私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

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いざ、ガダルカナル島へ。


上陸!

 

 

『古鷹さん、陸戦隊の編成、完了です!』

 

 海軍陸戦隊、それは英国海軍の海兵隊をモデルに日本海軍が設置した非常設部隊のことである。ちなみに英国海軍における海兵隊とは操艦や兵装操作の為の人員とは異なる部隊……敵艦に『移乗』し、敵艦の制圧を行う部隊のことなのだが、木造フリゲート船で撃ち合っていた時代ならいざ知らず、時代が進み兵装が発達した近代では移乗できるほど艦同士が接近するという事態は非現実的なものとなっていた。故に日本でも一時期は海兵隊が置かれていたものの、戦闘職種としての海兵隊はすぐに解散させられている。

 

 しかし、専門の白兵戦要員がいなくなっても、やはりそれが必要となる場合はある。その為の海軍陸戦隊。必要に応じて水兵を武装させ、戦闘に充てる。

 

 まあ、こういう風に言えば陸戦隊は海軍のオマケ、陸軍への対抗意識程度に思われてしまうのだが、帝国海軍の海軍陸戦隊はかなり活躍している。最終的には常設地上部隊としての陸戦隊も存在していたわけだし。

 実戦経験もあり、島嶼の制圧を任されることもあるため練度も十分。立派な戦力だ。

 

 ……もちろん、陸戦隊の犠牲=優秀な水兵を失うということなので、無闇矢鱈に陸戦隊を投入するのは避けたいものだが。

 

「……準備が整ったようですね」

 

 陸の準備は出来た。ちなみに、連合艦隊所属の巡洋艦なら二個小隊規模(約80名)ほどの陸戦隊を編成することが出来る。

 

 次は……空!

 

「飛行科さん!」

 

 既に展開されているカタパルト、その横に飛行科小人が現れる。

 

『待ってましたー!』

 

「上空からの警戒をお願いしますね、爆装で」

 

『やった! 爆撃任務だ!』

 

 いや……敵が居たら十中八九、撤退命令を出すことになると思うのだけれど……。

 まあ水を差すのもアレなので、黙っておくことにする。

 

「それでは……発艦用意!」

 

『発艦位置へ!』

 

『エンジン始動!』

 

 カタパルトに飛び乗った飛行科小人が光を放ちながら複葉の偵察機へと姿を変える……やはり不思議な光景だ。慣れそうにない。

 

「発艦!」

 

『射出!』

 

 軽い破裂音とともに打ち出される94式水上偵察機。これを上空に待機させ、陸戦隊の援護……というか周囲の警戒を行わせる。

 

『古鷹さんー、二番にも出番をくださいよー』

 

「今回はあくまで援護ですから……」

 

 前にも言ったが飛行機は飛ぶだけで部品を食いつぶすのだ。無闇に飛ばす必要はない。一機あれば十分。

 

『でもー』

 

 うじうじ言われても困るので、ここはリップサービスだけでもしておくか……。

 

「……分かりました、一番は爆装で多少とはいえ機動力が落ちていますから、もし敵機の来襲があれば、防空任務をお願いしますね」

 

『分っかりましたー! 二番機、待機してます!』

 

 ……なんだろう、前にも少しは思ったが、私はこの飛行科小人の子守か何かなのだろうか?

 ともかく、これで空の準備も出来た。

 

 

「航海科さん!」

 

『はい、こちらが海流図です!』

 

 海流図、海図にもいつくか種類がある。海流図に記載されているのは沿岸部の潮の流れで、まあつまり、水深の方のデータと合わせて座礁防止に役立てようということだ。

 ……いやまあ、確かに海に『立っている』私が座礁するのかどうかは分からないけれど……。

 

 というかよくそうやってポンポンと地図が出てくるものだ。軍艦古鷹がいた頃の世界での地図は国家の機密文書扱いだったはず。ドイツから英国へと統治権が引き渡されたソロモン諸島。日本の手にあったのは僅かな期間だったはず。測量するのは難しかっただろう。

 しかし、実際に測量船なども派遣されていたわけで、戦局が違えば詳しい測量も可能だっただろう。

 

 ……そう、戦局が違えば。

 

 細かい違いかもしれないが……これもまた、この世界について考える一つの根拠なのだろう。

 ……いい加減、どっかに図書館ないだろうか。歴史書でも読めれば一々こんなこと考えなくて済むのだが。

 

 

 ともかく。私は一気に沿岸へと接近。漁船や小屋の残骸が見えるあたり、やはり「ここにヒトが住んでいた(・・)」ということは間違いなさそうだ。

 

「疎開でしょうか……」

 

『……くたびれ具合を見る限り、こりゃ放置されてから結構経ってますね』

 

 やはり……何らかの紛争、それが長い間続いているのは間違いなさそうだ。

 

「では……予定通りに」

 

 

 一気に肉薄、半壊して打ち上げられた漁船の真横を通り過ぎ、そして一瞬だけ陸へ。

 

「古鷹陸戦隊! 出撃!」

 

 号令一下、私の肩から、腕から、腰から……一斉に飛び出す小人たち。

 

『野郎どもおおお! いくぞおおおお!』

『突撃ー!』

『ヤマトダマシイヲミセテヤルー!』

『のりこめー』

『わぁい』

 

 それぞれ意気揚々におよそ60の完全武装小人が上陸、それを見届けると同時に私は急速に離脱する。

 

 

 そして、適当な距離で、構える。

 

「砲術科さん……準備はいいですね?」

 

『もちろんです! シャーマン、タイガァー、T34……そしてチハたん! どんな戦車でもこの203mmには敵いやしません!』

 

 

 ここ、ソロモン諸島で今何が起こっているのか、私には分からない。

 

 だが偵察機は攻撃を受けた……無警告で。

 それがソロモン諸島の現実なのだろう。それは時代の流れのため。致し方のないこと。

 故に……警戒は怠らない。

 

 目の前の集落、それ自体には何の敵意もないだろう。しかしそこに敵意が潜んでいる可能性はある。

 

 だからこそ、空からの監視、陸戦隊による事前偵察。

 

 そして……敵が出てきた暁には……。

 

「(この、20.3cm砲で……)」

 

 

 警戒のしすぎかもしれない。だが、無事祖国に帰るためにも……私は少しでも損害を抑えたい。なら、慎重になるしかないのだ。

 

 もちろん、敵対勢力が出てこないのが一番だが。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 やっぱり小人は小人だ。予想以上に待たされてから報告がもたらされる。

 

 それによれば、沿岸部は物置小屋しか程度しか置かれておらず、民家はもう少し海から離れたところにあるということだ。そして、その集落には最近生活した痕跡がないとのこと。

 

 まぁ分かってはいたが、自ら乗り込んでの探索が必要そうである。上空の94式も敵影なしと報告し、それを受けて私は満を持して上陸する。

 

「機関科さん、火を落としてください」

 

『了解です』

 

 その言葉を聞いてから一瞬の間を置き、艤装から伝わってきていた脈動感がじわじわと……そう、引き潮のように引いてゆく。さっきも言ったように航行するためには事前に缶を温めておくことが必要だ。これで、何かあっても私は直ぐに海へ逃げることはできない。

 ……だからこそ、入念に調べさせたのだ。

 

「陸戦隊を集合させてください、それと偵察機はここ周辺にヒトが住んでいそうな場所がないか捜索をお願いしますね」

 

『『了解!』』

 

 上空の94式が飛び去り、周囲から小人がちょこちょこと走ってくる。そんな様子を見ながら、私は腰より拳銃を取り出した。型式は知らないが、装填して撃つことぐらいなら何とかできる。

 

 当然、艤装の20.3cm砲の方が威力はあるのだろうが、市街戦では威力なんかより取り回しだ。

 ……まあ、分解整備する技能も道具もないので、これも使いたくはないのだが。

 

「では……行きましょう」

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 陸戦隊の面々の案内を受けつつ進んでゆく。ほとんどの民家は高床式の一階建て、配置は結構まばら、だが想像していたほど古びてはいなかった(藁葺き屋根だと思っていたのは内緒だ)。

 民家の配置がばらけているのは田舎である証拠……ちょっと上陸地点を間違えたかもしれない。いや、仮にこの島に都市部があったとして、そこにいきなり上陸するのはいくらなんでも危険だろう。

 誰にも見られず上陸できたのだ。それだけでも感謝しないと。

 

 そんな風に周りを見回しながら歩いていると、ある家の横に少し変わった庭を見つけた。見てきた民家の中には草木に侵食され始めているものもあったが、この庭には草の生えていない場所があるのだ。

 いや……場所というより、草の生えていない帯と言ったほうが適切だろうか?

 

「このスペースの空き方……自動車、ですかね?」

 

 丁度車一台分の車輪跡とも見れるスペースに草が生えていないのだ。草が生えないということはつい最近まで陽が届かないか常に踏み荒らされるなど草が育たない状態になっていたという訳で、仮に自動車の駐車場となっていたというのなら説明がつく。

 

『あー、確かにそれっぽいですね』

 

 妖精も同意を示す。しかし、それにしては露骨な残り方だ。草木といった自然の力はすごいわけで、僅かな期間草刈りを怠っただけで庭中草まみれなどとはよくある話である。そういう点では、沿岸で見た放置された漁船などと比べるとこの集落の家々が対して全然劣化していないのも不思議な話である。

 

 ……沿岸部ほど、長い間放置されてなかったのだろうか。確かにここまで歩いてきた道などにはまだ草が生えてきていない。陸戦隊は生活の痕跡がないと報告したが……つい一、二週間前は人が住んでいた……ありえる話だ。

 

 まあ、考察するには情報が足りなすぎる。今考えるのはやめよう。

 そんなことより自動車が存在することが重要だ。ソロモン諸島の自動車普及率など知らないが、発展途上国のソロモン諸島に自動車があるというのだから、やはり第二次世界時から時代はかなり進んでいることが予測できる。つまりだ……行政機能の、いや、どこでもいいから電気が通じている場所に行けば、インターネットなどの文明の利器と接触できる可能性もあるかもしれない。

 

 そんな都合のいいことを考えつつ進む道のり、まっすぐな区画割をなされた農地はやはり現代のそれで、作業小屋などを探せば農業機械の類も保管されていることが予想できる。

 

 農地、綺麗に並んだいかにも南国らしい木々。そして遠くから聞こえる鳥の鳴き声と海の囁き……。

 

 

 ……しかし、これだけの数の家々……ここへ住んでいた人、そして自動車などはどこへ行ったのだ?

 

 

 冷や汗が出てきた。

 

 ゲリラという言葉がある。

 

 ゲリラ戦とは恐ろしいものである。特に民間ゲリラは怖い。普通の農民の顔をした住人たちが、何かの合図に一斉に敵となるのである。ベトナム戦争の際に疑心暗鬼に陥った韓国軍が村ごと焼き払ったように、その脅威と有効性は数々の戦いで証明済みだ。

 

 過剰な警戒だと言う人もいるだろう……私はここに住んでいた人を全く知らない。しかし、人間そう簡単に家を手放せるものじゃないことぐらいは知っている。彼らにとっての家は財産であり、自分の人生に安心をもたらしてくれる避難所(シェルター)だ。

 そう簡単に手放せるもんじゃない。それに相手は少女一人。背後からぶすりとやれば勝てると思われているかもしれない。

 ……もちろん負けるつもりはないし、そもそも自分は少女じゃないのだが。

 

「住民の方は……どこに行ったんでしょうね……?」

 

 拳銃を握る手にも汗がにじむ。

 

 とはいえ、私には進むしか道は残されていないのだ。

 

 

 陸戦隊小人の先導に従い、前へと進む。

 

 一つの建物が見えてきた。

 

 上陸した時からここを目指していたのだ。収穫があるかどうかも分からない民家をしらみつぶしに探す時間的余裕はない。

 

 学校か、それとも役所なのか……ともかく、ここの集落で一番大きいと思われる鉄筋コンクリート造りの建物へと、私は足を踏み入れる。大きな建物は地域の中心としての役割を担っているはずで、役所なら行政機能、仮にここが学校だったとしても地図や図書など得られるものは大きいはず。

 

「……」

 

 ここなら、きっと何かが分かるはずだ。

 

 

 

 

 




拳銃を構え、索敵を行う古鷹さん。
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