私、重巡洋艦なんです! 作:探照灯要員
読みづらいかもしれないです。
11/7 20:21「ホラニア」ってどこだよ……訂正しました。大変失礼しました。
ぽとりと落ちたメモ帳。
「ふ、古鷹……さん?」
出会った相手、私に拳銃を向けて、そして私に協力しようと言い放った相手。
彼女は確かに今、私の名前を口にした。大日本帝国の誇る一等巡洋艦、古鷹の名を。
な、何故私の名前を知っている……? いや、確かに自分が目覚める以前の私に関する情報を自分は知らない。知り合いがいたというのも不思議ではない。なんせ私はIJNのCA-Furutaka01。組織に所属するなら当然知り合い……即ち、同僚や上官がいるのは当然だ。
……さて、困った。
自分は私のことを知らない。この娘はこれまで、どこで何をしていたのか知らない。軍艦だってコウノトリが運んでくるわけではない。誰が、どこで私を生み出したのか。それすらわかっていない状況で、私を知っている人に出会ってしまうとは……。
最悪だ。
とはいえこちらも固まったままではいられない。
「えっと……私たち、どこかでお会いしましたっけ?」
……沈黙。
気まずい、というよりか……とにかく重い沈黙が流れた。
「えっと……あの、私……何か悪いことしましたか?」
すると、相手から表情が消えた。消えた気がした。
「え……? あ! いや、当然ですよね、はい……当たり前ですよね……」
既に驚愕を顔に浮かべていた彼女だが、今度はそれが狼狽へと変わる。
……これは不味い。直感とかそういうレベルでなく、どう見ても不味い。やはり彼女と私は知り合いだったのだ。
「えと……あの私……」
どう説明すれば良い? 記憶喪失? 間違ってはいないが……それで納得してもらえるだろうか。
いやしかし、それ以外に説明のしようなんてない。
そうして口を開こうとすると、相手は何かを拒否するように手のひらを突き出し、ブンブンと振った。
「あ、いいんですいいんです! 私たちほんと初対面ですから!!」
……初対面、なのか? 相手はそして口を閉ざした。そして視線を逸らす……私を、見ないように。
だめだ、分からない。
ともかく、状況が分からない以上はなるべく自分は喋らず、相手に話させ、情報を引き出すのが得策だろう……とはいえこのままでは相手も押し黙ったままだろうし……そう考え、こちらも口を開く。しかし言葉を選びきれず、しどろもどろな話し方になってしまう。
「あのっ……私、実は状況が全然わかっていなくて……それ以前に、ここ数日以外の記憶もなくて……」
それでも彼女は視線を逸らしたままだった。
「と、とりあえず、あなたのお名前を、教えてもらってもいいでしょうか?」
沈黙。
……何が悪かったのだろう。それから彼女はさらに顔を背け、ついに私に対して背を向けた。
望むのは、軍艦古鷹の沈んだ海。
「……名乗る価値のある者ではありません……通りすがりの巡洋艦とでも記憶しといてください」
通りすがりの巡洋艦……矛盾を感じるのはともかくとして、それは即ち、
「あなたと私は、同種の存在ということですか……?」
驚きではある。しかし、私と同種の存在がいることは予測のついていたこと。
それが確信に変わっただけだ。
「……そうだと思います」
「だったら……!」
しかし、今はそんな事より彼女が名乗らないことが不思議でならなかった。なんというべきか、ここで名乗らないのは流れに合わない。
「名乗りません……これは、あなたのためです」
あなたのため……ね。
まぁそんな台詞は置いといて、名乗れないとはどういうことだろう?
名前を知らない……のはありえないと思うので、何か話せない事情があるのか……?
ともすれば話したくない事情とは何だ?
「話したくない」というのは話すことにより自分が不利な状況に陥ると判断したことから生じる感情だ。
彼女が私に話すことで不利になる……それは何だろうか? 彼女は自身が巡洋艦であると言う。なら、彼女には艦名がついている訳で、それを知られることで私に流れる情報は……
……国籍だ。
自分は別に軍艦を知り尽くしているわけではない。しかし艦名を聞けば国の見立てはつく。韓国海軍艦艇に「竹島」と名付ける日帝の手先を韓国国民は許すだろうか? 国防とは政治、国防とは誇りのぶつかり合い。そういうものだ。過去の英雄の名を艦につける国もあり、現在の政治主張を込める国もある。
いずれにせよ、艦名にはその国の香りがする。
彼女は私の名を、つまり私が軍艦古鷹であることを理解している。しかし彼女は名乗らない……つまり、彼女は日本の、
なんせ日本人は世界70億のうちのたった1億。同胞は大事だ。それに、友軍に名を知られて不利になることなんてないだろう……。
……。
……まさか、まさかとは思うが。
……はめられた?
「……」
再び空気が張り詰める。しかしまだ終わりじゃない。確かに私の艤装には現在、弾が込められていない……だが忘れるな、古鷹1は爆装の上で現在待機中だ……最悪、彼女の首を6番で吹き飛ばすことくらいは出来るはず。
身体に緊張が走り、自然と臨戦態勢になる……その時だった。
音が聞こえた。
何の音か……どう表現したらいいのか分からないが、それは所謂「腹の虫が鳴いた」というやつだ。
私じゃない……私に背を向け、目の前に佇む彼女からだ。
「あ……」
相手も自分のお腹からの訴えを聞いたようで、先ほどまでとは違う、緩んだトーンの声を出す。
……衝動だったのか、それとも、無意識のうちに繰り出した生き残りへの大戦略なのか。
「あの、お腹空いているようでしたら……これ、食べますか?」
私は、持っている携帯食料を差し出していた。
……何故だろうか。なんとなく、差し出さなきゃいけない気がしたのだ。
もしかすると、あの緊張に割り込んできた彼女の腹の虫が、私をすっかり戦意喪失させてしまったのかもしれない。確かに目覚めて以来、初めての会話だった。気が張りすぎてもいたのだろう。
「あ、ありがとうございます……」
彼女はそれをもらう一瞬だけ振り返り、こちらを見ずにお礼を言うと、携帯食料を口にした。
少なくとも相手は協力を申し出ている。自分だって戦いたいわけじゃない……ここは、もう少し様子を見ようじゃないか。
★ ★ ★
「……ずるいですよ、古鷹さんは……ほんとに……」
彼女が背を向けていたため、私が気づくことはなかった。気づけなかった。
咀嚼に交じって放たれた彼女の呟きに。
◆ ◆ ◆
ここは、青葉がここ二、三日の仮拠点としている廃ビル。ここらでは一番の高層物件ですが……高層と呼ぶにはあまりに低い、小さな建物です。
青葉たちはとりあえず互いに敵意のないことを確認し、そして夜を迎えました。
……きっと青葉は、目的の達成へと一歩近づいたのでしょう。
そう思いながら青葉は、横で眠る彼女を見ます。僅かな光を放つ石油ランプの光に照らされた古鷹さん。自身の記憶が訴えかけてくる軍艦古鷹の姿も凛々しく、そして美しかったですが、目の前の彼女もまた、綺麗な姿で眠っています。寝顔も優しく……青葉にもこんな表情を向けてほしいものです。えぇ、無理なのは分かってますよ。
ワタシは大日本帝国海軍の一等巡洋艦である「青葉」。そう自覚させたのは目覚めた時から支えてくれた妖精さんだったのか、はたまた自分に確かに植え付けられた記憶だったのか……ともかく、自分が青葉であることに青葉は確信を抱いています。これが違うというのなら、青葉のアイデンティティーは崩壊待ったなしです。
右も左も、自身の座標も分からない中、青葉は必死に現在地を調べました。そして自身がソロモン諸島にほど近い場所にいると知った時、迷うことなくここを目指してきました。
なぜか……そうですね。これは青葉の勝手な憶測ですが……青葉がこうして二本足で立っているのは、やり直したいことがあるからだと思うんです。
青葉はここからやり直したい。あの戦争の趨勢を決めた、ソロモン諸島から。
今度は、僚艦のみんなが、一隻も沈むことのないように。
「……古鷹さんの妖精さん、聞こえてますか?」
古鷹さんの艤装へと話しかけます。思った通り、すぐに出てくる小さな妖精さんの姿。
『なんでしょう……青葉さん』
ほら、やっぱり妖精さんも青葉の名前を知っています……これで古鷹さんが青葉の名前を知らないなんて、あり得るはずがないですよねぇ?
……だからこそ、布石を打っておく必要があります。
「お願いがあります」
『……』
「古鷹さんには、青葉のこと、一切喋らないでほしいんです」
『……何故ですか』
「青葉は、許されていないんですよ」
ヒトの記憶は強く……脆い。そんな言葉がある。それはきっとヒトとなった青葉たちにも当てはまるはずで、古鷹さんは青葉のことを覚えていない……。
「古鷹さんは、青葉の存在を消したがっていると思うんですよ」
『そんなこと……』
「じゃあ、どうして古鷹さんは青葉のことを認識できないんです?」
青葉は古鷹さんのヒトとしての容姿なんてしらない。でも、『見た瞬間に分かった』。誰もいないソロモン諸島。数多く残された日本系組織によるものと思われる戦闘の痕跡……そして、時たま見かける青葉に敵意を抱く存在。どれも青葉にとっては疑問符を浮かべざるを得ない光景ばかりだが、彼女が古鷹さんであることを理解するのに、時間も、理論も必要なかった。 その顔を見た瞬間、直感で分かったのだ。
友軍もいない、とりあえずは仮拠点を作ったが、ここから行く先もない。
そんな中で、青葉の前に現れたのがまさかの古鷹さんだったのだ。
本当に嬉しかった。
彼女はまだ沈んでいない。
青葉の力で変えられる。
そう本気で思った。
でも……やはり青葉は許されていなかったのです。
「えっと……私たち、どこかでお会いしましたっけ?」
彼女は青葉のことを覚えていない。
でも、優しく接してくれた。隠しきれない疑惑を抱いていたのは確かだが、こうして青葉の話を聞き、そして行動を共にすることを約束してくれた。普通なら初対面の人の前で無防備に寝ることなんて出来ないはずなのに……こうしてゆっくりと寝ていてくれている。
あ……最後のは……古鷹さんがおっちょこちょいなだけですかね? 実際、初めは寝ないよう頑張っていたようですし……まあそれはともかく。
「……古鷹さんは優しい方です……軍艦は物言わぬ鉄の塊ですから、こういう言い方は変ですけど……青葉はそれを知っています。でも」
優しいのは、その相手が青葉だと認識していないから。
「……だから青葉に時間を下さい」
『……』
「必ず、この件にケリをつけます……」
許されることではない。許しを請うつもりなど毛頭ない。
だから、ケリをつける。
『……青葉さん、その考え方、自分らは正しいとは思いません』
「そうでしょうね……青葉の、自己満足ですから」
自己満足です。ですが今の青葉は、幸運なことに上位の指揮系統を失っている。だからやりたいんです。自己満足を。
『ですが……まぁ協力はします……』
古鷹さんは、本当に青葉さんを認識できていないようですし。そう続ける妖精の言葉に、青葉はほっと胸をなでおろしました。
古鷹さんのことです。青葉が青葉だと分かっても、きっと優しく接してくれる。そうでしょう。
……でもそんな、建前の優しさなんていりません。
全てを知って、そして無意識下に封殺しようとしているのであろう彼女に青葉は目を遣ります。
「古鷹さん……今度は、青葉が……」
古鷹さんにとっての、三回目の夜が流れていきます。
……そろそろ夜警の交代時間ですね。古鷹さんを起こしてあげませんと。
ども、恐縮です、作者です!
……二日目のあとがきと同じ入り方ですね。あの時三日目に登場する艦娘を青葉だと当てた方はいらっしゃいますか? いらっしゃいましたら盛大な拍手を!
と、いう訳で三日目も終わりです。今回は青葉視点を入れましたが、もう使うことはないと思います。分かりづらくなりますし、なにより作風が変わっちゃいますからね。
さて、次回は四日目、すれ違いの二隻はどこへ行くのか……お楽しみに。
お気に入りがまさかの300突破! ありがとうございます!
今後も隔日ではありますが頑張ってまいりますので、お付き合いいただけると幸いです!
それでは!