私、重巡洋艦なんです! 作:探照灯要員
……問題は次の更新ですが。間に合ったらいいなぁ……。
「うーん、見当たりませんねぇ……古鷹さん! 何かありましたかぁ!?」
背後から彼女の声が聞こえる。別に焦る風でもない声。互いに艤装を降ろしているためか緊張も別にない。まぁ最低限の武装だけはしてるんだけど。
「こっちもないですね……」
「結構しっかり処分されてるらしいですねぇ、これは」
目下私たちはホニアラ国際空港、その施設でも一番規模の大きいターミナルビルの探索を行っている。この建物は外部こそこっぴどくやられているが、内部の損傷はそこまで激しくなかった。そう、外側から散弾銃をぶちまけられたような損傷と思ってもらえればいいだろう。
それ故に結構内部の部屋だと無事なものが多いのだ。
そして私たちが今いるのは最も期待値が高いと思われる空港管理責任者の部屋。ここを復旧して使用していたと思われるオーストラリア軍が何らかの指揮所を設けるならここに設置される可能性が高いはず、そう思って捜索しているのだが……。
「あ、なんかありましたよ」
「え、ホントですか古鷹さん!」
封筒だ。既に封は切られている。軍用の郵便だろうか?
「えっと……
……そして、有益な情報は未だ得られていない。無人集落の日本政府系組織といい、書類処分していかないでよ! いやまあ、確かに重要だけどさ書類の廃棄。暗号の乱数表とか敵に渡ったら不味いもんね。
しかし処分されているということは処分してゆくほど余裕があったということ。ヘリコプターの計器類が回収されていたように、オーストラリア軍は本当に一時的にここを利用し、そして撤退したのだ。
……やはり、ガダルカナル島民の避難活動を行うためだけに復旧した、ということだろうか? なぜ船を使わないのだ? 港湾施設は大きく損傷しているが、使えないほどじゃなかったはず。
そんなことを考えながらラブレターと思しき手紙を元の位置に戻そうとすると、それを止める声がかかった。
「待ってください古鷹さん、ラブレターでも貴重な情報ですよ」
そう言いながら彼女がこちらにやって来る。
「まぁ……確かにそうですけど……」
あぁそう言えば、ラブレターに軍事機密を書きまくる人って結構いるよね。かの誰かさんも手紙で軍機に触れそうなことを書いていたという噂もある。あ、噂だよ? 私はその方を尊敬してるし。まぁそんなことはどうでもいいのだ。夜遊びが好きなヒトにはどうしてもハニートラップに引っかかっていたのではという疑いがかかるわけだし。
あれ、話逸れすぎたな……まぁともかくそういうこと(?)だ。手紙は情報伝達手段。なにか書いてあることにはあるだろう。そうじゃなきゃ手紙じゃないし。
でも、ここにある手紙って多分本国から来たのだよね? それは役に立つのだろうか?
「どれどれ……うーん……」
彼女は私が差し出したその手紙を手に取り、目を通してゆく。もちろん英語で書かれているわけで、彼女も多少は苦戦しているようだ。いや、私だって読めるし。読めるよ?
手紙を見つめる彼女の眼は真剣そのもの。私はそれを応援するように横から覗き込む。
……嗚呼、彼女は真っ直ぐだ。彼女は自身のことはやたら伏せたがるが、それ以外に関しては一貫して協力的、ううん献身的ですらある。今は情報収集という共通の目的の為の行動だけれど、他の時の彼女と変わらない様子でしっかりやっている。
それに対して私はどうだろう。やることと言ったら彼女を疑うことばかり。今だってこの真剣な眼差しの裏に何が隠されているのか必死になって探している。
私がしたいのは彼女の粗探しなの?
違うよね? そんな事のために私はここにいるんじゃないよね?
……もう、やだな。
「……すみません、ちょっと……風に当たってきます」
「え……古鷹さん?」
ちょっと、待ってくださいよ、そう止める声は聞こえたが、足を止めたくなかった。
なんせその声は……私を心配してくれていたから。
★ ★ ★
ひとまず外へ出た。でもどこへ行ったらいいだろう。エプロンから見る景色は真っ平らと言う以外に形容する手段がなくて、遠くに山々が連なっているのが見えた。ガダルカナルって、本当に広いんだなぁと感心する。
でも、どこに行けばいいのだろう。今すぐ戻る? やだよ、だって彼女がいるもの。頼もしくて、一緒にいて悪くないはずのなのに、信じられないほど不気味な存在。
彼女はあの敵性航空機を撃ち落とした時、確かにその本性の片鱗を覗かせた。あれがきっと本当の……すなわち「通りすがりの巡洋艦」としての彼女なのだろう。私にはあんなことできるか分からない。
そう、だから怖い。彼女のあの性がいつ私に向けられるか怖い。名乗らず、そして私のことは知っている。
なんで知ってるの? なんでそれでいて私に笑顔を向けるの?
そんな私を笑うように、頭の上には真っ青で、本当に何もない空が広がっている。私は何をやっているのだろう。ダメだよね……こんなんじゃ、軍艦古鷹の名を名乗れないよ。
気づいたときには、ある方角へ走りはじめていた。そこまでは2kmほどしかない。空港から伸びる道路を横切り、いかにも南国といった感じのヤシの木が並ぶのを突っ切る。民家をいくつか見送れば、そこには空よりも青いのが広がっていた。
言うまでもない、海だ。
「……」
その手前で私は座る。地面と接することで伝わって来る確かな感触。私がここに存在するのは間違いなく、本当にここが激戦地だったのかどうかを疑いたくなるほど透き通った自然が目の前に広がっている。
そう、ガダルカナル島は第二次世界大戦の激戦地。私の目の前に広がっているのは紛れもない
「……ここに、貴女はいるんですよね?」
誰に話しかけているのだろう。いや分かってる、私が話しかけていのは軍艦古鷹だ。妖精さんたちには艤装の見張りを頼んでいるので、ここには私と、軍艦古鷹の眠る海しかいない。
「私……少し疲れちゃいました」
決意したのがわずか数日前、敵性勢力、軍票、ヒトのいない街、空港前に広がっていた墓地とオーストラリア軍……そして私が曲がりくねった思考でしか捉えられない「彼女」の存在。
私はそれらを、一度でも肯定的に受け止めてきただろうか。思えば全て疑ってかかって、疲れない道理がなかったのだ。
でも、疑わなきゃ生き残れない。軍艦古鷹の名を賜るならば、私はそれ相応の努力を持って、頑張らなきゃいけないはずなのだ。
でもその名誉は私にとって重く。私にはそれを守りきれる自信がない。だって軍艦古鷹には私の日本……つまり自分が住んでいた日本を決死の覚悟で護り、繋いでくれた軍人たちの全てが乗っかっているのだ。
どうしたらいい? どうすればいい?
「ごめんなさい……私には、荷が、重すぎます」
何が足りないんだろう。
それが私にはわk
「それっ!」
「わあ”ぁぁあ!」
唐突に襲いかかってきた手、しまったやられた、隙をつかれた!
「やっやめてください!」
なななんていうことはない、後ろから首筋に抱きつかれただけだ。それはすなわち、少し力を入れるだけで私の命をポッキリ殺れるということ。信じられないかもしれないが、実際人間首は異常な程に脆いのだ。
生命の危機を感じた私はもがく、もがこうとすると、すぐに腕の力は弱められた。
「くふふ、古鷹さんぅ~」
そうやって彼女の熱が私にも伝わってくる。後ろから抱きつかれてるっていうの? まぁそうなるんだろうねって……ええ?
「はぁ、はぁ……な、なんなんですかぁ、もぉ……」
というかなんか当たってるよ? 訳が分からない、脈絡なさすぎですよあなた……。
「古鷹さんの髪の毛は柔らかいですねぇ」
「はいぃ?」
ホントなんなんですか!
「……とまぁ、冗談は置いといて」
彼女はケタケタと笑う。
え……冗談なの、私は冗談抜きで殺されると思ったのに。
……なんか、なんか踊らされてるなぁ……私。
そんな私の気も知らず彼女は私から離れ、そして隣に座った。
「勝手にどこか行かないでくださいよ、古鷹さん?」
「……なんで分かったんですか」
行き先は告げてなかったし、ここは一応空港から離れてるはずなんだけれど。そういう私に、彼女は笑いかける。
「そりゃだって、軍艦の行き着く先はやっぱり海ですよねぇ?」
あぁ、そういうこと。確かに私も、何も考えることなくこちらへ来ていた。理由付けをするなら水偵の回収とかあったけど、彼女が来てしまった以上出来ないね。
「……そう、ですね」
そう言って私は海を見る。さっきと変わらない。青い海。僅かに盛り上がった波の淵が特に反射して白い線を途切れ途切れに描く。無言になったおかげでさざなみの音も良く聞こえる。思えばさっきまで、このさざなみすら私の耳には届いていなかった。
「古鷹さん」
と、彼女がこちらを向いた。見ると、さっきと同じ真剣な眼差し。
「……なんですか?」
すると、彼女は笑うのだった。
「何でもないですよ!」
「……」
……なんだそれは。
「ね? なんの意味もないでしょう?」
「……」
呆気に取られた私に、彼女は手を伸ばす。
不思議と……抵抗する気にならなかった。
手が乗せられる。
撫でられてる……のかな?
「疑ってばっかりじゃ、疲れちゃいますよ?」
「……あなたが、名乗らないからですよ」
全ての元凶であるはずの彼女の態度になんかむすっとするけど、でもあったかかった。
というか、疑ってるのはバレてるのか……。
「古鷹さんは顔に出やすいですからねぇ」
え、読心術か何か?
「さぁ? どうですかね?」
……読心術じゃん。
「わかりやすいんですよ、古鷹さんは」
「……あんまりからかわないでください」
そういうと、彼女は微笑む。
それは……なんというべきか、先程までとは少し違う笑みだった。どこか遠くを見ているような。
「ワタシは名乗りません。それが古鷹さんに頼ることだっていうのはわかってます……古鷹さんは、優しいですから」
頼る……どういう意味だろう。
「頼るって……」
……その意味が気になった私は、彼女の微笑みに隠された影に気づくことはなかった。
そして彼女は楽しげに言う。
「だって、古鷹さん。教えてくれたじゃないですか」
「え?」
何か教えたっけ、私?
首をかしげる私に、彼女は勝ち誇るような笑みを見せた。
「敵さんの飛行機が来ること、ですよ」
……。
……あ。
「……え?」
顔に出やすいとか言われたけど、確かに今の私は恐ろしい程分かりやすく顔に出ていることだろう。
……敵性航空機を発見したのはもちろん私の水偵。彼女にその存在を伏せていた水偵。つまり……私が散々隠そうとした水偵のこと、とっくにバレてたの?!
「あっ古鷹さん待って拳銃出さないで! 別にとって食おうってわけじゃないんですから!」
ああもう! 悔しいよお!