宇宙海賊ミーメの大冒険   作:沖田十三郎

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遅くなりました。
ごめんなさいです。


第一章 第八回(最終回)

29/

 俗に、異界の知識を降ろして扱える人間のことを異祭(フォーリナー)と呼び、あらゆる並行世界や未来の知識を幻視し幻聴し、そして引き出して自在に扱える人間のことを深渦(ダナサイター)と呼ぶ。

 それぞれであってもその絶対数は少なく、確認事例もまた同様に少ない。

しかし、その掛け合わせとなると例はほぼ皆無だ。物理現象に直接作用を及ぼすことの出来るほどに裏界(アストラルサイド)の力を引き出す術を人類はまだ得ていない。

 だが、あり得ないなどという事はこの宇宙においてはそれこそ有り得ない。

 可能性という名の(カガヤキ)は、それを否定されない。

 それこそが、この宇宙が自らのベールの向こう側へ隠した真実なのだから。

  ◆

 それは俗に深動響鳴現象(ダイバー0)と呼ばれる。

 本来は環帯能力の一つである鏡鳴(ダイバー)が打つ層抗往還波(ピンガー)に際して耳朶を微かに震わせる現象を指す言葉であるが、しかしそれには幾つかの深度(レベル)があるとされている。

 その内の一つがゼロという呼称を与えられた基本物理現象である。それは空間振動とも時空間振導帯共鳴現象とも言われるが、類別をおいて他に判明している深度の浅い超力に関連する現象のため詳細は判然としていない。

 ただ、起きる事象として観測されているそれは、空間に波紋を生じさせ、動態に対して影響を与える事無く静止させるという、ただそれだけの事でしかないのだが―――

◆   ◆

 緋色に染まった粒子の波に稲妻の軌跡を残し、瞬く間もなくそれは突き進む。

 その様、まさしく雷鑓(ケラウノス)

 されど、それ止める波紋、まるで熾天円環(ローアイアス)

 神の時代から人の時代へと変遷し、なお続く幻想の再現だった。

 

30/

 慣性の法則も物理現象の限界さえも彼方へと置き去りにし、蹴撃の形のままに巨人は止まる。美しい紫紺に揺らめく波紋が所在なく揺らめいている。

 人為によって引き起こされた、それは奇跡に非ず。

ただ、人の願いは現実を踏み倒す力があるという、ただそれだけの事であった。

  ◆

「くっ…くぅぅぅぅ」

 苦しそうに表情を歪め、脂汗を垂らしながら、ミーちゃんは頑張った。

 光の膜が(ほど)けるように、粒子が砕けて落ちるかのように、人の顔をしたミーちゃんの顔の下から毛が覗いた。

 伏せられた豊かな睫毛を持ち上げると、瞼の下から幽かな紫の燐光が漏れている。

「…!」

 誰かの息を呑む音がデスシャドウの艦橋に渡った。

 誰もが、息を呑んでいた。

◆    ◆

「まだだ!「「ダンガードAの力は!!「「「こんなものじゃないわよ!!!」」」

 トリプルシートとなったダンガードAの中で、三人は雄叫びを上げる。目の前の出来事など目に見えてはいない。ただ、気炎が吹き上がる。

 ガっと見開いた瞳には銀河のような渦が光る。

 それは、螺旋力の爆発現象の証左である。

 しかし、いくら瞳に銀河を宿そうと、いくらダンガードAから星の息吹が吹き上がろうと、静止した空間は揺らがない。   

◆    ◆    ◆

 艦橋の静寂は一拍をおいて弛緩した。

 何かの砕ける音が艦橋に居たクルーの耳朶を震わせたからである。

 視線を背後に向ければ、歯を食いしばり、普段愛くるしい茶色の瞳に紫紺の光を宿し、脂汗を流すミーちゃんの姿があった。

 今はもう全宇宙を走索しても見つけられる確率がほとんどないと云われる幻の種族・猫人族。

 その大きな特徴である猫その物の東部、全身を薄い体毛で覆われた姿をした彼女が、艦橋からも覗き見える蹴撃を止める波紋の発生源であることは一目瞭然だったのである。

 それに比べればミーちゃんの正体なんぞ何の問題でもなかった。

 元より、ミーちゃんがミーちゃんである限り、何族であろうが何の問題もない。

 だが、問題はそこではない。猫人族に巨大な鋼鉄の塊の突撃を遠隔で()き止める力などありはしない。

――だから。

「ミーちゃん……」

「……。」

「そうか、お前は……」

 ダナサイターだったのか、ミーメの直近に居たミーちゃんにだけ聴こえたその声を、しかしミーメはミーちゃん以外には聞こえない。場違いなほど優しい声で呟いた。

そして―――

「デスラー、左舷転進!ブルース、右舷ロケットアンカー射撃!出来る限りアイツを遠ざけろ。ヤッタラン、波動防壁展開!実験中だろうが知ったことか。壊れたら直せばいい。 総員、ミーちゃんが稼いだ貴重なチャンスを絶対に取りこぼすな!!尻尾を巻いて逃げ出すぞ!!!」

 視線を外に向ければ、吶喊に向いたエネルギーが自身に跳ね返った様子もなく、ただぼんやりとダンガードAが漂流している。関節部から吹き上がる銀河の様な渦が、陽炎の向こうから睨む鬼神の如きダンガードAを復帰させつつある。

◆    ◆    ◆    ◆

 ダンガードAのコクピットの中、モニターに視線をやって数瞬、リトリルから気炎が消えた。

「……まさか。 お姉ちゃん?」

 シマの背後でリトリルは驚愕と歓喜を()い交ぜにした表情で固まっていた。

 

31/

 実際のところ、デスシャドウは這う這うの体だった。

 元々が無理に無理を重ねたうえでのだった。休息が必要な状況だったのだ。

 第一の魔窟(機関室の住人)が全力を尽くしたおかげで圧縮波動重力エンジンはなんとか平時の80%の出力を維持していた。

 三対の連動主機のうち一つは沈黙し、残る二基もまた十全には程遠い。

 亜空の底から抜け出る事に成功してなお、戦闘に割り振るには余力が足りず、てもはやマンパワーも限界だった。

 艦内のあちらこちらで異常警報を鳴らしながら、デスシャドウは緋色の幕の下へ落ちてゆく。

 艦首の先には赤と青と緑が斑を描く惑星ムラサイ。

 彼らは、この星の上で運命に出会う。

 ミーメを待ち受ける主命の歯車がゆっくりと動き始めたのである。

 

 

第一章 了

 




随分とお待たせいたしましたが、これにて第一章完結にございます。
現在、急遽の予定変更で発生した第二章の執筆中です。
がんばります。

次章「緋色の戴冠式」につづく
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