私、重巡洋艦なんです! 作:探照灯要員
これまで隔日でどうにか1800時投稿を維持してきましたが、ご覧のとおり過ぎてしまいました。
ついでに言えば、今日は日曜にも関わらず現在の書き溜めゼロ!
……これは明後日の投稿は厳しそうです。最近の話の文字数が膨れ上がったのが悪いんだ。うんそうだよ。
「ご安心を、対空砲”台”としての任務ならワタシの十八番ですよ?」
そう言った彼女。笑っていた。何が足りないのだろう、どこか乾いた笑み。
「……相手は航空機ですよ?」
十八番とか言うけど彼女だって最新のイージス艦というわけじゃないのだろうし、航空機は苦手だろう。
いや別に軍艦古鷹だって対空戦闘は出来るよ、だって私の連装砲には対空用の零式通常弾が搭載されてる訳でして……なんで対空砲弾と名高い三式弾が積んでないんですかね、大日本帝国なら積んどいてよ。いやそんな愚痴はどうでもいい、とにかく仮に三式弾だったとしても命中なんて期待できない。隠れていたほうがよっぽどマシだろう。
「あんなこちらにも気づかずヘラヘラ飛んでる偵察機ぐらい、簡単に落とせますよ」
……いや無理でしょ。
私は半ば呆れたような気持ちで彼女を見たが、しかし彼女は大真面目なようだ。手に持った砲塔に何やら話しかけ……決してひとりぼっちの寂しい子ではない、恐らく妖精さんと会話しているのだろう。彼女もまた私と同じような存在なわけで、砲塔に砲術科妖精がいるのは当然のことだ。
「……それじゃ、行ってきます」
そう言って彼女は振り向きざまに笑う。そして彼女は私が喉から次の言葉を放つ前に駆けだした。
スタートダッシュを切った短距離走選手のような急加速。
割れたガラスの破片を踏みしめ、既に粉々となったガラスはそのもとの姿からよりかけ離れた姿になる。その最後の悲鳴……つまり余計にガラスが割れる音が室内に響き、彼女はそれに送り出されるようにエプロンへと飛び出した。
一言で言うなら、私は絶句した。
なんせ、その時見えた笑みは……先ほどまでの笑みと違って見えたからだ。
何が違った? それを見分ける間もない。太陽の下に飛び出した彼女は舗装されたエプロンの上で急停止、その連装砲を空へと振り上げる。
その眼は……あぁなるほど、獣のそれだ。
次の瞬間、空気の凝縮する気配とともに、音が止まる。
発砲。急激な化学反応によるものと思われる爆発的な気体の膨張に合わせて炎が飛び出し、僅かに遅れて燃えきらなかった黒煙が吹き出す。それらを追い越すように飛翔体が飛び出す。私には確かに「視えた」。
続いてさっきとは比べ物にならない位にちゃちな破裂音。対空砲弾の破裂音か? そう考えるよりも先に、動きのおかしくなった航空機の羽音を聞いた。
う、嘘でしょ……。
本当に撃墜しやがった。どうやって、たった一発、いや一斉射で?
正直信じられない。どうやって落としたというのだ。
「古鷹さん! やりましたよっ!」
いかし彼女はただただ誇らしげな顔をしてこちらへ笑顔を送ってきただけ。状況を説明してくれはしないのだろう。
……でも、その笑顔に、先程までの曇りはなかった。何かを隠すような気配も、自嘲も……そして獣じみた狂気も。
★ ★ ★
評価を変える必要が出てきた。私はそう考えている。
「それにしても変わった形ですね……」
その対象はもちろん、目の前で撃墜した敵性航空機を手に取って調べる彼女である。
彼女は一発で……いやまあ、連装砲の斉射一回なので正確には二発なのだが、ともかく航空機を落とした。確かに軍艦古鷹の搭載する203mm砲でも航空機の撃墜は不可能ではない。だが不可能でないというだけで、実際に堕とすのは難しいというか……なんせ低速の複葉機でも時速200km程度の速度は出せるのだ。低速って嘘でしょう? これを高速と言わずしてなんというか。
で、高速で動く物体をどうやって堕とすかだが……簡単だ、自分が住んでいた世界では平然と音速超のミサイルを撃ち落としていたのだからそりゃ簡単だろう。
まあ要するに、相手との距離を正確に測れる観測機器、そして、その結果から導き出される未来位置に確実に自艦の砲弾(もしくはミサイル)を送り届ける技術があればいいのだ。
……簡単?
いやというか無理でしょ。うん。だって二次大戦期の軍艦が備えるのは機械式計算機、歯車の劣化で誤差が生じかねない代物。一回の計算にも時間がかかるのに、どうやって未来位置を予測しろというのだ。
しかし彼女はそれを見事にやってのけた。
……それとも、軍艦古鷹とは違う時代の艦艇なのか? 電子計算機もレーダーも積んでいるとか?
いやまて、それだとヘリコプターを知らなかったのはおかしいじゃないか、そうだ、二次大戦中でもすごい対空砲弾が登場したじゃないか、そうそうVT信管……やっぱり彼女は米軍なのか? いやでもそれだとあの敵性航空機はなんだ。どこの所属になるんだ? そもそも米海軍が戦争後期に日本軍機を七面鳥していたのはVTというより効率的な防空陣形、直掩戦闘機と対空砲の的確な役割分担によるものだと聞いたことがある。三式弾だって成果があったという噂もあるし、彼女が米軍かどうかを決め付けるのは時期尚早……あ、待った、彼女はさっき『対空砲”台”』って言ってたよね。もちろん軍艦は常に浮き砲台だからちょっとしたネタなのかもしれないけれど……あ、いや、そもそも私がいるこの世界は多分だけど2000年代くらいに突入しているはず、その時期なら私の祖国である日本と米国は同盟国だ、というか米国はオーストラリアとも同盟国だ、そうなるとここガダルカナルに展開している部隊、政府は全て同盟国同士になってしまう、というかそれならオセアニアなど米中心の軍事同盟の庭じゃあないか。一体誰と戦っているというんだ?
「……古鷹さん、ふーるーかーたーさーん!」
「あ……」
「もう……伸びちゃいますよ?」
目の前にはフリーズドライの技術を駆使して保存されていた麺とその具が香辛料に包まれた姿が。
……まぁ要するに昨晩と同じようにカップ麺である。やはりホニアラ国際空港がオーストラリア軍により復旧、僅かな期間であるが使用されていたのは間違いないようで、このボロボロにされた建物も指揮所かなにかとして使われていたらしい。少し探したところで見つかったのが、カセットボンベを始めとする物資の数々。やはりこれもヘリコプター同様に投棄されたものらしかった。
野営に使われていたのであろうか。それなら、ここへ来る途中で見たテントなどにも説明がつく、あれはきっとオーストラリア軍が提供したものだろう。陸軍が大々的に
ともかく既に正午を回っていたわけで、ともかくは昼食にしようとなったのだ。先程までは敵性航空機(もはや慣れてしまったが……手のひらサイズである)を手に取っていた彼女も既にカップ麺に手をつけており……ってあなた絶対気に入りましたよね、カップ麺。
ともかく、私も昼食にしよう。麺伸びたら困るし。
「頂きます」
ほかほかと湯気をたてる汁とその熱を確かに伝えてくる発泡スチロールの……あれ、最近では紙に変わったんだっけ? どうだったかな……まあともかくその容器。カップ麺はインスタントラーメンを売り込もうとしたら欧米にお椀という存在がなかったために生み出された商品らしい、なら日本国内ではインスタントラーメンだけでいいような気もするが、やっぱりお湯を注ぐだけで具まで全部揃えてくれるカップ麺は優秀なのだ。優秀なら売れる。私も大好きだ。
「ところで……古鷹さん」
と、彼女は手を止めた。こちらをジッと見つめる。
「ふぁい?」
今、おいしいところなんだけど。
「これで私たちがいることは相手に分かってしまったわけですが……どうします?」
「……」
流石に麺をすする手が止まる。
……うん、そうなんだよね。
彼女は相手から隠れるのではなく攻撃を仕掛けた。いや、別に攻撃をしたのは間違っているわけではないのだ。空港上空を旋回していたことから相手は私たちというよりはホニアラ国際空港に興味を持っていたのだろう。それなら見つからなかったとしてもホニアラにやって来る可能性は高いので危険な状況には変わりない。実際、私だけしかいなかったら私が攻撃したことだろう。え? さっきと言ってたことが違う? いやホラ、まさかあんなにあっさり落とせるなんて思わなかったからさ……ほら、ね?
「……いずれにせよ、私の目的は変わりません」
私の言葉を聞いた彼女は、そういうと思っていたよというように頷く。
「情報を収集する……ですよね」
そう、ソロモン諸島、というよりかこの世界の情報を知る。そして、私は祖国への道のりをつける。
「確かに敵性航空機に、というよりかその母艦に私たちの存在を知られたのは大きいです……ですが、大勢は変わりません」
なんせガダルカナルはあくまで情報収集のために立ち寄っただけ。敵が来てしまったのならさっさと逃げてしまったらいいのだ。
「じゃあ、食べ終わったらまた捜索ですね、古鷹さん?」
「はい、そうなりますね」
ホニアラ国際空港、ここにオーストラリア軍が展開していたのは間違いない。
……いい情報が手に入るといいのだが。
それでは、運がよければ明後日、無理なら明々後日に……またお会いしましょう。