私、重巡洋艦なんです!   作:探照灯要員

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まあ南国なら、漁で食い繋ぐのは定石ですね。
(スキルがあるとは言っていない)


私、漁は得意なんだから!

 ……目が覚めたら見知らぬ土地で、見知らぬ重武装な少女になっていた。

 

 

「……私って、どんな顔してるんでしょう……?」

 

 いろいろ驚くことが多すぎて混乱してしまっていたから忘れていたが、それはある意味で最も重要な問題である。ヒトは見た目で人を決める。第一印象は大事だ。なんせ今の自分は見知らぬ少女。身体が本当に女の子であることはしっかり確認したものの、その娘がどんな風に見られるかは想像もつかない。

 

 しかし、鏡がなかった。服装や顔より下の部位は直接眼で見れるが、顔を眼で見るのは不可能だ。

 

「困りましたね……」

 

 そう思ってうずくまる。実は手で顔を触ればおおよその顔は分かるのだが、手も肌もあまりに触り心地よく出来ているせいで、なんだかぞわぞわするのだ。何と表現すべきか……そう、触れば触るほど自分が自分でなくなっていく気がするのである。もう既にアイデンティティなんて暁の水平線の彼方に飛び去って、いやそもそもこの少女になる前の自分がどんな自分だったのかもよく分からないのだが。ともかくそんな感じがするのだ。

 

 それに、百聞は一見に如かずとかいうし。出来れば鏡で見たい。

 

 

 そうだ、目の前に海があるじゃないか!

 

 早速目の前の波打ち際へとダッシュ!

 

 

 

「……ですよね」

 

 鏡には人が映る。それは、ヒトという障害物に当たった光を鏡が反射するからだ。だが海は揺れ動いて水平にならない。水平でなければ当然きれいに反射してくれるはずがない。

 

「なら……掬ったらどうでしょうか?」

 

 両手(なんだか手も小さく、細くなった気がする)で海水を掬ってみる。揺れないようにして、のぞき込むと……ダメだ。底の掌から反射する光が多くて、とてもじゃないけど顔は確認できない。

 

 

 ……仕方ない。鏡を見つけるか、それとももっと底の深い容器を見つけてそこに水を張ろう。今はあきらめる。

 

 

 

「……」

 

 胸に手を当てる。こぶしを握ってみるとやっぱり小さい。この小さいという感覚がどこから来ているのかは分からないけど、小さいと感じるのだから仕方がない……ってそうじゃなくて。

 自分は私を守らなければならない。変な日本語だが、それは間違っていない表現だ。以前がどうであれ少なくとも今の自分はこの少女であり、私だ。私は自力でこの南国を生き抜かねばならない。

 

 南国は地獄だ。たとえ日本人である自分にとっての『イメージ』が南国の楽園であっても、熱帯林に踏み込めばそこには数多の生物がひしめき合っている。当然それらの中には明確な縄張りを守っている者もいて、危険だ。

 南国にしかない病原体などもある。危険だ。

 

 自分の知らない世界だから、危険なのだ。

 

 こんなところで私の「わ」の字も知れずに死ぬなんて御免である。

 

 

 というわけで、次は食糧確保だ。

 

 

 

「……やるしかない、よね」

 

 魚は隠れる場所が多いところに集まる。典型的なのは岩礁だが、船の沈没地点なども格好の漁礁となる。船も岩も、魚にとっての価値は変わらないからだ。

 

 目の前には浸食されて複雑な形になった岩が転がっている。さんざん探したのにちょっと理想からは離れた感じの場所だが、きっとここにだって魚はいるはずだ。

 

 

「おさかなさん、お許しください!」

 

 

 腰の手りゅう弾を手に取る。

 

 ピンを抜く。

 

 投げる。

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、こんな感じですかね……」

 

 次は焚火の準備。燃えそうなものを見つけるのにかなりの時間がかかった上に、ライターを所持していることに気付かず三十分ほど自家製火おこし機(木製)と格闘。そんな自分に失望しつつとれた魚に小枝を刺して、それから焚火の近くに立てる。

 

 本当は血とかもちゃんと抜くべきなのかもしれないが、正直、とれた魚はどれも小ぶりなものばかり。季節のせいなのか? それとも、この地域には大きな魚は住んでいないのか? 分からないが、貴重な手りゅう弾を消費しての爆弾漁は失敗、というわけだ。

 しかし失敗であっても収穫は収穫。少ない収穫を食べて、ひとまず一日目(?)を終えよう。

 

 まだ水分の残っている燃料がくすぶる匂いと音を聞きつつ、どこまでも広がる海を見る。ゆっくりと沈んでゆく太陽。水平線に近づいたために真っ赤になったそれは、そのまま水平線の向こうへと隠れてゆく。

 

 

「きれい……」

 

 ここが見知らぬ土地なんかじゃなくて、まだ顔も確認できていない少女が自分自身ではなく、自分の真横に座っていたらどうだっただろう。きっと幸せだったに違いない。

 

 あ、そうだ、陽が沈むということはあっちが東だね。西から上ったお日様が、ひがし~hすいません冗談です。

 冗談言わなきゃやってられません。

 

 ……空も雲に遮られることなくよく見えるし、夜になったら北極星、もしくは南十字星を探してみよう。これで南半球か北半球かが分かる。まあ、ここが熱帯気候であると推測されることからどちらでもあんまり大きな差はないんだけど、分かるだけでも頼もしいことこの上ないというもの。

 

「あれ……?」

 

 そうだ、さっき持ち物を確認したとき、コンパス思いっきり入ってたよね? 考えたら太陽なんて観察せずとも方角は分かるじゃないか!

 慌てて取り出す。持ち物のコンパスと羅針盤……なぜ二種類の言い方で同じものを二つ持っているのだろう?

 

「えっと……こっちが北ですか」

 

 ここが熱帯であることを考えると、祖国日本は北の方にあるのだろう。緯度が分からないからはっきりしたことは言えないが、きっと遠いのだろう。

 でも、確かにあっちの方には日本があるのだ。

 ……ま、まぁ、地球でなかったらお手上げだけど、きっと大丈夫。IJNはあるみたいだし……もしIJNが別の意味だったら?

 

 か、考えるのをやめよう。焚火の方へと視線を戻す。そろそろ表面に焦げ目がついて、水分が飛んだのか皮もしわくちゃになり始めていた。

 生木が燃える匂いに交じり、香ばしい香りが鼻孔に入ってくる。

 

「……いい匂い」

 

『ほんとですねー』

 

「はい、そろそろ食べg……ええっ!」

 

 ついうっかり返事をしてしまったが、自分以外の声! 他人がいる!

 

「今の声、どこ!?」

 

 後ろにはいない。前は延々と広がる海のみ。

 

『ここ、ですよ、ここ!』

 

「ここ? どこ?」

 

『いやだから、あなたの真下ですよ!』

 

 真下、そう言われて下に視線を向ける。

 

 

 そこには、二頭身ほどの人型が。

 

「わっ!」

 

 未知への恐怖心からバネが弾けるように立ち上がり、一歩下がってしまう。だって小人、小人ですよ! 大日本帝国が(ドックタグに)存在する世界で小人ですよ?!

 

『そ、そんなに驚かれなくても……』

 

 小人はその小さな顔に明確な困惑の表情を浮かべるが、そんなこと知ったこっちゃない。

 

「お、驚きますよ! いったい何者なんですかあなたは! しょ、所属、所属と名前を!」

 

 ただでさえ高い声が上ずって、さらに高くなる。もちろん自分の所属も名前も分かっていないのだが……。

 

 しかし小人は冷静だった。二頭身である関係で短い腕をおっきな頭にかざして、敬礼。

 

『自分は、巡洋艦「古鷹」の砲術科であります!』

 

 ほぉ、貴様はホウ=ジュツカと申すのだな?

 ……なわけないですね。はい。

 

「ほ、砲術……科?」

 

 少なくともそれは名前ではない。

 砲術科も分かっているようで、頭を掻くしぐさをする。正直、頭が大きく腕が短いので、敬礼の時とあまり変わって見えないが。

 

『はい……自分はそういう存在ですので、それ以上の名前はないんです』

 

 

 さて、砲術とは一言でいえば大砲を撃つことだ。大砲を撃つのには弾道計算など高度な技術が要請され、兵卒に至るまである程度のノウハウがなくてはならない。肉壁をぶつけ合うしかなかった太古の戦争を変えたのが弓兵と騎馬隊であったように、近代戦争の形態を大きく進化させたのが砲兵であるのは有名な話である。

 

 しかし、この小人はそういう意味では私にとって大きな前進だ。砲術科ということは砲を司る存在……それに関するノウハウを持っているということ、つまり教養がある人間(でなくとも教養がある存在には違いない)。何か知っているかもしれない。

 

 

 まずは相手の話を聞いてあげよう。人との付き合いは、話を聞くことも大切だ。

 

「砲術科……ちなみに、どの砲を操るんですか?」

 

『そんなの、あなたの主砲に決まってるじゃありませんか!』

 

 主砲……あぁ、あの火力ゴリ押し感漂う取り付け式装備品のことか。

 

「ずっとこれに乗り込んでたってことですか?」

 

 頷く小人。私はちゃんとここまで持ってきた装備品を撫でてみる。それならまあ、いきなり出てきたことには説明がつく。これだけ小さければ乗り込む隙間はあるだろう。なんせ自分は、この装備品の中身がどんな構造になっているのか知らないのだ。

 

「どうして今出てきたんですか?」

 

 こちらが呼び出した訳ではない。向こうから出てきたのだ。理由がなければおかしい。理由は何だ?

 

『えっとですね……その』

 

 急に口ごもる小人。ちょっと顔が赤くなる。

 

『魚の焼ける……に、匂いに、つられまして……』

 

「……」

 

 なんだ、向こうにも欲求はあるらしい。食欲は大切だ。動物らしさの源であるが、それは全ての原動力である。

 そう思うと、急にこの小人が警戒する必要のない存在に思えてきた。情報を引き出すだけでなく、今後の先行きが見えないどころか崖っぷちな状況を切り開く友となってくれるやも知れない。

 

 

「じゃあ、とりあえず食べましょうか」

 

 量は少ないけど、まあ小人一人だし何の心配もいらないだろう。無表情もあれなので笑顔を作ると、小人も喜んでくれたようだ。表情では分かりづらいが、全身で感情を表現してくれるのはありがたい。

 

「それでは……」

 

 そう言いながら魚を焚火から遠ざける。

 

『あ、あの……』

 

 ?

 

『ほかのみんなも、呼んでいいでしょうか?』

 

「ほかにもいるんですか?」

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 

 なんというか、不思議な光景である。いやまぁ、自分のこの身体が一番不思議ではあるのだが。

 

 枝に刺された魚を食べながら下を見ると、そこには五つの小人。それぞれ楽しげに、ほんのちょびっとの魚の焼けた皮を食べている。

 

『古鷹さん、頂きます!』

 

 この小人たちは「砲術科」「機関科」「航海科」「飛行科」「水雷科」と名乗った。どれも役職名であるようだ。現状北の方角しか分っていないのだ。役に立たない情報などないわけで、その会話に耳を澄ます。

 

『びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛』

『やっぱり焚火で焼いた魚は一味違いますよ~』

 

 そんな少ない量で大丈夫なの? と言いたいところだが、その発言は完全なブーメランだろう。私はこんな量じゃおなか一杯にならない……小さな生活、幸せな生活。羨ましいものだ。

 ……どこかの国民的アニメのネタが使われたことは、スルーすべきだろう。うん。

 

『いや、我々の古鷹さんは天使ですね!』

『軍艦古鷹、万歳!』

『『ばんじゃーい』』

 

 ……そして新登場ワード、軍艦古鷹。

 

 

 

 軍艦古鷹。

 

 

 

 これまで出てきていた、IJNや砲術科、巡洋艦というここまで蓄積されたワードが脳内で一瞬でつながり、急激に反応、爆ぜる。

 誇張表現化もしれないが、それが閃きというものだ。

 

 

 私は危うく魚を落とすところだった。

 

「軍艦古鷹?! それってまさか、あの『水族館』の?!」

 

 

『『『『『それ、自分で言います?!』』』』』

 

 

 五つの小人が一斉に反応。

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 ……あ、そうだ。もう陽も落ちるし、星を探して緯度求めなきゃ(使命艦)

 

 

 

 

 

 

 

 




「主計科」妖精さんなど他の省略された科の妖精さんは出てきません。
艦娘古鷹の「娘の部分」で補えますからね。
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