私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

18 / 32
タイトルの意味はそのままです。またしても文章が伸びた。


……!?

「あはは、やだなぁ……古鷹さんの故郷(にっぽん)のことがちょっと気になっただけですよ」

 

「……」

 

 

 些細な疑問。でも、本質的な疑問。

 

 あなたは何者? なんで私の名前を知っているの?

 それが再び噴出した。それだけ。いつかは噴出すると知りつつ、気にしないようにしてきた問題。

 

 

「……」

 

 

 向こうは何か口を開こうとしたが、押し黙る。下手に誤魔化すのは良くないと思ったのだろうか? それだったら、問い詰める価値はある……でも……。

 

 

 その迷いは、予想外の方向から遮られることになった。

 

 

《古鷹2から古鷹へ、緊急連絡です》

 

 割り込んできたのは通信だった。最悪の事態に備えて私が用意していた爆装の94式。そこからの通信だ。

 

(な、なんですか……こんな時に)

 

 念じることで返信する。目の前の彼女にこの通信はバレていないだろうか。冷や汗が走る。

 

 

 しかし……そこに続いた報告に、冷や汗の供給も止まる。

 

《国籍不明の航空機が……そっちに向かっています……古鷹1に聞いたのと、おんなじやつです》

 

(え……)

 

 

 忘れもしない。

 

 目覚めて二日目のこと。私の偵察機一番は攻撃を受けた。

 私にこの世界の実情を受け入れることを強要し、そして明確な敵対意思を示してきた初めての接触。

 

 その偵察機一番に攻撃を仕掛けたのと同じ奴が……こちらに向かっている?

 

 隠れなくては。そいつは無警告で偵察機一番を撃った。私のこともきっと、無警告で撃つに違いない。

 

 逃げなくては。

 

 

 ……ただし、一つだけ問題が。

 もし私が隠れようとすれば、彼女に隠れて私が水偵を用意していたことが、多分バレる。いや間違いなくバレる。

 

 私が何のために水偵を、それも爆装で用意していたか? そりゃ当然、彼女が私、すなわち軍艦古鷹に仇なす存在だった時……軍艦古鷹として最大限に立ち回るためだ。平たく言えば、航空戦力を用意することで有利になるためだ。

 

 

 私が先手を取れるように武器を隠していたことを知ったなら、

 

 彼女は……私をどうするだろうか。

 

 私がもし彼女に同じことをされたのなら……答えは言うまでもないよね。分かってる。保険とはリスクを回避するために新たなリスクを負うこと。私の彼女への不信からの保険は彼女が私に不信を持つきっかけを与え、そして彼女の私への不信が機能するのだろう。

 

 

 いや、分かってる。

 分かってはいるのだ。敵対勢力であろう不明機を事前に発見できたのは私の備えがあったからだ。

 

 そして今、起こるかどうかも分からない彼女との対立なんかよりより明白な危険が迫っている。

 

 

 逃げなくては。そんなことは言われなくても分かっているのだ。でも目の前の彼女に私の手の内を知られるのは困る。

 

 では……どうすれば、どうすれば彼女に疑われずにこの場を切り抜けられる?

 

 ……迷ってる時間はなかった。なんせ航空機の足は速いのだ。

 ええい! もうどうにでもなってしまえ!

 

 

「来てください」

 

「……えっ?」

 

 私が考え込んでいたせいでやけに続いた沈黙からの私のこの発言である。彼女も状況が飲み込めていないことだろう。

 だが、そんなことは知らない!

 

「いいから!」

 

 がしっと彼女の腕を掴む。彼女はそれにびくりと肩を震わせたが、構わず乱暴に引っ張る。彼女は体勢を崩したが、流石に私だってこけるほど強くは引っ張っていないのでつんのめるに留まる。

 

「えっ、ちょっと、古鷹さん?!」

 

 ともかくスピードが肝心だ。彼女の顔に目もくれず、私はずんずんと引っ張っていった。

 

 とりあえずは、あのぼこぼこのターミナルビルを目指す。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「ここまで来れば……大丈夫ですよね」

 

「もぉ……何なんですか古鷹さん……」

 

 ぼこぼこに破壊された跡のあるターミナルビルへと入る。ここなら外から見られる心配はないはずだ。私は彼女を引っ張ったままエプロン側からこのビルへと入ってきたわけで、ここは恐らく待合室と思しき部屋。ここにもひどい破壊跡が残っており、長椅子だったと思われる何かが散乱している状況だが、今にも崩れてきそう、という雰囲気はなかった。大型爆弾を食らったのではなく、機関砲の掃射を受けたような、そんな感じだ。

 

「……ちょっと、聞いてるんですか! というか放してください古鷹さん!」

 

「あっ、すいません……つい」

 

 ごめん、一瞬とはいえあなたのことを失念していた。掴んでいた腕を放すと、彼女は掴まれていた部分をゆっくり擦る。

 

「つい、じゃないですよ……」

 

「あ……痛かった、ですか?」

 

 慌てていたので配慮せずに引っ張ってしまったかもしれない。

 

「……痛くなんてないですよ……それにしても」

 

 と、どうしてだか口角を吊り上げる。なにか面白いネタを見つけたかのように。

 

「古鷹さんも大胆ですねぇ……で? 何のためにワタシを連れ込んだんです?」

 

 連れ込んだってどんな言い回しですか。それ。

 

 ……まった。

 ここ室内のせいで暗がりで、なんか誤解されそうじゃないですか!

 

「そういう意味はないですよ!」

 

「んん? そういう意味ってどういう意味ですかぁ?」

 

 あ、ちょっと微妙に顔を歪めながら作った微笑み浮かべないで! なんか変に紅潮してるじゃないですか! どんな演技派ですか?!

 

「か、からかわないでください……ここへ来たのはあれですよ、ほら……」

 

 えーと……なんと誤魔化したものか。

 

「あれですよ、空港が復旧されていたということは、この建物だって使われていたはずです」

 

 

 僅かな沈黙。

 

 

「……なるほど、まぁ確かにそれもそうですね、書類とかが無事だと良いですねぇ」

 

 納得してくれたの……かな?

 うん。とっさに出た方便としては我ながら上出来だったはず。

 

「じゃあ早速探しますかね」

 

 そういう彼女。先ほど両者の間に漂った空気は消え去り、緩やかな空気が漂う。

 ……私が考えていたことと会話の内容、何一つ一致してないよね……なんでこんなことばかり考えてるんだろう。

 

 でもこれではっきりした。さっきは目の前の彼女に私の手の内を知られるのは困るなんて言ったが……認めよう。

 私は彼女に疑われたくないのだ。そういう奴だと思われたくない。嫌われたくない。彼女を疑っている私に言う権利なんてないのはわかってるけど、なんせこの世界で初めての他人なのだ。良くしてくれた、会話のできる他人なのだ。不仲になんてなりたくない。一緒にいる心地よさを……失いたくない。

 

 ごめんね、こんな私で。目の前のまだ信用できない彼女に、私は心の中で謝ってしまう。つくづく矛盾してる。私ってこんなに寂しがり屋だっけ? なんで彼女を信じてないのに罪悪感を感じてしまうのだろう?

 

 

 ……もうやめだ、こんな話は。

 とにかく前向きにって決めたじゃないか。私は周囲を見回す。

 

 先ほどは方便といったが……確かにこの建物を調べればいい情報を得られるかもしれない。だってこの空港が復旧され、そして使用されていたのは間違いないのだから。

 

 さっきの悪い雰囲気を吹き飛ばし、そして結果オーライとはいえ建物の調査も出来る。

 

 一石二鳥とは……ううん。

 

 『その音』を聞いた私は、捜索モードに入ろうとしている彼女に私は声をかける。

 

「待ってください……何か聞こえますよ」

 

「?」

 

 遠くから空を切る羽音。おいでなすったようだ。

 

 

 ……謎の敵性勢力からも隠れられて、一石三鳥!

 とにかく前向きだ。明るく考えるんだ!

 

 状況は何一つ良くないままだけど。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「運が良かったというべきなのか……古鷹さんに先見の明があったというべきなのか……」

 

「ははは……」

 

 建物なら窓はあって当然。もちろんここの窓は全て割れているのだが、それでも隠れつつ様子を伺うには十二分な環境。

 

 彼女は双眼鏡を取り出して空を見上げている。もちろん私も負けじと空を見上げる。ちなみに双眼鏡とはいっても手持ちサイズの小さい奴だ。うん、もちろん妖精さんに出してもらった。

 ……NightVisionというスイッチがあるあたり、相当な金がかかってる代物な気がするんですけど。私別に普通の双眼鏡しか欲してないんですけど……。

 

 まあ大日本帝国の超技術はおいといて、問題は謎の飛行物体だ。

 

 なんというかさ……まさに謎の飛行物体(UFO)と呼ぶに相応しいなりをしてるんですよ。

 妖精さんに聞いたときに知らない航空機だと言っていたが、私だってあんな飛行機知らない。見たこともない。非現実的なフォルムだ。ありゃ一体何だ? どういう設計思想をしているのか是非聞きたい……とにかくそう言う風に、現実離れした姿の航空機。

 

「それで……あれはなんですか?」

 

 彼女に聞いてみる。

 

「ワタシは何回か見ましたよ? ガダルカナル(ここ)に来るまでに」

 

 ……何回か、見た?

 

「何回も、見た……?」

 

 彼女があれを何度も確認したというのは知らない情報だ。双眼鏡から彼女に目を移すと、彼女も視線を双眼鏡から私の目へと合わせる。

 

「その通りの意味ですよ、たまに飛んでくるんです……見つかると厄介ですよ?」

 

「……どういうこと、ですか?」

 

「ふふ……知りたいですか?」

 

 茶化すような言い回し。私は無言で頷く。すると彼女は急に真顔に変わり、低い声を出す。

 

「……あの飛行物体は目的を持っています」

 

「目的を持って……」

 

 それは私も同意見だ。だが、だから知らぬふりで聞く。私の古鷹1が攻撃を受けたという事実を彼女は知らない。おそらく彼女は、私が今日初めてあの航空機と出会ったのだと思っているのだろう。

 そう思わせておけばいい。

 

「あぁ、あくまでワタシの勘ですからね?」

 

 そうやって一応の予防線を張る彼女。別にこちらだってすべてを鵜呑みにするつもりなどない。

 

 しかし……目的ね。

 

 私は大日本帝国海軍(IJN)古鷹型一番艦(CA-Furutaka01)である訳で、攻撃を加えてきたのは私の航空機が何らかの理由で邪魔だったからだと考えている。無警告での攻撃は大日本帝国海軍とあの航空機が属する組織の関係性を象徴するものだとも考えている。

 でも、向こうの目的は知らない。なんせ推察するための情報がないのだ。

 

 ……彼女はどう考えている?

 

「その目的は、分かっているんですか?」

 

 聞いてみる。私の目的は情報収集であり、彼女もそれは理解してくれている。情報が得られれば良し、得られずとも疑われることはないだろう。

 

 彼女はかぶりを振った。

 

「……さぁ? ワタシに攻撃してくるんですし、お友達になりたいとは思ってないじゃないですかね?」

 

 彼女にも攻撃するのか……いやブラフの可能性が高い、今その情報はスルーだ。

 そんな私を知らず、彼女は呟くように付け足す。

 

「面倒なお母さんもいますしね、とりあえず見つかると面倒ですよ」

 

「お母さん?」

 

 よく分からないワードを思わずオウム返しに聞いてしまう。

 

「え? あぁ、あの飛行機の母艦ですよ」

 

 ……そういえば、古鷹1を襲撃した航空機も『不明船』から発進したものだったか。

 じゃああの航空機は、私にとっての偵察機のような役割を持っているということだ。

 

 ……つまり私がいつかした仮定は間違っていなかったということだ。

 その『お母さん』とやらは私たちと同じような装備を身に着け、そして私を狙っているのだ。

 

 理由など分かるものか、しかし現実に敵の偵察機は迫ってきている。いまだに上空を旋回していることから、私たちを探していることが……いや、純粋に飛行場を偵察しているだけか?

 

 ……いずれにせよ、『お母さん』がホニアラ国際空港(ここ)に興味を持っていることは疑いようがない。

 

 

 どうする?

 

 

 こちらの目的を考えろ私。私の目的は祖国の地を踏む……あ、軍艦だから領海にはいる? いやそんなことはどうでもいい、とにかく生きて日本へと帰ることだ。戦うことではない。

 だが……古鷹2の報告通り同一の航空機ならば(古鷹2が攻撃を受けたわけではないので、本当に同じ航空機なのかは分からない)この前の方が私のことを追って来てくれたということになる。

 随分とご丁寧なラブコールなことで……嬉しくもない。

 

 で、本当にそうなら問題だ。戦闘になるのか? 指揮系統もはっきりしていないこの私と? しかし大日本帝国海軍(IJN)所属なのはほぼ間違いない私。無用な、というか無許可の戦闘は極力避けなければならない。

 しかし執拗に追ってくるのなら逃げるにしても限界がある。

 

 

 ……とその時。

 

 ぽん、と肩に手を置かれた。

 はっと注意を私の外に向けると、目の前に彼女。

 

 

「古鷹さん、ご自分だけで考え込まないでください」

 

「……」

 

 じっと二人、四つの眼が互いの真意を探る時間が流れる。

 

 やがて彼女は、笑った。

 

「大丈夫、古鷹さんには……ワタシがいますから」

 

「……何が言いたいんですか?」

 

 彼女は視線を私から逸らす。望むのは空。

 

「古鷹さんがワタシを信用しないのは当然です。ワタシは名乗りもしない通りすがりの巡洋艦……なんでそんな風に名乗ると思います?」

 

「……」

 

 知っているなら苦労はしない。

 

「……ワタシには目標、いえ……目的でしょうか……ビジョンがあります」

 

 そう言いながら彼女は武器を……拳銃ではない、私とは違う手持ち式の大砲……を持ち上げた。愛おしげに撫でるのも一瞬。

 

「その中に、貴女を傷つけるようなモノは断じてありません」

 

「……」

 

 にこりと笑う彼女。それを信じろ。うん、知ってる……あなたは私に色々よくしてくれた。

 

 でも分からない。なぜよくしてくれるのか。理由がない善意などない。あるはずがない。

 ……だから私は疑うのをやめない。何が目的だ?

 

 そして彼女は歩き出す。向かうのは……外だ。

 

「見つかったら面倒なんじゃないんですか?」

 

 彼女は振り返る。また笑う。

 

「旋回しているあたり、ここを見張るつもりなのでしょう……何のためか知りませんが、もしかすると私たちの乗ってきた自動車が発見されている可能性もあります」

 

 だから……と彼女は指を鉄砲の形に。

 

「時間稼ぎですが、あれを撃ち落とします」

 

 ばん。

 

 

「……」

 

 ……分からない、なぜそうやって矢面に立ちたがる?

 何か理由があるはずだ。でも思いつかない。何も。

 

 黙ったままの私。そんな私に対し、彼女はもう一度、重ねるように笑った。

 

 

「ご安心を、対空砲”台”としての任務ならワタシの十八番ですよ?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。