってことができないのかい!」

 娘と言うには些か姉御肌な気性の女――リトリルが短区跳躍(小ワープ)を用いてダンガードCに横付けた。中型機甲武神――ダンガード(ギア)である。

「リッちゃん!あたしは信じてたよぅっ!」

「おう!やっと来やがったか!」

「…はぁ~、まぁ、良いんだけどね。んで、ちゃんと相手の意図は測ったんだろうね?」

「さあな!」

 開き直って居直られると中々に反応に窮すものだけれど、しかし向こうは向こうで電磁ネットバリアーを張りつつ進路をムラサイへ向けつつある。

「まぁ、もしも健全な目的だったら頭下げて謝れば良いさね。不健全だった場合が問題だ」

 リトリルは不承不承という雰囲気を纏いつつも視線をデスシャドウへ向ける。敵意ではなく害意でもなく使命感でもなく、ただひたすら純粋な闘志を燃やして。

  ◆     ◆    ◆

 シマは笑う。呵呵大笑(かかたいしょう)である。

 相手がどこの誰かは分からない。

 艦首の特徴的な舟だ。調べれば分かりもしそうな気もしなくはない。だが、敢えてそれはしなかった。

 あいつが誰だか分からなくったってぇ関係はねぇよ。同じ海に生きて同じ旗を掲げて命を捨てて生きてんだ。

 (面白)いに決まってる!

 

 ユキは特に何も考えていなかった。

 ただ、なんだか楽しそうな、良いことがありそんな予感がしていたのだった。

  ◆    ◆    ◆    ◆

 ―――あゝ、やはり星の海(ここ)はいいな。

 場違い極まりないことに、この状況に対してミーメは心の底から歓喜していた。

この平和な時代にわざわざ黒い布地に白い髑髏を染め抜いて〝骨になっても戦うという強烈な意志〟を誰に対するでもなく、ただ己の意志を己の旗を己の矜持に従って掲げるという行為に及ぶその心は、どこまで行っても酔狂の成せる業だ。

 探検家でも冒険家でも強盗団でも義賊でもない。時代錯誤と言われようと『海賊』を名乗る心意気。

 それこそがミーメをここに至らしめたモノの正体だ。そしてそれがミーメの耳元で囁くのだ。楽しいな! と。だから、今この窮地に在ってなお、ミーメは心を震わせていた。

 ヤツも、きっとそうに違いないと確信しながら。

「キャプテン、圧縮波動重力エンジン、三基連動全力稼働準備、完了です!」

 眼前、艦橋から目視できる距離にまで迫った二体の武神を(のぞ)む状況で、心臓回復の知らせをもって各所にダメージを追いつつも回頭しながらの斉射態勢に移行し始めたその時だった。

 

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「そいじゃあ三人そろったことだし、いつものヤツをやるとするかぁ!!」

「おー!」

「おうさ!」

 ダンガードの中で、それまでの雰囲気もどこ吹く風と気炎が上がる。

 ユキは心底から楽し気に、リトリルもまた久方ぶりの強敵だと本能が叫ぶのか、八重歯を光らせて相好を崩した。

 ダンガードCの後部シートでユキがプラスチックカバーに覆われた『始動』と刻印されたスイッチを拳でカバーを叩き割って発動させた。

 リトリルはダンガードGにて左上部に据付らえた古めかしいパタパタ表示の態移項鍵(コンソール)が『巡航→回送→合体』と変遷して止まったのを確認し、Cに据え付けられたそれに近似した『承認』と刻印されたそれを拳でカバーを叩き割って両機体間におけるシグナルカラーの合神シークエンスを開始した。

 そして、電子音が高らかに宣言するのだ。

安全装置(セイフティコード)解除(リリース)

超合神機構(ファイナリフュージョン)承認(プログラムドライブ)』と。

 それぞれの機体のサポートコンシェルジュが囁き、合体機構が作動する。

「ダンガード・ギア、ドライブシステムリリース! ドライブチェーンジ! さあ、来な(G0)!!」

 リトリルの叫びと同時、ダンガードGの胸部装甲が開いて後ろに下がり、開いた中に覗く脊髄と骨格の内側に巨大な蒼星石(そうせいせき)を核としたエネルギーコアが露出した。

「「応さ!」」ダンガード・コア、ドライブチェーンジ!」」

 次いで、シマとユキが叫ぶ。

「「「Go!」」」

 ダンガード・コアの四肢、尾、両翼がそれぞれにマニュピレータ接続へと切り変わり

「「「トリプルドライブシステム、イグニッション!!!」」」

 開いたギアの内側にコアが収まり、解放されていた装甲が閉じて一つになる。全長は伸び、翼持つその姿は天使のそれを彷彿とさせる。―――それこそが

「「「夢と浪漫の超絶合体!奏魂合神(そうこんがっしん)ダンガード(エース)!!!」」」

 それこそが、核融合炉を遥かに凌ぎ、タキオン粒子発生機関すら星の彼方に置き去りした夢の駆動機関、正式名称を設計者の名前からシズマ・ドライブと呼ばれる夢幻機関を搭載したダンガードの真の姿。

  ◆

 眼前、何がどうなったのか、いきなり光り輝いて変形合体をキメた武神を前に、レイラ・デスティニーとブルース・J・スピードの二人以外の艦橋に上がっていた全員が拳を握って叫び声をあげた。

「カッケーーーーーーーーーーー!!!!」

 敵前にしてこれである。

 

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 いつになく(てん)が騒がしい。

 頭上に輝く太陽が、自身の生命の終演を始めてから狂い出したこの星には、もはやこの身しか遺されてはいないとはいえ人様の頭の上をなんだと思っているのであろうか。

「―――。」

 睨みつけるその姿に威厳あり。

 (すた)れれどもその姿には一部の隙もなく、王族だけが(まと)覇気(はき)が陰りも見せずに魅せていた。

「―――――などと言うなどと思われてはこの身の廃れも極まれりというものよな」

 怜悧(れいり)と云う他ない切れ長の瞳は美しい薄紫(はくし)の虹彩。

すっと引き結んだ唇には血の様に真っ赤な朱(ルージュ)が引かれ、その身は飾り気のない平服であるにもかかわらず、まるで豪奢なドレスでも纏っているかのような気品が彼女の周りには漂っていた。

 ハルリアリーク・ブレダ・バレッド・チロト・フルール。

 彼女の背後には廃墟もかくやと云わんばかりに薄汚れた古城がある。

 かつて築城屋の中では伝説の名工と言われた名工、カリオストロ・ヴァンシュタインの手によるそれは度重なる風雨と手入れをする者もなく長く放置されたとはいえ、廃れぬ風格未だ誇示していた。

 澄み渡る天空の蒼穹をそのままに染め抜いたかのような深い深い青い衣に白い髑髏を染め上げて、腰には重ねた年月の重さを感じさせる鍔を()いた重力サーベルがある。

 遥かなる大木の如き渋く重い赤銅の髪が風に揺れた。

「まぁ、()い。終幕の余興にしてはそれなりに華のある(いくさ)を魅せよ。それがせめてもの、この星に対する(はなむけ)であろう。我らが手向けてやることの出来なかったそれだ。存分に舞うが良い」

 水面に写った満月のように、透き通った声音で、ハルリアリークは言の葉を紡いだ。

 

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「カッケーーーーーーーーーーー!!!!」

 喝采をあげ、拳を握る。

 男ならば皆そうかと聞かれれば、ブルース・J・スピードは否定する。

 まぁ、なんだ。確かに悪くはないと思う。機械の可動域が変形と合体によって変化するのも、機動力が上がるのも込み上げるものがあるし浪漫だとは思う。

だがしかし。

 回復したとはいえ計器類を見ればとてもではないが楽観できる状況ではないのだ。

 極光の棚引くこの海域で、あの無理のかかった艦体の鼻先を全力で蹴られれば少なくとも航行に大きな支障を来たすことを避ける事は出来ないだろう。

 だから―――

「馬鹿をやってないで逃げ――――」

  ◆

 合体を終えたダンガードAは三対の切っ先を構える船に対し、肩を落とし半身を引いた姿勢で相対する。

 少なくとも、楽観して良い相手ではない事は先刻の二層式特殊電磁衝撃砲の直撃を受けてなお微動で済むその様から油断のゆの字も許されない相手であることは明白だ。

 だから―――

「二人とも、あれをやるぜ!」

「「応!!」」

 必倒の一撃を見舞う号令をシマはかけ、二人は応えた。

それは、(コア)歯車(ギア)を掛けることでより大きな力を引き出す事ができるAでのみ真価を発揮する一撃。

その名も――

「スーパー」

「「イナヅマァァァァ」」

「「「キィィィィィィィィィィィィィック!!!」」」

 それはダンガードA第一の蹴撃機構。

 四方八方へ雷撃を飛ばし、それに沿って縦横無尽に滑走を繰り返して狙った場所へ流星の如き煌きと共に破砕の一撃を見舞う。

 それがスーパーイナヅマキックである。

 正面からの相対位置からは予想の利かない複雑怪奇な軌道を描き、ダンガードAはデス シャドウのどてっぱら目がけて超吶喊蹴撃(スーパーイナヅマキック)を突き刺さんと突っ込んだ。

  ◆     ◆

 「鼻先から蹴られたら堪ったものではない」などという考えはまるでポテトタルトの上から甘露煮や蜂蜜を振りかけ、更に砂糖をまぶしてキャラメリゼしたかの如き甘さであった事を、目前で雷撃を放ちながら意味不明で滅茶苦茶な軌道を描きながら向かってくる合体武神を見て痛感せざるを得なかったのはブルースだけだった。

 ―――だが、これはブルース自身認めざるを得ない事だったが、この状況を楽しんでいる自分もいる。

 口でなんと言おうと、頭でどう考えていようと、ブルースもまた海賊だった。

 出来るかどうか分からないからこそ面白い。

  ◆     ◆    ◆

 必倒の一撃だった。

 少なくともこれまで軌道を読み切られたことはなかったし、受け止められることなど皆無だった。

 だから、シマは疑いもしなかった。

 だが、何事にも例外はあり、終わりがある。

 ダンガードA最速の一撃は、デスシャドウ右舷中央、第一砲塔と第二砲塔の中間への直撃コースを突き進み、そして右足を伸ばし、左足を畳んだ独特な突貫姿勢のまま装甲版手前で静止することとなったのである。

 

 




というわけで第七回です。
取り敢えず、第一章は次回で最終回となります。
といってもちょっと書きあぐねてる所があるので更新は来週か再来週か、みたいな感じです。

2025年2月23日改訂
…全然来週とか再来週ではありませんでした。
ごめんなさい。
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